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〈Seikyo Gift〉 小説『新・人間革命』起稿から30周年――記念インタビュー N・ラダクリシュナン博士(インド・ガンジー研究評議会議長) 2023年11月5日

 本年8月、池田大作先生が小説『新・人間革命』の執筆を開始してから30周年を迎えた。起稿の日(1993年8月6日)、先生はガンジー研究の第一人者であるニーラカンタ・ラダクリシュナン博士と長野研修道場で会見している。
 インド南部・ケララ州のガンジー記念館で、平和活動家・教育者としてガンジー研究を主導する博士を訪ね、会見当時の印象や現代における創価学会の役割などをインタビューした。(聞き手=小野顕一 8月5日付)

 インタビューを動画で

■30年前のあの日

 〈30年前、池田先生が小説『新・人間革命』を執筆開始された、まさにその日、ラダクリシュナン博士は先生と会見されています〉
   
 あの時のことは、鮮明に覚えています。
 私は、広島に原子爆弾が投下された8月6日を、「人類の歴史における一番の暗黒の日」と認識していました。池田先生との会見では、そのことについて、何か大切なお話をいただけるのではないかと期待していたのです。
 まず思い出されるのは、お会いした瞬間から、先生が私を事細かに気遣い、緊張を解きほぐそうとされたことです。

小説『新・人間革命』起稿の日、池田先生はインドのラダクリシュナン博士と会見(1993年8月6日、長野研修道場で)
小説『新・人間革命』起稿の日、池田先生はインドのラダクリシュナン博士と会見(1993年8月6日、長野研修道場で)

 日本へのフライトは快適でしたか? 昨日はよく眠れましたか? 朝食はおいしく食べられましたか? 車窓からの景色はどうでしたか? ご家族と連絡はとられましたか?
 ――質問に答えるうち、池田先生のことが、まるで実の父のように感じられ、とても安心した気持ちになりました。
 そうしたやり取りを重ねながら、ガンジーの戦争観や平和の信念などについて、意見を交換していったのです。
   
 ふと、先生は一枚の原稿用紙を手に取り、私に尋ねました。
 「博士、私が何を書いたか、お分かりになりますか」
 通訳の方が、内容を翻訳して教えてくれました。
 そこには「平和ほど、尊きものはない。平和ほど、幸福なものはない。平和こそ、人類の進むべき、根本の第一歩であらねばならない」と――。
 そうです。それは、小説『新・人間革命』の冒頭の一節だったのです。

小説『新・人間革命』の書き出しが記された原稿
小説『新・人間革命』の書き出しが記された原稿

 先生は、この小説が、全何巻・何章で、どういった構成になるのか、具体的な考えを話してくださいました。驚いたのは、創価学会の歴史や登場人物の詳細を、あたかもコンピューターがデータを読み出すように、明瞭によどみなく記憶されていたことです。
 私が「人類の暗黒の日」と考えていた、この8月6日に、いわば、民衆一人一人の人生の軌跡をもって、創価学会の真実の歴史をとどめようとされていることに深い感動を覚えました。
 

■もしガンジーが今日に生きていたら

 〈この日、博士は、ガンジーの“「魂の力」は原子爆弾よりも強い”との信念に触れ、語られています。「誰もが持つ『魂の力』を引き出し、平和を生み出していく――これこそ池田先生が世界に広げている運動です」と〉
   
 創価学会三代の会長は、信仰を人生変革への希望の力とし、民衆を勇気づけてきました。一人一人が「生きる喜び」を得て、人生はより良く変えられるという実感を持ちながら、正義と平等の価値を周囲に広げていく――。そこに、持続可能な平和への道筋が、人間絵巻のモザイクアートのように現れているのです。
   
 ガンジーが亡くなって、今年で75年がたちました。インドも世界も劇的な変化を続けています。ですが、人間の基本的な性質は変わっていません。もし、ガンジーが2023年という今日に生きていたとしたら、全ての戦争や不平等に反対し、人間の尊厳を掲げて、あらゆる腐敗に挑んだに違いありません。もちろん、権威主義的なアプローチではなく、どんな他者からも学び、人と人との間に調和をもたらしながら、です。

ケララ州ティルバナンタプラムにあるガンジー記念館の展示室
ケララ州ティルバナンタプラムにあるガンジー記念館の展示室

 ガンジーの非暴力・不服従の信念は、南アフリカやインドで、人々と苦しみを共にする中で不動のものとなりました。直接会って苦労を知り、自らの実感を元に、癒やしの手を差し伸べたのです。長きにわたる人権闘争で挫折しかけた時にも、後悔と戦い、分析を怠らず、発想や手法を変え、行動を起こし続けました。それが地球的規模での非暴力の覚醒へとつながっていったのです。平等、公平、尊厳、平和といった理念は、自らが変わる中でしか伝わらないことを、ガンジーは知悉していました。
   
