「海洋プラごみ」9割削減を目指す オランダのNPOに聞く
「海洋プラごみ」9割削減を目指す オランダのNPOに聞く
2025年10月16日
- 〈SDGs×SEIKYO〉 諦めなければ希望はある 英知を結集し挑み続けたい
- 〈SDGs×SEIKYO〉 諦めなければ希望はある 英知を結集し挑み続けたい
(エッガーさんの写真は本人提供、それ以外は全てオーシャン・クリーンアップ提供)
(エッガーさんの写真は本人提供、それ以外は全てオーシャン・クリーンアップ提供)
オーシャン・クリーンアップ 環境・社会問題担当ディレクター マティアス・エッガーさん
オーシャン・クリーンアップ 環境・社会問題担当ディレクター マティアス・エッガーさん
毎年大量のプラスチックごみが海に流出し、海洋生物や環境に深刻な影響を与える「海洋プラスチックごみ問題」。オランダのNPO「オーシャン・クリーンアップ」は、科学とテクノロジーの力でこの問題に取り組み、先駆的な事例として世界中から注目を集めてきました。SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」をテーマに、オーシャン・クリーンアップの環境・社会問題担当ディレクターを務める、環境科学者のマティアス・エッガーさんに話を伺いました。(取材=玉川直美、樹下智)
毎年大量のプラスチックごみが海に流出し、海洋生物や環境に深刻な影響を与える「海洋プラスチックごみ問題」。オランダのNPO「オーシャン・クリーンアップ」は、科学とテクノロジーの力でこの問題に取り組み、先駆的な事例として世界中から注目を集めてきました。SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」をテーマに、オーシャン・クリーンアップの環境・社会問題担当ディレクターを務める、環境科学者のマティアス・エッガーさんに話を伺いました。(取材=玉川直美、樹下智)
――オーシャン・クリーンアップは、最新技術を駆使して海洋プラスチックごみを回収しています。2013年、当時18歳だったボイヤン・スラット氏によって設立されました。
ボイヤンが16歳の時、潜った海の中で「魚よりも、プラスチックごみが多く漂う光景」を目にし、衝撃を受けたことから全ては始まりました。
「何とかしたい」と強く願ったボイヤンに、あるアイデアが浮かびました。それは、“海流の力を使ってプラごみを回収する”というものです。このアイデアが注目を集め、同じ志を持つ研究者やエンジニアなど専門性を備えた仲間が世界中から集まり、多額の寄付も寄せられました。
最初に取り組んだことは、問題を理解するための「調査」でした。「なぜプラごみが海にあるのか」「どこから来て、どこへ流れていくのか」「そもそも、なぜ問題なのか」「どうすれば実際に回収できるのか」といった問いを、科学的に検証していきました。そうした研究成果を公表したことで、オーシャン・クリーンアップは科学界でも知られる存在となっていきました。
――オーシャン・クリーンアップは、最新技術を駆使して海洋プラスチックごみを回収しています。2013年、当時18歳だったボイヤン・スラット氏によって設立されました。
ボイヤンが16歳の時、潜った海の中で「魚よりも、プラスチックごみが多く漂う光景」を目にし、衝撃を受けたことから全ては始まりました。
「何とかしたい」と強く願ったボイヤンに、あるアイデアが浮かびました。それは、“海流の力を使ってプラごみを回収する”というものです。このアイデアが注目を集め、同じ志を持つ研究者やエンジニアなど専門性を備えた仲間が世界中から集まり、多額の寄付も寄せられました。
最初に取り組んだことは、問題を理解するための「調査」でした。「なぜプラごみが海にあるのか」「どこから来て、どこへ流れていくのか」「そもそも、なぜ問題なのか」「どうすれば実際に回収できるのか」といった問いを、科学的に検証していきました。そうした研究成果を公表したことで、オーシャン・クリーンアップは科学界でも知られる存在となっていきました。
