ニューヨークの国連本部で開催中のNPT(核兵器不拡散条約)再検討会議の関連行事として1日(現地時間)、SGIとミドルベリー国際大学院モントレー校のジェームズ・マーティン不拡散研究センター(CNS)が主催する「核兵器の使用と緊張の高まりを食い止める――核戦争の危機の教訓」が行われた。登壇者の発言の要旨を掲載する。
ニューヨークの国連本部で開催中のNPT(核兵器不拡散条約)再検討会議の関連行事として1日(現地時間)、SGIとミドルベリー国際大学院モントレー校のジェームズ・マーティン不拡散研究センター(CNS)が主催する「核兵器の使用と緊張の高まりを食い止める――核戦争の危機の教訓」が行われた。登壇者の発言の要旨を掲載する。
オーストリア外務省 ガルホーファー大使
運に任せる安全保障から脱却
オーストリア外務省 ガルホーファー大使
運に任せる安全保障から脱却
キューバ危機などの歴史は、核兵器による抑止が「ほぼ失敗していた」ことを教えています。米国のマクナマラ元国防長官がキューバ危機を振り返って語ったように、私たちは“運が良かった”だけなのです。
運は戦略ではありません。にもかかわらず世界の安全保障秩序は今も運に依存しています。オスロ、ナヤリット、ウィーンで3回にわたって開かれた核兵器の人道的影響に関する国際会議は、核の問題を抽象的な戦略の領域から引き離し、本来あるべき“人間の領域”へと戻すことを目的としていました。
いかなる核爆発も、国境や世代を超えて壊滅的な結果をもたらし、国家も国際機関もそれに適切に対応することができません。また、事故や誤作動等のリスクも高まっています。こうした根拠が核兵器禁止条約の基盤になっています。そして核禁条約は、自国の生存を一握りの国の判断や運に依存させることを拒否する、圧倒的多数の国の懸念を法的な形で明確に表現したものです。
「核兵器は二度と使われてはならない」と繰り返す一方で、「使う準備がある」と脅すような偽善では、核のタブー(禁忌)は維持されません。核兵器がもたらす惨状についての核保有国と非保有国との対話、そしてヒバクシャの方々が示してきた道徳的真摯さによってのみ、タブーは維持されます。私たちは子どもや孫たちに、単なる運以上のものを残す義務があるのです。
キューバ危機などの歴史は、核兵器による抑止が「ほぼ失敗していた」ことを教えています。米国のマクナマラ元国防長官がキューバ危機を振り返って語ったように、私たちは“運が良かった”だけなのです。
運は戦略ではありません。にもかかわらず世界の安全保障秩序は今も運に依存しています。オスロ、ナヤリット、ウィーンで3回にわたって開かれた核兵器の人道的影響に関する国際会議は、核の問題を抽象的な戦略の領域から引き離し、本来あるべき“人間の領域”へと戻すことを目的としていました。
いかなる核爆発も、国境や世代を超えて壊滅的な結果をもたらし、国家も国際機関もそれに適切に対応することができません。また、事故や誤作動等のリスクも高まっています。こうした根拠が核兵器禁止条約の基盤になっています。そして核禁条約は、自国の生存を一握りの国の判断や運に依存させることを拒否する、圧倒的多数の国の懸念を法的な形で明確に表現したものです。
「核兵器は二度と使われてはならない」と繰り返す一方で、「使う準備がある」と脅すような偽善では、核のタブー(禁忌)は維持されません。核兵器がもたらす惨状についての核保有国と非保有国との対話、そしてヒバクシャの方々が示してきた道徳的真摯さによってのみ、タブーは維持されます。私たちは子どもや孫たちに、単なる運以上のものを残す義務があるのです。
カリフォルニア大学グローバル紛争協力研究所 ビドグッド博士
“次の危機”に頼る言説は危険
カリフォルニア大学グローバル紛争協力研究所 ビドグッド博士
“次の危機”に頼る言説は危険
核危機における意思決定とリスクの低減に関して、近年の研究の動向を踏まえた私見を述べたいと思います。
このテーマであまり議論されていないと感じるのは、危機の発生が、リスク低減に関する政策決定にどのような影響を与えるかという点です。
指導者が核戦争の瀬戸際に立たされるような出来事は、必然的に軍備管理の強化やリスク低減へ向かわせるというのが、“既定の結論”となっている風潮があります。実際、キューバ危機は常にその例として挙げられます。しかし、危機が軍備拡張を引き起こすように見える事例もあります。
私の研究では、危機は核兵器の危険性の教訓を伝える上でそれほど効果的ではない、という可能性が明らかになっています。むしろ、危機の発生は、指導者が“すでに考えていること”をより強化する傾向があるように見えます。
