教育は子どもを幸せにしているか――創価教育の父・牧口常三郎先生 生誕155周年記念てい談㊤
教育は子どもを幸せにしているか――創価教育の父・牧口常三郎先生 生誕155周年記念てい談㊤
2026年6月6日
- 「“AIと分断の時代”にデューイと牧口を語る」
- 「“AIと分断の時代”にデューイと牧口を語る」
創価学会初代会長・牧口常三郎先生
創価学会初代会長・牧口常三郎先生
アメリカの哲学者ジョン・デューイ©Bettmann/Getty Images
アメリカの哲学者ジョン・デューイ©Bettmann/Getty Images
その2人は、科学技術の飛躍的な発展と国家主義の台頭が同時進行した時代に「教育は何のためにあるのか」と問い続けました。創価教育の父・牧口常三郎先生(1871~1944)と、アメリカの哲学者ジョン・デューイ(1859~1952)です。国家のためか、子どもの幸福か。競争と不信をあおるのか、協働と信頼を育むのか。2人の問いは、AI(人工知能)の進化と社会の分断が広がる今、重みを増しています。6月6日は、牧口先生の生誕155周年。日本を代表する心理学者の梶田叡一・聖ウルスラ学院理事長、創価大学ジョン・デューイ研究センターの伊藤貴雄センター長、創価学会教育部の町田千恵美女性部長が語り合いました。上下2回で掲載します。(編集=大宮将之)
その2人は、科学技術の飛躍的な発展と国家主義の台頭が同時進行した時代に「教育は何のためにあるのか」と問い続けました。創価教育の父・牧口常三郎先生(1871~1944)と、アメリカの哲学者ジョン・デューイ(1859~1952)です。国家のためか、子どもの幸福か。競争と不信をあおるのか、協働と信頼を育むのか。2人の問いは、AI(人工知能)の進化と社会の分断が広がる今、重みを増しています。6月6日は、牧口先生の生誕155周年。日本を代表する心理学者の梶田叡一・聖ウルスラ学院理事長、創価大学ジョン・デューイ研究センターの伊藤貴雄センター長、創価学会教育部の町田千恵美女性部長が語り合いました。上下2回で掲載します。(編集=大宮将之)
人間教育は「問い」から開く
人間教育は「問い」から開く
梶田叡一氏(聖ウルスラ学院理事長/心理学者)
梶田叡一氏(聖ウルスラ学院理事長/心理学者)
伊藤貴雄氏(創価大学ジョン・デューイ研究センター長)
伊藤貴雄氏(創価大学ジョン・デューイ研究センター長)
町田千恵美氏(創価学会教育部女性部長)
町田千恵美氏(創価学会教育部女性部長)
――お三方はそれぞれの立場で、創価教育学やデューイの教育理念を研究・実践されてこられました。
――お三方はそれぞれの立場で、創価教育学やデューイの教育理念を研究・実践されてこられました。
聖ウルスラ学院の梶田理事長。心理学と教育研究を中心とした人間学研究者。大阪大学教授、京都大学教授などを経て兵庫教育大学、奈良学園大学など5大学の学長、中央教育審議会の副会長、教育課程部会長などを歴任。著書に『白珠を我は知りしか』(鳳書院)や『人間教育の道』(金子書房)など
聖ウルスラ学院の梶田理事長。心理学と教育研究を中心とした人間学研究者。大阪大学教授、京都大学教授などを経て兵庫教育大学、奈良学園大学など5大学の学長、中央教育審議会の副会長、教育課程部会長などを歴任。著書に『白珠を我は知りしか』(鳳書院)や『人間教育の道』(金子書房)など
【梶田】カトリックである私が創価教育学に出合ったのは、半世紀前。心理学の恩師・波多野完治先生(お茶の水女子大学元学長)から紹介されたんです。「牧口常三郎は日本のデューイと言うべき大教育者だよ」と。
偉大な地理学者であり、小学校の教員から校長まで歴任した牧口先生の著作をひもとく中で感嘆したことが二つあります。
【梶田】カトリックである私が創価教育学に出合ったのは、半世紀前。心理学の恩師・波多野完治先生(お茶の水女子大学元学長)から紹介されたんです。「牧口常三郎は日本のデューイと言うべき大教育者だよ」と。
偉大な地理学者であり、小学校の教員から校長まで歴任した牧口先生の著作をひもとく中で感嘆したことが二つあります。
1930年11月18日に発刊された『創価教育学体系』第1巻
1930年11月18日に発刊された『創価教育学体系』第1巻
