• ルビ
  • 音声読み上げ
  • シェア
  • メール
  • CLOSE

〈信仰体験〉 希望女王 世界へ 未来へ 2024年11月18日

  • 世界の四大コレクション(パリ・ロンドン・ミラノ・ニューヨーク)のランウェイに立つ
笑顔はじける桃果愛さん
笑顔はじける桃果愛さん

  
 【東京都中野区】会場の隅々まで静かな幸福感に包まれた。この9月、東京コレクション(東コレ)で、プラスサイズモデル・桃果愛さん(38)=副白ゆり長=のランウェイを見た。一歩一歩に自信を植え込むような歩き方。震えるほど、美しかった。
  

9月の東京コレクションで歩く桃果さん(ブランド:52tenbo フォトグラファー:近藤浩紀)
9月の東京コレクションで歩く桃果さん(ブランド:52tenbo フォトグラファー:近藤浩紀)

  
 印象的だったのは、彼女のまなざしだ。
 優しさの中にも凜とした強さをにじませ、すべての人生を肯定するような包容力に満ちている。まるで「何があっても自分を愛すること、自分を信じること」という矜持を、己の歩幅で響き渡らせるかのよう。
 ランウェイは、彼女の生き方をそのまま投影した舞台といっていい。
  
 大阪生まれの熊本育ち。母子家庭だった。
 母・松村由美子さん(66)=地区副女性部長=が働きながら、「春の光を注ぐように」して桃果さんを育てた。小学4年で鼓笛隊に入った少女は、きらきら光る未来だけを思い描いて大きくなる。
  

  
 ところが看護大学生の時、実習のつらさから、うつ病を発症した。薬の副作用で30キロ太った。
 少しでも引き締まって見える黒の服を選んでも、背中でコソコソ話が聞こえてくる。
 「あの人、太りすぎじゃない?」
 視線と笑い声が怖くなった。
 1年間の休学は「真っ暗なトンネルの中にいる感じ。電気も消して、カーテンも閉めて、テレビもつけず、部屋に引きこもった」。
 自分に入る刺激は食べ物しかなかった。冷蔵庫をあさった。食べることで落ち着いた。  

  
 抜け出そうと、もがいて手にしたのが、かつて池田先生から頂いた書籍だ。
 表紙をめくると「希望女王」の朱印が押してあった。傷だらけの青春の中で師と語り合いつつ、「私には多くの人に希望を届ける使命が、きっとある」と信じるようになった。その素直な心を育んだのは「母です」。
 いつも晩ごはんを向かい合って食べた。いろんな話をした。どんな小さな願いでも、かなうと由美子さんが「えらいね」とたたえてくれた。「御本尊様のおかげだね、感謝しよう」
 その積み重ねが山となり、「“祈って変な方向に行くはずがない”っていう生命が育ったんだと思う」。
 桃果さんは絶望の向こうにある途方もない希望だけを見つめて、祈りを貫く。
  

  
「自分を愛すること、自分を信じること」

  
 ある日、クローゼットを開けると、黒い服でいっぱいだった。本当はカラフルな服が好きなのに。
 「自分自身を大事にしてなかったというか、自分の好みを自分で消してたというか、逆にショックを受けた」
 正直な気持ちにふたをして生きる方がつらい。桃果さんは大好きなピンクの洋服を着て、自分らしさを解放する。そして23歳、強さのみならず、運も味方につけていく。
 東京で看護師になって3カ月した頃、カタログ通販の見出しが目に留まった。
 「ぽっちゃりさんもモデル体験しませんか」
 桃果さんは軽いノリで応募すると、採用された。
 「プラスサイズモデル」と呼ばれ、2014年(平成26年)には東京ガールズコレクションで、表現の扉を開いてみせた。
  

  
 じわじわ注目され始めると、たくさんの声が届いてくる。
 「人に見られるのが怖い」
 「体形が理由でファッションを楽しめない」
 どれも、自分が味わったことのあるつらさ。桃果さんは、自分にしかできない道を見つけた。
 見た目にとらわれず人生を楽しんでいい、というメッセージを発信したくて、17年にプラスサイズなど多様なモデルが所属する「GLAPOCHA」を起業。最初は仕事がなく、100円の菓子パンを買うにもちゅうちょするほどだったが、悲壮感はなかった。
 「不安があっても、それを絶対プラスにしたいと思っちゃう性格なので」
 心に焼き付けた「希望女王」の4字。
 「絶望の底で声も上げられないような日でも、池田先生は私のことをずっと信じ続けてくれた」
 奥底から師匠の声がこだまする。
 “あなたはきっと、世界を照らす存在になるんだよ”
 心のかせを翼に変えて、弟子は世界へ羽ばたく。
  

  
 昨年3月、パリ・ファッションウィーク(通称パリコレ)の舞台に桃果さんは立った。
 半年後にはミラノ・ファッションウィークの期間中に、多様性の時代を表現するショーをプロデュースした。肌の色も、文化も、体形も、さまざまなモデルたち。桃果さんは「みんな美しいから、自信をもって歩いて」と心をほぐし、ランウェイに送り出し、自らも歩いた。
 かつて、人の視線を恐れ、伏し目がちで道の端を歩いた彼女は、無数のカメラが待ち受けるファッションショーの真ん中を行く。
 「世界に立つ時にいつも思い浮かべるのは、池田先生です」
 「私を撮ってくれるカメラマンのレンズを通して、広宣流布がかないますようにってイメージして歩いてる」
 活躍の幅が果てしなく広がった。モード誌のページを飾り、大手コスメ広告にも起用された。
 「法華経を信ずる人は冬のごとし。冬は必ず春となる」(新1696・全1253)
 彼女の内面は、御本尊への確信と情熱で満ちている。
  

昨年3月、パリ・ファッションウィークのランウェイに登場した桃果さん。初めての景色は「私、世界に出たんだ…」
昨年3月、パリ・ファッションウィークのランウェイに登場した桃果さん。初めての景色は「私、世界に出たんだ…」

  
 東コレでも、格別の存在感を放つ。
 会場の片隅に由美子さんがいた。母の目に、娘の活躍はどう映っているのだろう。暗い部屋でうずくまっていた桃果さんに、「あなたが健康でいられるなら、どんな将来でもいい」といつも優しかった。そして必ず伝えた。
 「愛してるよ」
 1分ほどのウオーキングは華麗で、彼女の羽ばたきのようにも感じた。
 誰かの幸せを祈りたくなるような高揚感を残してショーが終わると、桃果さんはモデルの顔を解いた。愛嬌たっぷりの笑顔で、母の元に向かっていた。
  
 世界の四大コレクションに出られるのは、あまたのモデルの中でもほんのひと握り。東コレの余韻が続くなか、桃果さんを再び取材しようとしたが、翌日からロンドン、パリ、ニューヨークに飛んでいた。
 光が差し込む未来を胸に、希望女王は戦い続けている。(天)
  

桜の下で弁当を広げる桃果さん㊨と母の由美子さん
桜の下で弁当を広げる桃果さん㊨と母の由美子さん

動画

創価大学駅伝部特設ページ

創価大学駅伝部特設ページ

SDGs✕SEIKYO

SDGs✕SEIKYO

連載まとめ

連載まとめ

Seikyo Gift

Seikyo Gift

聖教ブックストア

聖教ブックストア

デジタル特集

DIGITAL FEATURE ARTICLES デジタル特集

YOUTH

劇画

劇画
  • HUMAN REVOLUTION 人間革命検索
  • CLIP クリップ
  • VOICE SERVICE 音声
  • HOW TO USE 聖教電子版の使い方
PAGE TOP