広島での「希望の選択」シンポジウムから㊤
広島での「希望の選択」シンポジウムから㊤
2025年9月9日
SGIと核時代平和財団が共催する「希望の選択」シンポジウムの公開イベントが8月24日、広島市の広島国際会議場で行われた。2回にわたり、その要旨を紹介する。
SGIと核時代平和財団が共催する「希望の選択」シンポジウムの公開イベントが8月24日、広島市の広島国際会議場で行われた。2回にわたり、その要旨を紹介する。
「希望の選択」シンポジウムの登壇者らが記念のカメラに
「希望の選択」シンポジウムの登壇者らが記念のカメラに
シンポジウムでは酒井貴美子氏による被爆ピアノの演奏も行われた
シンポジウムでは酒井貴美子氏による被爆ピアノの演奏も行われた
●調査報道ジャーナリスト アニー・ジェイコブセン氏
●調査報道ジャーナリスト アニー・ジェイコブセン氏
核なき世界は人類の共通目標
核なき世界は人類の共通目標
デイビッド・クリーガー氏と池田氏は対談集『希望の選択』において、世界を形づくるのは政治や軍事の指導者だけでなく、私たちのような一般の人々であると主張している。まさに、希望とは意識的に選び取っていくものであり、今日のこの場のように、目標を同じくする人々が集まるとき、それは集合的なものになる。
もし核戦争が起きてしまえば、80年前に広島と長崎で起きた出来事が世界中の何千もの都市で繰り返されるだろう。核戦争がどのように始まるとしても、その結末は一つ――完全な壊滅であり、人類は破滅を免れない。限定的な核戦争など存在しない。それが核兵器の現実なのである。
核時代の幕開けにアインシュタインは“第3次世界大戦がどんな武器で戦われるかは分からないが、第4次世界大戦は石と棒で戦われるだろう”と答えたという。『核戦争‥一つのシナリオ』の執筆に当たり私が取材した米国の大統領顧問、科学者、外交官などあらゆる人々が語っていたのも、世界は極限の危機にあるという事実であった。今こそ、核兵器の狂気を伝えていくことが極めて重要だ。
ストーリー(物語)には人の心を変える力があるという、希望に満ちた言葉でこの話を締めくくりたい。米国のレーガン大統領は、核兵器を増やせば米国はより安全になると信じていた。ところが、米ソの核戦争勃発という物語を描いた「ザ・デイ・アフター」という映画を見てその惨状を知り、“深く憂鬱になった”と書き残したといわれている。その後、ソ連のゴルバチョフ書記長に接触し、共同で軍縮計画を策定した。その成果もあり、最大7万発あった世界の核兵器は現在、約1万2300発まで削減されたのである。これが物語の持つ力だ。
核兵器という脅威を世界から取り除く――私たちは誰もがその物語の一部だ。核なき世界は私たちの共通の目標であると同時に、それ自体が希望なのだ。
デイビッド・クリーガー氏と池田氏は対談集『希望の選択』において、世界を形づくるのは政治や軍事の指導者だけでなく、私たちのような一般の人々であると主張している。まさに、希望とは意識的に選び取っていくものであり、今日のこの場のように、目標を同じくする人々が集まるとき、それは集合的なものになる。
もし核戦争が起きてしまえば、80年前に広島と長崎で起きた出来事が世界中の何千もの都市で繰り返されるだろう。核戦争がどのように始まるとしても、その結末は一つ――完全な壊滅であり、人類は破滅を免れない。限定的な核戦争など存在しない。それが核兵器の現実なのである。
核時代の幕開けにアインシュタインは“第3次世界大戦がどんな武器で戦われるかは分からないが、第4次世界大戦は石と棒で戦われるだろう”と答えたという。『核戦争‥一つのシナリオ』の執筆に当たり私が取材した米国の大統領顧問、科学者、外交官などあらゆる人々が語っていたのも、世界は極限の危機にあるという事実であった。今こそ、核兵器の狂気を伝えていくことが極めて重要だ。
