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良い組織は良い個人がつくる。それは幻想です――組織開発専門家 勅使川原真衣さん 2025年12月29日

  • 〈これからのteam論〉 
人を能力で序列化しない。「持ち味」を生かし合う組織づくりを。
「能力主義」「働くこと」とは――社会の当たり前を問い直す

 第11回「これからのteam論」にご登場いただくのは、組織開発専門家の勅使川原真衣さんです。これまで企業や学校などの現場に寄り添い、人と人との関係性をより良くするために伴走してきました。『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)の発刊以降、「能力主義」や「働くこと」など、社会で当たり前に語られてきた概念を問い直し、大きな共感を呼んでいます。互いを認め合うチームづくりについて聞きました。

〈インタビューまとめ〉

・人は置かれた環境で発揮できる力が変わる。“一元的な正しさ”で人を決めつけない。
  
・組織の改善は、足りないものを探すのではなく、すでに「在る、有る」ものを再認識することから。
  
・人には本来、主体性が備わっている。「やる気のない人は、やる気をそがれた人」

勅使川原さんの主な著書
勅使川原さんの主な著書

 ――職場や学校などで「競争」を強いられ、選ばれる側、選ばれない側との選別がつけられる中で、多くの人が傷ついています。
  
 「リーダーシップ力」「コミュニケーション能力」「生きる力」――現在、社会では本当にたくさんの「能力」が求められています。「新しい時代の新しい能力」などといった言葉もあるくらいです。ですが、「◯◯力」などといった「能力」はどれも抽象的で、人によって捉え方が異なりますよね。誰も見たことがありません。それなのに、この正体不明の「能力」で人を測り、序列をつける社会になっている。これが現代の能力主義です。
  
 近代化以前の日本では、身分制度で人を序列していた。しかし時代が進む中で、それは「差別」と捉えられるようになった。では何をもって給与や待遇の差をつけるか。その代替案として出てきたのが「能力」による選別でした。
  
 こうして生まれた能力主義は、本来は揺れ動いているはずの個人の状態を、断定し、他者と比較して、序列化する仕組みです。
  
 しかし、人は置かれた環境によって発揮できる力が変わりますよね。“あの人がいると会議でうまく話せない”“あの人といれば自分らしく取り組める”――そんなことは往々にしてあるものです。そう考えると、環境や状況で変わるはずの状態を、個人の固定的な「能力」だとして評価すること自体、そもそも無理があると思うのです。社会や企業が“一元的な正しさ”で人を決めつけ、不明確な「能力」の獲得を求め、競争させる。そして「選ばれる人」と「選ばれない人」に選別する。その中で、多くの人々が生きづらさを抱えているのです。

 ――能力主義に代わる視点として、「持ち味」や「機能」、そして「組み合わせ」という言葉を使われています。
  
 前提として、職場や学校などの組織では、一人の人間が全てを動かしているわけではありませんよね。あらゆる組織は分業で成り立っています。だから、「能力」ではなく、「持ち味」や「機能」という観点で人を見ていくことを提唱しています。二つの違いは、良し悪しがついているか、いないかです。
  
 車に例えると分かりやすいです。「ブレーキの機能っていらないよね」とか「一台の車でハンドルは何個あってもいい」などとはならないわけです。
  
 組織における個人も同じです。存在自体に良し悪しがあるのではなく、役割の違いがあるだけです。それぞれを「いいね」と受け入れ、「持ち味」の組み合わせの妙によって、どうにか活躍してもらう――これが脱・能力主義の土台となるのです。
  
 「良い組織」は「良い個人」によってつくられるというのは幻想にすぎません。例えば、レゴブロックでも、個々のブロックに対して、「良い色」「良い形」「良い大きさ」などとは決められないように、組織に良し悪しはあっても、個人にはないのです。ゆえに「個人の能力」から「他者との関係性」に力点を変えていくことが、組織の改善につながっていくのです。

