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デジタル時代に問われる対話の力とは?――インドネシア大学 デフィ・ラフマワティ准教授に聞く 2026年1月9日

〈識者が語る 未来を開く池田思想〉

 昨年10月から11月にかけて、インドネシアの国立モスクやインドネシア大学などで、「文明の対話」展が開催されました。アブドゥルラフマン・ワヒド元大統領と池田大作先生が築いてきた対話の精神を受け継ぐもので、信仰や世代を超えて大きな反響を呼んでいます。
 世界最大のイスラム人口を擁する同国において、なぜ今、池田先生の思想が注目されているのでしょうか。インドネシア大学でコミュニケーション学を教え、テレビやメディアのコメンテーターとしても活躍するデフィ・ラフマワティ准教授(職業教育プログラム学部長)に話を聞きました。
 (聞き手=小野顕一、石塚哲也)

■人間が機械になりつつある?

 ――DX(デジタルトランスフォーメーション=デジタル技術の活用)とリテラシー(情報を読み解く力)を主な研究テーマにされています。
   
 私が今、関心を抱いているのは、テクノロジーがコミュニケーションや社会、文化をどう形づくっているのか、そして、若い世代が知識や情報をいかに人間的成長につなげていくのかという点です。
 
 DXは効率化や利便性、経済成長と結びついて語られがちですが、私はその過程で、人間のコミュニケーションや価値観がどう変容しているのかに着目してきました。特に情報社会への急激な適応が、若年層の思考や感受性に与える影響を研究しています。
 
 現代の若者は膨大な情報に囲まれていますが、それが人間性や倫理観の形成に十分寄与しているとは限りません。むしろ情報過多によって、深く考える力や他者への想像力を弱めている側面も見受けられます。
 さらに、AIやロボットが急速に進化し、人間のように振る舞う一方で、人間の側が機械のようになりつつある。この状況に、私は強い危機感を覚えています。
 
 常にオンラインの環境で、若者たちは絶え間ない比較と評価にさらされ、心身ともに疲弊しています。その結果、自身と向き合う時間や、他者と関係を築く力が損なわれつつあるのです。
 
 DXは社会に大きな可能性をもたらしました。問題は、その速度に価値観の更新が追いついていない点です。
 私は、テクノロジーと人間の間に生じているこの緊張関係を明らかにしたいと考えています。

■“社会毒”――個人の道徳の問題ではない

 ――インドネシア社会において、DXが及ぼす影響をどのように感じていますか。
   
 インドネシアは、民族・宗教・言語・文化の全てにおいて多様な国です。「多様性の中の統一」という理念のもと、異なる価値観を柔軟に受け入れ、調和させてきました。
 ところが、DXの急速な進展が、その調和を揺るがしています。
 対面では礼儀正しく振る舞う人が、SNS上では怒りや攻撃性を露わにする。人と人をつなぐはずの技術が、逆に分断を加速させているのです。
 
 感染症のパンデミック(世界的な大流行)以降、デジタル化は一気に進みました。物理的な距離は縮まったように見えますが、その一方で、地域社会の知恵や人間らしさが失われつつある。このギャップこそが、インドネシア社会の深刻な課題だと感じています。これは決して、私たちだけの問題ではないでしょう。
 
 私は以前から、ネット依存やフェイクニュースが、集中力や社会的信頼をいかに蝕むかを研究してきました。これは“社会毒”とも呼ぶべきもので、すぐには症状が現れませんが、気付いた時には手遅れとなり非常に厄介です。
 
 重要なのは、これが個人の道徳の問題ではなく、社会構造が生み出す現象だという点です。
 「人とどう向き合うのか」「言葉に責任を持つとは何か」を、教育と対話を通じて学び直す必要があるのです。

■「人間革命」とは“心の再起動”

 ――そうした状況の中で、池田先生の思想はどのような意味を持つとお考えですか。
   
 池田先生の「対話主義」と「人間革命」の理念は、現代社会が直面している課題の核心に、真正面から応える思想であると感じています。
 
 対話とは、単なる言葉の往復ではなく、相手を理解しようとする姿勢そのものです。そして、その姿勢を支える人間の在り方に迫るのが、人間革命だと理解しています。
 
 人間革命とは、外側を変える以前に、人間の内にある良心や尊厳、他者への共感を呼び覚ます内面の変革です。
 
 人間本来の在り方を取り戻し、人生の価値と可能性を最大限に開く土台を立て直す。その意味で、私はこれを“心の再起動”と捉えています。

 現代社会では、問題が起きるたびに新しいシステムで解決しようとします。しかし、人間の孤独や不安はテクノロジーだけでは癒やせません。
 本当に必要なのは、人が人に真剣に向き合う時間です。
 
