• ルビ
  • シェア
  • メール
  • CLOSE

〈インタビュー〉 北陸能登復興支援映画「生きがい/能登の声」 2025年7月3日

  • 7月11日(金)全国順次公開 ※石川県で先行上映中

 ミュージカルから歌舞伎まで、数々の作品を手掛けてきた演出家の宮本亞門さんが、約30年ぶりにメガホンを取ったショートフィルム「生きがい IKIGAI」が、ドキュメンタリー「能登の声 The Voice of NOTO」(監督・編集:手塚旬子)との併映で、7月11日(金)から全国順次公開される(上映時間65分、石川県では先行上映中)。「生きがい」の宮本監督と主演を務めた鹿賀丈史さんに話を聞いた。

宮本亞門監督㊧と鹿賀丈史さん
宮本亞門監督㊧と鹿賀丈史さん

 ――本作は復興支援映画です。誕生のきっかけは、宮本監督の能登でのボランティア活動ですね。

 能登は昔から好きで、よく旅をしていました。日本の原風景が残り、暮らす人々も穏やかで優しくて……。だから、能登半島地震(2024年1月)が起きた時は大変に驚きました。
 現地でボランティアをしていたある日、地元の方から「あなたはしなくていい」と言われたんです。“いい年だからかな?”と思っていたら、「あなたみたいな人には(この状況を社会へ)広めてほしいの」と。あまりに突然のことだったので、その時は、舞台化は難しいかもしれませんと、お断りしてしまったんですが、それが罪悪感として残りました。
 そして、今度は豪雨災害(同年9月)。ニュースで聞く被災者の皆さんの一言一言に、胸が締め付けられる思いでした。特に、お年寄りの方が「これ以上、頑張らねばいかんのかね」とポロッとこぼした言葉が忘れられなくて。“何があっても生きていてほしい”――そう願って(映画製作に)動き出しました。
 
 
 ――鹿賀さんは石川県のご出身です。「能登の今を伝えたい」と宮本監督からオファーがあった時のお気持ちは?

 幼い頃、父と一緒に能登、特に輪島によく出かけました。災害が二度も起こり、“記憶にあった美しい景色が壊されてしまった”と感じましたし、過疎もあって高齢の方々は、これからどうやって生きていくのかと。
 “見捨てられた土地にしてはいけない”という思いが日に日に増す中、今回のお話を頂きました。皆さんに少しでも前向きになっていただければと思い、(出演を)すぐに決めました。
 
 
 ――本作のシナリオは、どのように製作されましたか?

 能登の“本当の姿”を伝えたかったので、せりふは全て、地元の方々の生の声を反映しています。映画全体としても、実際に起こっている現実と、それに対する皆さんのさまざまな思いを、パズルのように組み合わせていきました。
 
 
 ――主人公の山本信三は、妻に先立たれ、生きる希望を失っていた時に震災に遭います。

 僕が演じたのは、倒壊した家から救出されるけど“本当は死にたかった”という気持ちを抱えている男性です。助け出された直後に、「俺にかまうな!」と周囲を一蹴してしまう。そんな人間が人との関わりを通して徐々に心を開き、ほんの少しですが前向きに生きていくようになる。この一歩は、大きなことだと思うんです。
 現実でも、命は助かったけれど、復興の長い過程で絶望していく人もいます。映画のタイトルに「生きがい」とあるように、被災者の皆さんには、特に「生きがい」が大切だと感じます。

◆鹿賀丈史さん 「思いを寄せる」ことを大事にしてほしい
◆宮本亞門監督 心一つで人生は変えられると信じたい

 
 ――本作には「命ある限り、諦めないでほしい」との、宮本監督の思いが込められていると伺いました。

 僕自身、がんを経験したり、命の危機にひんする事故に遭ったりして思ったことがあります。“生き抜いていけば、可能性はいくらでもある”――そう思って生きていこうと決意しています。
 老いを感じるほどに“もう十分だ”と、気持ち的に自らの人生にピリオドを打つ人がいますし、そういった世間の風潮もありますが、これは違う。生きる喜びって、死ぬ瞬間まであるはずなんですよ。死に焦点を当てるんじゃなくて、「今まさに生きている」ということにスポットを当ててほしいですね。
 
 
 ――被災者の方々、そして日常を送る全国の人々に向けてメッセージを。

 能登の方は気丈だし、人への思いやりもとても強いです。私たちが手を取り合って、少しでも復興が前に進んでいくことを切に願っています。
 今の日本は、どこで何が起きてもおかしくない状況です。能登と同じような災害が、また起きるかもしれない。どうか、人ごとではなく、わが身にも起き得るんだということを忘れないでいただきたい。そして、いま世界中で起きているたくさんの問題にも、「思いを寄せる」ということを大事にしてほしいと思います。
 
 
 ――弊紙のキャッチコピーは「言葉と、生きていく。」です。読者の皆さんに“希望に満ちた言葉”を届けていただきたいのですが。

 (能楽の大家である)世阿弥の「離見の見」という言葉が好きです。演じている自分を他者がどう見るかが「離見」で、それを自ら俯瞰して見なさいという意味ですが、それって自分に何かが起きた時にも必要な見方だと思うんです。
 目の前のことにとらわれすぎると、なかなか前向きになれないもの。けれど、遠くから自分を見る力があれば、悲しいことが起きても“必ずしも悲劇が続くわけじゃないぞ”と思えることがあります。
 チャップリンの「人生はクローズアップで見ると悲劇だが、ロングショットで見たら喜劇」との言葉もありますが、心一つで自分の人生は変えられる――そう信じていきたいですよね。

◆プロフィル

 みやもと・あもん 1958年1月4日生まれ、東京都出身。87年、ミュージカル「アイ・ガット・マーマン」で演出家デビュー。2004年には東洋人初の演出家としてオンブロードウェーで「太平洋序曲」を上演。19年、がんを患い、病後は再スタートの意味を込めて名前の「亜」を「亞」に変えた。20年、書籍『上を向いて生きる』を上梓。

 かが・たけし 1950年10月12日生まれ、石川県出身。72年、劇団四季に入団。翌年、「イエス・キリスト=スーパースター」の主演でデビュー。退団後は舞台のほか、映画やドラマでも活躍。近年の主な出演作は、ミュージカル「ラ・カージュ・オ・フォール 籠の中の道化たち」、KTVドラマ「御曹司に恋はムズすぎる」など。今年8月にはミュージカル「ある男」に出演予定。

【記事】木村英治 【写真】伊野光

◆「生きがい IKIGAI」 ストーリー

 石川県能登の山奥。土砂災害の被災現場で、崩壊した家の下から一人の男性が救出された。元教師で「黒鬼」と呼ばれる山本信三だ。見守っていた人々から声をかけられるも、彼は鋭い眼光を残し、去っていく。
 避難所になじめない黒鬼は、崩れずに残った自宅の一角で暮らし始める。ある日、被災地ボランティアたちが彼の自宅の片付けに訪れるのだが……。

公式ホームページはこちら

動画

SDGs✕SEIKYO

SDGs✕SEIKYO

連載まとめ

連載まとめ

Seikyo Gift

Seikyo Gift

聖教ブックストア

聖教ブックストア

デジタル特集

DIGITAL FEATURE ARTICLES デジタル特集

YOUTH

劇画

劇画
  • HUMAN REVOLUTION 人間革命検索
  • CLIP クリップ
  • VOICE SERVICE 音声
  • HOW TO USE 聖教電子版の使い方
PAGE TOP