オーシャン・クリーンアップが回収した海洋プラスチックごみ
オーシャン・クリーンアップが回収した海洋プラスチックごみ
――いつから実際に海洋プラごみを回収できるようになったのでしょうか。
5年以上にわたる試作と研究を経て、ついに18年9月8日、第1号のプラごみ回収装置「システム001」が始動しました。場所は、海洋プラごみが特に集中するといわれる「太平洋ごみベルト」(ハワイ州とカリフォルニア州の間に位置する海域)です。私も船に乗り合わせましたが、プラごみを捕獲し始めた時は、皆、興奮を抑えきれず、共に喜び合いました。
しかし、約4カ月がたった時、誰も想定していなかった事態が起きました。回収装置「システム001」が、二つに割れてしまったのです。皆で心血を注いで作った装置が、見るも無残な姿に……。“オーシャン・クリーンアップは終わってしまうのか”と疑問を抱いた人もいたでしょう。
それでも、私たちは諦めませんでした。失敗の原因を突き止め、再び挑戦しようと、英知を結集しました。その後、わずか3カ月という短期間で、バージョンアップさせた回収装置を開発し、半年後には、再び太平洋ごみベルトに向かいました。そして、大量のプラごみを回収することに成功したのです。
私はこの経験から、新しい何かを生み出すのに、失敗はつきものなのだと学びました。でも、その失敗を“ただの失敗”ではなく“学びの絶好の機会”として次に生かすことが鍵なのだと思います。
初めから完璧にできることなんてない。失敗から学ぶ勇気さえあれば、人はいつだって前進できる――そう確信します。
――いつから実際に海洋プラごみを回収できるようになったのでしょうか。
5年以上にわたる試作と研究を経て、ついに18年9月8日、第1号のプラごみ回収装置「システム001」が始動しました。場所は、海洋プラごみが特に集中するといわれる「太平洋ごみベルト」(ハワイ州とカリフォルニア州の間に位置する海域)です。私も船に乗り合わせましたが、プラごみを捕獲し始めた時は、皆、興奮を抑えきれず、共に喜び合いました。
しかし、約4カ月がたった時、誰も想定していなかった事態が起きました。回収装置「システム001」が、二つに割れてしまったのです。皆で心血を注いで作った装置が、見るも無残な姿に……。“オーシャン・クリーンアップは終わってしまうのか”と疑問を抱いた人もいたでしょう。
それでも、私たちは諦めませんでした。失敗の原因を突き止め、再び挑戦しようと、英知を結集しました。その後、わずか3カ月という短期間で、バージョンアップさせた回収装置を開発し、半年後には、再び太平洋ごみベルトに向かいました。そして、大量のプラごみを回収することに成功したのです。
私はこの経験から、新しい何かを生み出すのに、失敗はつきものなのだと学びました。でも、その失敗を“ただの失敗”ではなく“学びの絶好の機会”として次に生かすことが鍵なのだと思います。
初めから完璧にできることなんてない。失敗から学ぶ勇気さえあれば、人はいつだって前進できる――そう確信します。
太平洋ごみベルトで2隻の船がU字形の回収装置を引き、海流の力を利用してプラごみを回収する様子
太平洋ごみベルトで2隻の船がU字形の回収装置を引き、海流の力を利用してプラごみを回収する様子
2040年までに
2040年までに
――これまで、どれくらいの海洋プラごみを回収してきたのですか。
2019年から24年4月までで、累計1万トンを回収しました。ですが、そのわずか7カ月後の回収量は累計2万トンに。さらに、今月には累計4・2万トンを超え、1年間の回収量は倍増しています(河川での回収も含む)。
ドローンや衛星、観測装置などを活用して、海洋プラごみの密集地帯を特定するなど、効率的に回収する研究を進め、成果が表れてきました。
私たちはこうした取り組みを通して、2040年までに海洋プラごみの9割削減を目指しています。
――これまで、どれくらいの海洋プラごみを回収してきたのですか。