 民衆一人一人の成長が積み重なることで、初めて変革の波紋は広がり、社会のあるべき変化が成し遂げられていく。そうした点においても、「私の人生そのものが、私のメッセージだ」「あなたが望ましいと思い描く変革の主体者たれ」とのガンジーの信念は、まさしく創価学会員の歩みと深く響き合っているのです。

「私の人生そのものが、私のメッセージだ」ガンジー(ニューデリーの国立ガンジー記念館)
「私の人生そのものが、私のメッセージだ」ガンジー(ニューデリーの国立ガンジー記念館)
■想像してみてください

 〈かつて博士は「創価学会は、まさに『混迷の時代』の全人類の希望なのです」と語られました〉
   
 そう強く感じたのは20年以上も前のことです。しかし、その直感は正しかったのだと断言できます。
 創価学会は今、世界平和のイニシアチブ(主導権)を遺憾なく発揮しています。
   
 想像してみてください。192もの国や地域で、老若男女、あらゆる立場の人が、価値創造の担い手となり、人々の憎しみや悲しみを生きる力へと転換し、地域や社会の責任ある一員として、地球の平和を願い、希望のビジョンを示している。「価値創造者」は、世界の平和を祈る一方で、草の根からの挑戦を続けるものです。その柱こそ、「創価」の哲学であり、「人間革命」の思想です。

■一切の違いに関係なく

 軍部政府の弾圧によって壊滅状態になった創価学会は、牧口先生と戸田先生の師弟の誓いによって、戦後の灰の中からよみがえり、再び「広宣流布」の旅を開始しました。そして、人が人を殺してきた「戦争の世紀」において、創価学会は一貫して平和の人を育ててきたのです。
 言うなれば、創価学会は、“一人の人間がどれほど偉大な力を持っているのか”を学ぶ、校舎なき学舎であり、その規模は世界全体にわたっています。

小説『新・人間革命』を学び合う
小説『新・人間革命』を学び合う

 教育者であった牧口先生の主眼は、子どもたちの未来を信じ、将来の可能性を広げ、生きる自信をつけさせることでした。
 教育は、記憶力のテストなどであってはならない。将来、子どもたちが何になりたいのか、そのために身に付けるべき力とは何かを共に考え、真実の人生を得るためのものでした。学習と生活の一体化を目指した「半日学校制度」の提唱なども、そうした価値観の表れでしょう。本来、学習と生活は、一生涯、並行して行われるものです。
   
 価値を創造する「創価」の思想を、戸田先生は「人間革命」という理念で示しました。そして人間革命の実践と連帯は、池田先生の哲学と行動によって、「人間の宗教」として世界へと広がっていったのです。
   
 人生には多くの苦難があります。しかし、困難に立ち向かう覚悟を持ち、人間革命に挑戦する中で、「今までの経験は、このためにあった」「私は、この道を生きていく」という「人生の真実」を得ることができるのです。
 この人間革命の理念は、生活する国や、生まれた境遇、あるいは、扱う言語、経済状況など、一切の違いに関係なく、私たち自身の人間性を求め、深め、広げゆく、“普遍的な呼びかけ”なのです。
 

■一度も会ったことのない“師匠”

 〈インドでも多くの学会員が生まれています〉
   
 池田先生と言葉を交わしたり、会合などで空間を共にしたりして、先生を師と定める人が多くいます。
 その一方で、先生に直接、接する機会はなくても、先生を自身の師匠と決めて、自らの人生を開いていく人が、世界には数えきれないほどいます。
 インドの若い世代の人たちもそうです。一度も会ったことのない人の存在を、常にそばで見守ってくれているように感じ、心を奮い立たせ、現実の課題に立ち向かう力としていく――。この師弟の力の淵源は何なのかと、私は時に自問自答するのです。
   
 世界中の人々に対して、池田先生の存在が、これほどまでに希望と感動をもたらすのは、先生が人間革命について語るだけでなく、古今東西の誰よりも、先生自らが人間革命を実践されてきたからとも言えるのではないでしょうか。

インド・ムンバイの友がにぎやかに
インド・ムンバイの友がにぎやかに

 今、私が持ち歩く一冊に、池田先生の『若き日の日記』(英語版)があります。
 そこには、若き先生が直面した困難が、赤裸々につづられています。苦しみながらも戦い、決して諦めない。絶対に勝利し、師に応えてみせるという一念が描かれている。私は、これこそ「人間の真実」なのだと思います。
   
