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〈文化大恩の国 信仰体験〉 涙の先につかめる光がある 2025年11月3日

  • ドラマプロデューサー 2児の母として
「ソウルドラマアワード2024」の授賞式で。あいさつに立つイさん
「ソウルドラマアワード2024」の授賞式で。あいさつに立つイさん
韓国・ソウル
イ・へヨンさん(44)
地区副婦人部長

 日韓両国で昨年、メガヒットを記録したドラマ「涙の女王」。イ・へヨンさんは、チーフプロデューサーとして本作の企画・制作の中心に立った一人だ。クリエーターそして母として、自身もまた、たくさんの壁と向き合いながら、渾身の一作を世に放った。「世界をつなぐ感動と映像体験を」と、大きな夢を追い続ける――。

 脚本家、監督、役者、技術者……ドラマの撮影現場では常に、作り手たちのこだわりと矜持がぶつかり合う。
 イさんはプロデューサーとして、各セクションから上がる声を集約し、制作の過程をベストな方向へ導いていく。

 撮影の期日、予算、広告のプランなど、決断の連続。作品の命運を左右する重責と向き合い続けるのには、「ノーリミット(限界を超える)」というモチベーションが、イさんを支えている。
 ドラマ「涙の女王」もまた、イさんが制作チームのメンバーと、限界へ挑み抜いた汗の結晶だ。

 ひとたびは感情を見失っていた財閥の令嬢である主人公が、紆余曲折を経て、再び心に潤いを取り戻していく物語。それは、2人の子どもを育てる母でありながら、競争の激しい業界で奮闘してきたイさん自身の日々が、強く重なっている。
 「一度、仕事を引退しようとしたことがありました」。2019年のこと。気鋭の制作者として、「昼も夜もないほど」仕事が舞い込んでいる時だった。

 ある朝、当時4歳だった次男のファン・ソユルさん(10)が大声で泣き出した。
 暴れるところをなんとか保育園に送り届け、イさんが会社に着くと、「足が痛いと言っています」と再び電話で呼び戻され、病院へ。だが医師は「どこも悪くない」と。

家族で日本を旅行した時の一枚(本人提供)
家族で日本を旅行した時の一枚(本人提供)

 そんな日が何度も続いた。イさんは仮病を疑い、思わず息子を怒鳴ってしまう。
 ある夜、寝静まったはずの子ども部屋から、物音がした。イさんがドアを開けると、ソユルさんが床の上を不自然に跳びはねていた。

 後にチック症と診断された。自分の意に反して体が動いてしまう恐怖に、泣きじゃくる息子。イさんは、われに返る。
 仕事に追われるあまり、家族を顧みずにいた。汗にまみれた息子を、ぎゅっと抱き締めた。
 韓国SGIメンバーのイさんは、婦人部の先輩のもとへ足を運んだ。いつしか学会活動からも遠ざかっていた。仕事を辞めようと思っていることを伝えると、先輩は静かにほほ笑んだ。

 「それだけ忙しいのは、使命がある証し。だから諦めないで。あなたならきっと、子どもたちと良い関係が築けるわ」
 慈愛の声。先輩もまた、仕事と子育ての悩みと向き合った経験があった。さらに一言。「辞めちゃ困るわ。私も、あなたの作品のファンだもの」

 イさんは再び、撮影現場へと戻っていった。「前進、勝利」。クリエーターとして生きると誓った日から、それを信条としてきた。「信心とは、諦めない勇気です」。不屈の背中を示してくれたのが、池田先生の存在だった。

婦人部の友と
婦人部の友と

 日本と韓国の間に、根強く続いてきた歴史的な障壁。それでも師は、世間の批判の目を恐れることなく、韓国を“文化大恩の国”とたたえ、両国に友好の歴史を築こうとした。「先生の逃げない生き方を、同志の強さと優しさを通して教わりました」とイさん。

 常に複数の企画と格闘しながらも、心の真ん中には家族を据えた。
 子どもたちと毎日、「おはよう」と「おやすみ」のハグを交わすようにした。ソユルさんの保育園が終われば迎えに行き、一緒に食卓を囲む。
 抱き上げた時に分かる体重の変化、食べられなかった野菜を口に運んだ瞬間……これまで見過ごしていた子どもたちの成長の喜びが、イさんの心をほぐし、彩りをくれた。家族で過ごす時間を増やす中で、ソユルさんの症状もまた、少しずつ落ち着いていった。

 「表情が柔らかくなった」と、周囲から驚かれるのと呼応するように、イさんの仕事の幅は広がっていく。
 ファンタジーやサスペンス、恋愛ものと、どんな分野の作品であっても、果敢に挑んでいった。

 そんなプロデューサーとしてのイさんの手腕は、あらゆるジャンルを仕立てることができると、周囲から徐々に称賛されるようになった。

日本のアニメやドラマにも影響を受けてきたというイさん。「『銀河鉄道999』の映像化が夢の一つです」。「暴君のシェフ」「シン社長プロジェクト」など、ドラマの人気作に携わる
日本のアニメやドラマにも影響を受けてきたというイさん。「『銀河鉄道999』の映像化が夢の一つです」。「暴君のシェフ」「シン社長プロジェクト」など、ドラマの人気作に携わる

 「涙の女王」の企画は、22年から始まった。俳優もスタッフも、今をときめく最高のチーム。「だから、絶対に失敗できない仕事でもありました」
 公開までの2年間、イさんはこれまで以上のプレッシャーと向き合った。
 「師子王の心を取り出だして、いかに人おどすともおずることなかれ」(新1620・全1190)

 日々、勇気の連続。張り詰めた撮影現場では、関係者の気持ちがささくれ立ってしまうこともしばしばだ。
 そんな時こそイさんは、「クレジットに刻まれる名前に、悔いのない仕事をしよう」と自らを鼓舞し、一人一人を励ます。
 人知れず、御本尊の前で落涙する日もあった。それでもチームを信じ抜き、完成にこぎ着けた一話およそ80分、全16話の大作。公開と同時に、その評判は世界を駆け巡った。

 動画配信サービス・ネットフリックスでは、24年の上半期に最も視聴された韓国コンテンツに。そしてこの年の「ソウルドラマアワード」「コリアドラマアワード」では、それぞれ作品賞に輝いた。
 受賞の際、頰を伝った歓喜の涙。それでも次の日から、イさんはまた新たな企画に走り出していた。

 「感動で世界中の人を結びたい」。それがイさんの夢。飽くなき創作への熱情は、ますます強くなっている。

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