まず一つは、軍国主義の時代に「教育は児童に幸福なる生活をなさしめるのを目的とする」(『創価教育学体系』)と断言された点。もう一つは、牧口先生の教授法のメモに記されていた“法華経の「開示悟入」と教育との関わり”でした。
詳細は後述しますが、聖ウルスラ学院の小・中学校では20年以上、「開示悟入」の視点――子どもの興味・関心を開き、より良い生き方に導く教授法――を授業に取り入れています。
まず一つは、軍国主義の時代に「教育は児童に幸福なる生活をなさしめるのを目的とする」(『創価教育学体系』)と断言された点。もう一つは、牧口先生の教授法のメモに記されていた“法華経の「開示悟入」と教育との関わり”でした。
詳細は後述しますが、聖ウルスラ学院の小・中学校では20年以上、「開示悟入」の視点――子どもの興味・関心を開き、より良い生き方に導く教授法――を授業に取り入れています。
宮城・仙台市にある聖ウルスラ学院の校舎
宮城・仙台市にある聖ウルスラ学院の校舎
【伊藤】波多野完治先生は『牧口常三郎全集』(第三文明社、全10巻)の編集顧問も務められましたね。全集の中で牧口先生がデューイに言及した箇所は全部で六つありますが、両者の思想は大変に響き合っています。
教育の目的を「子どもの幸福」に置いたこと。新しい価値を創造できる人間の育成や、今で言う「世界市民」の輩出を目指したこと。そうした教育の基盤として「生活」「郷土」を重視したことなどです。
【伊藤】波多野完治先生は『牧口常三郎全集』(第三文明社、全10巻)の編集顧問も務められましたね。全集の中で牧口先生がデューイに言及した箇所は全部で六つありますが、両者の思想は大変に響き合っています。
教育の目的を「子どもの幸福」に置いたこと。新しい価値を創造できる人間の育成や、今で言う「世界市民」の輩出を目指したこと。そうした教育の基盤として「生活」「郷土」を重視したことなどです。
伊藤センター長。創価大学の文学部教授として教壇に立つ。日本デューイ学会でも活動する
伊藤センター長。創価大学の文学部教授として教壇に立つ。日本デューイ学会でも活動する
【町田】「子どもの幸福のために」――この信念を私自身も、小学校の教員や教頭、校長を務める中で貫いてきました。
そもそも学校の先生たちは、「子どもを幸せに」と願って教職に就きます。けれど、実際に現場に立って「子どもの幸せとは何か」「どう実現するのか」を追求し続けることは、決して簡単ではありません。むしろ今の教育現場は、その理想の実現がますます難しい時代になっているのではないでしょうか。
【町田】「子どもの幸福のために」――この信念を私自身も、小学校の教員や教頭、校長を務める中で貫いてきました。
そもそも学校の先生たちは、「子どもを幸せに」と願って教職に就きます。けれど、実際に現場に立って「子どもの幸せとは何か」「どう実現するのか」を追求し続けることは、決して簡単ではありません。むしろ今の教育現場は、その理想の実現がますます難しい時代になっているのではないでしょうか。
町田教育部女性部長。大学の教職キャリアセンターの指導講師として後進の育成にも励む
町田教育部女性部長。大学の教職キャリアセンターの指導講師として後進の育成にも励む
■「信」の確立こそ
■「信」の確立こそ
――具体的には?
【町田】教員が子どもの幸福のため、最も時間と心を注ぎたいのは「より良い授業づくり」と「一人一人への関わり」です。ところが今、多くの学校では慢性的な教員不足が続き、さまざまな業務に追われる中で、そのための時間を十分に確保できなくなっています。
【梶田】近年、教員の働き方改革が叫ばれていますが、働きやすい環境づくりは、もちろん大切です。その上で私が問題の本質だと感じているのは、教師が「専門職」「使命職」としての喜びや誇りを実感しにくくなっていることです。教師の最大の喜びは、子どもが「分かった!」「できた!」と目を輝かせる瞬間に立ち会うことではないでしょうか。
「教育は、子どもたちの無限の可能性を授業で引き出し、幸福な人生の土台を築く崇高な営みなんだ」という深い使命感がなければ、確かな指導力も培えません。働き方改革といっても、教師の使命感を高める視点が大切になるでしょう。
――具体的には?
