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〈SDGs×SEIKYO〉 モノの豊かさ=幸福ですか? 熱帯森林保護団体 代表 南研子さん 2022年11月10日

  • インタビュー:アマゾンの大地と生きる
インディオの長老ラオーニ㊨と共に
インディオの長老ラオーニ㊨と共に

 豊かな自然と生命の宝庫であるブラジルのアマゾン。この熱帯雨林は、年々拡大する農地や資源の開発によって、減少の一途をたどっています。今回のテーマは、SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」。30年以上にわたって、アマゾンの保護と先住民(インディオ)の支援を続けている、NGO「熱帯森林保護団体」の南研子代表に、森の現状と私たちが学ぶべきインディオの生き方を聞きました。(取材=サダブラティまや、澤田清美)

◆滞在日数は2000日以上

 ――アマゾンの保護活動に関わるようになったきっかけを教えてください。
  
 1989年にイギリス人歌手のスティングが、インディオ・カヤポ民族の長老ラオーニを連れて「アマゾンを守ろう」という世界ツアーを実施したの。来日の最終日、私はラオーニと握手する機会に恵まれてね。その時、彼を通して、ジャングルの匂いや動物の鳴き声、川が流れる音を、一瞬で感じた気がした。“森を残してください”という全ての生き物の思いを背負って、この人は各国を回ってきたんだって思ったの。

 人生でこんなにインパクトを受けたことがなくて、早い話が「この男のために、一肌脱ぐか!」みたいな気持ちで(笑)、アマゾンに関わることになりました。

 同じ年の5月に「熱帯森林保護団体」を設立。92年6月に国連の地球サミットがリオデジャネイロで開かれ、そこで初めて現地入りしました。気付けば、もう30年以上。34回通って、通算2000日以上をジャングルで暮らしてきました。
  
 ――神秘に包まれたジャングルでの生活は想像もつきませんが、どのようなものでしょうか。
  
 電気もガスも水道もない。不便といえば、この上なく不便! でも、あそこに行くと、いつも快調、快眠、快便なの。川に入る時も、水のエネルギーが毛穴に勢いよく流れ込むのを感じる。本来、自然の持つ力は、人間の想像を超えた莫大なものだということを実感させられます。

 とはいえ、インディオの暮らしは、私たちの生活とあまりにも違う。頭を強く殴られたような衝撃を何度も受けました。まず、女性も男性もみんな真っ裸。当時の私は、40歳そこそこだし、少しの恥じらいはあるじゃない?(笑)

 あとは、夜中にトイレに行こうと思ったら、インディオのおじさんが、“猛獣に気を付けろ”って言うの。懐中電灯で周囲を照らしながら、「出て来ないでねー‼」って叫びながら用を足したこともありました(笑)。

アマゾンの森には多様な生物が生息する(上の3枚)
アマゾンの森には多様な生物が生息する(上の3枚)

 ――すさまじい体験です。インディオの人々にはすぐに受け入れてもらえたのですか。
  
 10年くらいかかったと思う。最初は支援どころの話じゃなかった。でも、しょうがないの。500年前に白人たちが来てから、彼らは、あらゆる方法でだまされ続け、目の前で親や子どもを殺されたんだから。

 かつて、アマゾン地域だけで800万~1000万人いたとされるインディオも、今は全国に90万人近くしかいない。だから私は、どんな小さなことでも、約束を守ることで信頼を築く努力をしてきました。

 ――南さんの支援対象地域は、18万平方キロメートルという広範囲に及びます。これは日本の国土の約半分の面積に相当します。
  
 そう。私たちは、アマゾン川の主要な支流の一つである、シングー川流域で支援活動を行ってきました。川の上流域から中流域にかけて、大小10カ所の先住民族保護区がひとかたまりになっていて、カヤポを含む17の民族が暮らしているの。

 この一帯は、初めてブラジル社会と接触してから約60年と日が浅いこともあって、インディオたちの伝統文化が色濃く継承されている地域です。

 それに、ここはサバンナと熱帯雨林の両方の気候があり、氷河期にも緑が残っていたとか。だから、地球上の生物遺伝子資源の約半分が生息する、生命の宝庫なんです。

 30センチくらいのバッタって見たことある? 太ももが太くて、目つきも悪いの(笑)。あと、コロッケみたいな大きさのゴキブリが大量に空を飛んでいたりして。

豊かな緑に覆われたアマゾン。シングー川の流域には数多くの先住民が暮らしている
豊かな緑に覆われたアマゾン。シングー川の流域には数多くの先住民が暮らしている
◆自然破壊の上にある暮らし