もし核兵器を廃絶することが核戦争を防ぐ最善の方法だと信じる人物が指導者の中にいれば、危機の発生は軍備管理の強化につながるでしょう。しかし核の増強が必要だと信じる人物ばかりの場合、危機後の結果は全く違うものになり得ます。
したがって、軍備管理を軌道に戻すために「キューバ危機のような出来事がもう一度必要だ」というよく聞かれる言説に対して、私たちは極めて懐疑的であるべきです。次の危機は、私たちを全く別の、はるかに危険な道へと容易に導く可能性があるからです。
核危機における意思決定とリスクの低減に関して、近年の研究の動向を踏まえた私見を述べたいと思います。
このテーマであまり議論されていないと感じるのは、危機の発生が、リスク低減に関する政策決定にどのような影響を与えるかという点です。
指導者が核戦争の瀬戸際に立たされるような出来事は、必然的に軍備管理の強化やリスク低減へ向かわせるというのが、“既定の結論”となっている風潮があります。実際、キューバ危機は常にその例として挙げられます。しかし、危機が軍備拡張を引き起こすように見える事例もあります。
私の研究では、危機は核兵器の危険性の教訓を伝える上でそれほど効果的ではない、という可能性が明らかになっています。むしろ、危機の発生は、指導者が“すでに考えていること”をより強化する傾向があるように見えます。
もし核兵器を廃絶することが核戦争を防ぐ最善の方法だと信じる人物が指導者の中にいれば、危機の発生は軍備管理の強化につながるでしょう。しかし核の増強が必要だと信じる人物ばかりの場合、危機後の結果は全く違うものになり得ます。
したがって、軍備管理を軌道に戻すために「キューバ危機のような出来事がもう一度必要だ」というよく聞かれる言説に対して、私たちは極めて懐疑的であるべきです。次の危機は、私たちを全く別の、はるかに危険な道へと容易に導く可能性があるからです。
ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院 フリーマン博士
抑止ではなく「安心」の供与へ
ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院 フリーマン博士
抑止ではなく「安心」の供与へ
現在、世界的な緊張の高まりは核兵器を保有する国の間で顕著であり、とりわけ米国と中国の関係は深刻です。また、早期警戒や標的捕捉機能への自律型システムの統合が進むにつれ、人間の判断が介入する余地がなくなるかもしれない――そんな局面に私たちは立っています。
こうした中で私が提起したいのは、「安心供与の連鎖」によるリスク低減です。
これは、ライバル間の安心が、安定には不可欠であるという発想に基づいています。抑止力が能力の示威や報復の威嚇によって侵略を防ぐものであるとするなら、「安心供与の連鎖」とは、双方が抑制の意思を示すために、低コストで一方的な措置を段階的に講じていくプロセスです。相手国がそれを認識し、応じることを繰り返すことによって徐々に信頼を築いていく考え方です。
米中関係は現在、互いに対して生じた安全保障のジレンマが国内政治とも相まって、安心感を醸成することが困難な状況になっています。たとえ漸進的であっても、両国が関係改善を図ろうとしていることを相手に示すことで、双方の不安をやわらげるような相互的な行動が生まれる可能性があります。
米中関係は核保有国の中で最も管理されていない関係の一つとなっています。関係が改善されれば、核拡散のリスクを低減し、ひいては世界の核軍縮の取り組みの再活性化にもつながる可能性があると思います。
現在、世界的な緊張の高まりは核兵器を保有する国の間で顕著であり、とりわけ米国と中国の関係は深刻です。また、早期警戒や標的捕捉機能への自律型システムの統合が進むにつれ、人間の判断が介入する余地がなくなるかもしれない――そんな局面に私たちは立っています。
こうした中で私が提起したいのは、「安心供与の連鎖」によるリスク低減です。
これは、ライバル間の安心が、安定には不可欠であるという発想に基づいています。抑止力が能力の示威や報復の威嚇によって侵略を防ぐものであるとするなら、「安心供与の連鎖」とは、双方が抑制の意思を示すために、低コストで一方的な措置を段階的に講じていくプロセスです。相手国がそれを認識し、応じることを繰り返すことによって徐々に信頼を築いていく考え方です。
米中関係は現在、互いに対して生じた安全保障のジレンマが国内政治とも相まって、安心感を醸成することが困難な状況になっています。たとえ漸進的であっても、両国が関係改善を図ろうとしていることを相手に示すことで、双方の不安をやわらげるような相互的な行動が生まれる可能性があります。
