〈医療〉 男性の更年期障害 「重症なら『LOH症候群』」
〈医療〉 男性の更年期障害 「重症なら『LOH症候群』」
2023年2月27日
- 今日のポイント テストステロンの減少が原因
- 今日のポイント テストステロンの減少が原因
男性も、40~50代の1割が症状を経験するという更年期障害。昨年、50代のタレントであるヒロミさんが発症していたことを公表し、話題にもなりました。診療ガイドラインを手がけた堀江重郎主任教授(順天堂大学大学院医学研究科)に聞きました。
男性も、40~50代の1割が症状を経験するという更年期障害。昨年、50代のタレントであるヒロミさんが発症していたことを公表し、話題にもなりました。診療ガイドラインを手がけた堀江重郎主任教授(順天堂大学大学院医学研究科)に聞きました。
「単なる疲れ」「年のせい」ではない
「単なる疲れ」「年のせい」ではない
――どのような症状が起きるのでしょうか。
いわゆる「ハツラツさ」「やる気」が失われ、言動が内向きになります。
多い症状は「イライラする」「不眠」「集中力の低下」。身体症状としては、「異常な発汗」「頻尿」「ほてり」「めまい」「性欲減退」「疲労感」などがみられます。
「年のせい」と捉えがちな症状が大半ですが、例えば「イライラ」「不眠」は、単なる加齢や疲れが原因で起こるわけではありません。
――どのような症状が起きるのでしょうか。
いわゆる「ハツラツさ」「やる気」が失われ、言動が内向きになります。
多い症状は「イライラする」「不眠」「集中力の低下」。身体症状としては、「異常な発汗」「頻尿」「ほてり」「めまい」「性欲減退」「疲労感」などがみられます。
「年のせい」と捉えがちな症状が大半ですが、例えば「イライラ」「不眠」は、単なる加齢や疲れが原因で起こるわけではありません。
発症の可能性は30代から90代まで
発症の可能性は30代から90代まで
――更年期障害とは?
性ホルモンの量が減ることにより、心身が不調になる障害です。男性の場合は、性ホルモンの代表格「テストステロン」が減少することが原因です。
国際的に使われている調査票「AMS」での問診と、血液検査で診断します。AMSは、セルフチェックもできます。
テストステロンが病的に少なく、症状が顕著なら「LOH(加齢男性・性腺機能低下)症候群」と診断されます。テストステロン量の増減は個人差があり、高齢になってもそれほど量が減らない人もいれば、30代で激減する人もいます。40~50代の患者が多いのですが、発症の可能性は30代から90代まであります。
女性は、程度の差はありますが、一定の時期(閉経期)に、誰もが更年期を迎えます。一方、男性は誰もが迎えるわけでなく、時期もまちまち。女性と異なり、時間がたてば治まるとも言い切れません。
――更年期障害とは?
性ホルモンの量が減ることにより、心身が不調になる障害です。男性の場合は、性ホルモンの代表格「テストステロン」が減少することが原因です。
国際的に使われている調査票「AMS」での問診と、血液検査で診断します。AMSは、セルフチェックもできます。
テストステロンが病的に少なく、症状が顕著なら「LOH(加齢男性・性腺機能低下)症候群」と診断されます。テストステロン量の増減は個人差があり、高齢になってもそれほど量が減らない人もいれば、30代で激減する人もいます。40~50代の患者が多いのですが、発症の可能性は30代から90代まであります。
女性は、程度の差はありますが、一定の時期(閉経期)に、誰もが更年期を迎えます。一方、男性は誰もが迎えるわけでなく、時期もまちまち。女性と異なり、時間がたてば治まるとも言い切れません。
AMS
Q1 調子が思わしくない
Q2 腰や膝など関節や筋肉が痛い
Q3 急に汗をかいたり、ほてったりする
Q4 寝つきが悪い。ぐっすり眠れない
Q5 よく眠くなる。疲れを感じる
Q6 イライラする
Q7 神経質になった。落ち着かない
Q8 急に不安になる
Q9 体の疲労や行動力の低下
Q10 筋力の低下
Q11 気持ちが沈む
Q12 人生の絶頂期は過ぎたと感じる
Q13 力尽きた、どん底にいると感じる
Q14 ひげの伸びが遅くなった
Q15 性的能力が衰えた
Q16 早朝勃起が減った
Q17 性欲がなくなった
症状がなければ1、非常に重ければ5と、各項目に1~5の点を付ける。
計26点以下は健康、27~36点は軽症、37~49点は中等症、50点以上は重症。
AMS
Q1 調子が思わしくない
Q2 腰や膝など関節や筋肉が痛い
Q3 急に汗をかいたり、ほてったりする
