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〈社会・文化〉 全土に広がった抗議運動の軌跡 ドキュメンタリー「わたしの聖なるインド」のノウシーン・ハーン監督に聞く 2026年5月26日

  • 立ち上がった少数派の女性たち
  • 映像にこだまする“自由と解放”

 ヒンドゥー至上主義が台頭するインドで政治的にも社会的にも透明化されてきたイスラム教徒の女性たち。ドキュメンタリー「わたしの聖なるインド」(配給:きろくびと)には、そうした女性たちによる抵抗運動の軌跡が克明に記録され、監督自身の解放と変革の物語が重ねられている。山形国際ドキュメンタリー映画祭2023では市民賞を受賞。ノウシーン・ハーン監督に作品に込めた思いなど聞いた。

自身の物語を作品に重ねる

 〈2019年、インドでは市民権改正法が成立。少数派の間で市民権剝奪の不安が高まるなか、反対運動の拠点だった大学を警官らが急襲。この対応と改正法の抗議としてデリー南部のシャヒーン・バーグで女性たちによる大規模な座り込み運動が始まった〉
    
 ――なぜ抗議行動を撮影しようと考えたのでしょうか。またそこに監督の思いを重ねたのはなぜでしょうか。
    
 直感的に記録しなければと思ったからです。最初に警察が乱入し大学構内で学生が暴力にさらされる様子を目にしましたが、そこに女性の姿はなく、撮影する人もいない。女性の目から何が起きていたのかを残したいと思ったのです。そこから抗議行動の撮影につながっていきました。
 また、当初は映画に自らの声や主張を加えようとは思っていませんでした。ただ警官が乱入した大学は私の母校でした。そこは私にとって、「ここにいれば、何だって可能だと思えた」場所だったのです。そこが暴力の現場になった。そして抗議に立ち上がったのは、私と同じコミュニティーの女性たち。そこに私の思いや主張が重ならないのはかえって不自然だと思いました。また、自らの物語を映像に重ねることは私の唯一の抵抗でもあったのです。

「わたしの聖なるインド」から ©2023 Nausheen Khan
「わたしの聖なるインド」から ©2023 Nausheen Khan
団結の根っこに国を愛す思い

 ――彼女たちの抗議運動は全国へと波及していきます。
    
 抗議運動は、子どもたちが大学で暴力にさらされたことがきっかけでしたが、彼女たちはそこで市民権改正法についても知ることになります。それはマイノリティーの人々すべてが影響を受ける改正法でした。
 それにマイノリティーを代表して声を上げたのが彼女たちだったのです。その声はインド社会が大切にしてきた共存、共生を訴える叫びでもありました。映像の中にこだまする“自由と解放を!”との叫びは全国へ広がっていきます。
 作品にはキッチンで語る女性も登場しますが、それは抗議運動が日常の一部となっていたことを知ってほしかったからです。抗議に立ち上がったといっても、家事や育児、介護から解放されるわけではありません。それでも時間を分担し抗議を継続しました。そうして有機的に団結が広がったのです。その団結の根っこには、自らの国を愛する強い思いがありました。
    
 ――女性たちの行動は監督自身の生き方にも影響したそうですね。
    
 マイノリティーの女性として息をひそめ、周囲に溶け込むように生きることで不自由さを感じていた私でしたが、「自分らしくあることが一番の自由である」ことを彼女たちから学びました。本当の自分でいること――それが差別や偏見から解放される鍵であることに気付きました。
 また、排外主義が強まる国の中で、少数派が愛国心を語ることには罪悪感が伴い、ためらいさえ感じていましたが、「私はインド人である」と語ることは恥ずかしいことでも何でもなく、「この国を愛している」と普通に声を上げればいいことを彼女たちの姿、言葉から知りました。
 シャヒーン・バーグの抗議運動は私にとって、ビューティフル・レボリューション(美しい革命)と言えるものだったのです。

「わたしの聖なるインド」から ©2023 Nausheen Khan
「わたしの聖なるインド」から ©2023 Nausheen Khan
心に正直に問いかける

 〈100日以上にわたって続いた抗議は、新型コロナウイルス感染症の拡大によって終わりを告げる。市民権改正法は2024年に施行。成立から4年以上を要した。少数派を排除するような政治家の言動は今も続く〉
 ――ドキュメンタリーが差別や偏見といった人間の普遍的な問題に迫るにはどんなことが必要だと思いますか。
    
 私自身、まだまだ思索が必要ですが、大切なことは自らを“裸”にすることだと思っています。さまざまなくびきから自らを解放し、自身の心に正直に問いかけることです。
 「なぜ私は痛みを覚えているのか」「なぜ私は怒りを感じているのか」――自らに問いかけ、その答えを見つける作業が必要ではないかと思います。その作業のなかで、初めて私が感じている痛み、すべての人が感じている痛みの源に近づくことができるのではないでしょうか。
    
 ――日本での公開に向け、メッセージを。
    
 この作品が日本で公開されることをうれしく思っています。ドキュメンタリーの中で描かれる弾圧への抵抗、正義、自由と解放を叫ぶ彼女たちの声は、排外主義が横行する世界にとって希望と言えます。この希望が社会の抑圧に抵抗する人々の力になればと願っています。
 シャヒーン・バーグの女性たちがそうであったように、周りに向けては愛を持って、抑圧的な体制には非暴力の抵抗を続け、声を上げ続けてほしいと思います。黙っていてはいけないと思います。

「わたしの聖なるインド」から ©2023 Nausheen Khan
「わたしの聖なるインド」から ©2023 Nausheen Khan

 Nausheen Khan ジェンダーの視点をテーマに活動するインディペンデント映画作家。「わたしの聖なるインド」は初めての長編ドキュメンタリー映画。山形国際ドキュメンタリー映画祭・市民賞、ケーララ国際ドキュメンタリー・短編映画祭(インド)のコンペティション部門最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞。

 「わたしの聖なるインド」は、6月6日(土)から東京・渋谷ユーロスペースで。全国順次公開。

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