【町田】教員が子どもの幸福のため、最も時間と心を注ぎたいのは「より良い授業づくり」と「一人一人への関わり」です。ところが今、多くの学校では慢性的な教員不足が続き、さまざまな業務に追われる中で、そのための時間を十分に確保できなくなっています。
【梶田】近年、教員の働き方改革が叫ばれていますが、働きやすい環境づくりは、もちろん大切です。その上で私が問題の本質だと感じているのは、教師が「専門職」「使命職」としての喜びや誇りを実感しにくくなっていることです。教師の最大の喜びは、子どもが「分かった!」「できた!」と目を輝かせる瞬間に立ち会うことではないでしょうか。
「教育は、子どもたちの無限の可能性を授業で引き出し、幸福な人生の土台を築く崇高な営みなんだ」という深い使命感がなければ、確かな指導力も培えません。働き方改革といっても、教師の使命感を高める視点が大切になるでしょう。
【町田】ええ。そうした中で、特に若い世代の教員たちが直面している課題が「不信の悪循環」です。授業づくりや個別の関わりが十分にできなければ、子どもとの信頼関係も築きにくくなる。さまざまな課題が生じ、保護者との信頼関係にも影響が及ぶ。そうなると、教師自身も自分の力を信じられなくなってしまう。そうした悪循環が、今の学校現場では少なからず起きているように感じます。
【町田】ええ。そうした中で、特に若い世代の教員たちが直面している課題が「不信の悪循環」です。授業づくりや個別の関わりが十分にできなければ、子どもとの信頼関係も築きにくくなる。さまざまな課題が生じ、保護者との信頼関係にも影響が及ぶ。そうなると、教師自身も自分の力を信じられなくなってしまう。そうした悪循環が、今の学校現場では少なからず起きているように感じます。
【伊藤】牧口先生は「信の確立」を教育上の先決課題とし、自他共の「信用」を基礎とした学校と社会の構築を訴えました(『創価教育学体系梗概』)。真の幸福とは「社会の一員として公衆と苦楽を共にする人」でなければ得られないものであり、「個人と全体との共存共栄をなし得る人格に引き上げる教育」を行うには、「相互の信用」こそが土台だと考えていたからです。
そして「信の確立」の出発点は「教師が子どもを信じること」にあるというのが、牧口先生の洞察でした。そう考えると、社会全体で教師をどう勇気づけ、学校という場に「信」をいかに育んでいくかが、現代の大きな課題だと言えます。
【伊藤】牧口先生は「信の確立」を教育上の先決課題とし、自他共の「信用」を基礎とした学校と社会の構築を訴えました(『創価教育学体系梗概』)。真の幸福とは「社会の一員として公衆と苦楽を共にする人」でなければ得られないものであり、「個人と全体との共存共栄をなし得る人格に引き上げる教育」を行うには、「相互の信用」こそが土台だと考えていたからです。
そして「信の確立」の出発点は「教師が子どもを信じること」にあるというのが、牧口先生の洞察でした。そう考えると、社会全体で教師をどう勇気づけ、学校という場に「信」をいかに育んでいくかが、現代の大きな課題だと言えます。
■開示悟入とは
■開示悟入とは
――教師の「信」から出発する授業の枠組みこそ、牧口先生が取り入れた「開示悟入」ではないでしょうか。
【梶田】その通りです。法華経に説かれる「開示悟入」とは、仏がこの世に出現した理由なんですね。衆生をして仏の智慧を「開かしめんがため」「示さんがため」「悟らしめんがため」「入らしめんがため」というわけです。実は、法華経のサンスクリットの原典を漢訳した訳者は数多くいましたが、「鼓舞するため」(坂本幸男・岩本裕訳注『法華経』岩波文庫)という箇所を「開かしめるため」と訳したのは、「妙法蓮華経」の漢訳者・鳩摩羅什でした。
――教師の「信」から出発する授業の枠組みこそ、牧口先生が取り入れた「開示悟入」ではないでしょうか。
【梶田】その通りです。法華経に説かれる「開示悟入」とは、仏がこの世に出現した理由なんですね。衆生をして仏の智慧を「開かしめんがため」「示さんがため」「悟らしめんがため」「入らしめんがため」というわけです。実は、法華経のサンスクリットの原典を漢訳した訳者は数多くいましたが、「鼓舞するため」(坂本幸男・岩本裕訳注『法華経』岩波文庫)という箇所を「開かしめるため」と訳したのは、「妙法蓮華経」の漢訳者・鳩摩羅什でした。
