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〈Seikyo Gift〉 闘病が人生の扉を開いた――マレーシアの大学の日本語教員 2023年10月1日

  • 〈My Drama〉
マレーシア創価学会 鐘宝燕さん

 あの病は、今の私になるために“欠かせない”ものだった――。

 マレーシア最大の国立大学で日本語教員を務める鐘宝燕さん。ひらがなが書かれたホワイトボードを見つめる学生たちを前に、ふと闘病の月日を思い起こす。

 18歳で母と共に信心を始めた鐘さんが、「ステージ2の乳がん」と診断されたのは、博士課程進学への準備を進めていた頃だった。

 日本留学を経て、大学で日本語の上級講師になったばかり。いよいよこれから、という時の突然の宣告。5歳と7歳の子どもたちもいた。
 「パニックになりました。どうしよう、どうしようと、恐くて仕方なくて……」

病気になった私の使命は?

 毎朝、目を覚ますと思った。夢であってほしい――。
 だが、病は現実だった。池田先生の書籍を読み、御本尊に向かうほかなかった。

 「自分はもうダメかもしれない」と沈んでいた当初、心に染みた先生の言葉がある。それは“病気になることは、人生に負けたことでも、決して恥ずかしいことでもない”との指針だった。

 鐘さんは当時を振り返る。
 「心のどこかで、病気になった自分を恥じ、さげすんでいたことに気付かされました」

 終わりの見えない闘病生活は、つらいものだった。だが、家族のためにも負けるわけにはいかない。育児・家事を全面的に担ってくれた夫、いつも家を訪ね、励ましてくれたマレーシア創価学会のメンバーの存在が、何よりの支えとなった。

区婦人部長を務める鐘さん(前列右端)が地元の地区のメンバーと
区婦人部長を務める鐘さん(前列右端)が地元の地区のメンバーと

 一時、治療のさなかで職場に復帰したことがある。だが、薬の副作用で物がかすんで見え、仕事に集中できない。疲れもひどかった。夜、御本尊に向かう。涙があふれ、祈りが声にならない。先生の書籍を、強く握り締めるようにして開いた。

 「この時期ほど、池田先生を身近に感じたことはありません。先生の本を読むと、まさに、私自身に語りかけてくださっているようで、先生と心の中で対話する思いでした」

 唱題を重ねる中、鐘さんは、自分の人生を見つめ直すようになった。
 「家族や友人、学生など、一人一人のことをもっと大切にして、今この瞬間を、精いっぱい生きていきたい」

 また、学会の同志と赤裸々に悩みを語り、仏法哲理を学び合う中、少しずつ心が前を向いた。「なぜ、私は病気になったのか」ばかり気にしていたのが、「病気になった私の使命は何?」と考えるようになった。

 ある日、「御みやづかいを法華経とおぼしめせ」(新1719・全1295)との御書の一節を読み、ハッとした。

 池田先生が「人生最後の事業」と言った教育の分野で仏法の力を示していくことが、私が選んだ使命の道ではなかったのか。必ず病を乗り越えて、再び教壇に立つんだ!――そう深く心に誓った。

 薬物治療と手術を繰り返し、寛解に至るまでに費やした5年間。この歳月こそ、鐘さんにとって、信心の揺るぎない原点を築く、かけがえのない日々となった。 

教育改革に貢献し、特例で准教授に

 心新たに職場に戻ると、学生が前よりも一層、いとおしく思えた。

 「学生の民族や宗教は、さまざまです。でも私は仏法者として、誰にでも仏性があると信じています。その仏性に語りかける思いで接すると、学生たちの顔も明るく元気になる。不思議ですが、そう感じます」

 2017年、鐘さんは日本語学科の主任となった。そこで意を決し、教育カリキュラムの改革に着手した。だが、教員の意見の食い違いなど、さまざまな困難に遭う。

 「それでも私には、正しいと思うことのためには簡単に諦めてはいけない、との信念がありました。学生の成長のために祈り抜き、力を尽くしました」

 そして、ついに20年間続くカリキュラムを一新し、最新の教科書や採点方式を導入。後にコロナ禍の中で役立つオンライン授業も整備した。

 その後、鐘さんは、さらに重要な仕事を任された。海外大学との交流だ。この数年で、日本をはじめ、中国、韓国、タイ、インドネシア、南米や中東の国々の大学と、次々と交流協定を締結することができた。

 2021年には、鐘さんに「大学貢献賞」が贈られ、さらに思いがけないことが起こる。
 博士号を持っていないため、本来、昇格の機会はないはずだった。しかし彼女の功績が高く評価され、「准教授」への就任が決まったのである。

 「全て、池田先生の励まし、学会での薫陶のおかげです。感謝しかありません。創価の人間教育の理念を胸に、さらに学生のため、大学の発展のために頑張る決心です」

最愛の家族と共に(左から2人目が鐘さん)
最愛の家族と共に(左から2人目が鐘さん)

 気付けば、あの闘病の月日から、すでに15年――。

 苦しいといえば、あれほど苦しかったことはない。しかし鐘さんは、「自分の人生から、この病気の時期を抜き取ってしまうのは、今では“もったいない”と思えます」と力説する。「なぜなら、この病気が私を真に強くしてくれたからです」

 鐘さんは、病気などを抱えるメンバーや学生に「絶対に大丈夫だよ」と声をかけ、親身になって相談に乗っている。

 病は苦しいだけのものじゃない。新たな人生の扉を開く力にもなる、との実感を込めて――。(8月11日付)

<取材協力/マレーシア「宇宙」誌>

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