若者が安心して生きられる社会を築くことは、決して若者だけの課題ではなく、全世代の安心を支える土台となります。では、その社会をどうすればつくれるでしょうか。本企画では、昨年、学会の青年世代と「未来対談」を行った慶應義塾大学の井手英策教授の寄稿を掲載し、財政の視座からこの問いに迫ります。読者の皆さんから質問も募り、「若者たちの未来」を考えます。
若者が安心して生きられる社会を築くことは、決して若者だけの課題ではなく、全世代の安心を支える土台となります。では、その社会をどうすればつくれるでしょうか。本企画では、昨年、学会の青年世代と「未来対談」を行った慶應義塾大学の井手英策教授の寄稿を掲載し、財政の視座からこの問いに迫ります。読者の皆さんから質問も募り、「若者たちの未来」を考えます。
暮らしに必要な費用
暮らしに必要な費用
はじめまして! 井手英策と申します。これから約1年間、一緒に学ばせていただくことになりました。みなさんとの対話は僕の力になります。遠慮なく質問してください!
僕はこれまで財政学を学んできました。財政という、ちょっとかた苦しい言葉、みなさんはどんな意味を想像しましたか? ランチでお金の余裕がないとき、「今月は財政がきびしいなあ」と言います。借金が増えている政府を見て「財政赤字が心配だ」なんて言ったりもしますね。
私たちは、ある月、ある年の収入とにらめっこしながら支出計画を作ります。家庭なら家計簿、国なら予算です。日本では、国や地方自治体が4月から翌年3月までの予算を作ってお金を集め、国民や住民の必要なものに使っています。このお金の流れを「財政」とよびます。
経験者が8割に達するといわれる家計簿。みなさんならどんな項目が思い浮かぶでしょう。食費、水道光熱費は絶対入りますよね。あとは子どもの教育費、病気のそなえ、スマホ代や友だちと遊ぶお金も加わりそうです。
国の予算も同じです。医療費、介護費、教育費、道路や橋の建設費など、私たちが安心して生きる、暮らすために「必要な費用」が予算書に細かく書きこまれています。
さてここで質問です。僕はいま、「必要な費用」と言いました。では、「必要なもの」を決めているのは誰でしょう?
お母さんやお父さんが子どものお小遣いを取り上げておいしいご飯を食べていたら、子どもたちは怒っちゃいますよね。家族全員で話し合って、「みんなが必要なもの」を決めるのが、一番納得のいくやりかたです。
財政もかわりません。国民に選ばれた政治家が国会で話し合って「みんなが必要なもの」を決めています。もちろん、各政党は考えかたがちがいます。ですから、例年1月から3月にかけて予算案が審議されると、激しいやりとりが交わされることになります。
このように、予算は「国の家計簿」としての顔を持っています。でも気をつけてください! なぜなら家計と財政には大きなちがいもあるからです。
まず、家計の収入は、自分たちが稼いだお金でできています。でも、財政は国民から集めた「税金」で成りたっています。
家計で収入を増やすのって大変ですよね。いやな仕事をガマンしたり、早朝から深夜まで働いたりしないといけません。おまけに、収入の範囲内でやりくりできなければ、家計はあっという間に火の車になってしまいます。
でも財政の場合、国や地方自治体は、お金が足りなくても、税率を上げれば収入を増やせます。説明さえうまくできれば、誰かが働かなくても、お金を使う余裕ができるのです。
もう一点、家計では、たいてい目の前の家族にお金が使われます。でも、財政では、私たちの払ったお金が誰にどれくらい使われているのか、よく分かりませんよね。払った税金がムダ遣いされている、という怒りの声を、みなさんもよく耳にするはずです。
本当は「予算書」にその答えが書かれているんです。でも千ページをこえる冊子をひとりでチェックするなんて……正直、僕でもムリです。だから、新聞やテレビを活用し、ときには近所の仲間と学び合いながら、真実を見抜かなければなりません。
政治家はムダ遣いをしていないか、税金を誰から集めているのか、誰に、どれくらいのお金が使われているのか……家計とちがって、財政が機能するには、民主主義の助けが欠かせません。民主的に監視して、公正な財政をつくる。だから財政学者は、「財政民主主義」という言葉をとても大切にするのです。
学びを深めましょう。うちには4人の子どもがいます。教育費、本当にしんどいです。僕はどんなに疲れていてもタクシーを使いません。服も安物でガマンします。節約、節約で切ない話ですけど、しょうがないですよね。子どものためですから。きっと僕の親もこんな気持ちだったのだと思います。
では、自分の払った税金が、知らない子どもたちに使われるとしたらどうでしょう。ある人は「しかたない」と言うでしょう。でも、ある人は「子どもの教育費くらい親が払いなよ」と思うかもしれません。
家族は愛と信頼の糸で結ばれています。もし社会が家族みたいだったら、自分の払った税は、共に生きる仲間への応援だと感じるでしょう。でも、社会を赤の他人の集まりだと考えるのなら、税を取られて見知らぬ人に使われるのは、苦痛なはずです。
そうです。財政の姿は自分と他者の幸せを調和させようという気持ちの有無で変わるのです。他者の幸せは自分の幸せと関係ないと考える社会は、税が取れず、弱々しい財政になってしまうのです。
はじめまして! 井手英策と申します。これから約1年間、一緒に学ばせていただくことになりました。みなさんとの対話は僕の力になります。遠慮なく質問してください!
