• ルビ
  • シェア
  • メール
  • CLOSE

〈未来を想像/創造する倫理〉14 京都大学教授 児玉聡 肥満治療薬が問いかけるもの 2026年4月28日

  • 個人と社会の責任を問う局面に

 肥満はこれまで、公衆衛生や生活習慣の問題として論じられてきましたが、前回紹介したように、2020年代に入り、新しい肥満治療薬の登場によって「治療すべき病」としての側面が急速に強まっています。
    
 事例 大学生のBさんは健康上の問題はないが体形が気になっている。SNSでは有名人やインフルエンサーが肥満治療薬を使用して体重を減らしたことが話題となり、自由診療や個人輸入で入手できる情報も知った。Bさんは「自分も使えば楽にやせられるのでは」と考えるが、費用の問題に加え、一度始めたらやめられるのかという不安もある。
    ◇
 前回の論点に加えて、いくつかの論点を指摘しておきたいと思います。
 第一に、肥満をめぐる責任の所在です。これまで体重管理は生活習慣の問題として語られ、「自己責任」の発想が伴ってきました。しかし、薬によって体重をコントロールできるようになると、肥満は個人ではなく、社会や政府が対応すべき問題だとする見方が強まる可能性があります。
 第二に、資源配分の問題です。新たな肥満治療薬はもともと糖尿病などの治療薬として開発されましたが、美容目的や適応外使用の広がりにより、すでに国際的に供給不足が生じ、本来必要な患者に行き渡らない状況も指摘されています。
 第三に、長期使用と費用の問題です。肥満が慢性疾患として位置付けられ、治療を中止すると体重が再増加する傾向がある以上、継続使用が前提となります。年間で100万円を超えることもある費用は、医療保険制度や国民医療費にも影響を及ぼし得るものです。
 第四に、医療と美容の境界の問題です。本来は治療用の薬が、外見の改善や自己実現の手段として用いられるとき、それをどこまで医療と呼ぶべきかという問いが生じます。さらに「やせること」の価値が強調されることで、拒食症などの摂食障害を抱える人による不適切な使用が助長される懸念もあります。この場合、問題は自己決定の範囲を超え、安全性の観点からの対応が求められます。
    ◇
 これらの議論は、新しい肥満治療薬を否定するためのものではありません。むしろ、肥満を治療することが当たり前となる社会の到来を見据え、私たちがそれをどのように受け止め、どのように向き合うべきかを考えるための手掛かりです。私たちはいま、そうした未来に先立って、肥満に関する医療の役割や個人と社会の責任のあり方を問い直す局面に立っているのです。

肥満治療薬は、やせたい願望の手段にもなるのだろうか(イメージマート)
肥満治療薬は、やせたい願望の手段にもなるのだろうか(イメージマート)

動画

SEIKYO CAMPUS

SEIKYO CAMPUS

SDGs✕SEIKYO

SDGs✕SEIKYO

連載まとめ

連載まとめ

Seikyo Gift

Seikyo Gift

聖教ブックストア

聖教ブックストア

デジタル特集

DIGITAL FEATURE ARTICLES デジタル特集

YOUTH

インドネシア・バンダアチェ中心部のバイトゥラフマン・モスクは、2026年の環境キャンペーン「アースアワー」の実施に伴い、消灯された=3月28日、インドネシア・バンダアチェ(共同)

劇画

劇画
  • HUMAN REVOLUTION 人間革命検索
  • CLIP クリップ
  • VOICE SERVICE 音声
  • HOW TO USE 聖教電子版の使い方
PAGE TOP