 ――そのためには、まず一人一人の存在を認めることが大切だと述べています。
  
 これまでたくさんの会社などの組織環境を見てきました。その中で、行き詰まる組織の多くは、「何かが『足りない』から問題が起きるんだ」と思い込んでいました。しかしそうではない。今以上に何かを求め増やすのではなく、もうすでに「在る、有る」ものの価値を再認識することのほうが、実は現実的なのです。
  
 そのために大事なことは、まず「ありがとう」から始めることです。仕事は、自分一人では成り立ちません。みんなで仕事をする中で、自分ができないことをしてもらっている。だから、「ありがとう」しかないのです。要望があったとしても、「いつもありがとね。助かってるよ。こないだの件なんだけど……」と、対話していくことです。
  
 社会学で「他者の合理性」との言葉があるように、人間の行動には必ず背景があります。そして本来、人間には主体性が備わっています。その観点からすれば「やる気のない人は、やる気をそがれた人」であり、「怒っている人は、困っている人」です。「この人の前だと損するな」とか、「この前、無視したじゃないか」とか、そんな思いがあるから力を出し惜しみするのです。地道ではありますが、存在を認め合い、全員に役割があることを認識するだけで、働きやすさが変わります。「もう私なんか」「どうせあいつが」との排除の論理もなくなり、人も辞めなくなります。能力主義の問い直しとは、つまり「人間観の見直し」なのです。

 ――最後に、能力主義社会で悩んでいる人へのメッセージをお願いします。
  
 今、多くの人が「あなたはこれができない」「あれができない」「あの人と比べるとこうだよね」と言われる日々を生きています。そう言われて悩んでいるとしたら、「そりゃ悩んで当然だよな」くらいでいいのです。みんな悩まされています。もっと言えば、悩みや不安が一番“売れる”ので、その弱みに付け込んだ”コンプレックス産業”や“能力産業”が横行しています。「壮大なビジネスに巻き込まれているな」くらいに達観できればいいですよね。
  
 また能力主義社会においては、「ブレないこと」が良いこととされているので、「すみません、意見を変えます」と考えを改めることを認めません。だから、何があってもかたくなに謝らない「謝ったら死ぬ病」(笑)にかかっている人が多い。
  
 組織は、「ありがとう」から始まり、道中は「ごめんね」でいいのです。リーダーでも、違うと思ったら素直に謝罪と訂正していくことです。5歳児の会話くらい(笑)、分かりやすいコミュニケーションでいいと思います。
  
 他者よりも「抜きんでる」のではなく、他者と「ともに在る」こと――これが仕事や家事を含めた「労働」です。そして、「一人」ではなく「みんなで」見たことのない景色を見ることが、本当の意味での「労働」であり、「生きる」ということだと思うのです。

〈memo〉

 勅使川原さんが「能力主義」を問い直すきっかけ。それは競争社会を走り続けていた2020年に発症した乳がんだった。一人の母親として、競争ばかりの社会を子どもたちに残すのは、死んでも死にきれない。「子どもの心配は社会学で解決しよう」――遺書のつもりで紡いだ言葉が初作となった。「幸せに生きるのに『能力』なんていらない」。選び、選ばれる。そんな消耗しがちな社会で、「ともに在る」ことの尊さを改めて考えさせられる取材だった。

●プロフィル

 てしがわら・まい 1982年生まれ。東京大学大学院教育学研究科修了。外資コンサルティングファームでの勤務を経て独立。2017年に組織開発を専門とする、おのみず株式会社を設立。企業をはじめ病院、学校などの組織開発を支援する。二児の母。2020年から乳がん闘病中。著書に『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)、『働くということ「能力主義」を超えて』(集英社新書)、『人生の「成功」について誰も語ってこなかったこと』(KADOKAWA)など多数。

来年1月に発行予定の『組織の違和感 結局、リーダーは何を変えればいいのか?』
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来年2月に発刊予定の『「頭がいい」とは何か』
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