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電子版連載〈WITH あなたと〉 #子どもを産まない フリーライター・若林理央さん 2024年6月6日

  • 自分と向き合って選んだ道は尊重されるべき

 フリーライターの若林理央さんは本年2月に『母にはなれないかもしれない 産まない女のシスターフッド』(旬報社)を出版。「女性は出産するのが普通」という社会の空気感によって、悩み葛藤する「産まない/産めない/産みたくない」女性たちへのインタビューと対談、自身のエッセーを収録した同書が話題を呼んでいます。今でも、結婚や出産が人生における“必然のプロセス”のように扱われる中で、「産まない選択」に関する疑問を、若林さんにぶつけてみました。

  
 ――若林さんが「産まない選択」というテーマで本を執筆されたきっかけは何だったのでしょうか。
  
 私は幼少期から、場面緘黙(特定の状況でのみ話せなくなる症状)になり、いじめや不登校、社会人になってからはうつ病などを経験し、いわゆるマイノリティーな人生を送ってきたと思っています。「出産」に関しても私は、子どもの頃から「産みたくない」と考えていました。
  
 私の場合、自分以外の生命が自身の体に宿ることに怖さを感じてしまうんです。他の女性の妊娠や出産には、純粋に祝福の気持ちが生まれますが、同じ女性なのに「なぜ私は彼女らのようになれないのだろうか……」と、“普通”になれない自分に悩みました。
  
 「子どもを産まない」と公言するたびに、「産めばかわいいよ」とか「将来後悔するよ」など、いろんな言葉を投げかけられました。元職場の男性からは「早く結婚して楽をすればいいのに」と言われたこともありました。
  
 もちろん、言う側は悪気はないのだと思います。ただ、そういう「産むのが前提の言葉」を浴び続ける中で、「子どもを産みたくない私はマイノリティーなのだ」という後ろめたい気持ちが、心の傷となっていきました。
  
 しかしライターとして活動しながら、出産について考えるオンラインイベントを主催したり、ZINE(特定のテーマ、手法で作成する冊子)を文学フリマ等で販売したりする中で、私と同じように出産をめぐって悩み葛藤する女性たちが多いことに気付いたんです。
  
 本書では、産まない選択をしている方以外に、「産みたかったけど産めなかった方」や「子どもは愛しているけど、産まない方が良かったと思っている方」にも取材しました。こういう話題はセンシティブ(慎重に扱うもの)なので表面化されないことが多い。だからこそインタビューを通じて、「産む側」と「産まない側」といった対立構造をなくし、悩みを抱える全ての方の支えになればという思いから、出版に至りました。

 ――本来は、産むか産まないかなどの自分の身体に関わる選択は、その人自身で決めることだと思います。しかし、「産むことが普通で、産まないのは普通ではない」という社会の風潮によって、選択が縛られてしまうことに違和感を覚えます。
  
 そのような権利を「リプロダクティブ・ライツ」と言います。女性に限らず全ての性別の人が、妊娠、出産、中絶について十分な情報を得られ、いつ・何人子どもを持つかなど、「生殖」に関する全てのことを自分で決められる権利のことです。
  
 私も産まない選択を意識し始めてから知りましたが、知らない人がほとんどなんです。こういった人権への関心を、教育などを通じて広げていくことが大切なのに、それが実現していない状況を憂慮しています。
  
 産んだ女性、産まない女性、産みたかったけど産めなかった女性、全ての人の人生が尊重されるべきであるという意識を、改めて深めていく必要があるでしょう。
  
 また、必ずしも「結婚=幸せ」「出産=幸せ」ではないという認識を持っておくことも重要です。「結婚(出産)するのが当たり前でしょ」という段階で考えをやめずに、「自分はどうして結婚(出産)をしたいんだろう?」と、内面と向き合っていく。自分の中で考え尽くして選択をしていくことで、納得のいく人生を歩んでいくことができるのではないかと思います。
  
 ですから、「どうして産まないの?」と周囲から聞かれた場合、私は明るい口調になるように意識して、次のように聞き返すようにしています。
 女性なら「どうして子どもを産みたいの?」「どうして子どもを産んだの?」と。それ以外の方には「どうして子どもがほしいの?」と。

 ――出産の選択について悩んでいる読者に向けて、アドバイスはありますか。
  
 「産むか産まないか、よく考えて決めてほしい」、マイノリティーとされる産まない選択をした人には、「一人じゃないよ」というメッセージを伝えたいです。また私自身、そういう思いに寄り添う“場づくり”を今後もしていきたいと思っています。
  
 産まない選択をしている方は、罪悪感を持ってしまう方が多いのです。「少子化なのに……」と、真面目な人ほど自分を責めてしまいます。また先ほども少し触れましたが、「子どもを産みたくないと思っているのは、私だけかもしれない」という孤独感を抱える人も多くいます。
  
 そういった心の傷を抱えたまま生きていくのは、とてもつらいです。だからこそ、そういう方々に「罪悪感も孤独感も持つ必要はないよ」「こういう生き方もありなんだよ」という思いを共有できる場が必要になるのです。
  
 ――「自分の人生を生きていい」と励まされた思いがしました。
  
 自分が選択する道と、多くの人が選択する道とが一致していないと、その摩擦で傷つくことがあると思います。でも、マイノリティーであることは決して悪いことではありません。ちゃんと自分と向き合い、自分と対話をした上で人生を選択するのは素晴らしいことです。そうした上で選び取った自分の立場がたとえマイノリティーであったとしても、誰に何を言われても胸を張ってほしい。私はそうやって生き抜いている人たちの仲間になっていきたいと強く決意しています。
  
  

〈プロフィル〉

 わかばやし・りお フリーライター。Webメディア『好書好日』『ダ・ヴィンチWeb』、雑誌『月刊MOE』等を中心に、書評やインタビュー記事を執筆する。いじめや不登校といった自身の経験と、日本語教師、アイドルなどの多様な職歴から「普通とは何か」をテーマにエッセーや小説の執筆もしている。2022年に発表した、本書の底本であるZINE『私たちが「産まない」を選んだのは』が文学フリマで反響を呼ぶ。本書は完全書き下ろし。

『母にはなれないかもしれない 産まない女のシスターフッド』(旬報社)
『母にはなれないかもしれない 産まない女のシスターフッド』(旬報社)

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