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〈インタビュー〉 何回も何回も重ねていく。苦労の先に勝利がある! 古のピアノを現代によみがえらせるピアノ修復家 山本宣夫さん 2024年10月26日

  • Z世代の学生記者がつくる職業図鑑「JOB INDEX」 ピアノ修復家の世界

 電子版オリジナル連載「職業図鑑『JOB INDEX』」では、本社所属のスチューデントリポーター(学生記者)がインタビューを通し、さまざまな職業の世界を紹介しています。今回は、ピアノ修復家の山本宣夫さん。大阪・堺市にある、山本さんの工房を訪ねました。(取材=学生記者・たぐっちゃん)

〈仕事内容〉

 ピアノ修復家は、ピアノの修復・保護を行う専門家。弾き心地の調整(整調)から音色の調整(整音)まで、幅広い技術力が求められる。古いピアノになると、足りないパーツを求め、世界各地から取り寄せることも。大規模かつ長い時間をかけて作業を行い、モーツァルトやベートーベンの時代のピアノをよみがえらせている。

作業する山本さん。“困難な依頼もやったらできる”がモットー
作業する山本さん。“困難な依頼もやったらできる”がモットー
〝いい音〟を探し求めて
〝いい音〟を探し求めて

 ――私は、ピアノ音楽をこよなく愛する大学2年生です。山本さんはピアノ黎明期を象徴する「フォルテピアノ」(18世紀から19世紀前半の様式のピアノ)の修復を行い、世界中で評価されている、私にとって憧れの人でした。修復家の仕事について詳しく教えてください。
  
 皆さんが、「ピアノの仕事」と聞いて思いつくことは何でしょう。ピアニストや調律師、またはピアノの販売員さんかもしれませんね。私はピアノの修復家として、調律をはじめ、弾いた時により良い感触が出せるようにする整調の作業や、壊れたピアノの修理を行っています。

 また、コレクターとして、フォルテピアノを集め、自分の手で修復するという活動もしています。一般家庭にあるピアノの修復なら、数日で終えることができますが、フォルテピアノの修復となると、期間はまちまちです。材料が見つからないと、何年もかけて修復しているものもあります。

 私の工房にある所蔵楽器は30台で、そのうち修復を終えた、1800年から1880年の間に作られた歴史的ピアノを10台展示しています。時々、演奏会を開くと観客だけでなく、弾いたピアニスト自身がとても喜びます。「新しいピアノの世界」に触れるきっかけを作るのが、私の楽しみです。

 ――実物のフォルテピアノを見てみると、現代のピアノと比べて、小さくて白く、かわいらしい印象を受けました。
  
 そうですか。現代のピアノの歴史は、18世紀にクリストフォリという人物が製作したフォルテピアノから始まります。驚くことに、フォルテピアノには、現代のピアノに必要なシステムが、ほとんどそろっているんです。うちの工房にもクリストフォリが製作したものがあり、1999年に私が修復しました。

 現代のピアノは、フレームが鉄でできていますが、このフォルテピアノは、ほとんど木でできています。音については、現代のピアノとは違った、何とも心地いい、コロコロとした音が鳴ります。
  
 ――山本さんは、若い頃から修復家を目指していたのですか。
  
 元々は、ピアノの調律師になる予定でしたが、高校を卒業してからピアノ作りに引かれまして。浜松と京都で8年修業した後に、工房を開いてピアノの修理、製作の仕事をスタートしました。

 その後、しばらくしてからオーストリアに行く機会があり、有名なピアノ製造会社である「ベーゼンドルファー」で音作りを学びます。日本に帰ってからは、ヨーロッパの古いピアノを輸入して、自分の工房で直し始めました。調律師になると決めた中学生の頃には、まさか自分が海外で修業したり、フォルテピアノの修理をしたりするなんて、想像もしていなかったです。

所蔵するピアノの前で
所蔵するピアノの前で

 ――海外では、どんな修業を?
  
 工房ではまず、新品のピアノをポンと渡されて「仕上げをやりなさい」と命じられました。期待に応えようと音作りをするのですが「そんな簡単には無理だ」と、最初は見てもくれません。長く苦しい修業の日々の始まりでした。

 時に食事がのどを通らないほど、精神的に追い詰められたことも。夢の中でも、苦闘しながら作業をしていました。そんな地獄のような状況の中、“こうすれば、今までにない素晴らしい音が鳴る”と、はっきりと修復作業のアイデアが湧く不思議な夢を見たんです。はっと起き上がり、夢の通りに試してみると、何とうまくいったのです。この体験から私は、「ブレずに悩み続ければ、必ず答えは見つかる」ということを学びました。

 私のもとにはよく、他で断られた仕事が回ってきます。たしかに現物を見ると、“これは一筋縄ではいかないな”と、困惑してしまうんですが、にもかかわらず依頼者に言ってしまうんです。「大丈夫です。これを理想的な状態にして、コンサートで人を感動させるピアノにします」と。

 これまでも、「モーツァルト没後200年に王宮でコンサートをするので、モーツァルトと同時代のピアノを修復してほしい」などの困難な依頼もありましたが、成功に導くことができました。

 ――最後に、進路や今後のキャリアに悩む若者にメッセージをお願いします。
  
 私は、人生は洋菓子の「バウムクーヘン」のようなものだと思っています。バウムクーヘンは、一気にあの厚さまで仕上げることはできない。「焼いては塗る」の工程を、何回も、何回も重ねることで完成します。

 私たちの歩みも同じではないでしょうか。今頑張っていることを一つ一つ積み重ねることで、厚みのある人生になる。道中で悩んでも、“物事、そんなにすんなりいくはずがないよな”と自分に言い聞かせてみると、案外、人は持続できるものなんです。何度も何度も重ねていく、その苦労の先に勝利があるのではないでしょうか。あなたにしかない答えを見つけてみてください。

ご感想をお寄せください youth@seikyo-np.jp ファクス 03-5360-9470

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