【町田】この「開く」には、あらゆる人々の中に仏の智慧が本来、具わっているという大前提がありますね。具わっているのだから開けばいい。けれど凡夫は信じられない。だから仏は、種々の譬喩や物語を通して「信」を起こさせようとしました。
【梶田】教育に応用すると、どうなるか。教師はまず、子どもの興味・関心を引き出さなければなりません。「知りたい!」「学びたい!」といった主体的な気持ちを持てるよう、発問や導入に工夫を凝らし、子どもたちの心を学びの世界へ一気に開く――これが「開」です。
続いて、子どもが「知りたい」と思ったことに対して、適切な教材や言葉で方向を示す。これが「示」です。さらに、自分自身で考え、「なるほど、そういうことか」と納得できるような体験をさせる。これが「悟」。そして、学びが日常生活に生かされ、行動につながるようにする。これが「入」です。
「開示悟入」とは「人間教育の営み」なのです。私は、この「開示悟入」の中でも、とりわけ最初の「開く」という関わりが、AI時代だからこそ重要になると思っています。
【町田】この「開く」には、あらゆる人々の中に仏の智慧が本来、具わっているという大前提がありますね。具わっているのだから開けばいい。けれど凡夫は信じられない。だから仏は、種々の譬喩や物語を通して「信」を起こさせようとしました。
【梶田】教育に応用すると、どうなるか。教師はまず、子どもの興味・関心を引き出さなければなりません。「知りたい!」「学びたい!」といった主体的な気持ちを持てるよう、発問や導入に工夫を凝らし、子どもたちの心を学びの世界へ一気に開く――これが「開」です。
続いて、子どもが「知りたい」と思ったことに対して、適切な教材や言葉で方向を示す。これが「示」です。さらに、自分自身で考え、「なるほど、そういうことか」と納得できるような体験をさせる。これが「悟」。そして、学びが日常生活に生かされ、行動につながるようにする。これが「入」です。
「開示悟入」とは「人間教育の営み」なのです。私は、この「開示悟入」の中でも、とりわけ最初の「開く」という関わりが、AI時代だからこそ重要になると思っています。
【町田】知識や情報そのものは今やAIが瞬時に提示してくれます。けれど、「何を知りたいのか」「なぜ学ぶのか」「どう生きたいのか」「どんな人間になりたいのか」といった問いや願いは、一人一人の子どもの内側から生まれてくるものです。
だからこそ、AI時代の教師の役割は、子どもの知的好奇心を引き出す学びの場をデザインすること。そして「こんな自分になりたい」と願う子どもたちの可能性を信じ抜き、励まし、どこまでも支えることではないでしょうか。その意味で「開示悟入」は単なる授業技術ではなく、教育者の姿勢そのものを示しているようにも思います。
【町田】知識や情報そのものは今やAIが瞬時に提示してくれます。けれど、「何を知りたいのか」「なぜ学ぶのか」「どう生きたいのか」「どんな人間になりたいのか」といった問いや願いは、一人一人の子どもの内側から生まれてくるものです。
だからこそ、AI時代の教師の役割は、子どもの知的好奇心を引き出す学びの場をデザインすること。そして「こんな自分になりたい」と願う子どもたちの可能性を信じ抜き、励まし、どこまでも支えることではないでしょうか。その意味で「開示悟入」は単なる授業技術ではなく、教育者の姿勢そのものを示しているようにも思います。
【伊藤】牧口先生は「教授の目的は興味にあり。智識其物を授くるよりは、これより生ずる愉快と奮励にあり」(『牧口常三郎全集』第7巻)と強調しましたが、この言葉にも、「開」に重きを置いていたであろうことがうかがえます。
デューイもまた、子どもたちが「なぜだろう?」と不思議に思い、「そうなんだ!」と驚きを覚えることを学習の出発点に据え、「体験」を通して納得させ、実際の生活に生かされていくことを重視しました。さらに社会とのつながりを実感できるよう、学校という学びの場をデザインするよう訴えたのです。