ストーリー(物語)には人の心を変える力があるという、希望に満ちた言葉でこの話を締めくくりたい。米国のレーガン大統領は、核兵器を増やせば米国はより安全になると信じていた。ところが、米ソの核戦争勃発という物語を描いた「ザ・デイ・アフター」という映画を見てその惨状を知り、“深く憂鬱になった”と書き残したといわれている。その後、ソ連のゴルバチョフ書記長に接触し、共同で軍縮計画を策定した。その成果もあり、最大7万発あった世界の核兵器は現在、約1万2300発まで削減されたのである。これが物語の持つ力だ。
核兵器という脅威を世界から取り除く――私たちは誰もがその物語の一部だ。核なき世界は私たちの共通の目標であると同時に、それ自体が希望なのだ。
●核時代平和財団会長 イバナ・ヒューズ氏
●核時代平和財団会長 イバナ・ヒューズ氏
市民社会の力で核廃絶を
市民社会の力で核廃絶を
アインシュタインは、解放された原子力は人類の思考様式を除いて一切のものを変えたと警告した。創価学会の第2代会長・戸田氏は核兵器に潜む“爪”をもぎとらねばならないと訴え、米国のケネディ大統領は国連総会で核の脅威を指摘した。つまり、核兵器は人類の存在を脅かしており、廃絶されるべきだという考えは新しいものではない。核を巡る緊張が続く今、その必要性は、かつてなく明確である。
明るいニュースは、核兵器禁止条約が存在していることだ。核保有国が加盟していない核禁条約は、無意味だとする声もある。また、他の多くのステップを経た後の最終段階にすぎないという意見や、核兵器なしに大国間の全面戦争は防げないとの批判もある。しかし今後、核兵器を廃絶するために世界の全ての国を団結させる条約は他に誕生し得ないだろう。核禁条約は核兵器廃絶の最終段階であるかもしれないが、“核兵器のない世界に到達しなければならない”という目標を明確にする点において、第一歩であるのだ。
より多くの国が核禁条約に参加し、団結して圧力をかけていく必要がある。核保有国や核の傘に依存している国の内側からの働きかけも必要だ。核兵器に覆われた世界で生きることの脅威を理解し、拒否する市民が、政府に理性的な道を歩むよう後押ししていかねばならない。
アインシュタインは、解放された原子力は人類の思考様式を除いて一切のものを変えたと警告した。創価学会の第2代会長・戸田氏は核兵器に潜む“爪”をもぎとらねばならないと訴え、米国のケネディ大統領は国連総会で核の脅威を指摘した。つまり、核兵器は人類の存在を脅かしており、廃絶されるべきだという考えは新しいものではない。核を巡る緊張が続く今、その必要性は、かつてなく明確である。
明るいニュースは、核兵器禁止条約が存在していることだ。核保有国が加盟していない核禁条約は、無意味だとする声もある。また、他の多くのステップを経た後の最終段階にすぎないという意見や、核兵器なしに大国間の全面戦争は防げないとの批判もある。しかし今後、核兵器を廃絶するために世界の全ての国を団結させる条約は他に誕生し得ないだろう。核禁条約は核兵器廃絶の最終段階であるかもしれないが、“核兵器のない世界に到達しなければならない”という目標を明確にする点において、第一歩であるのだ。
より多くの国が核禁条約に参加し、団結して圧力をかけていく必要がある。核保有国や核の傘に依存している国の内側からの働きかけも必要だ。核兵器に覆われた世界で生きることの脅威を理解し、拒否する市民が、政府に理性的な道を歩むよう後押ししていかねばならない。
●核時代平和財団政策・提言部長 クリスチャン・チオバヌ氏
●核時代平和財団政策・提言部長 クリスチャン・チオバヌ氏
核兵器による不正義を正す
核兵器による不正義を正す
核兵器禁止条約では核被害者援助と環境修復、そのための国際的な協力を定めている。
東西冷戦期、南太平洋キリバスのクリスマス島とモールデン島の周辺では水爆実験が行われた。島民にはほとんど保護措置も事前警告もなく、島民の多くは防水シートを持ち上げて上空の火球を見物した。後に多くの人がさまざまな病気や健康問題を訴え、死に至った者もいた。
第4世代の核被害者であるオエムワ・ジョンソン氏は、漁師だった曽祖父が原因不明の肺がんで徐々に衰弱死したと証言している。また、彼女の祖父は、兵士たちが住民を集合させ、核実験前に毛布を一枚与えられて身を守るよう指示されたことを覚えているという。
