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〈戦後80年〉 第200回広島学講座から(要旨) 国連大学 マルワラ学長 2025年8月13日

被爆の記憶を羅針盤に 平和と人間性を次世代に
4:13

 第200回「平和のための広島学講座」が5日、国連大学のチリツィ・マルワラ学長(国連事務次長)を講師に広島池田平和記念会館で行われた。講演の要旨を掲載する。
 ◇ 
 この広島池田平和記念会館で講演できることを光栄に思います。なぜなら、平和と軍縮のたゆまぬ擁護者であられた池田SGI会長の名を冠した会館であるからです。この建物は対話の力、人間の尊厳、そして戦争のない世界への飽くなき探求の象徴であると認識しています。本日、皆さんと共に考える講演の内容に、これほどふさわしい会場は、ほかに思いつきません。
 平和とは単に戦争がないことではなく、正義、思いやり、集団的決意が存在することである――この共通の信念のもと、創価学会、SGIは長年にわたり国連と連携してこられました。何十年にも及ぶアドボカシー(政策提言)、教育活動、とりわけ核軍縮分野における国際的な関与を通して、皆さんは「平和の文化」の醸成に取り組んでこられました。その取り組みは私ども国連大学の価値観や使命と共鳴しています。つまり、平和という共通の目的を持って、本日ここに私たちは集い合っているわけです。
 80年前の出来事は、世界を永遠に変えてしまいました。想像を絶する力により、広島の街は一瞬にして壊滅的な被害を受けました。何万人もの命が瞬時に失われ、月日の経過とともに、さらに多くの命が失われました。あの日の影響は被爆者の心と体だけでなく、人類全体の倫理的記憶に刻まれています。
 しかし、広島は喪失によってのみ語られる街ではありません。記憶の街であり、勇気の街、希望の街であります。被爆80年に私たちが集ったのは単に過去を顧みるためではなく、その教訓に焦点を当て、あの日以来、私たちが築いてきた世界を倫理的に振り返るためであります。そして勇気と謙虚さを持って問いかけるためです。私たちは次の世代にどのような世界を残せるのだろうか――と。
 本年は広島、長崎への原爆投下から80年ですが、第2次世界大戦の灰の中から国連が創設されて80年でもあります。核兵器による前例のない荒廃に至った戦争の恐怖は、平和を確保し、人類を守り、このような悲劇が二度と繰り返されないように新しい枠組みを構築しなければならないという、世界的な決意を生み出しました。
 国連憲章の前文は、「われら連合国の人民は、われらの一生のうち二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い」との力強い言葉で始まります。この言葉は単なる歴史的な修辞ではありません。これまでとは異なる道筋を描いていこうと決意した世界の倫理的、政治的誓約を反映したものであります。
 見落とされがちなのは、「将来の世代」に焦点を当てることが、その当時どれほど斬新であったかという点です。国際連合の前身である国際連盟は、国家間の外交を通じて紛争の防止に努めてきました。国連憲章はその基盤の上に構築され、平和が長期的な取り組みであることを認識しています。そして、今日の選択が明日に影響すること、さらに、やがて生まれてくる子どもたちの人生を形づくっていくことを踏まえた内容になっています。これは危機への対応から危機の予測へ、現在の管理から未来の保護へという驚くべき視点の移行でありました。
 国連憲章を読んで私は、国連創設時、そしてその後の数十年にわたり平和に尽力してこられた方々に、深い恩義を負っていることに思いを致さざるを得ませんでした。南アフリカのネルソン・マンデラは、「平和とは単に紛争がないことを指すのではありません。全ての人が繁栄を謳歌できる環境をつくることです」と語りました。そのような環境をつくることは私たちの共同責任であります。一人一人に果たすべき役割があるのです。
 未来の広島と長崎はどのような世界に囲まれているでしょうか。平和、尊厳、人間性の世界を築くために、私たちは今、何ができるでしょうか。
 本年は、国連大学が活動を開始して50周年です。私は時々、50年後に誰が私の立場にあるのだろうかと考えます。その人は今、何歳で、何を夢見ているのだろうか。すでに難問に取り組んでいるのだろうか。そしてさらに重要なことは、私は将来のリーダーに対して一体何ができるのだろうかと問うています。
 こうした問いは、過去が未来に語りかけていかなければならないこと、そして、私たちの中に時を超えた重要な架け橋となる人々が存在していることを思い出させてくれます。
 日本に滞在し、私は被爆者の方々と話をする特別な機会に恵まれました。被爆者の声には記憶の重み、経験の知恵が込められていると感じました。
 彼らは歴史の教訓を時の塵に埋もれさせず、生きた知識として引き継がれるようにする“知識と信頼の守り手”であります。また、変化が加速している時代にあって、その証言は私たちを支えてくれます。記憶と忘却の境界線が危険なほど薄い世界において、彼らの証言は深い倫理的な羅針盤となっています。
 しかし、そうした記憶をつなぐだけでは十分ではありません。私たちは、それを刷新につなげていかねばなりません。現在、広島と長崎は活気に満ちた街になっています。両都市の再生は、単なるインフラの再建の物語ではなく、人間の意思の物語といえます。
 つまり、苦しみによって定義されることを拒み、都市の在り方そのものに平和を織り込んでいくことを選択した人々の精神の結晶なのであります。その意味で刷新とは、政治的、文化的な行為であり、何より非常に人間的な行為なのです。
 一方、私たちがこうして平和のために努力している時でさえ、恐怖が高まっているという不快な現実にも目を向けねばなりません。作家トマス・マートンは「全ての戦争の根源には恐怖がある」と述べました。他者への恐怖、変化への恐怖、権力を失うことへの恐怖――恐怖は橋ではなく壁を生みます。理解ではなく武器庫を構築するのです。
 今日、私たちは、恐怖が軍事化や信頼の侵食、外交からの後退に反映されている事態を目の当たりにしています。永続する平和を築くには、地球規模の無秩序の根底にある恐怖に対処していかねばなりません。
 制度や条約だけが平和をつくるのではありません。平和は民衆によって築かれるものです。教育、対話、そして「平和の文化」を育む忍耐強い取り組みを通じて、恐怖を信頼に置き換えていく。それこそ、私たちが今なすべき仕事です。そしてそれは、足元から始まるものなのです。

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