例えば、“自分が今、食べているもの、着ているものの原料は、どのような人々の働きによって支えられているのか”といった具合に――「知識と生活のつながり」「自分と世界のつながり」の可視化が、新たな驚きと学びへの意欲を生み、社会の一員としての自覚を育むことにもなるわけです。
こうしたデューイの教育観は20世紀の教育界に大きな影響を与え、多くの教育学者たちに継承され、発展していくことになります。
【伊藤】牧口先生は「教授の目的は興味にあり。智識其物を授くるよりは、これより生ずる愉快と奮励にあり」(『牧口常三郎全集』第7巻)と強調しましたが、この言葉にも、「開」に重きを置いていたであろうことがうかがえます。
デューイもまた、子どもたちが「なぜだろう?」と不思議に思い、「そうなんだ!」と驚きを覚えることを学習の出発点に据え、「体験」を通して納得させ、実際の生活に生かされていくことを重視しました。さらに社会とのつながりを実感できるよう、学校という学びの場をデザインするよう訴えたのです。
例えば、“自分が今、食べているもの、着ているものの原料は、どのような人々の働きによって支えられているのか”といった具合に――「知識と生活のつながり」「自分と世界のつながり」の可視化が、新たな驚きと学びへの意欲を生み、社会の一員としての自覚を育むことにもなるわけです。
こうしたデューイの教育観は20世紀の教育界に大きな影響を与え、多くの教育学者たちに継承され、発展していくことになります。
■継承と発展
■継承と発展
――デューイが自らの理念を実践するために「実験学校」を設立したシカゴ大学からは、世界の教育学に大きな影響を与えた研究者が育ちました。ラルフ・タイラーやベンジャミン・ブルームは、その代表的な存在です。梶田先生はブルームと交流を重ねてこられましたね。
【梶田】デューイの理想を継承しつつ、「学校教育の中でどう実現し、どう評価していくか」を体系化したのがタイラーであり、「学びの深まりや教育目標を整理し、可視化した」のがブルームです。ブルームは「学習者の認知的な学び」を六つの段階に整理しました。その6段階は改訂を経て「①記憶する」→「②理解する」→「③応用できる」→「④分析できる」→「⑤評価できる」→「⑥創造できる」と表されています。
――デューイが自らの理念を実践するために「実験学校」を設立したシカゴ大学からは、世界の教育学に大きな影響を与えた研究者が育ちました。ラルフ・タイラーやベンジャミン・ブルームは、その代表的な存在です。梶田先生はブルームと交流を重ねてこられましたね。
【梶田】デューイの理想を継承しつつ、「学校教育の中でどう実現し、どう評価していくか」を体系化したのがタイラーであり、「学びの深まりや教育目標を整理し、可視化した」のがブルームです。ブルームは「学習者の認知的な学び」を六つの段階に整理しました。その6段階は改訂を経て「①記憶する」→「②理解する」→「③応用できる」→「④分析できる」→「⑤評価できる」→「⑥創造できる」と表されています。
ラルフ・タイラー(1902~1994) アメリカの教育学者。デューイの教育主張を実際の教育活動の中で実証的に検証する「8年研究」を指導した
ラルフ・タイラー(1902~1994) アメリカの教育学者。デューイの教育主張を実際の教育活動の中で実証的に検証する「8年研究」を指導した
ベンジャミン・ブルーム(1913~1999) アメリカの教育心理学者。教育評価の全体像を示すタキソノミー(学習目標の分類学)を提唱した
ベンジャミン・ブルーム(1913~1999) アメリカの教育心理学者。教育評価の全体像を示すタキソノミー(学習目標の分類学)を提唱した
【町田】現在でも、世界中の教育現場で活用されている考え方であり、日本の教員採用試験にも頻出する内容ですね。
【梶田】1983年にブルームが来日した際、私は「開示悟入」の考え方について話したことがあります。すると彼は、大変に興味を示しましてね。「ぜひ、英語に翻訳して送ってほしい」と言ったのです。
ブルームは、学びの深まりを体系的に捉えようとしました。一方、「開示悟入」は子どもの可能性や意欲をどう引き出し、学びの世界へ心を開くのかという「開」の視点を重視しています。アプローチは異なりますが、人間の可能性を信じ、その成長を支えようとする点では響き合う部分もある。その意味で私は、「開示悟入」は21世紀の教育を考える上でも、大きな示唆を与える“東洋発の教育理論”だと思っているのです。