Q4 寝つきが悪い。ぐっすり眠れない
Q5 よく眠くなる。疲れを感じる
Q6 イライラする
Q7 神経質になった。落ち着かない
Q8 急に不安になる
Q9 体の疲労や行動力の低下
Q10 筋力の低下
Q11 気持ちが沈む
Q12 人生の絶頂期は過ぎたと感じる
Q13 力尽きた、どん底にいると感じる
Q14 ひげの伸びが遅くなった
Q15 性的能力が衰えた
Q16 早朝勃起が減った
Q17 性欲がなくなった
症状がなければ1、非常に重ければ5と、各項目に1~5の点を付ける。
計26点以下は健康、27~36点は軽症、37~49点は中等症、50点以上は重症。
分泌量が増減する“社会性のホルモン”
分泌量が増減する“社会性のホルモン”
――テストステロンとはどんなホルモンですか。
“社会性のホルモン”と呼ばれ、「意欲」「認知力」「筋力」「統率力」「貢献心」「ストレス耐性」などを高めます。性ホルモンですから当然、生殖機能も高めます。男性が何百万年も行ってきた「集団での狩猟」に関わるホルモンといわれ、分泌量は“自己肯定感”と深く連動し、常に増減しています。
例えば、他人から「認められる」「感謝される」「褒められる」「好かれる」、あるいは「競争に勝つ」「物事を発見する」ことなどで増えます。逆に、仕事の失敗や目標の未達成などがあると減ります。
――テストステロンとはどんなホルモンですか。
“社会性のホルモン”と呼ばれ、「意欲」「認知力」「筋力」「統率力」「貢献心」「ストレス耐性」などを高めます。性ホルモンですから当然、生殖機能も高めます。男性が何百万年も行ってきた「集団での狩猟」に関わるホルモンといわれ、分泌量は“自己肯定感”と深く連動し、常に増減しています。
例えば、他人から「認められる」「感謝される」「褒められる」「好かれる」、あるいは「競争に勝つ」「物事を発見する」ことなどで増えます。逆に、仕事の失敗や目標の未達成などがあると減ります。
(PIXTA)
(PIXTA)
自己肯定感の低下も要因
自己肯定感の低下も要因
――どういう人に起きやすいのでしょうか。
仕事や家庭、人間関係がうまくいっていない等、ストレスを受けて自己肯定感が下がっている人です。
仕事なら、過剰な目標、パワハラ被害、長時間労働などが要因です。退職を機に発症する人も多くいます。努力を評価してくれる人を失うため、テストステロンも減るからです。
転職や人事異動も要注意です。例えば、現場から管理部門に移る時も、目標やスキル、達成感が異なるため、危ないといわれます。
――どういう人に起きやすいのでしょうか。
仕事や家庭、人間関係がうまくいっていない等、ストレスを受けて自己肯定感が下がっている人です。
仕事なら、過剰な目標、パワハラ被害、長時間労働などが要因です。退職を機に発症する人も多くいます。努力を評価してくれる人を失うため、テストステロンも減るからです。
転職や人事異動も要注意です。例えば、現場から管理部門に移る時も、目標やスキル、達成感が異なるため、危ないといわれます。
(PIXTA)
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運動、趣味、集い…仲間とたたえ合う
運動、趣味、集い…仲間とたたえ合う
――治療法は?
中・軽症であれば、生活環境の改善を促したり、ビタミン剤や漢方薬を処方したりして、テストステロンの増加を図ります。
重症も含めて、最大の治療法であり予防法は「自己肯定感を高める環境づくり」です。現役世代なら、職場の同僚同士で認め合える場があると望ましいですね。気を使わない旧友などに会うことも大事です。
運動して筋肉を使うこともテストステロンを増やします。1人で走ったり、鍛えたりするより、「ナイススイング!」などとたたえ合えるゴルフや野球等、仲間と行うスポーツの方が効果は高いと思います。カラオケや書道など、上達を目指して皆と褒め合える趣味もオススメです。
とにかく「他人とつながる」「仲間をつくる」ことです。仕事で疲れ切り帰宅。孤食して就寝し、また仕事……こうした生活で仲間ができない男性は多いようですが、ボランティア活動をするだけで改善した例もあります。周囲の“感謝”は、それほど大きいのです。
仲間と集まって認め合い、前へ進もうと励まし合う。そういった宗教などの“集い”に行くことも意味がありますね。
食事では普段から、テストステロンを高める“栄養素”を含む食材を取ってください。代表的な食材は、ビタミンDが豊富な鮭、そして亜鉛が豊富な貝類ですね。ビタミン剤などで補うこともよいでしょう。
――治療法は?
