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〈信仰体験〉 愛する町を守る男 2025年9月7日

  • 「自分で決める。何だってやる」
  • “町おこし”の輪の中に一人、二人と
山崎さんは先月16日、地元で行われた伝統行事「大島火まつり」に消防団として出動。地域の安全を陰に陽に守っている
山崎さんは先月16日、地元で行われた伝統行事「大島火まつり」に消防団として出動。地域の安全を陰に陽に守っている

 【群馬県富岡市】先月16日。闇夜が覆っていた山肌に「米」の火文字が浮かび上がってきた。その火のそばで、山崎学さん(42)=総県男子部副書記長=は、火が周囲へ燃え広がらないよう、ジェットシューターを背負って放水していた。この人、消防団の部長でありながら、ある時はヘラブナ釣りの日本ランカー、またある時はバレーボールチームの副代表……。何事も、とことんやる男である。

 あちこちに興味の矢印が向く少年だった。

 野球に夢中だった小学5年の時、仲間に誘われて、ネオホッケーを始めた。中学では漫画「スラムダンク」にハマり、バスケ部でも汗を流す。
 3年生になって、ベースの速弾きをマスターすると、大学生の先輩のバンドに呼ばれた。その合間に、ヘラブナ釣りにも繰り出した。

 高校生になると、バレーボール部に入り、ファミレスでアルバイトも始める。同級生とバンドも結成した。ネオホッケーは18歳で引退するまで全国大会で活躍。スタミナは底なしだった。

仕事が大変だった時、何があっても信心を貫けたのは、「真っすぐな祈りを教えてくれた母(登志美さん)のおかげ」と
仕事が大変だった時、何があっても信心を貫けたのは、「真っすぐな祈りを教えてくれた母(登志美さん)のおかげ」と

 猪突猛進のこの男を止めたのは、失恋だった。21歳。ショックで水さえ喉を通らない。意識が遠のくまで衰弱した。“俺って情けないな”。差し入れを届けに来た男子部の先輩が発見し、病院まで運んでくれた。

 その先輩は「その国の仏法は貴辺にまかせたてまつり候ぞ」(新1953・全1467)の一節が大好きな人だった。人生の壁にぶつかるたび、「池田先生だったらどうされるか」。そう語る瞬間、目の奥が輝き、「カッコよかった」。その背中を追いかけ、学会活動をガムシャラにやった。誰かのために動いた時、本当に強くなれることを知った。

長男・獅子斗さん㊧とヘラブナ釣りへ。亡き父(幹生さん)も、釣りによく連れて行ってくれた
長男・獅子斗さん㊧とヘラブナ釣りへ。亡き父(幹生さん)も、釣りによく連れて行ってくれた

 池田先生との出会いを刻んだのは、2007年(平成19年)6月の「新時代第2回全国青年部幹部会」だ。「口ではない。弟子ならば、現実の上で、勝利の証しを残すのだ」。そう語りかける先生と目が合った気がした。山崎さんは強くうなずいた。

 “勝利の証し”とは何だろう。題目を唱えに唱え、行きついたのが、「地域の灯台たれ」との池田先生の指針だ。今いる場所を照らす人になると決めた。

山崎さんがよく行くヘラブナ釣りなどができる三名湖(群馬県藤岡市)
山崎さんがよく行くヘラブナ釣りなどができる三名湖(群馬県藤岡市)

 猪突猛進を発揮する。何事も実践あるのみと、まずは消防団に志願した。分団長に「大好きな富岡の町を守りたいんです」と満々たる熱気を伝えた。翌日、制服を渡された。

 子どもたちのPTA役員も務め、地域のバレーボールチームには妻・淳子さん(46)=地区女性部長=を誘って選手をしながら、役員も。時間の限り、何でもやった。仕事では、プレス金型の製造会社に勤め、“花形”である金型職人を任された。

先輩の金型職人に、0・01ミリに命をかける「ものづくり」の魂をたたきこまれた。職場でも、設計から製造、営業、事務作業まで何でもやる
先輩の金型職人に、0・01ミリに命をかける「ものづくり」の魂をたたきこまれた。職場でも、設計から製造、営業、事務作業まで何でもやる

 31歳の時、仕事で試された。次世代のハイブリッド車の接続部品の注文が入った。13ミリの極厚なステンレスの加工。0・01ミリ単位の調整を緻密に繰り返した。3カ月たっても、完成形が見えない。

 やめたい、諦めたいと、もがいた。踏みとどまれたのは、「地元の町工場の挑戦が成功すれば、地域が盛り上がると思ったから」。そう思うと、体中にどんどん力があふれてくる。

 失敗作の山が膝の高さになった頃、ついに部品が完成した。半年かけた加工技術が“世界初”を生み、業界が注目した。

火文字を表す、たいまつの火が燃え広がらないように放水する
火文字を表す、たいまつの火が燃え広がらないように放水する

 消防団は24時間体制。アラームが鳴れば、着の身着のままで詰め所に向かった。

 19年10月、台風19号に伴う大雨で、富岡市内に土砂災害が発生した。山崎さんは消防団として、行方不明の住民の捜索にも当たった。5軒、10軒と回る中、かき分けた泥の先で「助けて……」の声を聞き分け、震える手を握った。

「いつも家を守り、支えてくれる妻や、疲れを吹き飛ばしてくれる子どもたちに感謝しかありません」と山崎さん(右から妻・淳子さん、長女・蓮華さん、山崎さん、長男・獅子斗さん)
「いつも家を守り、支えてくれる妻や、疲れを吹き飛ばしてくれる子どもたちに感謝しかありません」と山崎さん(右から妻・淳子さん、長女・蓮華さん、山崎さん、長男・獅子斗さん)

 西へ東へと四六時中走り回った。牙城会の薫陶で命に刻み込んだ「冥の照覧」を確信した。いつも人のため、地域のために生きる山崎さんの姿に触れ、一緒に“町おこし”をする仲間が一人、二人とできた。

 4年前からヘラブナ釣りを本格的に再開し、全国大会で活躍すると、あちこちの釣り師が「山崎さんと釣りがしたい」と。日本中から群馬へ足を運んでくれる。

富岡市消防団の仲間たちと
富岡市消防団の仲間たちと

 市内には世界遺産や日本三大奇勝の一つもある。「でも、そこに住んでいる“人”が、町の一番の魅力になる」。山崎さんは今日も町をパワフルに盛り上げる。

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