• ルビ
  • シェア
  • メール
  • CLOSE

〈Seikyo Gift〉 事前の準備で災害から身を守る 2023年6月4日

  • 家族のタイムラインを作成しよう
東京大学大学院客員教授 松尾一郎さん

 
 
 頻発する自然災害から、自分自身や周囲の人たちの身を守るためには、事前の準備、対策が欠かせません。防災行動計画「タイムライン」を日本に普及させた防災・減災のエキスパートである東京大学大学院の松尾一郎客員教授に話を聞きました。(3月15日付)
 
 

 
 
 皆さんもお分かりだと思いますが、頻発する自然災害での被災者の大半が高齢者という実態があります。
 東日本大震災の犠牲者の半数以上が、65歳以上の方々でした。
 また、私の調査結果では、熊本豪雨(令和2年7月豪雨)の犠牲者のうち、79%が65歳以上で占められていました。
 しかし、防災・減災研究に身をていしてきた長年の経験から、事前の具体的な対策や早めの避難行動によって自分自身の命、また大切な人や周囲の人の命を守ることができると確信しています。特に近年多発する豪雨による水害は、犠牲者をゼロにできる災害です。
 まず、高齢者に被災者が多い理由を、二つ挙げます。
 一つ目は、年を重ねるにつれて避難行動を起こさなくなる現実があります。私は以前、西日本豪雨(平成30年7月豪雨)の被災者900人にアンケート調査を行いました。その結果によれば、60歳以上の方は13・7%しか避難していませんでした。他の年齢層に比べても避難率は低かったのです。
 その理由について、半数を超える方が「災害の危険性がない所に住んでいるから」「これまで災害を経験していないから」と回答していました。
 近年の水害は地球温暖化などによる自然環境の大きな変化で、これまでの災害に比べて広域化、激甚化している実態があります。災害の危険性は、過去の経験では推し量れないということを肝に銘じていただきたいと思います。
 二つ目は、体力の衰えや、要支援者と同居しているなど物理的に避難行動を阻害する要因を抱えている方が少なくないという点があります。
 こうした“避難の壁”をいかに乗り越えるのか。そこで、私がアメリカから日本に持ち込んだのが、地域や家族などで定める防災行動計画「タイムライン」です。
 
 

主体的な行動を生み出す道具

 
 
 タイムラインとは、「いつ」「誰が」「何をするのか」を時系列であらかじめ定める防災計画です。
 避難意識を向上させるためには、明確なルール、規範を定めることが重要です。タイムラインの特徴の一つが自分たちで作る規範であるということ。決して行政などからの押し付けの防災計画ではありません。自分たちで考えて、自分たちの行動計画として位置付ける――主体的な行動を生み出すツール(道具)と言えます。
 そして、物理的に避難行動を取りづらい方々には、地域や家族の支援が欠かせません。タイムライン作成のために、地域や家族が一つになって話し合いを重ねるプロセスそのものが、つながりを強めることに直結していきます。
 あの東日本大震災では、地域の消防団員の250人以上の方が犠牲になりました。
 “地域の守り手”に依存する防災対策からは一日も早く脱却しなければなりません。そのためには“地域全体が逃げる”というコミュニティー防災を推し進めていくことが重要です。これが犠牲者ゼロを目指せる防災対策です。
 その要となるタイムラインの導入から9年。避難行動が早まったり、被災を最小限度に抑えられたりするなど、各地域で成功例が生まれ、政府も普及に尽力しています。
 家族のタイムラインの作成例やポイント、コロナ禍における避難の在り方などを紹介します。
 
 

時間ごとの行動を可視化

 上の表は、コロナ禍における大型台風に備える家族(祖父母、父母、子ども)のタイムラインの概要です。
 ポイントは時間ごとの行動を可視化すること。また自治体のハザードマップを確認し、災害の規模に応じた避難のタイミングを明確にしておくことが重要です。
 深夜や早朝に避難するのは、現実的に難しいケースがあります。だからこそ、早めに避難することを心がけてください。台風が接近する前日に、避難を開始するなどの判断が重要です。そういうこともタイムラインに記載しましょう。
 
 

要支援者を守る行動

 1人で避難できない要支援者には、行政、地域や家族のサポートが必要です。雨風が強くなる前に避難を開始する流れをタイムラインに記載しましょう。
 地震や津波など突発的な災害については、まず、住居の耐震化や部屋の家具固定によって地震に備えてください。また、津波の浸水区域に要支援者が1人で住むことがないよう、家族らで対策を取ることが大切です。
 そして、「南海トラフ地震」の発生が近づいているといわれています。気象庁から「巨大地震警戒」という臨時情報が発表されたら、津波などからの避難が間に合わない地域に住まれている方は、地震発生前に避難することが重要です。

コロナ禍は分散避難

 
 
 コロナ禍によって、避難の在り方も変わっています。在宅、縁故、車などの分散避難が定着化していくでしょう。
 災害の度合いに応じた避難方法を事前に話し合いをして決めておきましょう。
 分散避難の場合、携帯トイレ、水や非常食の携行が欠かせません。そのほかに準備する防災グッズなどを国や自治体のホームページ等から確認してください。
 万全の事前対策が命を守ることにつながります。
 

動画

SDGs✕SEIKYO

SDGs✕SEIKYO

連載まとめ

連載まとめ

Seikyo Gift

Seikyo Gift

聖教ブックストア

聖教ブックストア

デジタル特集

DIGITAL FEATURE ARTICLES デジタル特集

YOUTH

劇画

劇画
  • HUMAN REVOLUTION 人間革命検索
  • CLIP クリップ
  • VOICE SERVICE 音声
  • HOW TO USE 聖教電子版の使い方
PAGE TOP