 池田先生が一貫して伝えてきた「あなたはかけがえのない存在だ」というメッセージは、自分の価値を見失いがちな今の若者にこそ、切実に必要とされています。
 
 ――なぜ池田先生の思想に関心を持ったのでしょうか。
   
 教育とコミュニケーションを研究する中で、池田先生の思想に触れました。
 特に心に残ったのが、「世界市民」を育む「人間教育」という考え方です。
 
 池田先生は教育を、一方的な知識の伝達ではなく、人間の可能性を呼び覚ます営みと捉えていました。
 
 教育とは「心の火をともす」ことであり、その火が自分を信じる力となり、社会に貢献する意志を生む。この視点に私は強く共鳴しました。「教育者とは何か」を深く理解できたように感じました。
 
 さらに印象的だったのは、これらの思想がデジタル時代の到来以前に語られていたことです。
 人類が“つながり過ぎている”現代だからこそ、その真価がより鮮明になっていると感じています。
   

■「ダイサク・イケダ」の名を見つけた

 ――池田先生を知る上で、ワヒド元大統領の影響も大きかったそうですね。
   
 私は長年、ワヒド元大統領を心から尊敬してきました。
 宗教指導者であり、知識人であり、政治家でもありながら、どの枠にも収まりきらない存在でした。
 元大統領の歩みを知れば知るほど、「なぜ、あれほど恐れずに行動できたのか」と不思議でなりません。
 
 ワヒド元大統領は常に少数者の側に立ちました。
 中国系住民への差別撤廃を進めるなど、政治的な困難を伴う側面もありました。
 それでも一歩も引かない姿から、私は「真の勇気とは孤独を引き受ける覚悟なのだ」と学びました。
 元大統領の生き方は、インドネシア社会の道徳的規範の一つとなっているのです。
 
 ワヒド元大統領が影響を受けた人物を調べる中で、「ダイサク・イケダ」という名前を見つけた時、私は深く納得しました。
 宗教も文化も異なる二人ですが、まるで同じ方向を見つめる“双子”のように感じたのです。どちらも、寛容の精神を言葉だけでなく行動で示した人物でした。

対談集『平和の哲学 寛容の智慧』の日本語版㊨とインドネシア語版
対談集『平和の哲学 寛容の智慧』の日本語版㊨とインドネシア語版

 コミュニケーション学の観点から見ても、二人には本質的な共通点があります。
 
 コミュニケーションは大きく「言語コミュニケーション」と「非言語コミュニケーション」に分けられます。
 古典的研究から近年の研究に至るまで、共通して指摘されているのは、人の心を動かすのは、言葉そのもの以上に非言語的要素であるという点です。
 
 非言語とは、表情や声のトーン、沈黙、まなざし――つまり、その人の「心の状態」が自然に表れる部分です。
 池田先生やワヒド元大統領が体現してきた対話は、まさにこの言葉を超えた領域に支えられていました。
 相手をどう見るか、どう聴くか、どう向き合うか。その姿勢自体が雄弁なメッセージだったのです。
 
 どれほど美しい言葉を用いても、態度や行動が伴わなければ、人は納得しません。二人の言葉が強い説得力を持つのは、言葉と行動が一致していたからだと思います。
 
 現代は、誰もが“仮面をかぶって語る”ことができる時代です。
 性別や宗教、立場を自由に偽り、責任を負わずに発言できる。その結果、言葉から「魂」が失われつつあります。
 本来、対話とは、自分の存在を差し出す行為であるはずです。
 
 池田先生とワヒド元大統領の対談集『平和の哲学 寛容の智慧』には、自分の言葉に責任を持つ姿勢が貫かれています。そこには、緊張感と同時に深い信頼がありました。
 言葉は「自由」であるべきですが、「無責任」であってはならない。その原則を、私たちはこの対談集から学ぶことができます。

■名誉博士号授与の理由

 ――2009年にインドネシア大学が池田先生に名誉博士号を授与した際、デフィ准教授も関わったそうですね。
   
 私は大学の広報・国際連携委員会の一員として、授与に向けた準備に携わりました。
 
 インドネシア大学は国内で最も歴史ある国立大学で、名誉博士号の審査は極めて厳格です。
 候補者の選定から最終決定まで、半年以上にわたり慎重な議論が続きました。
 
 審査には哲学、宗教、社会学、教育学など、さまざまな分野の教授が参加しました。議論の中心となったのは「その人物の思想と行動が一致しているか」という点です。
 
 平和や対話の重要性を語る人は少なくありません。しかし、それを行動として貫き、社会に具体的な影響を与えてきたかは別の問題です。
 
 議論を重ねる中で、池田先生に対する評価は次第に一致していきました。
 決定的だったのは、その思想が、すでに192もの国と地域で人々の自発的な運動として根付いているという事実でした。
 
 宗教間対話、平和教育、文化交流――これらを理念として掲げるだけでなく、「人と人とのネットワーク」として築き上げてきた。その実績を前に、審査委員の認識は「池田氏は思想家であるだけでなく、行動する哲学者である」と一致したのです。