2019年から24年4月までで、累計1万トンを回収しました。ですが、そのわずか7カ月後の回収量は累計2万トンに。さらに、今月には累計4・2万トンを超え、1年間の回収量は倍増しています(河川での回収も含む)。
ドローンや衛星、観測装置などを活用して、海洋プラごみの密集地帯を特定するなど、効率的に回収する研究を進め、成果が表れてきました。
私たちはこうした取り組みを通して、2040年までに海洋プラごみの9割削減を目指しています。
――9割削減は高い目標ですね。海洋プラごみは全体で、どれくらい存在するのでしょうか。
研究者によって見解は異なりますが、私たちは数百万トン規模のプラごみが海に漂っていると推計しています。ですが、海洋プラごみの総重量を知ることよりも重要なのは、「プラごみがどのように広がって、どのような影響を及ぼしてしまうのか」を知ることだと考えます。
これまでの研究で分かってきたのは、海に流入したプラごみの多くが、海岸に打ち上げられるなどして、再び陸に戻ってくるということです。その過程で、マングローブやサンゴ礁に絡まり、傷つけてしまっているのです。
――「マイクロプラスチック」と呼ばれる、海中で5ミリ未満にまで細かくなったプラごみが、海の食物連鎖を通して人体に入り込むことも懸念されています。
ええ。人体への影響を裏付ける決定的な証拠はまだありませんが、最近では、人間の脳や心臓、胎盤などからマイクロプラスチックが見つかったという報告もあります。今後、人体への影響が明らかにされる可能性はありますが、立証されてからでは手遅れです。
さらにマイクロプラスチックは、気候変動にも関係しています。海は、二酸化炭素を吸収する重要な役割を持っていますが、マイクロプラスチックが増えることで、さまざまな影響がもたらされ、結果的に海が吸収できる二酸化炭素の量が減ってしまうのです。
――9割削減は高い目標ですね。海洋プラごみは全体で、どれくらい存在するのでしょうか。
研究者によって見解は異なりますが、私たちは数百万トン規模のプラごみが海に漂っていると推計しています。ですが、海洋プラごみの総重量を知ることよりも重要なのは、「プラごみがどのように広がって、どのような影響を及ぼしてしまうのか」を知ることだと考えます。
これまでの研究で分かってきたのは、海に流入したプラごみの多くが、海岸に打ち上げられるなどして、再び陸に戻ってくるということです。その過程で、マングローブやサンゴ礁に絡まり、傷つけてしまっているのです。
――「マイクロプラスチック」と呼ばれる、海中で5ミリ未満にまで細かくなったプラごみが、海の食物連鎖を通して人体に入り込むことも懸念されています。
ええ。人体への影響を裏付ける決定的な証拠はまだありませんが、最近では、人間の脳や心臓、胎盤などからマイクロプラスチックが見つかったという報告もあります。今後、人体への影響が明らかにされる可能性はありますが、立証されてからでは手遅れです。
さらにマイクロプラスチックは、気候変動にも関係しています。海は、二酸化炭素を吸収する重要な役割を持っていますが、マイクロプラスチックが増えることで、さまざまな影響がもたらされ、結果的に海が吸収できる二酸化炭素の量が減ってしまうのです。
太平洋ごみベルトで回収したマイクロプラスチックを調べるエッガーさん
太平洋ごみベルトで回収したマイクロプラスチックを調べるエッガーさん
――海洋プラごみは毎年、どれくらい増えているのでしょうか。
最近の研究では、約100万トンのプラごみが、毎年、海に流出していると分析されています。一方、それらが世界で生産されているプラスチック全体に占める割合は、わずか0・5%以下。つまり、陸に残っている99%以上のプラスチックが、これ以上流れ出ないようにすることが肝要なのです。また、プラごみの多くは「川」を通じて陸から海に流出しています。
そこで私たちは、川でのプラごみ回収にも力を入れてきました。これまで7年間にわたって世界各地の河川の調査を行い、それぞれの河川に対応した回収装置の開発も行ってきました。