米中関係は核保有国の中で最も管理されていない関係の一つとなっています。関係が改善されれば、核拡散のリスクを低減し、ひいては世界の核軍縮の取り組みの再活性化にもつながる可能性があると思います。
アメリカ・軍備管理協会 キンボール会長
軍縮義務の推進へ3つの提案
アメリカ・軍備管理協会 キンボール会長
軍縮義務の推進へ3つの提案
今回の再検討会議が、核軍縮努力について定めたNPT第6条を推進する行動計画について合意に至らなかったり、あいまいな留保等にとどまったりするようであれば、長年にわたる軍縮の停滞を経て、核リスクが高まることになります。
検討すべき具体的なアイデアを三つ、提案したいと思います。
第一に、1973年の「米ソ核戦争防止協定」を思い起こすべきです。この協定は国際的な平和を危うくする可能性のある状況において、武力の威嚇、または行使を控えるよう両当事者に求めています。また、危機的状況における緊急の協議も義務づけています。NPT再検討会議は、核兵器国に対してこの原則を改めて確認し、多国間協定へと拡大すべきです。
第二に、AI(人工知能)に関して、核兵器国は人間による制御の重要性を認識しています。それに加えて本会議は、AIのリスクを低減する好事例を検討すべく、全締約国に開かれた専門的な枠組みを確立することに合意すべきです。
第三に、「消極的安全保証」、すなわち核保有国が非保有国に対して核兵器を使わない、または使うと脅さないと約束することです。その実現方法の一つが非核兵器地帯です。核兵器国が議定書に署名はしても、批准は終えていない地帯があります。これを進めることで法的拘束力のある消極的安全保証が発効し、他の国々が核の脅威にさらされないことを保証することができます。
今回の再検討会議が、核軍縮努力について定めたNPT第6条を推進する行動計画について合意に至らなかったり、あいまいな留保等にとどまったりするようであれば、長年にわたる軍縮の停滞を経て、核リスクが高まることになります。
検討すべき具体的なアイデアを三つ、提案したいと思います。
第一に、1973年の「米ソ核戦争防止協定」を思い起こすべきです。この協定は国際的な平和を危うくする可能性のある状況において、武力の威嚇、または行使を控えるよう両当事者に求めています。また、危機的状況における緊急の協議も義務づけています。NPT再検討会議は、核兵器国に対してこの原則を改めて確認し、多国間協定へと拡大すべきです。
第二に、AI(人工知能)に関して、核兵器国は人間による制御の重要性を認識しています。それに加えて本会議は、AIのリスクを低減する好事例を検討すべく、全締約国に開かれた専門的な枠組みを確立することに合意すべきです。
第三に、「消極的安全保証」、すなわち核保有国が非保有国に対して核兵器を使わない、または使うと脅さないと約束することです。その実現方法の一つが非核兵器地帯です。核兵器国が議定書に署名はしても、批准は終えていない地帯があります。これを進めることで法的拘束力のある消極的安全保証が発効し、他の国々が核の脅威にさらされないことを保証することができます。
ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院 ホワイト教授
許容可能な核の使用などない
ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院 ホワイト教授
許容可能な核の使用などない
私の母国コスタリカがあるラテンアメリカおよびカリブ海地域は、第三国による核の瀬戸際政策にさらされた後、即座に行動を起こしました。それは、非核兵器地帯化することで安全の確約を求めるという規範的、法的、制度的な対応でした。
核のリスクは兵器や戦略、条約によってのみ生み出されるものではありません。意思決定者や社会の価値観、さらに政治文化などによって生み出されるものです。
核のタブーが薄れつつある現状は、他者の命を軽視するナショナリズム的な風潮と無関係ではありません。ナショナリズムは人々の命を不平等に扱い、大量破壊兵器が他者に影響を与えることについて、“ある程度許容できるもの”だと想像しやすくしてしまう。これに対抗するために、タブーは強化されなければなりません。地球の限界、連鎖的効果、深い相互依存が存在する世界にあって“許容可能な核兵器の使用”などというものは存在しないのです。