中・軽症であれば、生活環境の改善を促したり、ビタミン剤や漢方薬を処方したりして、テストステロンの増加を図ります。
重症も含めて、最大の治療法であり予防法は「自己肯定感を高める環境づくり」です。現役世代なら、職場の同僚同士で認め合える場があると望ましいですね。気を使わない旧友などに会うことも大事です。
運動して筋肉を使うこともテストステロンを増やします。1人で走ったり、鍛えたりするより、「ナイススイング!」などとたたえ合えるゴルフや野球等、仲間と行うスポーツの方が効果は高いと思います。カラオケや書道など、上達を目指して皆と褒め合える趣味もオススメです。
とにかく「他人とつながる」「仲間をつくる」ことです。仕事で疲れ切り帰宅。孤食して就寝し、また仕事……こうした生活で仲間ができない男性は多いようですが、ボランティア活動をするだけで改善した例もあります。周囲の“感謝”は、それほど大きいのです。
仲間と集まって認め合い、前へ進もうと励まし合う。そういった宗教などの“集い”に行くことも意味がありますね。
食事では普段から、テストステロンを高める“栄養素”を含む食材を取ってください。代表的な食材は、ビタミンDが豊富な鮭、そして亜鉛が豊富な貝類ですね。ビタミン剤などで補うこともよいでしょう。
筋肉注射で直接補充
筋肉注射で直接補充
――重症者には、どのような対応になりますか。
高濃度のテストステロンを2~4週間に1回、筋肉注射して、直接補充します。
過剰に補充すると多血症や精子減少などの恐れがありますが、「病的にテストステロンが少ない患者」への補充ですので、健康被害は、ほぼありません。
こうしたホルモン治療は、用法・用量を守れば安全性の高い療法です。
――重症者には、どのような対応になりますか。
高濃度のテストステロンを2~4週間に1回、筋肉注射して、直接補充します。
過剰に補充すると多血症や精子減少などの恐れがありますが、「病的にテストステロンが少ない患者」への補充ですので、健康被害は、ほぼありません。
こうしたホルモン治療は、用法・用量を守れば安全性の高い療法です。
(PIXTA)
(PIXTA)
社会復帰を治療の目標に
社会復帰を治療の目標に
――うつ病との違いは?
うつは「症状」を指し、原因は多岐にわたります。その原因の一つが更年期障害です。うつ病ではテストステロン量が少ない患者も多いため、抗うつ薬で改善しない場合は、LOHを疑ってもよいと思います。
実際、次のように受診する方が多く見られます。
50代男性。若い頃から懸命に働いて家族を養い、家も建てました。しかし、連帯保証人になったことから家財を失い、家族からも責められ、心身も不調になりました。抗うつ薬を飲んでも治らず、男性更年期を疑い、当病院の泌尿器科を受診したのです。
検査すると、案の定、テストステロンが異様に少ない状態でした。過酷な“環境”によって引き起こされた、典型的なLOHと診断。補充療法を行うと、生きる意欲がよみがえり、今では別の仕事に就いて元気に働いています。
テストステロンは、アンチエイジング(抗老化)のホルモンでもあります。社会生活を営む手助けをするのです。
うつ病でもLOHでも、治療の最も大切な目標は“社会復帰”だと考えています。うつ症状が消えても社会復帰できていない方は、ぜひ病院で、テストステロンの値を測ってみてください。唾液を郵送するだけで測定できるサービス(HPテスティング)もあります。
――うつ病との違いは?
うつは「症状」を指し、原因は多岐にわたります。その原因の一つが更年期障害です。うつ病ではテストステロン量が少ない患者も多いため、抗うつ薬で改善しない場合は、LOHを疑ってもよいと思います。
実際、次のように受診する方が多く見られます。
50代男性。若い頃から懸命に働いて家族を養い、家も建てました。しかし、連帯保証人になったことから家財を失い、家族からも責められ、心身も不調になりました。抗うつ薬を飲んでも治らず、男性更年期を疑い、当病院の泌尿器科を受診したのです。
検査すると、案の定、テストステロンが異様に少ない状態でした。過酷な“環境”によって引き起こされた、典型的なLOHと診断。補充療法を行うと、生きる意欲がよみがえり、今では別の仕事に就いて元気に働いています。
テストステロンは、アンチエイジング(抗老化)のホルモンでもあります。社会生活を営む手助けをするのです。
うつ病でもLOHでも、治療の最も大切な目標は“社会復帰”だと考えています。うつ症状が消えても社会復帰できていない方は、ぜひ病院で、テストステロンの値を測ってみてください。唾液を郵送するだけで測定できるサービス(HPテスティング)もあります。
唾液を郵送するだけで測定できるサービス(HPテスティング)の詳細はこちら
唾液を郵送するだけで測定できるサービス(HPテスティング)の詳細はこちら
人生の後半戦をはつらつと開始
人生の後半戦をはつらつと開始
――どこに行けば診てもらえますか。
病院の泌尿器科になります。中でも、男性更年期障害の知識が豊富で、経験の多い医師に診てもらうとよいでしょう。「日本メンズヘルス医学会」のウェブサイトで、全国の専門外来の一覧を掲載しています。
更年期とは「人生のハーフタイム」です。後半戦への再スタートをハツラツと切ることが大事です。病院に行きたがらない男性は多くいますが、軽症段階で受診すれば、苦しむ時間も、治療期間も短く済みます。
泌尿器科医は男性の“友人”として寄り添います。ぜひ来院してください。
――どこに行けば診てもらえますか。
病院の泌尿器科になります。中でも、男性更年期障害の知識が豊富で、経験の多い医師に診てもらうとよいでしょう。「日本メンズヘルス医学会」のウェブサイトで、全国の専門外来の一覧を掲載しています。
更年期とは「人生のハーフタイム」です。後半戦への再スタートをハツラツと切ることが大事です。病院に行きたがらない男性は多くいますが、軽症段階で受診すれば、苦しむ時間も、治療期間も短く済みます。
泌尿器科医は男性の“友人”として寄り添います。ぜひ来院してください。