僕はこれまで財政学を学んできました。財政という、ちょっとかた苦しい言葉、みなさんはどんな意味を想像しましたか? ランチでお金の余裕がないとき、「今月は財政がきびしいなあ」と言います。借金が増えている政府を見て「財政赤字が心配だ」なんて言ったりもしますね。
私たちは、ある月、ある年の収入とにらめっこしながら支出計画を作ります。家庭なら家計簿、国なら予算です。日本では、国や地方自治体が4月から翌年3月までの予算を作ってお金を集め、国民や住民の必要なものに使っています。このお金の流れを「財政」とよびます。
経験者が8割に達するといわれる家計簿。みなさんならどんな項目が思い浮かぶでしょう。食費、水道光熱費は絶対入りますよね。あとは子どもの教育費、病気のそなえ、スマホ代や友だちと遊ぶお金も加わりそうです。
国の予算も同じです。医療費、介護費、教育費、道路や橋の建設費など、私たちが安心して生きる、暮らすために「必要な費用」が予算書に細かく書きこまれています。
さてここで質問です。僕はいま、「必要な費用」と言いました。では、「必要なもの」を決めているのは誰でしょう?
お母さんやお父さんが子どものお小遣いを取り上げておいしいご飯を食べていたら、子どもたちは怒っちゃいますよね。家族全員で話し合って、「みんなが必要なもの」を決めるのが、一番納得のいくやりかたです。
財政もかわりません。国民に選ばれた政治家が国会で話し合って「みんなが必要なもの」を決めています。もちろん、各政党は考えかたがちがいます。ですから、例年1月から3月にかけて予算案が審議されると、激しいやりとりが交わされることになります。
このように、予算は「国の家計簿」としての顔を持っています。でも気をつけてください! なぜなら家計と財政には大きなちがいもあるからです。
まず、家計の収入は、自分たちが稼いだお金でできています。でも、財政は国民から集めた「税金」で成りたっています。
家計で収入を増やすのって大変ですよね。いやな仕事をガマンしたり、早朝から深夜まで働いたりしないといけません。おまけに、収入の範囲内でやりくりできなければ、家計はあっという間に火の車になってしまいます。
でも財政の場合、国や地方自治体は、お金が足りなくても、税率を上げれば収入を増やせます。説明さえうまくできれば、誰かが働かなくても、お金を使う余裕ができるのです。
もう一点、家計では、たいてい目の前の家族にお金が使われます。でも、財政では、私たちの払ったお金が誰にどれくらい使われているのか、よく分かりませんよね。払った税金がムダ遣いされている、という怒りの声を、みなさんもよく耳にするはずです。
本当は「予算書」にその答えが書かれているんです。でも千ページをこえる冊子をひとりでチェックするなんて……正直、僕でもムリです。だから、新聞やテレビを活用し、ときには近所の仲間と学び合いながら、真実を見抜かなければなりません。
政治家はムダ遣いをしていないか、税金を誰から集めているのか、誰に、どれくらいのお金が使われているのか……家計とちがって、財政が機能するには、民主主義の助けが欠かせません。民主的に監視して、公正な財政をつくる。だから財政学者は、「財政民主主義」という言葉をとても大切にするのです。
学びを深めましょう。うちには4人の子どもがいます。教育費、本当にしんどいです。僕はどんなに疲れていてもタクシーを使いません。服も安物でガマンします。節約、節約で切ない話ですけど、しょうがないですよね。子どものためですから。きっと僕の親もこんな気持ちだったのだと思います。
では、自分の払った税金が、知らない子どもたちに使われるとしたらどうでしょう。ある人は「しかたない」と言うでしょう。でも、ある人は「子どもの教育費くらい親が払いなよ」と思うかもしれません。
家族は愛と信頼の糸で結ばれています。もし社会が家族みたいだったら、自分の払った税は、共に生きる仲間への応援だと感じるでしょう。でも、社会を赤の他人の集まりだと考えるのなら、税を取られて見知らぬ人に使われるのは、苦痛なはずです。
そうです。財政の姿は自分と他者の幸せを調和させようという気持ちの有無で変わるのです。他者の幸せは自分の幸せと関係ないと考える社会は、税が取れず、弱々しい財政になってしまうのです。
財政は社会を映す鏡
財政は社会を映す鏡
さあ! みなさんはいま、財政学の「精髄」に近づきつつあります。財政の姿をよく見ると、社会の姿が見えてくる、財政は社会を映す鏡だ――私はみなさんにそう伝えようと思います。
図(社会保障対GDP比の比較)を見てください。これは、いま先進国でもっとも税金が重い国のひとつであるフランスと、日本の社会保障を比べたものです。
よく見てください。みなさんはこの図から何を読みとりますか?