インドネシア大学の「名誉哲学・平和博士号」授与式。グミラル・ルスリワ・ソマントリ学長㊨は「私は青年に、池田博士の志を学んでほしいのです」と(2009年10月、東京・八王子市の創価大学で)
インドネシア大学の「名誉哲学・平和博士号」授与式。グミラル・ルスリワ・ソマントリ学長㊨は「私は青年に、池田博士の志を学んでほしいのです」と(2009年10月、東京・八王子市の創価大学で)

 理念が高尚であっても、実行が伴わない例を、私たちは数多く見てきました。だからこそ、思想が現実に作用しているかを厳しく見極めます。その基準に照らした時、池田先生は例外的な存在でした。
 
 この点においても、池田先生とワヒド元大統領には大きな共通点があります。
 それは“ポジション”ではなく、“アクション”で人々に影響を与えたということです。
 
 ワヒド元大統領は、退任後も民主主義のために尽力し、言葉と実践の一貫性によって人々の信頼を得ていました。
 
 池田先生も同様です。
 国家元首ではありませんが、その行動は国や文化を超えて人々の心を動かしてきました。
 
 このような人物は大変に希少です。だからこそインドネシア大学は、池田先生を「現代社会が必要とする模範」として評価しました。それは、インドネシアのためだけでなく、世界にとっての指標になると考えたからです。

■学会活動は“心の予防接種”

 ――創価学会の宗教間対話や地域での活動を、どのように見ていますか。
   
 私が敬意を抱くのは、創価学会の皆さんが、宗教間対話を「日常の行動」として実践している点です。
 会員の方々は、宗教者である前に一人の市民であり、地域に根差した“良き隣人”です。そこで行われているのは、人と人との関係を育む「文化をつくる営み」だと感じています。
 
 このプロセスは「平和の文化」という概念に通じるものです。国連でも提唱されていますが、これほどの規模で、日常生活において体現している例は多くありません。
 
 私は、「平和をつくるのは政府ではなく、市民同士の対話だ」と考えています。その担い手として、創価学会の存在は非常に大きい。
 インドネシアでも、心の病やアイデンティティーの揺らぎが深刻化していますが、池田先生の著作を学び、直接顔を合わせて語り合う場は、そうした問題への有効な防波堤となっています。
 皆さんの活動は、いわば“心の予防接種”です。

 近年、孤独が健康に深刻な影響を及ぼすと指摘されています。
 SNS上の過激な言葉や暴言も、単なる攻撃性ではなく、「誰かに気付いてほしい」という心の叫びである場合が少なくありません。
 もし身近に話を聞いてくれる人がいれば、その言葉は生まれなかったかもしれないのです。
 
 私は学生たちに、「あなたが誰かの“心の家”になりなさい」と伝えています。
 
 家とは、評価されず、否定されず、安心して戻れる場所です。
 現代社会がなくしつつあるのは、まさにこの“心の帰る場所”だと思います。

ワヒド元大統領と池田先生の対話の精神を伝える「文明の対話」展(昨年10月、インドネシアの国立モスクで)
ワヒド元大統領と池田先生の対話の精神を伝える「文明の対話」展(昨年10月、インドネシアの国立モスクで)

 私自身、創価学会の集いにも参加しました。
 人々が円になって座り、それぞれの経験を語り合い、最後には「自分も誰かの役に立てる」と感じて帰っていく。
 その光景を見て、これこそ「生きた対話」であり、地域に開かれた「心の家」だと実感しました。
 宗教活動を超えた、心のケアと教育の場といえます。
 
 人の痛みを知り、共に励まし合う。その積み重ねが、社会のストレスを少しずつ癒やしていく。
 私はこれを「ケアリング・カルチャー(ケアの文化)」と感じています。
 
 現代において、希望を持ち続けることは容易ではありません。しかし、池田先生が一貫して示してきたのは「人間を信じる」という信念です。
 
 一人一人が宝石のような存在であり、互いに光を当て合うことで社会は必ず明るくなる。
 この普遍的な哲学は、AIの進化や社会の分断が進む現代だからこそ、より重要になっています。
 
 池田先生の思想は、行動によってこそ生きるものです。
 皆さん一人一人の歩みが、未来への確かな希望をつくっていくと、私は信じています。

 〈プロフィル〉 Devie Rahmawati インドネシア大学准教授。同大学職業教育プログラム学部長。インドネシア大学で学士・修士号を取得後、パジャジャラン大学でコミュニケーション学博士号を取得。専門は社会・文化コミュニケーション、デジタルリテラシー、ヘルスコミュニケーション。偽情報やメディア消費をテーマとする論文や共著書を発表する一方、国内外のメディアで社会問題を解説するコメンテーターとしても知られる。

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