2030年までに「川から海へ流入するプラスチックごみのうち、3分の1を削減する」ことを目標に掲げています。世界30都市の川に回収装置を導入することを目指し、東南アジアやカリブ海地域などを中心に既に20機が導入済みです。
――海洋プラごみは毎年、どれくらい増えているのでしょうか。
最近の研究では、約100万トンのプラごみが、毎年、海に流出していると分析されています。一方、それらが世界で生産されているプラスチック全体に占める割合は、わずか0・5%以下。つまり、陸に残っている99%以上のプラスチックが、これ以上流れ出ないようにすることが肝要なのです。また、プラごみの多くは「川」を通じて陸から海に流出しています。
そこで私たちは、川でのプラごみ回収にも力を入れてきました。これまで7年間にわたって世界各地の河川の調査を行い、それぞれの河川に対応した回収装置の開発も行ってきました。
2030年までに「川から海へ流入するプラスチックごみのうち、3分の1を削減する」ことを目標に掲げています。世界30都市の川に回収装置を導入することを目指し、東南アジアやカリブ海地域などを中心に既に20機が導入済みです。
アメリカ・ロサンゼルス郡で、川の流れと太陽光エネルギーを利用してプラごみを回収する様子
アメリカ・ロサンゼルス郡で、川の流れと太陽光エネルギーを利用してプラごみを回収する様子
グアテマラのラス・バカス川で、プラごみをせき止めて回収する様子
グアテマラのラス・バカス川で、プラごみをせき止めて回収する様子
――エッガーさんが、オーシャン・クリーンアップに参加したきっかけは何でしょうか。
私は子どもの頃から、家族と海に遊びに行くたびに、「この青く果てしない海の下には、どんな世界が広がっているんだろう……」と、胸を躍らせていました。大学院で海洋生物地球化学の研究を進める中、海でサンプルを採取すると、いつも「小さなプラスチック片」が混じっていました。初めは研究の妨げになるものとして無視していましたが、次第に気付いたのです。「これは、人間の活動によって海が少しずつ傷ついている予兆ではないか」と。
その時、私はまるで、苦しむ人を前にしながら、ただそれを観察しているだけのような気持ちになりました。「この苦しみを取り除きたい」「解決に少しでも貢献したい」と強く思い、オーシャン・クリーンアップに参加したのです。
――エッガーさんは、環境・社会問題担当ディレクターとして、海洋プラごみの回収活動が「環境」や「社会」に与える影響などの評価も行っています。
海洋プラごみの回収は、「経済」や「産業」にも良い影響をもたらします。例えば、観光業や不動産業では、プラごみで埋もれている場所をきれいにすることで観光客を呼び込んだり、不動産価値を高めたりすることにつながります。また、漁業の持続可能性を守るためにも、プラスチック汚染の解決は欠かせません。
こうした事実を示すことで、環境活動家だけでなく、政府や投資家など、幅広い分野の人にも、問題への理解と共感を広げることができると考えます。
――エッガーさんが、オーシャン・クリーンアップに参加したきっかけは何でしょうか。
私は子どもの頃から、家族と海に遊びに行くたびに、「この青く果てしない海の下には、どんな世界が広がっているんだろう……」と、胸を躍らせていました。大学院で海洋生物地球化学の研究を進める中、海でサンプルを採取すると、いつも「小さなプラスチック片」が混じっていました。初めは研究の妨げになるものとして無視していましたが、次第に気付いたのです。「これは、人間の活動によって海が少しずつ傷ついている予兆ではないか」と。
その時、私はまるで、苦しむ人を前にしながら、ただそれを観察しているだけのような気持ちになりました。「この苦しみを取り除きたい」「解決に少しでも貢献したい」と強く思い、オーシャン・クリーンアップに参加したのです。
――エッガーさんは、環境・社会問題担当ディレクターとして、海洋プラごみの回収活動が「環境」や「社会」に与える影響などの評価も行っています。
