自信がなくてもいい。「不完全である勇気」を持つことから変化は始まる。――哲学者 岸見一郎さん
自信がなくてもいい。「不完全である勇気」を持つことから変化は始まる。――哲学者 岸見一郎さん
2026年4月25日
- アドラー心理学から考えるリーダーのあり方
- アドラー心理学から考えるリーダーのあり方
〈これからのteam論〉
〈これからのteam論〉
第12回「これからのteam論」にご登場いただくのは、哲学者の岸見一郎さんです。世界的ベストセラー『嫌われる勇気』の共著者として知られ、アドラー心理学の第一人者として、対人関係や人生のあり方に新たな視座を提示し続けてきました。岸見さんが提唱する「民主的リーダーシップ」について聞きました。
第12回「これからのteam論」にご登場いただくのは、哲学者の岸見一郎さんです。世界的ベストセラー『嫌われる勇気』の共著者として知られ、アドラー心理学の第一人者として、対人関係や人生のあり方に新たな視座を提示し続けてきました。岸見さんが提唱する「民主的リーダーシップ」について聞きました。
〈インタビューまとめ〉
〈インタビューまとめ〉
・誰に対しても態度を変えない。またそう振る舞うよう意識する。
・どんなに小さな貢献にも注目して、「ありがとう」と言葉をかける。
・間違いを認め、変わろうとするリーダーに周囲は勇気づけられ、付いていく。
・誰に対しても態度を変えない。またそう振る舞うよう意識する。
・どんなに小さな貢献にも注目して、「ありがとう」と言葉をかける。
・間違いを認め、変わろうとするリーダーに周囲は勇気づけられ、付いていく。
――アドラー心理学に基づく「民主的リーダーシップ」とは、どのようなものですか。
一言で言えば、リーダーもメンバーも「人間として対等である」ということです。
私が高校に入学した頃のことです。ある年配の先生と廊下ですれ違いました。その先生とは年齢が親子以上に離れているのに、私が会釈をすると、ちゃんと歩みを止めて頭を深く下げてくださった。驚きました。
倫理を教える先生で、授業中もどんな生徒も見下すことなく、丁寧な言葉遣いで対等に接してくれた。自分もいつか教師になったら、このような態度で臨みたいと思ったものです。「民主的リーダーシップ」とは、まさにこのような姿勢のことです。
教師と生徒、上司と部下など、立場や職責の違いで、仕事の裁量や責任の重さは当然、異なります。しかし、それは人間としての上下ではありません。
管理職になった人から、よく「部下への態度や言葉遣いは、どう変えればいいか」と質問されることがありますが、答えは簡単です。これまでと同じ態度で臨むことです。職責が変わるだけで、人間として偉くなったわけではありませんから。
大事なことは、誰に対しても態度を変えないリーダーでいることです。またそう振る舞うよう意識することです。
自分より下の人には横柄な態度を取り、上の人には媚びへつらう人には、誰も付いていかないでしょう。
そのような人には、おそらく劣等感がある。普通にしていたらバカにされるとか、自分が無能であることを見透かされると思って、本来の仕事とは関係ないところで部下を威圧する。これがパワハラです。アドラーは「価値低減傾向」と呼んでいて、相手の価値を貶めるようなことを言って、相対的に自分の価値を高めようとするのです。
真に優れたリーダーは、優れていることを誇示しません。人を威圧するのではなく、毅然とした態度で、リーダーとして必要な知識を身に付けることに専念しています。部下はそういう人の下で、もっと働こうと思えるのです。
――アドラー心理学に基づく「民主的リーダーシップ」とは、どのようなものですか。
一言で言えば、リーダーもメンバーも「人間として対等である」ということです。
私が高校に入学した頃のことです。ある年配の先生と廊下ですれ違いました。その先生とは年齢が親子以上に離れているのに、私が会釈をすると、ちゃんと歩みを止めて頭を深く下げてくださった。驚きました。
倫理を教える先生で、授業中もどんな生徒も見下すことなく、丁寧な言葉遣いで対等に接してくれた。自分もいつか教師になったら、このような態度で臨みたいと思ったものです。「民主的リーダーシップ」とは、まさにこのような姿勢のことです。
教師と生徒、上司と部下など、立場や職責の違いで、仕事の裁量や責任の重さは当然、異なります。しかし、それは人間としての上下ではありません。
管理職になった人から、よく「部下への態度や言葉遣いは、どう変えればいいか」と質問されることがありますが、答えは簡単です。これまでと同じ態度で臨むことです。職責が変わるだけで、人間として偉くなったわけではありませんから。
大事なことは、誰に対しても態度を変えないリーダーでいることです。またそう振る舞うよう意識することです。
自分より下の人には横柄な態度を取り、上の人には媚びへつらう人には、誰も付いていかないでしょう。
