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クリーンエネルギーで世界一周飛行 スイスの冒険家に聞く 2026年1月20日

  • 〈SDGs×SEIKYO インタビュー〉 不可能を可能にする挑戦を
(写真は全て「ソーラー・インパルス財団」および本人提供)
(写真は全て「ソーラー・インパルス財団」および本人提供)
冒険家、精神科医 ベルトラン・ピカールさん

 「化石燃料を使わず、太陽光だけをエネルギー源とする飛行機で世界一周をする」――そんな“夢の飛行”を人類で初めて成し遂げた人がいます。スイスの冒険家、ベルトラン・ピカールさんです。2029年には「グリーン水素燃料の飛行機による世界一周」に挑むピカールさんは、地球環境を守るため、エネルギー効率の良い暮らしを実現させる方法を社会に広めています。SDGsの目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」をテーマに話を聞きました。(取材=玉川直美、樹下智)

 ――ピカールさんが冒険に興味を持ったのは、なぜでしょうか。
   
 科学者であり、冒険家でもあった祖父と父から、大きな影響を受けました。祖父は、人類で初めて気球で成層圏に到達し、現在多くの航空機で使用されている「与圧キャビン」を発明しました。父は、潜水艇でマリアナ海溝の最深部まで潜った最初の人です。
  
 祖父や父の人脈で、幼少期から著名な冒険家や科学者との出会いがあり、11歳の時には、人類初の月面着陸に成功した「アポロ11号」打ち上げの瞬間を間近で見るという忘れがたい経験もしました。いつしか、“自分も未知の世界に飛び込み、前人未到のことを成し遂げていきたい”との思いを抱くようになりました。

幼少期のピカールさん(右手前)が家族と
幼少期のピカールさん(右手前)が家族と

 ただ、私は宇宙や深海といった“外に広がる世界”だけでなく、「心」という人間の“内なる世界”にも興味を持つようになりました。大学では医学を学び、精神科医になりました。
  
 それでも冒険への情熱は冷めず、「ハンググライディング」という飛行競技を16歳から続け、27歳で欧州チャンピオンになりました。41歳の時には、気球による無着陸の世界一周飛行を人類で初めて成し遂げることができました。

1999年3月1日、無着陸の世界一周に飛び立った気球「ブライトリング・オービター3」が、スイスのアルプス山脈上空を飛行
1999年3月1日、無着陸の世界一周に飛び立った気球「ブライトリング・オービター3」が、スイスのアルプス山脈上空を飛行
同月21日、気球による初の無着陸の世界一周を成し遂げたピカールさん㊧が、共に搭乗した操縦士ブライアン・ジョーンズと
同月21日、気球による初の無着陸の世界一周を成し遂げたピカールさん㊧が、共に搭乗した操縦士ブライアン・ジョーンズと

 ――その後、“化石燃料を一切使わず、太陽光をエネルギー源とする飛行機で世界一周飛行を実現する”というプロジェクトを開始したのは、なぜですか。
  
 祖父、父から受け継いできた“冒険心”や“探求心”を、私はさらに「環境保護」という分野で発揮していきたいと思うようになったのです。精神科医としても、人々の“生活の質”の低下につながる大気汚染や気候変動の問題を見過ごすことはできません。再生可能でクリーンなエネルギーの普及に貢献したいと思い、太陽光発電の力で飛ぶ飛行機「ソーラー・インパルス」の世界一周プロジェクトを立ち上げました。
  
 当時、太陽光発電は、それほど普及していなかったため、その可能性を示す“画期的な一歩”になると考えたのです。
  
 もちろん、誰も成し遂げたことのない挑戦に、困難はつきものです。前例もないため、自分たちで一から考えなければなりません。機体の製造を、航空機に詳しい人に相談した時には、「飛行機を飛ばすエネルギーを太陽光だけから得るなんて、無理だ」と言われてしまいました。それならば、飛行機が“消費するエネルギー”を最低限に減らせないだろうかと考え、“軽くて丈夫な素材”を採用することにしました。
  
