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〈暮らし〉 古い町並み――記者が今井町に行ってみた 2025年11月30日

 暮らし「古い町並みを歩く」の取材で、写真家の町井成史さんに全国の伝統的建造物群保存地区(重伝建)を紹介してもらった。このうち、地区内に残る歴史的建造物の数で日本一を誇る今井町(奈良県橿原市)を記者が訪れた。

 午前9時30分、近鉄大和八木駅で下車。この駅は、走行距離日本一の路線バスの始発駅としても有名だ。

 駅から10分ほど歩くと、飛鳥川に沿って、趣のある住宅が並ぶ。今井町にある760軒ほどのうち約500軒が伝統的な建造物。中世(室町後期)からの町割りが、そのまま残されている。エリアは東西約600メートル、南北約310メートルのほぼ長方形で、かつて環濠に囲まれていた。東京ドーム5個ほど入る広さだ。

 地区の縁に沿って歩き、南東の端にある「今井まちなみ交流センター 華甍」へ。ここは、町の情報収集に、最初に訪れたい場所。かつては明治の教育博物館として利用され、重厚感あふれる。館内には、町並みを再現したジオラマがあり、町の歴史が分かりやすく解説されている。

 華甍で、「どこから見たら良いか」尋ねると、「地区の解説をしてくれる地元の方が、10時から待機していますよ」と、案内所と休憩所を兼ねている「夢ら咲長屋」を紹介してくれた。いよいよ、地区の中へと入っていく。木造や、しっくいで塗られた家々。じかに見るまでは、映画のセットのような町をイメージしていたが、建てた時期の違いか、外観、建材にも、それぞれの家で違いがある。歴史を感じるが、町が江戸で止まっているわけではない。

 夢ら咲長屋で、町の成り立ちや、見て回れる文化財の場所を教えてもらう。平日の午前、まばらだが、観光客が来ていた。見て回れる場所は多いが、住んでいる方も多く、町は観光地化していない。そのため、落ち着いた雰囲気の中、ゆっくり回れるのも魅力だ。

 すぐ近くの「今井まちや館」に立ち寄る。18世紀初期の町家。痕跡資料に基づき古材を再利用し、当初の形に復元された家屋。

 館内の女性に声をかけると、家の造りも解説してくれた。家の入り口上部に二つの部屋。一つはでっち、もう一つは女中の部屋。出入りははしごを使い、夜間は、でっちが逃げ出さないように、はしごを外していたらしい。

 旧米谷家は、映画やCMのロケ地でも使われた場所。隣の今井景観支援センターと併せて、訪れたい。

 外から見た旧米谷家。屋根の上に飛び出ているのは、かまどの煙を排出するための「煙出し」。時代によって、屋根に対して、どの角度で付いているかが変わるという。

 今井町には、重要文化財が九つあり、その他、県や市の指定文化財も多いが、歴史的建造物の多くに、現在も人が住んでいる。そのため、現地に行き「内部公開中」と、札が出ている場合のみ見学できる家もある。最古の今西家は、事前申し込みで見学の対応をしてくれる(見学料500円)。自治都市であった今井町では、今西家で裁判が行われていた。今も、お白州(裁きの場)として使用されていた広い土間が残る。天井の梁には、阪神大震災の時に入った割れがあるなど、凝縮された時間を感じた。

 紙半豊田記念館には、江戸時代の生活用品や古美術などが展示されている(入館料400円)。豊田家に残る古文書には、旅行の時や婚姻の際に使った金額がメモされている。奈良の観光地を書き記した、江戸期の観光ガイドなど。実物が展示されており、本物を手に取って、自分でページをめくり、見ることができる。

 ガイドの皆さんに教えていただいた知識を元に、町を散策する。家の外壁に付いている輪っかは「駒つなぎ」。武士や商人が連れてきた牛や馬をつないでおくためのもの。多く見るのは、手のひらほどのサイズだが、家の規模によっては、手よりも大きな駒つなぎを付けているところもある。

 また、家によっては、2種類の駒つなぎをつけていることも。低いところが馬用で、高いところが牛用。江戸時代のパーキングか。

 エリアの中には、理髪店や八百屋、カフェも病院もある。人々は、景観を損ねないように配慮し、工夫して生活を行っている。

 明治に創業し、「おにみみ」という名前の風邪薬を製造・販売する製薬会社。クラフトコーラの原液を販売している。周辺の喫茶店でも飲めるというクラフトコーラ。当初、テイクアウトも検討していたそうだが、食べ歩きは、ごみの問題があり、町の景観を損ねる可能性も考慮し、見合わせたという。確かに、道を歩いていると、ごみ一つ落ちていない。また、通りからは、洗濯物も見えない。地区内に信号もなく、道路標示は、地区から大通りに出る時の「止まれ」くらいだろう。

 町を歩けば歴史を感じる。地元の人は優しく、話をすると、歴史ある地区に誇りを感じているのが分かる。素晴らしい観光資源にあふれているが、同時に、生活を維持するために、壊さず守り続けてるものがある。戦国時代に寺内町として誕生し、江戸時代初期には、「大和の金は今井に七分」とうたわれるほど大和の商業都市として大発展。そのような繁栄も、元禄時代になると徐々に下降。明治時代に近代化が進むと、今井町近隣にも鉄道駅建設の計画が出たという。今井町は、その急激な変化を良しとせず、鉄道駅の計画に反対。その結果、現在は日本一の保存地区として異彩を放っている。文字で見ていた歴史の中に放り込まれたかのような感覚に浸れる。そんな重伝建への旅となった。

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