海洋プラごみの回収は、「経済」や「産業」にも良い影響をもたらします。例えば、観光業や不動産業では、プラごみで埋もれている場所をきれいにすることで観光客を呼び込んだり、不動産価値を高めたりすることにつながります。また、漁業の持続可能性を守るためにも、プラスチック汚染の解決は欠かせません。
こうした事実を示すことで、環境活動家だけでなく、政府や投資家など、幅広い分野の人にも、問題への理解と共感を広げることができると考えます。
海洋プラごみは海鳥など海洋生態系の生物に深刻な影響を与えている
海洋プラごみは海鳥など海洋生態系の生物に深刻な影響を与えている
多くの国が懸念
多くの国が懸念
――SDGsの目標14には「あらゆる種類の海洋汚染を防ぎ大幅に減らす」ことが掲げられています。国際社会では、プラスチック汚染を防ぐための条約づくりが、国連環境計画(UNEP)の主導で行われていますが、本年8月に開催された会議でも合意には至りませんでした。今後、国際社会はどのように進んでいくべきでしょうか。
私もこれまで会議に参加したことがありますが、今回、条約が制定されなかったことは残念でなりません。プラスチック汚染の削減方法については、国ごとに考え方の相違があり、足並みがそろっているとは言えません。特に、「プラスチックの生産そのものを削減するべきか」については、賛否が分かれています。プラスチックの原料となる石油を生産している国は慎重な姿勢を示しているのです。
しかし、希望はまだあります。少なくとも、世界の多くの国が「海洋プラスチック汚染」に懸念を抱いており、解決の必要性を認識している点では一致しているからです。
だからこそ、大事なことは、誰かを責めたり敵対したりするのではなく、共に“解決策”を探ることなのではないでしょうか。意見の異なる国の文化的背景や、経済状況などを理解し合いながら、皆が合意できる解決策を模索することが必要です。また、必ずしも全てのプラスチックが悪いわけではありません。医療機器など、プラスチックの特性を生かすべきものもあります。
――創価学会初代会長の牧口常三郎先生は、20世紀の初頭に、“他国の民衆を犠牲にして自国の安全と繁栄を追い求める生存競争から脱して、各国が人道的競争に踏み出すべきである”と訴えました。
深く共感します。海や海洋生物を20年近く研究してきて気付いたのは、「この地球上の自然やあらゆる生き物は、海を通じて深くつながっている」ということです。一人の小さな行動は、海を通じて、遠く離れた国や地域にまで何かしらの影響を及ぼします。そういった点からも、一人一人の小さな心がけは、海洋プラごみ問題の解決の第一歩になるのではないでしょうか。
具体的には「何を買い、どのように使うか」を意識することから始められます。例えば、プラスチック製のおもちゃの代わりに、木製や中古のおもちゃを購入する。使い捨てのプラスチック容器の代わりに、繰り返し使える容器を使うなど、ほんの小さな工夫です。
海洋プラスチック汚染は巨大な問題です。しかし、海を守りたいという一人の青年の思いに、私も含む多くの人々が共感し、科学の力を駆使して、海洋プラごみの9割削減という目標の実現に向けて具体的な成果をもって前進しています。
「どうせ無理だ」「もう手遅れだ」と諦めるのではなく、「問題はある。でも、希望はある」と前向きな気持ちで、自分らしく行動を起こしていくことが重要です。そうしたメッセージを発信し、共に連帯して進んでいくことが、問題解決への道になっていくのではないでしょうか。
――SDGsの目標14には「あらゆる種類の海洋汚染を防ぎ大幅に減らす」ことが掲げられています。国際社会では、プラスチック汚染を防ぐための条約づくりが、国連環境計画(UNEP)の主導で行われていますが、本年8月に開催された会議でも合意には至りませんでした。今後、国際社会はどのように進んでいくべきでしょうか。