 他にもさまざまな先端技術を活用し、完成した「ソーラー・インパルス1」は、太陽光によって蓄えたエネルギーで夜間飛行が可能だということを証明しました。そして、一晩だけでなく、数日間にわたる長時間飛行や、海洋の横断飛行を可能にするために開発されたのが「ソーラー・インパルス2」です。
  
 途中に修理期間などもありましたが、2015年3月から16年7月にかけて、計17回・23日間の飛行で世界一周を達成することができました。このプロジェクトは私にとって、“不可能を可能にする挑戦”でした。

「ソーラー・インパルス2」は、幅72メートル、ジャンボジェット機並みの大きな翼を持ちながら、重量はわずか2・3トン。自動操縦の機能やトイレが設置され、機内で睡眠を取ることもできる
「ソーラー・インパルス2」は、幅72メートル、ジャンボジェット機並みの大きな翼を持ちながら、重量はわずか2・3トン。自動操縦の機能やトイレが設置され、機内で睡眠を取ることもできる
「ソーラー・インパルス2」は途中、悪天候のため名古屋に緊急着陸し、再びハワイへ飛び立った
「ソーラー・インパルス2」は途中、悪天候のため名古屋に緊急着陸し、再びハワイへ飛び立った
環境保護で経済を活性化

 ――世界一周飛行を終えてからは、「環境負荷の少ない、収益性のある技術や方法」の普及を目指し、「ソーラー・インパルス財団」を設立されました。
  
 「環境保護」や「気候変動対策」には、「お金がかかる」「経済成長が妨げられる」「移動の自由が制限される」「犠牲を強いられる」といったイメージがあります。“経済を縮小してでも、環境保護に取り組むべきだ”と訴えても、行動を起こす人は少ないのが現実です。
  
 しかし、実際はそうではない。コストを削減しながら、環境負荷を減らせる技術や事例は、世の中にはたくさんあります。環境保護、気候変動対策は、収益を生む「ビジネスチャンス」でもあるのです。
  
 財団では、1600件以上のそうした技術や事例を選定し、ホームページ上に掲示するとともに、国際会議の場で発表したり、政治家や企業のリーダーに紹介したりしています。
  
 10年ほど前、環境保護に積極的ではないメンバーが多く所属する、ある国の議員らに向けて、環境負荷の少ない技術について講演する機会がありました。その際、「収益性」の観点から話したところ、それまで反対していた人たちの考えが前向きに変わりました。後日、その国で再生可能エネルギー政策の導入が決まった際、議員の一人から、“あなたの話に納得して、賛成に一票を投じました”と言われました。
  
 「環境保護は、利益を生み、雇用を生み、経済を活性化させる方法になり得る」という新しいナラティブ(物語)は、左派や右派といった異なる立場や、政界、財界といった幅広い分野の人たちを、分断ではなく、共に連帯していく方向に導いていくことができるのだと実感した瞬間でした。
  

 ――SDGsの目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」を実現するために必要なことは何でしょうか。
  
 私たちは20世紀の古い考え方にとらわれたまま、旧式のインフラ設備を使って、エネルギーを大量に浪費し続けています。資源を枯渇させ、大気汚染や気候変動を引き起こす原因をつくるために、莫大な資金を支払い続けているのです。
  
 しかし、解決策となり得る数多くの新しい技術が、世の中には既にあります。重要なのは、それらをいかに適切な場所に導入していくかです。
  
 日々の暮らしの中に、エネルギー効率を高められる方法はあります。例えば、空気中の熱をくみ上げ、少ない電力で冷暖房を可能にする「ヒートポンプ」という技術があります。また、地下駐車場や、地下鉄などから出る廃熱を使い、その上にある建物の暖房や給湯に利用する方法もあります。
  
 最近では、デジタル化やAI(人工知能)の普及に伴い、「データセンター」という巨大なコンピューター施設の需要が増えています。稼働を続けると大量の熱を発しますが、こうした熱も、エネルギーとして活用できるはずです。あらゆる所に、エネルギー活用のヒントがあるのです。

