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〈Seikyo Gift〉 日本総合研究所会長 寺島実郎氏の講演(要旨)《専門部 文化セミナーから》  2025年12月27日

生命尊厳の新たな秩序を築く時

 専門部主催の文化セミナーが10月15日、東京・新宿区の創価文化センターで開催され、一般財団法人日本総合研究所の会長で多摩大学学長の寺島実郎氏が「日本再生の構想を語る」とのテーマで講演した。ここではその要旨を紹介する。(11月2日付)

責任ある主権者として皆で民主主義の錬磨を

 私は長年、聖教新聞や月刊誌「潮」への寄稿を通し、創価学会員をはじめとする読者の皆さんに、折に触れて私の考えを発信してきました。また、SGI(創価学会インタナショナル)の代表の皆さんが、核兵器禁止条約の締約国会議に第1回から市民社会の一員として参加し、現場で感じたことを丁寧に報告してくださっています。その一つ一つが、私自身に多くの示唆を与えてくれます。
    
 本日は、「日本再生の構想を語る」というテーマで講演させていただきます。その出発点として「時代認識」から始めましょう。私たちはどのような時代を生きているのか、事実と数字に基づいて、現実を直視したいと思います。
    
 まずはマクロ経済の視点から、「世界のGDP(国内総生産)の総計に占める日本の比重」を見ましょう。
    
 江戸時代終盤の1820年ごろから終戦5年の1950年まで100年以上、日本のGDPは全世界の約3%で、ほぼ変わりませんでした。
    
 ところが戦後、日本は奇跡ともいえる復興を遂げます。80年代のバブル景気を経て、94年にはGDPのシェアが17・8%まで跳ね上がります。当時は、日本以外のアジア諸国は全て合わせても5%程度で、わが国は圧倒的な“アジアを代表する経済産業国家”でした。敗戦の屈辱と貧困から経済で復活した栄光の物語は、日本人共通の誇りとなりました。
    

東京・創価文化センターで開催された専門部主催の文化セミナー。日本総合研究所会長の寺島実郎氏が、日本再生の構想を語った
東京・創価文化センターで開催された専門部主催の文化セミナー。日本総合研究所会長の寺島実郎氏が、日本再生の構想を語った
しぼむ日本シェア

 しかし、この94年をピークとして、GDPのシェアは下り坂に転じます。2010年には9%まで下がり、ついに中国に抜かれます。この時、「統計の間違いだ」などと言って、多くの日本人が現実を受け止めることができませんでした。
    
 戦後の経済復興という栄光に陰りが見え、日本人のメンタルが静かに揺らぎ出した時、追い打ちをかけるように、2011年の東日本大震災と福島原発事故が起こったのです。
    
 多くの人が衝撃を受け、“戦後のエネルギー政策は正しかったのか”などと自問自答したと思います。
    
 そうした中、12年から始まったのが、アベノミクスによる異次元金融緩和と財政出動です。デフレ脱却を目指し、金融と財政で“水ぶくれ”させて、景気を刺激する政策です。私が言いたいのは、政策の良し悪しという次元の話ではありません。ただこの時期に、戦後の誇りが崩れ、心が空洞化する中、新たな産業や技術を磨かずに、日本全体が吸い寄せられるように“易きに流れた”ということを明示しておきたいのです。
    
 円安は進み、12年に1ドル約80円だった日本円は今、150円前後の水準に達しています。
    
 日本のGDPのシェアも縮小し続け、昨年には3・6%となり、この30年で約5分の1にまでしぼんでしまいました。
    
 ちなみに昨年、「日本を除くアジア」のGDPのシェアが24%だったことからも、日本が「アジアの中心」でなくなったことは明らかです。また、国民一人一人の豊かさの指標の一つとされる「一人当たりGDP」でも、日本は昨年、世界38位。アジアでも7位となり、実質的にはG7(主要7カ国)はおろか、G20にも入らないレベルに埋没してしまったのです。
    
 次にセミマクロの視点として、「産業動向」に注目してみましょう。2000年からの24年間で、日本の粗鋼生産量は21・1%減、セメント生産は44・3%減、化学工業の基本指標であるエチレン生産は30・8%減、国内自動車生産は22・8%減と、ざっと見て約3割圧縮しました。これは日本の産業が活力を失いつつあることを示しているといえます。
    
 さらにミクロ経済の視点、すなわち「国民生活」ではどうでしょうか。この24年間で、働く世帯の可処分所得(自由に使える手取り収入)は10・3%増えたものの、物価がこれを上回り11・5%上昇しました。その結果、購買力は低下し、衣料品、交際費、教育・娯楽、住宅費などの項目で消費が落ち、消費支出は24年前に比べて5・4%減少しました。
    
 一方で、食費や光熱費、通信費といった生活に必須な支出は増加しています。これは「円安による輸入インフレ」の影響で、輸入依存度の高い食料やエネルギーの価格が高騰していることなどが原因です。こうした事実は、国際社会における経済力や自国通貨の信認度の低下が、私たちの生活に直撃することを如実に物語っています。
    