実験後、多くの住民が近隣の島への移住を余儀なくされた。帰島後、魚の味が変わり、ヤシの木が枯れ、先天性の障がいを持つ子どもが生まれると、うわさされるようになった。その恐怖は物語や歌を通して世代を超えて受け継がれている。
核兵器の廃絶、そして核被害に苦しむ人々への補償を実現するために、一人一人が力を合わせて努力していく必要がある。
核兵器禁止条約では核被害者援助と環境修復、そのための国際的な協力を定めている。
東西冷戦期、南太平洋キリバスのクリスマス島とモールデン島の周辺では水爆実験が行われた。島民にはほとんど保護措置も事前警告もなく、島民の多くは防水シートを持ち上げて上空の火球を見物した。後に多くの人がさまざまな病気や健康問題を訴え、死に至った者もいた。
第4世代の核被害者であるオエムワ・ジョンソン氏は、漁師だった曽祖父が原因不明の肺がんで徐々に衰弱死したと証言している。また、彼女の祖父は、兵士たちが住民を集合させ、核実験前に毛布を一枚与えられて身を守るよう指示されたことを覚えているという。
実験後、多くの住民が近隣の島への移住を余儀なくされた。帰島後、魚の味が変わり、ヤシの木が枯れ、先天性の障がいを持つ子どもが生まれると、うわさされるようになった。その恐怖は物語や歌を通して世代を超えて受け継がれている。
核兵器の廃絶、そして核被害に苦しむ人々への補償を実現するために、一人一人が力を合わせて努力していく必要がある。
●ミドルベリー国際大学院モントレー校 ジェームズ・マーティン不拡散研究センター 土岐雅子氏
●ミドルベリー国際大学院モントレー校 ジェームズ・マーティン不拡散研究センター 土岐雅子氏
教育で変革の連帯築く
教育で変革の連帯築く
核を巡るリスクが高まる昨今の状況では恐怖や絶望が支配的になりがちだが、教育には恐怖を行動に、絶望を決意に、沈黙を連帯に変え、前進への道筋を示す力がある。
市民社会が核廃絶運動を前進させるために大きく三つの方策がある。第一に、より広範で包摂的な連帯の構築である。核廃絶は専門家だけの関心事であってはならない。気候変動や経済格差、人工知能など、人権や生存の課題と核の問題を結び付けることで、“自分たちの戦い”と捉える土台を拡大できる。
第二に、被爆者がいるうちに証言を記録し広く伝えていくことだ。彼らの声をアーカイブするだけでなく教室、デジタルプラットホーム、世代間対話を通し存続させていくことが我々の責任だ。
第三に、市民社会は良心と監視の機能を果たしていかねばならない。政府に説明責任を求め、条約の義務を想起させ、核兵器の人道的影響を伝えて、透明性と責任を要求する役割がある。
核兵器が二度と使用されないことを確実にすることは、被爆者と将来世代に対する私たちの責任である。相互破壊ではなく人間の尊厳が安全保障を定義する未来を目指して、共に行動を続けよう。
核を巡るリスクが高まる昨今の状況では恐怖や絶望が支配的になりがちだが、教育には恐怖を行動に、絶望を決意に、沈黙を連帯に変え、前進への道筋を示す力がある。
市民社会が核廃絶運動を前進させるために大きく三つの方策がある。第一に、より広範で包摂的な連帯の構築である。核廃絶は専門家だけの関心事であってはならない。気候変動や経済格差、人工知能など、人権や生存の課題と核の問題を結び付けることで、“自分たちの戦い”と捉える土台を拡大できる。
第二に、被爆者がいるうちに証言を記録し広く伝えていくことだ。彼らの声をアーカイブするだけでなく教室、デジタルプラットホーム、世代間対話を通し存続させていくことが我々の責任だ。
第三に、市民社会は良心と監視の機能を果たしていかねばならない。政府に説明責任を求め、条約の義務を想起させ、核兵器の人道的影響を伝えて、透明性と責任を要求する役割がある。
核兵器が二度と使用されないことを確実にすることは、被爆者と将来世代に対する私たちの責任である。相互破壊ではなく人間の尊厳が安全保障を定義する未来を目指して、共に行動を続けよう。