私もこれまで会議に参加したことがありますが、今回、条約が制定されなかったことは残念でなりません。プラスチック汚染の削減方法については、国ごとに考え方の相違があり、足並みがそろっているとは言えません。特に、「プラスチックの生産そのものを削減するべきか」については、賛否が分かれています。プラスチックの原料となる石油を生産している国は慎重な姿勢を示しているのです。
しかし、希望はまだあります。少なくとも、世界の多くの国が「海洋プラスチック汚染」に懸念を抱いており、解決の必要性を認識している点では一致しているからです。
だからこそ、大事なことは、誰かを責めたり敵対したりするのではなく、共に“解決策”を探ることなのではないでしょうか。意見の異なる国の文化的背景や、経済状況などを理解し合いながら、皆が合意できる解決策を模索することが必要です。また、必ずしも全てのプラスチックが悪いわけではありません。医療機器など、プラスチックの特性を生かすべきものもあります。
――創価学会初代会長の牧口常三郎先生は、20世紀の初頭に、“他国の民衆を犠牲にして自国の安全と繁栄を追い求める生存競争から脱して、各国が人道的競争に踏み出すべきである”と訴えました。
深く共感します。海や海洋生物を20年近く研究してきて気付いたのは、「この地球上の自然やあらゆる生き物は、海を通じて深くつながっている」ということです。一人の小さな行動は、海を通じて、遠く離れた国や地域にまで何かしらの影響を及ぼします。そういった点からも、一人一人の小さな心がけは、海洋プラごみ問題の解決の第一歩になるのではないでしょうか。
具体的には「何を買い、どのように使うか」を意識することから始められます。例えば、プラスチック製のおもちゃの代わりに、木製や中古のおもちゃを購入する。使い捨てのプラスチック容器の代わりに、繰り返し使える容器を使うなど、ほんの小さな工夫です。
海洋プラスチック汚染は巨大な問題です。しかし、海を守りたいという一人の青年の思いに、私も含む多くの人々が共感し、科学の力を駆使して、海洋プラごみの9割削減という目標の実現に向けて具体的な成果をもって前進しています。
「どうせ無理だ」「もう手遅れだ」と諦めるのではなく、「問題はある。でも、希望はある」と前向きな気持ちで、自分らしく行動を起こしていくことが重要です。そうしたメッセージを発信し、共に連帯して進んでいくことが、問題解決への道になっていくのではないでしょうか。
Matthias Egger 1987年、スイス生まれ。オランダのユトレヒト大学で海洋生物地球化学の博士号を取得。オーシャン・クリーンアップの環境・社会問題担当ディレクターとして、プラスチックごみ回収活動による環境・社会への影響評価や、効果的で環境負荷の少ない回収活動の戦略設計などを担う。
Matthias Egger 1987年、スイス生まれ。オランダのユトレヒト大学で海洋生物地球化学の博士号を取得。オーシャン・クリーンアップの環境・社会問題担当ディレクターとして、プラスチックごみ回収活動による環境・社会への影響評価や、効果的で環境負荷の少ない回収活動の戦略設計などを担う。
●ご感想をお寄せください
https://www.seikyoonline.com/intro/form/kansou-input-sdgs.html
●聖教電子版の「SDGs」特集ページが、以下のリンクから閲覧できます。
https://www.seikyoonline.com/summarize/sdgs_seikyo.html
●海外識者のインタビューの英語版が「創価学会グローバルサイト」に掲載されています。
https://www.sokaglobal.org/resources/expert-perspectives.html
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●海外識者のインタビューの英語版が「創価学会グローバルサイト」に掲載されています。
https://www.sokaglobal.org/resources/expert-perspectives.html