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〈文化〉 人間はどう進化してきたのか 飯島治之(北海道リハビリテーション大学校解剖学講師) 2026年4月23日

  • 重い脳を支えるため
  • 4足から2足歩行に
その時の構造を使い回す

 年を取ると腰痛や膝痛に悩まされます。普段からの体の使い方もありますが、多くの人が同じような悩みを抱えるというのは、これらの部位に負担がかかりやすいからです。
 ヒトは4足歩行から2足歩行になることで、脳を大きくし、進化の大きな転換点を迎えました。背骨はS字に湾曲し、足には土踏まずが形成され、体重を支える仕組みができました。しかし、立つことそのものが、腰や膝、頸椎などに負担をかけ、腰痛や関節障害を引き起こす原因となります。
 進化した結果というと、多くの人は、その状態に適応するため、最適な形に変化していると思うかもしれませんが、そんなことはありません。合理的に設計された機械のような構造はしていないのです。その時々の構造を使い回し、寄せ集めでできた仕組みも多くあります。
 例えば迷走神経。脳幹から出て、脊柱の近くを下降し、腹部内臓にまで達しています。内臓などの自律機能を支配していますが、一部、喉頭筋の運動も支配しています。反回神経と呼ばれる枝分かれなのですが、分かれる位置が胸腔内になるのです。つまり、脳幹から一度下降し、胸腔内で再び上昇し、喉頭につながっているのです。
 どうしてこのような経路を通るのでしょうか。喉頭は魚類の鰓に由来する器官です。肺が大きく発達し、心臓とともに後ろに移動した時に、迷走神経も腹腔内にまで引き伸ばされ、ループ状になったのです。これは全ての哺乳類に当てはまる事象なのです。

解剖学を知ることで納得

 女子学生の多くはダイエットで悩んでいるようです。解剖学を教えていると、胸は小さくならないようなダイエットはないか聞かれます。結論から言うと非常に難しい。それは、脂肪の種類が違うからです。
 脂肪にはエネルギー源となる蓄積脂肪と、内臓を守るための構造脂肪があります。子宮を守る下腹部の脂肪、眼球を支える眼窩脂肪、胸骨下の脂肪などはクッションとして、生命維持のために必要なのです。ダイエットによって、胸から痩せるのは、そこが単なる脂肪であり、必要不可欠な構造脂肪ではないからです。
 欧米のキャリアウーマンが、ハイヒールを履いてさっそうと歩く姿は絵になります。でも、注目してもらいたいのは、お尻の形。きゅっと上がっているから格好良く見えます。日本人に多い和尻とは異なります。お尻の筋肉(大臀筋)を使うから上がるのですが、ハイヒールを履いていると、それは難しいのです。
 ハイヒールを履いていると、踵からついて歩くのが難しくなります。バランスを取るために、膝が出てしまい、その結果、ちょこちょこと歩くことに。それではお尻の筋肉は使われず、和尻になってしまいます。良い方法は、通勤にはスニーカーやローヒールで、会社でハイヒールに履き換えるというもの。
 このように、解剖学を知ることで納得できる現象は多くあります。

足跡が体に刻まれている

 地球上の生き物は、皆、生き残るために進化してきました。例えば、肉食動物なら獲物を捕らえるための、敏捷性や鋭い爪や牙を。草食動物なら、捕まらないための足や、敵を察知するための耳や鼻を発達させてきました。
 ヒトは、身体能力では彼らにかなわないものの、頭を発達させて、知恵を使い生き残ってきました。人体は不完全で、進化の寄せ集めのような構造をしています。しかしその不完全さが面白いのです。
 2足歩行になり、腰や膝に負担を抱えながらも、頭を使うことで生き延び、繁栄してきました。その進化の足跡が、私たちの体に刻まれているのです。そこに解剖学の本質的な魅力もあると思います。
 興味を持たれた方は、拙著『なぜ人の体はこんなにつくりが悪いのか』(技術評論社)を一読いただければと思います。読者の皆さんが自身の体に興味を持ち、日常の動作や健康への背景にも目を向けてもらえたらと思っています。=談

 いいじま・はるゆき 北海道リハビリテーション大学校解剖学講師。東京女子医科大学准教授、了徳寺大学客員教授などを経て現職。著書に『なぜ人の体はこんなにつくりが悪いのか』『解剖生理学がわかる』がある。

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