【町田】現在でも、世界中の教育現場で活用されている考え方であり、日本の教員採用試験にも頻出する内容ですね。
【梶田】1983年にブルームが来日した際、私は「開示悟入」の考え方について話したことがあります。すると彼は、大変に興味を示しましてね。「ぜひ、英語に翻訳して送ってほしい」と言ったのです。
ブルームは、学びの深まりを体系的に捉えようとしました。一方、「開示悟入」は子どもの可能性や意欲をどう引き出し、学びの世界へ心を開くのかという「開」の視点を重視しています。アプローチは異なりますが、人間の可能性を信じ、その成長を支えようとする点では響き合う部分もある。その意味で私は、「開示悟入」は21世紀の教育を考える上でも、大きな示唆を与える“東洋発の教育理論”だと思っているのです。
1983年に来日したベンジャミン・ブルーム㊨と語らい歩く梶田理事長(梶田氏提供)
1983年に来日したベンジャミン・ブルーム㊨と語らい歩く梶田理事長(梶田氏提供)
【伊藤】デューイの思想がタイラーやブルームらによって継承・発展されてきたように、牧口先生の理念もまた、第2代会長・戸田城聖先生、第3代会長・池田大作先生へと受け継がれてきました。そしてその思想は教育論にとどまらず、「人間は、いかに生きるのか」という問いへと発展していったのです。
実は今から30年前の1996年6月、池田先生はアメリカのコロンビア大学ティーチャーズ・カレッジで「『世界市民』教育への一考察」と題する講演を行いました。デューイと牧口先生の思想に触れながら、21世紀に求められる「世界市民」の要件について論じています。その要件とは「智慧の人」「勇気の人」「慈悲の人」です。
この「世界市民教育」こそ、デューイと牧口先生が見据えていた教育の一つの到達点であり、「AIと分断の時代」を生きる私たちにとっても重要な示唆を与えているように思います。ここからは池田先生の講演を手掛かりとして、「智慧」「勇気」「慈悲」を育むために教育は何ができるのか――さらに語り合いたいと思います。
(㊦に続く)
【伊藤】デューイの思想がタイラーやブルームらによって継承・発展されてきたように、牧口先生の理念もまた、第2代会長・戸田城聖先生、第3代会長・池田大作先生へと受け継がれてきました。そしてその思想は教育論にとどまらず、「人間は、いかに生きるのか」という問いへと発展していったのです。
実は今から30年前の1996年6月、池田先生はアメリカのコロンビア大学ティーチャーズ・カレッジで「『世界市民』教育への一考察」と題する講演を行いました。デューイと牧口先生の思想に触れながら、21世紀に求められる「世界市民」の要件について論じています。その要件とは「智慧の人」「勇気の人」「慈悲の人」です。
この「世界市民教育」こそ、デューイと牧口先生が見据えていた教育の一つの到達点であり、「AIと分断の時代」を生きる私たちにとっても重要な示唆を与えているように思います。ここからは池田先生の講演を手掛かりとして、「智慧」「勇気」「慈悲」を育むために教育は何ができるのか――さらに語り合いたいと思います。
(㊦に続く)
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※ブルームとタイラーの写真=University of Chicago Photographic Archive,[apf1-09293/apf1-08409],Hanna Holborn Gray Special Collections Research Center, University of Chicago Library.
※ブルームとタイラーの写真=University of Chicago Photographic Archive,[apf1-09293/apf1-08409],Hanna Holborn Gray Special Collections Research Center, University of Chicago Library.