まず、日本の社会保障はフランスのそれより明らかに少ないですね。あと、日本は年金・医療・介護等だけで全体の約8割を占めていますが、それ以外の支出がとてもひ弱です。
この数字から分かることを考えてみましょう。
年金・医療・介護は、基本的にお年寄りの生活を支えています。それが社会保障の大部分を占めるということは、逆に、若者たちは「自己責任」で生きなければならないことになります。
特に「その他」の社会保障には、障がい者、ひとり親家庭、失業者、家のない人たちへの支援が含まれます。つまり、日本は「弱い立場に置かれた人たち」への関心がうすい国、という悲しい現実が浮かび上がってきます。
えっ? お年寄りへの支出が大部分なの? 若いみなさんは不公平だと感じるかもしれません。
でもちょっと待ってください! 高齢化率、つまり、お年寄りの割合が増えていけば、年金・医療・介護は自動的に増えます。高齢化率は日本で30%、フランスで22%ですから、本当は日本の年金・医療・介護のほうが手厚くていいはず。それなのに、フランスのほうが明らかに充実しているのです。
そうなんです。日本では、お年寄りへの社会保障が不十分なうえ、現役世代、弱い立場に置かれた人たちに対しても、あまりにも弱々しい社会保障しか用意されていません。
みなさんは、「政府なんて信頼できない」「国がムダ遣いをするから税を払うのはイヤだ」と感じることはありませんか?
気持ちは分かります。でもさまざまな国際データによると、フランスの人たちは私たちと同じか、それ以上に政府のことを信じていません。それなのに、彼らは、私たちより仲間のために税を払い、そのお金でお年寄り、現役世代、弱い立場に置かれた人たちのことを支えようとしています。みなさんはどちらの国に住みたいでしょうか。
もう一度言いますね。財政は社会を映す鏡なのです。僕は、自他共の幸福のために祈り、行動する、そんな優しく、誇りにみちた財政をみんなでつくりたい。そんな温かい社会を若者たちに残して死にたい。
私も同じです!というあなた。ちょっぴり心が揺れた君。さあ船出です。より良い社会をめざす、学びの旅を始めましょう!
さあ! みなさんはいま、財政学の「精髄」に近づきつつあります。財政の姿をよく見ると、社会の姿が見えてくる、財政は社会を映す鏡だ――私はみなさんにそう伝えようと思います。
図(社会保障対GDP比の比較)を見てください。これは、いま先進国でもっとも税金が重い国のひとつであるフランスと、日本の社会保障を比べたものです。
よく見てください。みなさんはこの図から何を読みとりますか?
まず、日本の社会保障はフランスのそれより明らかに少ないですね。あと、日本は年金・医療・介護等だけで全体の約8割を占めていますが、それ以外の支出がとてもひ弱です。
この数字から分かることを考えてみましょう。
年金・医療・介護は、基本的にお年寄りの生活を支えています。それが社会保障の大部分を占めるということは、逆に、若者たちは「自己責任」で生きなければならないことになります。
特に「その他」の社会保障には、障がい者、ひとり親家庭、失業者、家のない人たちへの支援が含まれます。つまり、日本は「弱い立場に置かれた人たち」への関心がうすい国、という悲しい現実が浮かび上がってきます。
えっ? お年寄りへの支出が大部分なの? 若いみなさんは不公平だと感じるかもしれません。
でもちょっと待ってください! 高齢化率、つまり、お年寄りの割合が増えていけば、年金・医療・介護は自動的に増えます。高齢化率は日本で30%、フランスで22%ですから、本当は日本の年金・医療・介護のほうが手厚くていいはず。それなのに、フランスのほうが明らかに充実しているのです。
そうなんです。日本では、お年寄りへの社会保障が不十分なうえ、現役世代、弱い立場に置かれた人たちに対しても、あまりにも弱々しい社会保障しか用意されていません。
みなさんは、「政府なんて信頼できない」「国がムダ遣いをするから税を払うのはイヤだ」と感じることはありませんか?
気持ちは分かります。でもさまざまな国際データによると、フランスの人たちは私たちと同じか、それ以上に政府のことを信じていません。それなのに、彼らは、私たちより仲間のために税を払い、そのお金でお年寄り、現役世代、弱い立場に置かれた人たちのことを支えようとしています。みなさんはどちらの国に住みたいでしょうか。
もう一度言いますね。財政は社会を映す鏡なのです。僕は、自他共の幸福のために祈り、行動する、そんな優しく、誇りにみちた財政をみんなでつくりたい。そんな温かい社会を若者たちに残して死にたい。
私も同じです!というあなた。ちょっぴり心が揺れた君。さあ船出です。より良い社会をめざす、学びの旅を始めましょう!
いで・えいさく 1972年生まれ。慶應義塾大学経済学部教授。専門は財政社会学。
いで・えいさく 1972年生まれ。慶應義塾大学経済学部教授。専門は財政社会学。
井手教授への質問を募集します
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井手教授への質問や記事の感想をお寄せください。今後、井手教授が読者の皆さまからの質問に答える企画も予定しています。
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