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電子版連載〈WITH あなたと〉 #発達障がい 22歳の絵本作家の挑戦 2025年5月10日

  • 「僕の全部が武器になる」――ADHD(注意欠如・多動症) ASD(自閉スペクトラム症)から自分を見つめる
7:12

●小野寺悠来さんの絵本はこちらからご覧になれます

●悠来さん本人が絵本を読んでいる動画はこちらからご覧になれます

 上のリンクから絵本『たたかう1ぴき狼』を読んでみてください。発達障がいがある主人公と、その子と向き合うお母さんの物語。主人公のモデルは、作者である小野寺悠来さん(22)=岩手県奥州市、男子部員=自身です。なぜ絵本作家の道を選び、この作品を生み出したのか――。「自分にしかできないこと」を探して人生を“たたかい”続ける、彼の歩みを追いました。(取材=松岡孝伸、野呂輝明)

 幼い頃は、感情や行動をうまくコントロールできないと感じることが多かった。保育園では、周りの子どもとけんかになることも。「自分が悪いことをしたのは分かる。でも、何がどう悪かったのかが分からなかった」 
 小学校に入ってからは、授業中に教室を飛び出したり、自分の鉛筆が折れる音が気に入って友達の鉛筆まで次々と折ったりした。
 
 小学2年の時、医療機関を受診し、ADHD(注意欠如・多動症)とASD(自閉スペクトラム症)と診断された。母・美香さん=支部副女性部長=は、息子の気持ちに寄り添おうと決心した。絵が好きだった悠来さんのために、交換「絵」日記を始める。母は、息子の「好き」を伸ばそうと努めた。

悠来さんと母・美香さんの交換「絵」日記
悠来さんと母・美香さんの交換「絵」日記

 
 成長するにつれ、同級生とのトラブルは少なくなっていった。一方で、授業やクラブ活動にすぐ飽きてしまうことも。人知れず「周りと違う自分」であることに苦しんだ。
 それでも、自分を肯定できたのは、両親や恩師、友人をはじめ、周りの人たちが支えてくれたから。故郷である岩手県奥州市の“創価学会家族”の存在もその一つだ。

 ある時、地域の男子部員が、池田先生の著作『青春対話』を勧めてくれた。そこで出合った一節――「だれでも、何かの天才である」――のおかげで、自分のことを好きでいられた。そして、高校の美術コースを経て新潟県にある美術系大学へ進学した。

悠来さん(前列右から2人目)が家族と共に
悠来さん(前列右から2人目)が家族と共に

 
 大学ではデザインを専攻した。ほどなく、ベンチャー企業でアルバイトをしていた友人からの紹介で、仕事の依頼を得た。それをきっかけに、1・2年次は県内外の企業から広告やポスターの仕事が舞い込む。周囲からも一目置かれる存在になった。

 しかし、その裏側では苦労が絶えなかった。ADHDの薬を服用していた副作用で、寝付くのが難しい。加えて、大学の課題や仕事の納期に追われ、授業に遅刻することもしばしばだった。
 大学3年次、友人に初めて自分の内面を言葉にした。「みんなと足並みをそろえるだけで、精いっぱいだった」。その瞬間、涙があふれた。自分の心にうそをつき、無理をしていたことに気付いた。

 そんなある日。駅前に設置されたピアノを弾く女性を模写した。クロッキーという、短時間で対象を描写することを日課としていたからだ。描き終わろうとしたその時、隣にいる初老の男性がスケッチブックをのぞき込み、「おお!」と感嘆の声を上げた。
 男性がピアノを弾いていた女性に声をかけ、招き寄せる。女性は「何これ私? すごい」と声を上げた。その目の輝きと笑顔を見た時、「自分にしかできないこと」を見つけた気がした。

 目の前には二つの道が見えていた。一つ目の道は、学んできたデザインの技術で就職し、他者からの要望に応えていくこと。
 もう一つの道は、他者に寄り添いながらも、自分の考えを表現していくこと。そのために、大好きな「絵」を使って、昔の自分のように苦しんでいる子どもたちに、寄り添うことはできないか。
 自分の障がいも、それと向き合った経験も、人生全部を「武器」にして、未来の自分と子どもたちのために「たたかえる」方法――それが絵本だった。 

 こうして生まれたのが、自らの歩みをモデルにした「ウォル君シリーズ」。病院や学校に出向いて置いてもらい、朗読会も行った。障がいの有無にかかわらず、子どもや保護者から感動や共感の声が寄せられた。「これまでの経験のおかげで、発達障がいの特性がある子どもたちと、定型発達の子どもたちをつなげられたと思った」 

ウォル君(中央)とウォル君のお母さん(右)のイラスト
ウォル君(中央)とウォル君のお母さん(右)のイラスト

 
 この春、大学を卒業し故郷の岩手に戻った。絵本の制作をする傍ら、障がいがある子どもなどを対象とした支援施設の職員に対して、講演をしている。今後は読み聞かせなども行う予定だ。
 
 「絵本の創作は、僕にとって自分との対話です。絵を描くと、自分のクセや苦手な部分が嫌でも見えてくる。それでも一つ一つ受け止めて、描き進めるしかない。それが、あらゆる子どもたちに、勇気や自信を与えると信じて」 
 小野寺悠来さん、22歳。人生の“線”はまだ描きかけだ。でも、彼にしか描けない未来が、その続きにある。

 
お知らせ オンラインイベント テーマ「発達障がいと親の関わり方」

●「聖教新聞公式note__子育て会議」主催のオンラインイベントを開催します。
 今回は、自身の体験を描いた絵本を制作している小野寺悠来さんとお母さまの小野寺美香さんを招いて行います。
 
 ◎開催概要◎
 「発達障がいと親の関わり方」
 【日時】2025年5月24日(土)9:00~10:00
 【パネリスト】小野寺悠来さん・小野寺美香さん
  
 【開催形式】オンライン
 【参加費】無料
 【参加方法】グーグルフォームから申し込み完了後、5月19日(月)以降に事務局からメールでイベント情報をお送りします。

 【申し込み締め切り】5月18日(日)24時まで

●グーグルフォームURL:https://forms.gle/U49QzumiDfjRPVtK6

 【タイムテーブル(予定)】
 ①注意事項(1分)
 ②ファシリテーターからパネリスト紹介(2分)
 ③パネリストの基調講演(20分)
 ④質問会(30分)※チャットまたは直接発言で質問受け付け
 ⑤まとめ(5分)
 ⑥お知らせ・注意事項(1分)

※申請したのにも関わらずイベント情報のメールが送られてこない場合は、お手数ですが事務局(note@seikyo-np.jp)まで、お問い合わせください。

(聖教公式noteはこちらからご覧になれます。)
 

●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ご感想をお寄せください。
 メール youth@seikyo-np.jp
 ファクス 03-5360-9470

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