そのような人には、おそらく劣等感がある。普通にしていたらバカにされるとか、自分が無能であることを見透かされると思って、本来の仕事とは関係ないところで部下を威圧する。これがパワハラです。アドラーは「価値低減傾向」と呼んでいて、相手の価値を貶めるようなことを言って、相対的に自分の価値を高めようとするのです。
真に優れたリーダーは、優れていることを誇示しません。人を威圧するのではなく、毅然とした態度で、リーダーとして必要な知識を身に付けることに専念しています。部下はそういう人の下で、もっと働こうと思えるのです。
――リーダーがメンバーと接する上で、どのような点を心がければ良いでしょうか。
アドラーは「自分に価値があると思えた時だけ勇気が持てる」と言います。では、どういう時に人は自分に価値があると思えるのか。それは「他者に貢献していると実感できた時」です。
ゆえにリーダーが取るべき行動は、その人が自分に価値があると思えるための「勇気づけ」です。かける言葉は、叱ることでも、ほめることでもなく、「ありがとう」です。部下がやり遂げたことに対して、その貢献に注目して「ありがとう」と声をかけるのです。
コピーを取ってくれた時も「ありがとう」。極端に言えば、部下が出勤するのも当然のことではないのですから、仮に失敗を繰り返して、自分はダメだと部下が思ったとしても、一日の終わりには「今日も働いてくれて、ありがとう」なのです。
まだまだ力不足だが上司が認めてくれている、自分はチームの役に立っていると、実感を持てることが重要なのです。そうすれば、“自分はここに居ていいんだ”“もっと頑張ろう”と勇気が持てる。リーダーが「ありがとう」と声をかけることから、チームの変化は始まるのです。
――リーダーがメンバーと接する上で、どのような点を心がければ良いでしょうか。
アドラーは「自分に価値があると思えた時だけ勇気が持てる」と言います。では、どういう時に人は自分に価値があると思えるのか。それは「他者に貢献していると実感できた時」です。
ゆえにリーダーが取るべき行動は、その人が自分に価値があると思えるための「勇気づけ」です。かける言葉は、叱ることでも、ほめることでもなく、「ありがとう」です。部下がやり遂げたことに対して、その貢献に注目して「ありがとう」と声をかけるのです。
コピーを取ってくれた時も「ありがとう」。極端に言えば、部下が出勤するのも当然のことではないのですから、仮に失敗を繰り返して、自分はダメだと部下が思ったとしても、一日の終わりには「今日も働いてくれて、ありがとう」なのです。
まだまだ力不足だが上司が認めてくれている、自分はチームの役に立っていると、実感を持てることが重要なのです。そうすれば、“自分はここに居ていいんだ”“もっと頑張ろう”と勇気が持てる。リーダーが「ありがとう」と声をかけることから、チームの変化は始まるのです。
リーダーシップに関する岸見さんの著書
リーダーシップに関する岸見さんの著書
――岸見さんは「自信のない人ほど良きリーダーになれる」と言われます。とても励まされます。
自分を過信している人は、状況が変わっても学ぼうとせず、旧態依然としたやり方に固執します。逆に、自信がない人は、自分が十分ではないと知っているからこそ謙虚に学び、人の意見にも耳を傾けることができる。ここに、良きリーダーになれる可能性があるのです。
ゆえにリーダーは、今のありのままの自分を認める「不完全である勇気」を持つことです。それは、不完全のままでいいのではなく、現状からスタートするということです。
上司があまりに優秀だと、部下は“あんなふうにはなれない”と思ってしまいますよね(笑)。人間だから時には失敗もするし、間違った判断をしてしまうこともある。リーダーの責任は重いですが、そういう時に率直に間違いを認められる上司にこそ、部下は付いていこうとします。不完全でも、より良くあろうとするリーダーの姿を見て、「私もあんな人になりたい」と周囲は勇気づけられるのです。
ノーベル賞を受賞した物理学者・湯川秀樹のエピソードがあります。
ある時、授業で黒板に数式をたくさん書いていったのですが、はたと止まってしまった。どうしたかというと、同僚の数学教師を呼んできて、生徒の前で「どうもおかしいんだけども、どう思うかね」というやりとりをして、自分が間違っているところを指摘されて「あ、そうかここが間違っていたんだ」と。
これを見ていた生徒は、間違えた教師を無能だと思ったでしょうか。たぶん思わないですよね。率直に自分が分からないということを言える教師こそ信頼できる。
大事なことは問題の解決であって、人にどう思われるかではありません。自分の間違いや不完全さを認めようとしない人は、アドラーの言葉で言うと「自分にしか関心がない人」です。直面する問題をみんなで協力して解決していく時に、そんなリーダーでは困るのです。
上司であれ部下であれ、状況の変化に伴って適切に対処し、新しいことを学ばなければいけない。そのためには、まず上司がモデルになるべきなのです。
対人関係において、一方が変われば、もう一方も変わらざるを得ません。チームの中で一人が変われば、必ず全体が変わります。リーダーが変われば変化は早いです。「不完全である勇気」を持つこと――それこそが、真のリーダーシップの出発点なのです。
