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〈Seikyo Gift〉 歌う人力車のお兄さん〈信仰体験〉 2025年3月29日

  • 前だけ見つめて全力人生
お客と一緒に最高の思い出をつくる。この心意気で一期一会を大切にする。「あっちゃんって呼んでください!」。トレードマークの赤い地下足袋で鎌倉を駆ける
お客と一緒に最高の思い出をつくる。この心意気で一期一会を大切にする。「あっちゃんって呼んでください!」。トレードマークの赤い地下足袋で鎌倉を駆ける

 【埼玉県和光市】小麦色に焼けた肌に、真っ白な歯がキラリ。前田敦さん(33)=圏男子部長=の全力の笑顔は、とんでもなくまぶしい。鎌倉で人力車を引く。歴史ガイドから、恋のキューピッドまでお任せあれ。ご所望とあれば歌も披露する。「こんなステージがあるなんて。人生って面白いですよね!」(2月2日付)

 歌うことが好きだった。19歳の時、グループで歌手デビューを果たすも、鳴かず飛ばず。焦りと不安。受け止めてくれたのは男子部の先輩。夜通し、そばにいてくれた。

 「敦には音楽の使命があるよ」。そう言って仕事に向かう背中は「めちゃくちゃカッコ良かった」。

 3年半でグループが解散した時も、「必ず意味がある」との先輩の言葉を抱き締め、前田さんは題目を唱えた。「そしたら降ってきちゃった」。ふと“テーマパークで歌いたい”と思い立つ。オーディションに合格し、メインボーカルとしてテーマパークのショーに立った。

 「さあ、ここからが僕のどん底の始まり」。人気が出ると、だんだん仲間から嫉妬されるようになった。4年耐えた。男子部の先輩は「やめることは負けじゃない」と。その一言に救われた。テーマパークを退職し、抜け殻のようになった。御本尊の前に座るのも苦しい。

 小説『人間革命』『新・人間革命』を一気読みした。「山本伸一にシビれた」。師の励ましに歓喜する弟子。前田さんは祖母(吉岡定子さん)を思い出した。

 広布の会場だった実家。幼少期に祖母の膝の上で聞いた題目は、「歌っているみたいで心地よかった」。

 前田さんの誕生日は、池田先生が朝霞文化会館を初訪問した、その翌年の同じ6月17日。それを祖母は誇りにしてくれた。「使命がある子だ」。何度も言ってくれた。

 「池田先生とおばあちゃんに生き返らせてもらった」。だからこそ、題目あるのみ。すると「また降ってきちゃった」。浅草にある人力車の会社に飛び込んだ。人と話すのも、体を動かすのにも自信がある。研修もトントン拍子で進み、残すは卒業検定。

 だが、何回受けても不合格だった。多くの観客を前に歌ってきたのに、なぜか試験になると体が思うように動かない。“まさか俺、緊張してる?”。後輩にもどんどん先を越され、プライドはズタズタ、メンタルもボロボロ。

 信心の先輩が教えてくれた。「広宣流布のための祈りなら、かなう」。それがどんな祈りかは分からない。ただ、欲ばっかりだった自分に気付かされた。

 ただただ“広布のため”と、一遍一遍の題目で一念を研ぎ澄ませる。友人に折伏が実った。

 試験の方は相変わらずの調子。受けても受けても不合格。結局14回落ちた。だが、うまくいっていない時こそ、“この一瞬も広宣流布なんだ”と思えた。踏まれて踏まれて、大きく育つ。

 始業時刻の2時間前に職場に行って掃除を始めるようになった。学会活動にも全力。

 ある時、男子部のメンバーに言われた。「前田さんって誰よりも楽しそうですよね」。ハッとした。“俺、どんどん元気になってない?”

 手本にしたのは“山本伸一”の生き方。目の前の人を絶対に幸せにするという師の気迫。“よし、俺も!”。伸一に続くと決めた。

 「法華経をたもちたてまつるものは、地獄即寂光とさとり候ぞ」(新1833・全1504)。たとえどんな状況でも、人に元気を与えられる。そんな自分になれているのかも。その気付きは、どん底の中で見つけた幸せだった。

 前田さんの奮闘ぶりを人気テレビ番組が密着取材をすることに。番組を見た軽井沢の会社から「うちで人力車を引かないか」と。1カ月限定でやってみた。検定にもすぐ受かった。初めて乗せたお客に「100点満点!」と言ってもらえた。

 その後、鎌倉で俥夫になり3年がたつ。営業成績は常にトップクラス。いろんなお客が来る。カップルを乗せると「こっちまでキュンキュン」。お相撲さんは「重いけど、満面の笑みで」。外国人観光客には「英語はしゃべれないから、歌で勝負」。気付けば「歌う人力車のお兄さん」と呼ばれるようになり大人気に。

 仕事も学会活動も「ただコスチュームが変わるだけ」。一番大事なのは目の前の人に価値を与えていくこと。「人生って“励まし行”だと思うんです。自分に対しても、人に対しても」

 鎌倉は坂が多い。「登り坂に挑む時の勢いと、一歩一歩、踏ん張る力」が要と語る。それは自身の生き方と重なる。

 頂きの景色は、坂の途中では見えない。「どんな未来が待っているか分からないから、人生って楽しいですよね。心のど真ん中に広宣流布があれば、何があっても、それは使命ですから」

 進むか、止まるか。選ぶのは常に自分。紆余曲折、山あり谷ありの全力人生。前だけ見つめて、人力車を引く。

(本人提供)
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