私たちに国連という枠組みを残した世代は、エスカレーションの恐ろしさを理解していました。国連憲章の第33条は、紛争が国際の平和を脅かす恐れがある場合に、当事国はまず交渉、仲介、調停等といった「平和的手段」による解決を求めなければならないとうたっています。
エスカレーションを防ぐ中核的な部分として、私たちは平和的解決を追求するという歴史的・規範的義務を記憶しておく必要があります。
私の母国コスタリカがあるラテンアメリカおよびカリブ海地域は、第三国による核の瀬戸際政策にさらされた後、即座に行動を起こしました。それは、非核兵器地帯化することで安全の確約を求めるという規範的、法的、制度的な対応でした。
核のリスクは兵器や戦略、条約によってのみ生み出されるものではありません。意思決定者や社会の価値観、さらに政治文化などによって生み出されるものです。
核のタブーが薄れつつある現状は、他者の命を軽視するナショナリズム的な風潮と無関係ではありません。ナショナリズムは人々の命を不平等に扱い、大量破壊兵器が他者に影響を与えることについて、“ある程度許容できるもの”だと想像しやすくしてしまう。これに対抗するために、タブーは強化されなければなりません。地球の限界、連鎖的効果、深い相互依存が存在する世界にあって“許容可能な核兵器の使用”などというものは存在しないのです。
私たちに国連という枠組みを残した世代は、エスカレーションの恐ろしさを理解していました。国連憲章の第33条は、紛争が国際の平和を脅かす恐れがある場合に、当事国はまず交渉、仲介、調停等といった「平和的手段」による解決を求めなければならないとうたっています。
エスカレーションを防ぐ中核的な部分として、私たちは平和的解決を追求するという歴史的・規範的義務を記憶しておく必要があります。
SGI平和センター軍縮・人権部 砂田部長
他者の痛み想像できる教育を
SGI平和センター軍縮・人権部 砂田部長
他者の痛み想像できる教育を
キューバ危機について語る時、私たちはしばしばワシントンとモスクワを思い浮かべます。まさに同じ危機の最中、日本の沖縄でも恐ろしい出来事が起きていました。
証言によれば、緊張が頂点に達していた時、沖縄にある核ミサイル基地が実際に発射命令を受信したそうです。しかし、発射は行われませんでした。一人の軍人が直感を働かせたのです。
彼は防衛準備態勢のレベルに矛盾があると気付きました。さらに彼は決定的な欠陥を認識しました。彼の指揮下にあるミサイルは、主にアジアを標的としていたのです。直感を信じ、彼は発射中止を命じました。
現在は平和のための施設へと生まれ変わった沖縄のミサイル基地跡に立った時、私は血の気が引くのを覚えました。かつて何百万人もの命が、まさに一本の糸にぶらさがっており、それを救ったのが個人の判断であったという事実に恐怖を覚えました。
広島と長崎への原爆投下から81年がたち、惨劇の現実は抽象的な歴史へと色あせつつあります。核爆発が実際に何を意味するのかという感情を失うと、私たちは核兵器を単なる地政学的ツールとして扱い始めます。
被爆者の小倉桂子さんは、軍縮教育の最も重要な要素は想像力、つまり他者の痛みを感じる能力だと強調しました。この人間の想像力を働かせることができる人を増やすことこそ、核兵器を「使わせない」最大の抑止力なのです。
キューバ危機について語る時、私たちはしばしばワシントンとモスクワを思い浮かべます。まさに同じ危機の最中、日本の沖縄でも恐ろしい出来事が起きていました。
証言によれば、緊張が頂点に達していた時、沖縄にある核ミサイル基地が実際に発射命令を受信したそうです。しかし、発射は行われませんでした。一人の軍人が直感を働かせたのです。
彼は防衛準備態勢のレベルに矛盾があると気付きました。さらに彼は決定的な欠陥を認識しました。彼の指揮下にあるミサイルは、主にアジアを標的としていたのです。直感を信じ、彼は発射中止を命じました。
現在は平和のための施設へと生まれ変わった沖縄のミサイル基地跡に立った時、私は血の気が引くのを覚えました。かつて何百万人もの命が、まさに一本の糸にぶらさがっており、それを救ったのが個人の判断であったという事実に恐怖を覚えました。
広島と長崎への原爆投下から81年がたち、惨劇の現実は抽象的な歴史へと色あせつつあります。核爆発が実際に何を意味するのかという感情を失うと、私たちは核兵器を単なる地政学的ツールとして扱い始めます。
被爆者の小倉桂子さんは、軍縮教育の最も重要な要素は想像力、つまり他者の痛みを感じる能力だと強調しました。この人間の想像力を働かせることができる人を増やすことこそ、核兵器を「使わせない」最大の抑止力なのです。