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「この瞬間だけでも笑うてや!」――能登で“関吹”「希望の絆」コンサート 2026年4月26日

関西吹奏楽団の「希望の絆」コンサート。復興への祈りを込めた音色が会場を包んだ(石川・輪島市で)
関西吹奏楽団の「希望の絆」コンサート。復興への祈りを込めた音色が会場を包んだ(石川・輪島市で)

 2024年1月1日に発生した能登半島地震から、まもなく2年4カ月を迎えます。被災地では被害を受けた家屋等の公費解体が落ち着きをみせ、インフラの本格復旧や災害公営住宅の整備といった復興が進められています。一方で被災者の中には、仕事や住まい、子育てなど、生活のあらゆる面で先の見えない不安を抱えている人も少なくありません。長引く避難生活で、体調不良や心の不調を訴える声も聞かれます。そうした中、先月末に音楽隊・関西吹奏楽団による「希望の絆」コンサートが北陸の被災地で行われました。コンサートの模様とともに、被災した人々が今、どのように支え合い、前を向こうとしているのかを取材しました。(記事=水呉裕一)

 こちらから、記事に関する動画を見ることができます。

ワイプラザ輪島店に掲示されていた「希望の絆」コンサートの告知チラシ
ワイプラザ輪島店に掲示されていた「希望の絆」コンサートの告知チラシ

 3月29日午前10時30分。石川・輪島市の商業施設「ワイプラザ輪島店」のバックヤードに、楽器ケースが次々と運び込まれていく。
  
 「輪島の人たちは楽しみにしていますよ。今日は思いっきり盛り上げてください!」。商業施設の支配人を務める浄琳坊隆さんが両手の拳を突き出し、関西吹奏楽団のメンバーに語る。
  
 食料品や衣料品、自転車、メガネといった日用品がそろうショッピングモール。日曜日の昼前とあって、子ども連れの家族やベンチに座って談笑する高齢者など、それぞれが穏やかな時間を過ごしていた。
  
 その中に、ひときわにぎわいを見せるスペースがあった。そこには、鮮やかなオレンジ色の横幕に白抜きの「出張輪島朝市」の文字。“日本三大朝市”の一つに数えられる奥能登の観光地・朝市通りは、能登半島地震による大規模火災で200棟余りが焼失した。開催場所が失われてしまった輪島朝市は現在、この商業施設の一部を間借りして出店している。
  
 ようやく採れるようになったという奥能登の塩、脂の乗った魚の干物、美しい艶を放つ輪島塗の食器やアクセサリー。店先には、この2年余りの復興の“歩み”を物語る品々が並んでいる。

ワイプラザ輪島店で開催されている「出張輪島朝市」。地域住民の憩いの場ともなっている
ワイプラザ輪島店で開催されている「出張輪島朝市」。地域住民の憩いの場ともなっている

 「コンサート会場は、朝市のすぐ隣のスペースです。“日本一”の演奏を聴ける機会なんてそうないですから、朝市の皆さんも喜んでいます。来店されたお客さまも、きっと『何だろう』と見に来られますよ」
 浄琳坊さんが、そう言葉を継いだ。
  
 “関吹”の愛称で知られる関西吹奏楽団は、全日本吹奏楽コンクールにおいて、これまで21回の「金賞」を受賞。先月21日に行われた全日本アンサンブルコンテストでも、2年連続の「金賞」に輝いた。長年にわたり吹奏楽界をけん引してきた楽団の来訪に当たり、ワイプラザ輪島店では数週間前からイベント案内掲示板にコンサートのチラシを張り出し、告知してきたという。
  
 さらに浄琳坊さんは、自身が着ているTシャツの「NOTO,NOT ALONE(能登は、ひとりじゃない)」の文字を指さしながら、笑顔で言った。
 「奥能登の輪島はどこから来るにしても距離が離れていますからね。復興も思うように進まない中で、関西から“絆”を結ぼうと来てくれたことが、みんな本当にうれしいんですよ」

 午後1時30分。続々と人が集まる中、「希望の絆」コンサートがにぎやかに開演した。
  
 親しみのあるクラシック曲をはじめ、昭和を代表するアニメソングや、観客が楽団の指揮者を体験できるコーナーなどの多彩なプログラム。進行とともに場内の熱気も高まり、響き渡る音色に導かれるように人が集まってくる。
 買い物袋を下げた人、子どもに手を引かれて来る人、食材を載せたままのショッピングカートを持ち、足を止める人の姿もあった。

 演奏される一曲一曲に、ひときわ目を輝かせて拍手を送る女性がいた。
 輪島市に住む今井睦子さん(圏副女性部長)。2年前の地震で一軒家の自宅は半壊した。「でも、私はまだいい方。全壊した人もたくさんいましたから」
  
 元日の震災で今井さんの日常は一変した。翌2日には、地震の影響とみられる体調の急変で、同居していた95歳の義母が亡くなった。災害関連死だった。
 生活再建を目指し、市内の仮設住宅に転居した直後、今度は奥能登豪雨による浸水被害に遭った。この2年余り、辛抱を重ねた無理がたたり、体調を崩して入院も経験したという。
  
 「でも私には、つらい時や苦しい時に寄り添ってくれる同志や友人がいたんです」
 1人暮らしの今井さんを心配して家を訪ねてくれたり、時に水や食料を届けてくれたりする同志の真心に触れたから、心だけは負けなかったと語る。

石川・輪島市の仮設住宅
石川・輪島市の仮設住宅

 今井さんには、震災以来、続けている日課がある。それは、日々の出来事や人とのつながりをノートにつづり残すこと。表紙に「福光日記」と書かれたノートには、友人との何げない会話や励みになった池田大作先生の言葉などが記されていた。
  