 ――気絶しちゃいますね! ですが、多くの命を支えるアマゾンの森は、年々拡大する開発によって、猛スピードで減少しています。削られた森の跡地には、水力発電所や鉱物の採掘場が建設されるほか、牛の牧場、大豆畑やサトウキビ畑がつくられます。そうした農産物を輸入している日本にとっても、無関係な話ではありません。
  
 1988年に観測が始まって以来、失われたアマゾンの面積は、42万平方キロメートルといわれています(日本の国土面積の約1・1倍)。

 森林の減少は地球温暖化を加速させます。世界中で起こっている異常気象は、文明社会が便利で豊かな生活を際限なく追求してきた結果にほかなりません。

 アマゾンには、豊富な地下資源も眠っています。アルミニウムの原料となるボーキサイトもその一つ。アルミニウムは、精錬する過程で大量の電力を必要とするため、森を焼き払い、東京都がすっぽり入るダムが建設されました。そうして出来上がったアルミ缶の飲み物が、私たちの手元に来るんです。

開発によって削り取られた熱帯雨林
開発によって削り取られた熱帯雨林

 ラオーニが、事あるごとに話しています。“お前たちの社会は目先のことしか考えず、目に見えるものしか信じない。森がなくなれば、インディオも死ぬ。でも、人類も滅びることを忘れてはならない”

 また、“人間は地面の上だけのもので暮らしていけるのに、地面の下に目を向けたから、おかしくなった”とも言っていた。有限な地球を、無限であるかのように錯覚したところに、今の経済システムの問題があるんです。

 人間の心は、急速な科学の発展に追い付けているでしょうか。一向に改善されない森林伐採の現状を目の当たりにすると、自分の欲望を満たすために、私たちはどれほど他者に迷惑をかけてきたのかと考えてしまいます。

◆いじめや差別のない社会

 ――物質的に豊かでも、寂しさと孤独を抱えている人は大勢います。一方、インディオの社会には文字やお金もない代わりに、殺人や自殺、うつ病、いじめや差別などもないそうですね。
  
 はい、そしてお年寄りが元気! 皆に役割があるからか、認知症もありません。

 ジャングル暮らしは大変だけれど、人として大切な心や振る舞いをインディオから数多く学んできました。

 ある時、私たちの社会では、子が親を殺したり、親が子を殺したりする事件が起こるとラオーニに話したことがあるの。すると彼は険しい表情になって、“もしそれが本当だったら、お前たちの部族は滅びるぞ”って憂えてた。

 インディオの世界では、例えば誰かが大けがをしたら、その痛みや悲しみを全員が自分の問題として共有する。互いに尊敬し認め合い、強い連帯感で結ばれている彼らの社会では、一つの家族、あるいは、生命体のように村が成り立っているんです。

 人間が一番偉いなんて思ってない。全ての命は平等であると熟知しているところに、文明社会との決定的な違いがあると思う。

 あと、インディオの社会には「幸せ」という言葉がない。あえて聞くと、家族のためにご飯を作ったり、水くみに行ったり、他者のために何かをしてる時が「幸せ」なんだって。

 そもそも、「幸せ」という言葉が存在するのは、「不幸せ」があるからでしょ? だから、「幸せ」という言葉を必要としないことが、本当の幸福なのかな、と思ったり。アマゾンにいると、人生について深く考えさせられます。

 ――そんなインディオの生活も、気候変動の影響と迫り来る貨幣経済の波によって、変わらざるをえない時を迎えています。近年は、どのような支援事業を展開していますか。
  
 30年前にアマゾンに入った時、乾期でも湿っていた葉っぱが、今では枯れ葉のようになってる。森の気温もかなり上がっていて、近年、日中は50度になります。おまけに湿度は10%。肺に入る空気が痛いです。

 ジャングルの乾燥化と高温化が進むと、自然発火が起こり、広がった火は手の施しようがなくなる。そこで、数年前に消防団のプロジェクトを開始しました。インディオの若者に消防服や道具などを支援し、大火になる前に火を消し止める訓練をしています。

