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〈スタートライン〉 「おさかなポストの会」代表・「ふれあい移動水族館」館長 山崎愛柚香さん 2025年1月26日

「ふれあい移動水族館」で命の大切さを伝えたい!

 今回登場いただくのは、淡水魚研究家として40年以上にわたり多摩川清流化のため奔走した父、山崎充哲さん(故人)の後を継ぎ、多摩川の生態系を外来種から守る活動を展開する、山崎愛柚香さん。取材チームも胴長を着用し山崎さんと多摩川の中へ。環境調査に同行し、活動への思いを聞きました。

 
多摩川の生態系を守る

■後を継ぐと決めた理由は?

 父に連れられ、物心ついた時には川にいたので(笑)。4年前に亡くなった父の事務所には、常に生き物がいて水槽が10個以上並んでいました。家族旅行には、いつも網と胴長を持参。旅行を楽しみながらも、必ず現地の生き物観察をし、とても学びがありました。

父・充哲さんと川で遊ぶ幼少期の山崎さん
父・充哲さんと川で遊ぶ幼少期の山崎さん

 そんな環境で私は生き物全般が大好きになり、幼稚園の頃には「魚の仕事をする」と決めていました。“生き物には、人に行動を起こさせる魅力がある”と、最初に感じたのは中学の時。学校で金魚の世話を一緒にした子たちは生涯の友人に。金魚のおかげです。高校では生物部でシジミの研究に没頭し、大学も水産系の学科を選択しました。

 父が始めた「おさかなポスト」は、家庭で飼えなくなった外来種のペットを引き取り、殺さず、次のもらい手につなぐ活動です。命を預かっているので、父が亡くなったからといって、おしまいにはできません。何より楽しいですしね。1メートル20センチほどのイグアナや、リクガメもいますよ。

イグアナの「ポーちゃん」と
イグアナの「ポーちゃん」と

■多摩川の定点調査も地道に続けられていますが、そんなに外来種がいるんですか。

 います! 近くに多くの人が住む都市型河川では、ペットが捨てられがちで……。

 例えば、多摩川には下水処理場が七つあり、冬でも排水温度が高いのですが、ある処理場の周りにだけグッピー(熱帯魚)がいるんです。繁殖力が高くて回収しても追いつきません。寿命が短く世代交代が早いので環境に適応しやすいのか、多少水温が下がっても繁殖し、模様はなぜか野生グッピーの柄に均一化しています。

 また、ペットショップで日本産淡水魚として売られていると、日本の魚だから多摩川に逃がしてもいいと考えがちです。例えば、川魚のモツゴは日本全国にいますが、各河川で遺伝的、形態的に若干違いがあって、見れば「関東の子じゃないな」と分かります。

 今日、明日で問題は出ませんが、むやみに交ざると遺伝子が均一化されてしまい、外国から持ち込まれたウイルスや細菌が、その川で感染拡大した時、絶滅してしまうリスクがあるんです。

 これらはほんの一例で、関西のアユを放流したために、おいしい恩恵を受けていた江戸前アユが食べられなくなったとか、いろんなことが起きています。崩れた生態系は簡単には元に戻らないんですよね。

 
子どもと自然の接点を

■今は、幼稚園などでの「ふれあい移動水族館」の活動がメインとか。

 私たちは預かったペット以外に、環境調査の時に連れ帰った生き物も畜養しています。移動水族館は25年ほど前、子どもたちが生き物を見たがっていると聞いた父が、畜養している生き物を持って幼稚園を訪れたのが始まりです。

 モットーは“目と手と心で感じる水族館”。触れることで、より命の大切さを感じてもらいたい。魚と一緒にプールにも入れますよ。アトピーのお子さんが多いので、海水魚ではなく淡水魚が中心。魚やカメは毛がないため、アレルギーやぜんそくの心配もなく、喜ばれています。

 商業施設など室内での開催も可能です。私が父からもらった、たくさんの楽しい体験を伝えられたらうれしいですね。

ふれあい移動水族館での「おさかなタッチ」
ふれあい移動水族館での「おさかなタッチ」
ふれあい移動水族館での「リクガメ・ピーちゃん もぐもぐ体験」
ふれあい移動水族館での「リクガメ・ピーちゃん もぐもぐ体験」

■子どもたちが参加する、多摩川の自然観察会も好評です。

 釣り用の餌として輸入された外来種のカワリヌマエビが、多摩川に捨てられ大繁殖している様子など、投網を打って実際に見るインパクトは大きいと思います。ただ、自然観察だけでなく、子ども同士、親子、知らない子の親などとコミュニケーションが生まれることも目的の一つです。自然の中では、大人は自分の子だけでなく、そこにいる子どもたちも見ることが、昔は当たり前でした。

 私は小さい頃から川にいますが、今でも怖い場所と認識しています。よほど危険なこと以外は経験させるという父の方針のおかげで、どういう行動がけがをし、溺れるか、分かるようになりました。今は大人が子どもの安全管理を徹底したり、川遊びの経験がなかったりして、毎年のように割と成長した人が水の事故に遭っています。こういうイベントで声をかけ合い、みんなで見ていくことを経験してほしいんです。


■メッセージと今後の展望を。

 人間が環境を使いつぶすのではなく、どうすれば持続可能な生活をしながら生き物と共存できるか。当たり前ですが、人間も生態系の中の一つです。遠い地域の話でも、巡り巡って影響を受けます。昨日あなたが分別せず、洗わずに捨てたプラスチック容器は影響しない? ゲリラ豪雨でお気に入りのスニーカーが汚れたのも、人間のせいじゃない? そんなふうに身近なことから思いをはせてほしいです。

 この活動は体力もいるし、精神的にキツイなと感じる時もありますが“辞めないことが一番”と思っています。移動水族館を軸に、子どもたちに命の大切さを伝え、小さいうちから“人間も地球上の生き物の一部”と感じてもらえるよう、活動を続けていきます。

多摩川のスゴモロコ、オイカワ、ウグイ
多摩川のスゴモロコ、オイカワ、ウグイ

 やまさき・あゆか 「ふれあい移動水族館」を全国各地で行う。学芸員。自称「多摩川最後の川漁師」として江戸前アユなどの納品も行う。

●インタビューを読んだ感想をぜひお寄せください。

メール
wakamono@seikyo-np.jp

ファクス
03-3353-0087


【記事】加藤瑞子
【山崎さん親子の写真とふれあい移動水族館の写真】山崎さん提供
【その他の写真】中野香峯子

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