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〈許すまじ核の爪――戦後80年 信仰体験〉 核なき未来は、夢物語じゃない 2025年9月8日

  • 19歳が見た最後の被爆地
真っすぐな瞳で未来を見つめる香月さん。「どんな人にも、自分にしかできない平和があると思います」
真っすぐな瞳で未来を見つめる香月さん。「どんな人にも、自分にしかできない平和があると思います」

 【長崎県諫早市】おしゃれとディズニーが好き。カフェで抹茶ラテを飲み、友達と女子旅の計画を練りながら、瞳を輝かせる等身大の19歳。長崎大学2年の香月洸里さん=女性部員=はこの夏、自分と向き合い、長崎を見つめた。戦後80年。「核兵器をなくすことはできるのか」と。

 私が通っていた小学校では、夏休みに登校する日がありました。
 「8月9日」。映画「火垂るの墓」を見たり、被爆者の方から話を聞いたりする。
 なんだか胸がキュッとなって悲しい日。同級生は「ちょっと苦手な日」と言っていました。

 小学5年の時、父の転勤で他県へ転校。8月9日の登校がなくなりました。友達はその日が何の日か知りませんでした。
 私の胸には、長崎で「原爆の愚かさを語り継いでほしい」と言っていた被爆者の方の言葉がずっと残っていました。

長崎原爆資料館で悲劇の実相と対峙する
長崎原爆資料館で悲劇の実相と対峙する

 ――中学から再び長崎の学校に通うようになった香月さん。中高時代は何かに熱中した経験がなく、「情熱を燃やせる目標」が欲しかった。同じクラスに「高校生平和大使」に選ばれた子がいた。すごいなあと感心しながらも、どこかで戦争を「昔の話」とくくる自分もいた。

  
 2024年(令和6年)に県の交流事業で韓国へ行きました。歴史や文化に触れる中、ある人工洞窟へ案内してもらいました。そこはかつて旧日本軍が占領した場所でした。

 現地の方が洞窟を見上げて言いました。 
「(朝鮮の人は)日本軍に強制労働させられ、奴隷みたいな扱いを受けたんです」。言葉に怒りがにじんでいました。
 その事実を知らない自分が恥ずかしかった。

 被害と加害という、争いの中にある二面性。一方通行で戦争を捉えてはいけないし、今も苦しむ人がいる限り、「昔の話」と風化させてはいけないのだと気付かされました。

 ――長崎大学に進学し、香月さんは「最後の被爆地」にいる意味を、今まで以上に問うようになった。原爆の爪痕。被爆者の涙。その目で、その心で感じてきたものを、自分らしく平和につなげたかった。
 1年生の秋、核兵器廃絶長崎連絡協議会(長崎県・長崎市・長崎大学)が主催する「ナガサキ・ユース代表団」(13期生)の一員となった。
 
 
 同世代と核についての議論が始まりました。大前提、核兵器なんてあり得ない。だからこれ以上、何を話すのって感じでした。
 「じゃあ、なんで核兵器がなくならないの?」。そう聞かれて言葉に詰まりました。
 歴史や政治的背景、安全保障のジレンマ……学べば学ぶほど「平和」の文字がかすんでいきました。

 この春、ニューヨークの国連本部で核拡散防止条約(NPT)の再検討会議に向けた準備委員会を傍聴させてもらいました。
 ウクライナ情勢を巡り、ロシアと欧州連合が非難の応酬をする。息が詰まる緊迫感。世界が目の前で動いていました。

 米ロ中が互いをけん制し合い、各国の溝が埋まらないまま、準備委員会は閉幕。核兵器廃絶の険しさを突きつけられた渡米でした。

本年の春、香月さんはナガサキ・ユース代表団の一員としてニューヨークの国連本部へ。世界情勢の緊迫感を肌で感じた(本人提供)
本年の春、香月さんはナガサキ・ユース代表団の一員としてニューヨークの国連本部へ。世界情勢の緊迫感を肌で感じた(本人提供)

 ――香月さんには「平和の軸」とする一冊がある。未来部の合唱団をしていた時、父からもらった池田先生の著書『未来の翼』。そこには歴史家トインビー博士の話がつづられている。博士の自宅に飾られた20枚ほどの旧友の写真。戦地に散った学友だった。
 
  
 戦争で亡くなった友の分まで学び抜いた博士の話を通し、池田先生は学問は「友情の証し」であり、「平和への闘争の出発点」となることを教えてくださいました。

 対談(『二十一世紀への対話』)では、「いかなる戦争肯定論も断じて放棄すべきです。戦争は絶対悪であり、人間生命の尊厳への挑戦です」(池田先生)、「戦争を廃絶させることは可能なはずです」(トインビー博士)と明言されています。

 東西冷戦の中にあって、中国、ソ連、そしてアメリカの要人と対話を重ね、閉ざされた壁に風穴を開けてこられた池田先生。
 私の目指すべき姿がそこにあります。

 ――ユース代表団の活動で、核保有国の青年と語り合う時、香月さんは意見の食い違いを想定し、最初は身構えていた。
 ところが参加者は「ナガサキの真実を教えてほしい」と真剣に向き合ってくれた。そこにあるのは「国と国」ではなく「心と心」。平和を願う連帯だった。

  
 ニューヨークで代表団が主催したイベントでは「核兵器を持たずとも安全保障が成り立つ方法」を、皆で模索しました。
 専門家に指摘をもらい、視野の狭さを思い知らされました。
 巨大で難解な核の壁。だけど世界には同じ志の頼もしい仲間がいます。
 核なき未来は決して夢物語じゃない。本気の本気でそう思っています。

 目に見えて分かる平和活動じゃなくても、情熱をもって突き詰めれば、どんな形でも平和へアプローチしていけるはずです。
 私自身、将来は国際経済の分野で核兵器問題に関わっていきたいと考えています。

ナガサキ・ユース代表団がニューヨークで主催したイベント。軍需産業から平和産業への転換などを議論した(本人提供)
ナガサキ・ユース代表団がニューヨークで主催したイベント。軍需産業から平和産業への転換などを議論した(本人提供)

 ――今なお世界では戦闘の刃によって尊き命が奪われている。戦後80年の世論調査(NHK)では「現在ある核兵器は今後どうなる」の質問に対し、「完全になくせる」と答えたのは、わずか1・7%だった。

  
 核兵器が存在する限り、人類はリスクの枷につながれています。被爆国である日本でも、核武装を肯定する声があります。その現実と私たちは戦わなければなりません。

 対話は相手を説得するものではなく、共に未来をつくる営みなんだと思います。
 粘り強く対話をし、建設的な妥協点を見つけていく。そんな歩み寄りの先に、核なき明日があると信じています。

 戦後80年。被爆者の声を生で聞けるのは、私たちが最後の世代かもしれません。
 焦りを感じます。
 それ以上に深い使命と責任を感じます。
 身近な人に平和を語るのは、緊張するし勇気が必要です。
 でもそこから平和が始まる。私の言葉で、私の声で伝えていきたいと思います。

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