火災の消火活動を行うインディオの消防団員
火災の消火活動を行うインディオの消防団員

 もう一つは、養蜂事業です。いずれ、インディオたちの生活にも、いや応なく貨幣制度が入ってくる。その時、大企業に横取りされないように、養蜂技術を学んで、はちみつを出荷しています。

 森を守り、森の恵みを生かしながら、インディオたちが主体的に運営できる、自立した経済のあり方が求められているんです。

しぼったはちみつを瓶詰めする養蜂士たち
しぼったはちみつを瓶詰めする養蜂士たち

 ――ブラジル北部のアマゾナス州マナウス市には「創価研究所――アマゾン環境研究センター」があり、92年の設立以来、約2万本の植樹を行ってきました。また、豊かな未来を築く鍵は教育にあるとし、子どもたちを対象にした環境教育プロジェクトにも力を入れています。
  
 教育が一番大切。人の痛みを自分の痛みとして感じられる子どもを育てる教育です。

 よく私が講演会などでお話しするのは、片手は自分の幸せを追求してほしい、でも、もう片方は、誰かのために取っておいてほしいって。壮大なことでなくても、隣に住んでいる体の不自由なおばあちゃんの買い物のお手伝いでもいいの。

 他者を思いやる想像力や判断力、直感力を一人一人に持ってもらいたい。それが、アマゾンや地球全体の問題に目を向けることにもつながっていくから。

インディオの子どもたちと一緒に(右から3人目が南さん)
インディオの子どもたちと一緒に(右から3人目が南さん)

 私は、どれほど厳しい現実であったとしても、次世代に対して悲観的ではありません。これからの子どもたちには、これまでの世代にはない、どんなことにも耐え得る力が備わっていると信じています。

 ゆがんだ社会を調整し、最悪な状況を回避するための行動をいち早く起こしていく。それが、未来ある子どもたちに対する、大人の責任ではないでしょうか。
  
  

 〈プロフィル〉
 みなみ・けんこ 東京都出身。1970年、女子美術大学卒業。NHK「おかあさんといっしょ」などの番組で美術制作を担当。その後、アマゾンの先住民ラオーニとの出会いをきっかけに、89年に「熱帯森林保護団体」を設立。先住民と生活を共にしながら、支援活動を続けている。著書に『アマゾン、インディオからの伝言』『アマゾン、森の精霊からの声』(ほんの木)がある。

※写真は全て熱帯森林保護団体提供
  
  

 ART Is.TOKYO GALLERY(東京・代官山)では、「熱帯森林保護団体」代表の南研子さんが、30年にわたって集めてきたインディオの工芸品をはじめとするアート展を開催しています。

【展覧会名】
「アマゾン先住民から南研子へ、深い絆と感謝のアート展」

【会期】
2022年10月21日(金)~12月11日(日)[計24日間]※金土日のみ開催

【開館時間】午前11時~午後6時(入場は午後5時半まで)

【会場】ART Is.TOKYO GALLERY
(東京都渋谷区代官山町3-13-103)
☎03-3496-1739

【URL】www.art-is.net
※諸事情により内容が変更になる場合がございます。Instagram(@art.is.art.is)で最新の情報をご確認ください。
  
  

●ぜひ、ご感想をお寄せください。
sdgs@seikyo-np.jp

●聖教電子版の「SDGs」特集ページが、以下のリンクから閲覧できます。
https://www.seikyoonline.com/summarize/sdgs_seikyo.html

●海外識者のインタビューの英語版が「創価学会グローバルサイト」に掲載されています。
https://www.sokaglobal.org/resources/expert-perspectives.html

 ※世界の気温上昇を、産業革命前と比較して1・5度以内に抑えることが国際的な目標となっている今、国連の「SDGメディア・コンパクト」に加盟する日本のメディアと国連が協働し、「1・5℃の約束――いますぐ動こう、気温上昇を止めるために」というキャンペーンが実施されています。加盟社の聖教新聞も参画しており、気候変動対策に関する情報を積極的に発信しています。

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認定NPO法人フローレンス会長。2004年にNPO法人フローレンスを設立し、社会課題解決のため、病児保育、保育園、障害児保育、こども宅食、赤ちゃん縁組など数々の福祉・支援事業を運営。厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長

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