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〈読書〉 星になっても 2025年10月21日

  • 岩内章太郎著
講談社 1980円
講談社 1980円
◆喪失と回復の道に寄り添うエッセー

 子どもの頃、両親が死んでしまうことは何より恐ろしく思えた――死への不安と好奇心から哲学の道に進んだ著者が、現実に父の死に直面した。妻と二人の幼い息子と愛知・豊橋で暮らす著者に、郷里の札幌の父が入院したという知らせが来る。「訃報を待つ」かのごとき1年間と葬儀と、その後の日々――。

 「ありがとう」が最後の別れの言葉になりそうで言えない。生まれ育った街なのに父がいなくて迷子の気分になる。父を失うことは、母にとっては日常を失うことでもある。愛する人を失うことは、自分自身を失うに等しい。大切な人の死をどう受け止めるのか。

 かつては神話や宗教の「物語」の力が、その役を担ってきた。死んでお星さまになって見守ってくれるという物語が心を明るくしてくれるように。「じいじ、星になっても頑張ってね」と遺影に向かって幼い息子が言う。

 共通の神話や宗教の縛りがなくなった現代では、死後の世界をどうイメージするかは自由だが、それゆえに死の自覚は孤独と隣り合わせ。死が忌避される文明社会で「死にゆく者の孤独」は過酷だ。一人の人間の温かい終わり方を可能にするために何ができるか。

 骨髄異形成症候群という難病やコロナ感染と闘った、死にゆく父の「自己との対話」の姿が、今の自分を励ましてくれていると思う。著者は「哲学対話」を提案する。関心のあることについて、互いの「体験」を丁寧に聴き合うことが、死を特別視せずに生の一部として受け入れる練習になり、人との率直なよい関係性を、死に際しても変わらずに持ち続けることができる。

 誰もが避けられない死。その喪失と回復の道のりに寄り添う心ふるわす哲学エッセー。(野)

 〈メモ〉また会いたいです――真っすぐな言葉が胸に迫る。哲学的省察に時折挟まれるユーモアも心地よい

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