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〈SDGs×SEIKYO〉 捨てられる皮を喜ばれる革へ――国内初の“豚革プロデューサー” 2024年1月16日

4:10

 日本一の豚革加工産地として知られる東京・墨田区で、“豚革プロデューサー”として活動する児嶋真人さん(31)=男子部ニュー・リーダー。2021年に豚革ブランド「Sai」を立ち上げ、豚革製品を通じて豚の原皮から製品が生まれるまでのストーリーを伝えています。(今回はSDGsの12番目の目標「つくる責任 つかう責任」について考えます。取材=石塚哲也、石井和夫)

この記事のテーマは「つくる責任 つかう責任」

 「ピッグスキン(豚革)」は、国内で自給できる唯一の革素材。食肉加工の過程で処理される「皮」を有効利用して作られている。

 他の革よりも通気性や耐摩耗性が高く、輸出先の海外では牛革と同じく高級素材として扱われるほど。しかし、国内では豚というだけで「安そう」「臭そう」とマイナスのイメージを抱く人も少なくない。

 「豚さんは本来“きれい好き”な動物です。捨てられてしまわないよう“皮”に、もう一度命を吹き込み、豚さんは永遠に生きていく。すてきな豚革ストーリーを知ってもらう“きっかけ”づくりを、僕はしているんです」

 3年前まで児嶋さんは、プロキックボクサーとして活躍していた。階級別で日本ランク2位まで進んだが、生計を立てるのは難しかった。競技活動と並行してアパレル事業を手がける。革製品に興味があり、牛革小物の販売を始めた。

 牛革の仕入れのため、知り合いに紹介されて訪れたのが、株式会社「墨田キール」だった。社長から「うちは牛もやってるけど豚がメインなんだよ」と言われ、生まれて初めて豚革を手に取った。

 「軽くて、柔らかくて、あの温かい感触は、今も手のひらに残っています」

 墨田区は国内トップの豚革加工産地だと聞く。豚革が作られる工程を知りたくなり「墨田キール」の社長に頼み込んで工場で働かせてもらうことに。豚の“皮”を“革”にする「なめし工場」にも飛び込んだ。

 だが“新参者”が信用されるはずはない。物珍しさから豚革に飛び付いてくる商売人を、長年見てきた職人たちの目は厳しかった。最初は、作業工程を見せてもらうこともかなわなかった。

 児嶋さんの故郷は、茨城県潮来市。養豚が盛んで、養豚業を営む友人も多くいた。聞いてみると、豚の皮が革製品に活用されている事実を知らないという。

 「自分たちが大切に育てた豚の全てを生かしてくれているのか」

 生産者たちの喜びの声を革加工の職人たちに伝えた。

 児嶋さんは実際に、豚革の製品づくりに取り組んだ。調べていくと、墨田区は古くから紡績や鉄鋼業など、ものづくりが活発で、革小物の縫製工場も点在していた。

 しかし、工場を訪ねてみると、扱う革の大半が輸入した牛や馬ばかり。豚革を扱う工場がなかった。

 「豚革加工の技術、革小物の縫製技術、世界有数の技術がこんな近くにあるのに生かされていない。墨田の力を結集して、“メイドインスミダ”を実現できれば、地域を盛り上げられるはずだ」

 豚革を自ら一枚一枚、選んで仕入れる。縫製工場に持ち込み、財布などに仕上げてもらった。

 出来上がった試作品を、なめし工場の職人に見せると「いい出来じゃないか」と笑顔を見せてくれた。

 2021年、児嶋さんは墨田区に拠点を移し、さらに本気で豚革に向き合い、商品開発を続けた。

 生活は苦しく、何度もやめようとも思った。そんな時、決まって「題目を送ってるから」と、茨城に住む祖母や母が連絡をくれた。墨田の男子部の仲間も支えてくれた。

 「児嶋くん、池田先生は〈真剣な祈りと一人一人との対話は、必ず家庭や職場や地域、ひいては世界までも変えていけるんだ〉と教えてくださっている。一緒に夢をつかんでいこう!」

墨田総区男子部のメンバーと語らう児嶋さん(中央)
墨田総区男子部のメンバーと語らう児嶋さん(中央)

 同年、キックボクサーを引退し、豚革ブランド「Sai」を設立。バッグや財布などの豚革小物の販売を始めた。

 昨年には、「日本の豚革技術の危機を救いたい」と国内最大のクラウドファンディングサイトで資金を調達。墨田区内の豚革を扱う会社が激減する中で、若者の挑戦が注目を集めた。行政からも墨田区のモデル事業として取り上げられた。

株式会社「墨田キール」社長の長谷川憲司さん
株式会社「墨田キール」社長の長谷川憲司さん

 児嶋さんの挑戦を近くで見てきた「墨田キール」の長谷川憲司社長も「彼のような若い力に未来を託したい」と期待を寄せる。

 使われなければ、捨てられてしまう豚の皮を生まれ変わらせる。小さな墨田の町でなくなりかけていた“豚革”の価値を日本へ、世界へ発信していく。

 「そのストーリー自体が、サステナブル(持続可能)な取り組みだと思っています」

●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ぜひ、ご感想をお寄せください→ sdgs@seikyo-np.jp

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※バックナンバーが無料で読めます※


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