100年前と酷似

 こうした現状を直視した上で、歴史に目を向けましょう。今の世界情勢は、100年前の1920年代と不気味なほど酷似しているのです。
    
 20年代のアメリカは今と同じ共和党政権が10年続き、内向き志向が強かった。その時に流行した言葉が、「アメリカファースト」でした。この言葉はトランプ大統領が言い出したものではなかったのです。
    
 さらに17年にはロシア革命が起こり、22年にソビエト連邦が発足。アメリカは世界に広がる共産主義と戦うことになります。どう戦ったかというと、ヘンリー・フォードが考案した大量生産・大量消費を基軸にした生産システムで、アメリカ流の「豊かな資本主義」をつくり、対抗したのです。その時、広がっていたキーワードが「貯蓄から投資へ」でした。
    
 ウォールストリートの金融資本主義が肥大化し、世界を巻き込みながら過剰生産・過剰投資が続いた結果、29年、ニューヨーク株式市場の暴落をきっかけに大恐慌が発生。その後、30年にアメリカが関税を引き上げたことをきっかけに、多くの国が保護貿易に転換。各国の緊張が高まり、第2次世界大戦への遠因となりました。
    
 あれから100年。当時と同様の潮流が世界で巻き起こる中、日本は昔と同じ轍を踏んではなりません。私たちは安易なマネーゲームから脱却し、真に国民を幸福にする経済・産業の在り方を模索すべきです。
    
 そこで日本再生のために、避けては通れない三つの柱を提言します。
    
 第一に、日米関係の再設計です。これはトランプ大統領の側から提起されたことでもあります。例えば同じアメリカの同盟国であるイギリスは、TPP(環太平洋連携協定)に参加してアジアの自由貿易の枠組みに入るなど、独自の世界ネットワークを展開しています。日本もまた、日米同盟を深めるためにも、独立国としてしっかりと国益を訴え、日米地位協定や尖閣諸島の問題についてアメリカと議論すべきです。同時に、アジア地域の安定と繁栄を基軸とした外交を展開しなければ、地政学的な意味からも、日本の平和と発展は望めないでしょう。
    
 第二に、経済政策の正常化とレジリエンス(耐久力)強化の産業創生です。金融緩和に依存する構造から脱却し、実体経済の競争力と財政規律を回復させる道筋を明確にすることです。そして「ものづくり」を中心とした「豊かさのための産業開発」を柔軟に見直し、「医療・防災」や「食と農」など、レジリエンスを高める「国民の安全と安定のための産業創生」を目指すべきです。
    

世界、歴史、宗教などを鋭く洞察した寺島実郎氏の著作
世界、歴史、宗教などを鋭く洞察した寺島実郎氏の著作
国民会議の創設

 第三に、民主主義の錬磨と「国民会議」の発足です。今、国内政治は激動の時代。それは同時に、与えられた戦後民主主義から脱皮し、主体性をもって、民主主義を根本から鍛え直す好機でもあります。
    
 二大政党制から多党制へと移り変わる中、“凝固剤”となり得る中道政党の役割は否が応でも大きくなります。中でも、平和主義とクリーンな政治という結党以来の伝統に回帰し、26年にわたる自民党との連立に終止符を打った公明党の存在は極めて重要です。公明党の動き次第で、日本に新しい政治の季節が訪れるといっても過言ではありません。
    
 同時に、国の行く末を政治家や政党に委ねるだけでなく、国民自らが主権者として政治に参画するための「国民会議」の創設を提唱したい。民主主義を錬磨するためにも、医師、弁護士、公認会計士などの専門職の人たちやジャーナリスト、学者、宗教者など、多様な人々が政策を議論するプラットフォームが必要になってくると思うのです。
    
 民主主義を根付かせるために、政治の上部構造である代議士(議員)と、民主主義の基盤である市民の代表としての「国民会議」が錬磨し合うことが重要だと思います。
    

「日本の柱」の覚悟で

 戦後、日本は“宗教なき時代”を過ごしてきました。日本が経済的に埋没した時、心の基軸を持たず、経済主義を追求してきた多くの日本人は、大きな喪失感を味わいました。
    
 私は日本の再生を熟考する中で「人間と宗教」というテーマに関心を持ちました。日本人の心の基軸を探究する中で注目した一人に、皆さんご存じの日蓮がいました。
    
 日蓮は鎌倉時代、度重なる幕府の弾圧という試練にも屈することなく、「我日本の柱とならん」と語り、人間の平等と生命の尊厳を説いた法華経を根本に、国や政治、社会の在り方について論じ続けました。その精神は、創価学会の皆さんに受け継がれていると思います。
    
 大国が迷走し、世界で戦火が絶えない現在、日本はどこに向かうべきなのか――。私たちは今一度、人間の幸福や生命の尊厳性を基軸にした、新しい秩序の構築に取り組むべき時を迎えています。
    
 ここにいる皆さん一人一人が、責任ある主権者として、「日本の柱」となる覚悟を持って進む時、真の「日本再生」の未来が開けると確信しています。
    

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