 「大災害はどうすることもできないけれど、凍る心を溶かすのは人間の温かい心の絆」
 「人の温もり。心の温もり。その温もりが絆の強さ」
 「冬の寒さを知る人こそが、春の暖かさを実感できる」
  
 2年前の8月に、石川・金沢市で行われた音楽隊・創価グロリア吹奏楽団のコンサートに参加した際には、「音楽の力ってすごい! 音楽隊は最高!」と日記に。以来、好きな曲の歌詞などもノートにつづってきた。
  
 “関吹”のコンサートを控えた本年3月25日には、期待を込めて「奏で合う 世界一の 音楽は 大地も人も 幸へひびきて」と、自作の和歌を記した。
  
 いつしか「希望日記」と改称し、つづり続けたノートは現在12冊目。自身の文字を指でなぞりながら、今井さんが口を開いた。
 「人の真心や温かさに触れるたびに、感謝や決意の言葉が増えていくのを実感してきました。苦難と向き合う中で、“一人じゃない”と思えることほど心強いものはありません。だからこそ、このコンサートも、きっと誰かの支えになる――そう思って、友人たちに『関西から“世界一”の楽団が来てくれるよ』と伝えてきたんです」

 音楽隊の「希望の絆」コンサートは、東日本大震災以降、音楽で被災地に寄り添いたいとの思いから続けられてきた。これまでの公演は197回を数える。
  
 輪島での公演に当たり、関吹の岩本敬太楽団長は、メンバーにこう呼びかけた。
 「音楽を聴いている、その瞬間だけでも、つらいことを忘れてもらおう。目の前の一人に音楽で寄り添おう」
  
 その思いを象徴する一幕があった。「関吹ミュージックフェア」と題した歌謡曲メドレーだ。
  
 「この数分間は、ここを“関西”や思うてくださいよ! 皆さん、よろしおまっかー!?」
 軽妙な司会の呼びかけに会場が沸く中、令和をときめくアイドルや昭和を代表する女性デュオ、さらには大阪・関西万博で一躍人気者になったキャラクターなどに扮した団員が、軽快なリズムに合わせて踊り回る。

 “きょうだけは、思いっきり笑うてや!”――その一心で繰り広げられるパフォーマンスには、見栄や気取りはない。客席には、おなかを抱えて笑う人、音楽に合わせて手拍子を送る人、席で一緒に踊る人など、さまざまに音楽を楽しむ姿があった。
  
 演奏が終わるや、「ブラボー!」「ありがとー!」との声が飛び交った。

「関吹ミュージックフェア」のパフォーマーたち。“メイクアップ”をはじめとする準備に余念がない
「関吹ミュージックフェア」のパフォーマーたち。“メイクアップ”をはじめとする準備に余念がない

 「演奏が終わった瞬間、真っ先に立ち上がって拍手していた人がいたでしょう? あの人、普段はそんなことをするタイプじゃないんです。よっぽど感動したんでしょうね」
 そう語るのは増山勝利さん。奥能登を活動の舞台とする能登圏で、圏長を務める。奥能登の珠洲市からも、志賀町や羽咋市に避難したメンバーも足を運んでいたと教えてくれた。
 「あそこまで一生懸命に楽しませようとする真心に、私は“笑い”よりも“涙”が出てきました」

 地元の一般紙に掲載された告知記事を読んで来たという男性は「震災から時間がたって被災地のことなんか忘れられていると思っていたけど、そんなことはないんだと思えた」と言った。
  
 震災から2年。被災地には、今も多くの課題が残る。
 仮設住宅はあくまで一時的な住まいであり、災害救助法などに基づく入居期限は原則2年以内。被災者の状況に応じた延長は認められるものの、昨今の物価や燃料費の高騰により、自宅の修繕や再建は容易ではない。災害公営住宅への入居にも負担は伴い、やむなく地元を離れる選択を迫られる人もいる。
 生活環境の変化は、人と人とのつながりにも影響を及ぼす。体調を崩して入退院を繰り返す人や、認知機能の低下が見られる高齢者もいる。災害関連死は今も増え続けている。

 「課題を挙げればキリがありません」と下を向く増山さん。だが一呼吸置き、顔を上げた。
 「でも、私たちは今日まで諦めずに歩いてきました。励まし合う仲間がいたから、負けなかったんです。一日一日の歩みは、ほんのわずかかもしれません。それでも、きょうの音色を胸に響かせながら、ここからまた、この地で“希望の絆”を広げていきたいと思います」

来場者が“関吹”の音色に聴き入る(石川・輪島市で)
来場者が“関吹”の音色に聴き入る(石川・輪島市で)

 コンサート終了後、一人の女性が楽団員に駆け寄った。近隣の仮設住宅に住んでいるという。
 「本当に、心が休まるひとときでした。考えなければいけないことが現実にはたくさんあるけれど、苦しい時は、きょうの演奏を思い出して前を向きたいです」
  
 そう語る女性のそばを、別の参加者が歌を口ずさみながら通り過ぎていく。
 それは、先ほど会場で演奏されていた一曲だった。
 日常へと戻っていく足取りに、音楽は確かに寄り添っていた。

輪島市での公演の前日(3月28日)には、石川・七尾市の七尾美術館でも「希望の絆」コンサートを
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富山・高岡市の高岡文化会館でのコンサート(3月28日)。観客が楽団の指揮者を体験するコーナーに“笑顔の花”が咲いた
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