――岸見さんは「自信のない人ほど良きリーダーになれる」と言われます。とても励まされます。
自分を過信している人は、状況が変わっても学ぼうとせず、旧態依然としたやり方に固執します。逆に、自信がない人は、自分が十分ではないと知っているからこそ謙虚に学び、人の意見にも耳を傾けることができる。ここに、良きリーダーになれる可能性があるのです。
ゆえにリーダーは、今のありのままの自分を認める「不完全である勇気」を持つことです。それは、不完全のままでいいのではなく、現状からスタートするということです。
上司があまりに優秀だと、部下は“あんなふうにはなれない”と思ってしまいますよね(笑)。人間だから時には失敗もするし、間違った判断をしてしまうこともある。リーダーの責任は重いですが、そういう時に率直に間違いを認められる上司にこそ、部下は付いていこうとします。不完全でも、より良くあろうとするリーダーの姿を見て、「私もあんな人になりたい」と周囲は勇気づけられるのです。
ノーベル賞を受賞した物理学者・湯川秀樹のエピソードがあります。
ある時、授業で黒板に数式をたくさん書いていったのですが、はたと止まってしまった。どうしたかというと、同僚の数学教師を呼んできて、生徒の前で「どうもおかしいんだけども、どう思うかね」というやりとりをして、自分が間違っているところを指摘されて「あ、そうかここが間違っていたんだ」と。
これを見ていた生徒は、間違えた教師を無能だと思ったでしょうか。たぶん思わないですよね。率直に自分が分からないということを言える教師こそ信頼できる。
大事なことは問題の解決であって、人にどう思われるかではありません。自分の間違いや不完全さを認めようとしない人は、アドラーの言葉で言うと「自分にしか関心がない人」です。直面する問題をみんなで協力して解決していく時に、そんなリーダーでは困るのです。
上司であれ部下であれ、状況の変化に伴って適切に対処し、新しいことを学ばなければいけない。そのためには、まず上司がモデルになるべきなのです。
対人関係において、一方が変われば、もう一方も変わらざるを得ません。チームの中で一人が変われば、必ず全体が変わります。リーダーが変われば変化は早いです。「不完全である勇気」を持つこと――それこそが、真のリーダーシップの出発点なのです。
〈memo〉
〈memo〉
「ほめて伸ばす」。よく言われるリーダーの関わり方に対し、岸見さんは「ほめるべきではない」と語る。ほめることの前提には、相手を自分よりも下に見ている場合がある。また、ほめられないと頑張らない人や、上司を喜ばせるために働く人が出てくるからだ。大切なのは、誰に対しても同じ目線で接すること。対等な関係が築かれてこそ、人は「ここにいていい」と感じ、目の前の課題に向かう勇気を持てる。存在を認め、可能性を信じる。その言葉の奥にあるのは、相手への深い敬意と誠実さである。
「ほめて伸ばす」。よく言われるリーダーの関わり方に対し、岸見さんは「ほめるべきではない」と語る。ほめることの前提には、相手を自分よりも下に見ている場合がある。また、ほめられないと頑張らない人や、上司を喜ばせるために働く人が出てくるからだ。大切なのは、誰に対しても同じ目線で接すること。対等な関係が築かれてこそ、人は「ここにいていい」と感じ、目の前の課題に向かう勇気を持てる。存在を認め、可能性を信じる。その言葉の奥にあるのは、相手への深い敬意と誠実さである。
●プロフィル
●プロフィル
きしみ・いちろう 1956年、京都府生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学に並行してアドラー心理学を研究。精力的に執筆・講演活動を行っている。著書に『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(古賀史健と共著、ダイヤモンド社)、『三木清「人生論ノート」を読む』(白澤社)、『老いた親を愛せますか?』(幻冬舎)、訳書にアドラーの『個人心理学講義』(アルテ)、プラトン『ティマイオス/クリティアス』(白澤社)など多数。
きしみ・いちろう 1956年、京都府生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学に並行してアドラー心理学を研究。精力的に執筆・講演活動を行っている。著書に『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(古賀史健と共著、ダイヤモンド社)、『三木清「人生論ノート」を読む』(白澤社)、『老いた親を愛せますか?』(幻冬舎)、訳書にアドラーの『個人心理学講義』(アルテ)、プラトン『ティマイオス/クリティアス』(白澤社)など多数。
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