 師を行動の根本に据えることが、人生を、いかに強く、豊かに、大きく転じていくことになるか。インドの創価学会員もまた、小説『新・人間革命』を学び、実践する中で、その師弟不二の精神に迫っているのでしょう。創価の三代に貫かれた、不惜身命の精神は、時代や世界を超越して、尽きることのない人類の希望となっているのです。

■世界中で研究される思想

 〈今、学会が果たすべき役割とは何でしょうか〉
   
 私が、よく受ける質問があります。
 “なぜガンジーは、武器を持つことなく、インドの独立を果たすことができたのか”との問いです。
 私は、ガンジーが“人間の共通項”を見いだし、ヒューマニズムの連帯を呼びかけたこととともに、ガンジーが世界中に友人を持っていたことが重要だと考えています。
 

民衆と共にあったガンジー(ケララ州のガンジー記念館)
民衆と共にあったガンジー(ケララ州のガンジー記念館)

 ガンジーを応援する友人は、国外にも多くいました。また、ガンジーの優れた伝記は、いずれもアメリカやイギリス、ドイツといった、欧米の著者によって書かれています。
 池田先生も海外の友人が多く、世界での評価が、むしろ本質を突いていることも多分にあると感じます。私のように、信仰や立場は異なろうとも、先生を師匠と仰ぎ、評価する人は世界に大勢います。
   
 先生の思想は、今や世界中で研究される、定評のある学問領域です。先生の存在は、一人の可能性を無限に信じ、最大に鼓舞する師匠であると同時に、「人類を結ぶ象徴」なのです。
 創価学会が民衆を本当に幸福にするために、現実の社会や政治にも関わり続けることで、「平和の擁護者」という宗教本来の使命が果たされ、宗教の価値が活気づいています。
   
 大きなものは、目の前にあると全容が見えない。大きな山は、遠くからしか視界に入れることはできないのです。池田先生という存在は、そういう目で見なければいけません。

ケララ州のガンジー記念館には、池田先生を紹介する内容も
ケララ州のガンジー記念館には、池田先生を紹介する内容も
ラダクリシュナン博士が活動拠点とするケララ州のガンジー記念館
ラダクリシュナン博士が活動拠点とするケララ州のガンジー記念館
■「だから私は呼ぶのです」

 改めて強調しますが、先生ほど、青年や女性を信頼し、力を与え、「未来の指導者」と信じて激励し続けた人を、私はガンジー以外に知りません。
 だからこそ、私は、先生のことを「生きているガンジー」と呼ぶのです。私は創価学会員ではありませんが、マハトマ(偉大なる魂)の研究を重ねてきたからこそ、ガンジーと池田先生、両方の大山を視界に入れることができるのです。
   
 ガンジーの思想は、絶えず価値を創造しながら、後世の人々の心に生き続けていく。池田先生の思想もまた、悲哀や絶望にも人生を諦めない人、分断や不平等と勇敢に戦う人、他者に対する責任ある生き方を貫く人――そうした無名の民衆の行動の中に、厳然と生き続けていくのです。
   
 先生の本を読んでください。先生の偉大さを、今以上に知ってください。それが人類に変革をもたらします。1年や2年の戦いではないのです。

池田先生がニューデリーの国立ガンジー記念館を訪問。ラダクリシュナン館長(当時)の案内で、ガンジーが最晩年を過ごした地を見学した(1992年)
池田先生がニューデリーの国立ガンジー記念館を訪問。ラダクリシュナン館長(当時)の案内で、ガンジーが最晩年を過ごした地を見学した(1992年)

 先生という存在を知って以来、私にとって、先生を学ぶことそのものが、人生の大きな喜びとなっています。それは、「人生とは何か」に迫りつつ、「人生とは、かけがえのない贈り物」であることを発見する、師弟の旅路です。
   
 私たちは、この21世紀が、戦争や暴力がなく、人類が一つになり、地球が平和と希望にあふれる世紀になると思ってきました。しかし、その最初の四半世紀は、世界が未知の不安に襲われた時代であったと歴史書には書かれざるを得ない。
   
 ですが、私たちは全てを「変毒為薬」していけるに違いありません。そして、将来の歴史書には、こう描かれるはずです。
 21世紀は、池田先生の価値創造のリーダーシップとその思想を受け継ぐ弟子たちによって、混迷の危機の時を人道の時代へと転換した世紀であった、と。
   
 誰一人も置き去りにしない、人間主義の時代の到来には、一人一人の変革が不可欠です。それが人間革命の希望のメッセージです。
   
 自他共の変革に挑み続けましょう。
 池田先生の弟子であるために。
 持続可能な平和のために。
 そして、人類の未来のために。
   

 四つのインタビュー動画を、こちらからご覧いただけます。

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