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〈文化〉 楽しみな日本のチーズ 木榑博(チーズ研究家) 2025年6月19日

本場に引けを取らない味
繊細な作業でよりおいしく
麦食とともに世界に拡大

 皆さんは、どのようなチーズを食べているでしょうか。おなじみのプロセスチーズ、それとも高級感あるナチュラルチーズでしょうか。
 高度経済成長期のフレンチブーム、イタリアンブームを経て、この数十年でさまざまな外国産チーズが輸入されるようになりました。また近年、日本国内でも、品質の高いナチュラルチーズを手がける中小の工房が多数生まれ、手軽に楽しめるようにもなってきました。
 チーズ作りが始まったのはメソポタミア。最初は家畜の肉を食べていたものが、人口の増加に追いつかなくなったためミルクを利用するようになったともいわれています。
 それが、紀元前5000年~前4000年ぐらいに、周辺各地に広がっていきました。東には、インドをはじめ、シルクロードを通り中国、日本へ。西には、エジプト、ヨーロッパに伝わり、さまざまなチーズを生み出すことになったのです。
 麦食文化ではチーズをはじめとするタンパク質は欠かせません。麦のアミノ酸スコアは40程度。麦食だけでは、必須アミノ酸が足りないのです。足りない栄養素を補う意味でも、肉食をはじめ、ミルクやチーズなどによる栄養摂取が欠かせません。
 そのため、熟成しないフレッシュチーズをはじめ、熟成させるセミハードタイプ、ハードタイプ、さらには、白カビや青カビを利用したチーズなど、特徴的なチーズを生み出してきました。
 どのようなチーズが生まれ、どんな文化の中で今日に至ったのか、拙著『チーズの世界史』(KAWADE夢新書)で紹介しています。本をきっかけに、より深くチーズに親しんでもらえたらと思っています。

給食で食生活に根付く

 日本で本格的にチーズ文化が根付いたのは、戦後の学校給食からでした。牛乳生産の増加、給食への牛乳の導入。さらに、1963年には給食にプロセスチーズが登場したのです。当時の子どもたちにとって、チーズ味は特別なもの。スナック菓子にもチーズ味が取り入れられていったのです。
 さらにバブル期には、フレンチ、イタリアンのブームによって、本場の味が日本に紹介されるようになります。
 パスタ料理店やイタリア料理店で、パルメザンチーズを使った料理が提供されました。また、コンビニではチーズ入りのサンドイッチが売られ、チーズバーガーも浸透していったのです。
 こうしてチーズ文化が定着していく中で、自分でチーズを作りたいと思う人が現れ、小規模工場でのナチュラルチーズ作りが始まります。今やその数、各地に400軒以上。小さいながら、ものすごく品質のいいチーズを作っているところがあります。
 チーズプロフェッショナル協会が開催している「ジャパン・チーズ・アワード」でゴールドをとったチーズは、ヨーロッパの大会でも上位に入るほど。
 コロナ禍で、対面販売から通信販売が一般的になったことも、追い風になったようです。小さな工房でも全国から注文が来るようになり、出来上がった商品をすぐにクール便で配送できる。在庫を抱える心配もないため、小さな工房向きなのでしょう。

“和”らしい風味に期待

 チーズの味はミルクによって決まります。ミルクを出す牛がどこで育って、どのような餌を食べているのか。それによって、ミルクの味が変わってくるのです。フランスでは、牧草地の草の種類まで決まっているほど。いくら加工品とはいえ、自然のもので、ミルクも殺菌せずに使っているところも多いのです。
 殺菌したミルクに、特定の菌を使って発酵させればいいじゃないか、と思うかもしれません。それではシンプルな味わいになってしまい、おいしいけれども深みがなくなってしまうのです。
 作ったばかりのフレッシュチーズは、ミルクのおいしさがぎゅっと凝縮しています。それを長く置いておくと熟成して、タンパク質はアミノ酸に変わり旨みが増していきます。また、脂肪も脂肪酸に変化し、複雑なおいしそうな香りになっていきます。
 牛乳を40度から50度くらいに沸かすホットミルクの香りも、ほんのり甘くて良いですね。
 近年、日本でも、原料のミルクにこだわり、より繊細な作り方で、手間暇かけて本当においしいチーズを作る工房が出てきています。今後、このような工房が増えるとともに、世界各地で独自の進化を遂げたように、日本ならではの独自のチーズができることを願っています。=談

 こぐれ・ひろし 1948年、群馬県生まれ。独自にチーズの世界を探究し、NPOチーズプロフェッショナル協会理事に。現在、同協会顧問。2005年にはフランスチーズ鑑評騎士の会から「シュバリエ(騎士)」に叙任される。近著に『チーズの世界史』がある。

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