財団の仲間と語り合う
財団の仲間と語り合う
創造力とパイオニア精神

 ――ピカールさんは現在、製造・使用過程で二酸化炭素を排出しないエネルギーとして注目される「グリーン水素燃料」による無着陸の世界一周飛行の計画を進めていますね。
  
 ええ。グリーン水素燃料による飛行機「クライメート・インパルス」の世界一周飛行によって、私はグリーン水素が持つ可能性を示していきたいと思っています。水素は、航空機や、船舶、鉄道、さらには鉄鋼製造や肥料生産にも活用できると考えます。
  
 「グリーン水素は高すぎて、採算が取れない」「活用は不可能だ」といった声もありますが、長い目で見る必要があるでしょう。例えば「携帯電話」は、最初はスーツケースほどの大きさで、現在の価値で100万円以上もしました。しかし、技術の発展によって、今では皆がポケットに入れて持ち歩くものになりました。太陽光発電も、25年前は、今の40倍のコストがかかっていましたが、需要と供給が共に増したことで、価格が下がったのです。
  
 私は、この「クライメート・インパルス」のプロジェクトを、全ての人に勇気を届けるものにしたいと思っています。とりわけ若い世代の皆さんには、「未来への希望を持ち続けてほしい」と伝えたい。「環境問題の解決策になり得るものは、世の中に存在する」ということ、そして、「人間が持つ創造力を生かせば、人類に立ちはだかる課題は解決していける」ということを示したいのです。
  

昨年11月、国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)の関連行事に登壇したピカールさん
昨年11月、国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)の関連行事に登壇したピカールさん

 ――創価学会第3代会長の池田大作先生は、世界的なシンクタンク「ローマクラブ」の創設者であるアウレリオ・ペッチェイ博士と語らいを重ね、対談集『21世紀への警鐘』を発刊しました。両者は、“地球規模の課題解決への方途は、人間自身が変わる「人間革命」にある”との見解で一致しました。
  
 『21世紀への警鐘』は非常に有名な本です。「世界をより良くするためには、人間自身が変わる必要がある」との考えに賛同します。慈悲の心や、自然への敬意、他者への尊敬の念がもっと広がれば、人類の未来は明るくなるはずです。
  
 私は、地球環境を守るためには、多くの人を巻き込む必要があると思います。残念ながら、この世界には、自分の利益以外に関心を持たない、非常に自己中心的な人々もいます。そうした人たちの行動を、環境破壊の方向ではなく、環境保護の方向に導いていくために何が必要か。私はその鍵の一つが、相手に合わせた語り方をしていくことだと考えます。
  
 思いやりの心で動く人には心で伝え、理性で動く人には論理的に伝える。そして利益のことしか考えていない人にも「これは、あなたの利益にもなるのだ」と伝え、実例を示していく。実際、私がこうした実践を重ねる中で、多くの人が環境保護の方向へと行動を変え、クリーンエネルギーに理解を示すようになりました。
  
 大気汚染や気候変動といった環境問題は、地球規模の巨大な課題です。知れば知るほど不安を感じ、時には諦めの念を抱いてしまうこともあるでしょう。それでも私は、「人間が持つ“創造力”や、不可能を可能にする“パイオニア(開拓者)精神”で、これらの問題は解決していける」と信じています。現に、経済的にも利益を生みながら、解決へ導く技術や方法は、今も開発が続けられているのです。そこに、もっと目を向けてほしい。
  
 今、そして未来を生きる世代の暮らしを守る挑戦を続けること――それが、私にとっての「21世紀における冒険」です。これからも、大きな理想を胸に抱きながら、地に足の着いた現実的な行動を積み重ね、地球環境を守る活動を続けていきます。

「ソーラー・インパルス2」に乗るピカールさん
「ソーラー・インパルス2」に乗るピカールさん

 Bertrand Piccard 1958年、スイス生まれ。冒険家、精神科医。2016年に、太陽光をエネルギー源とする飛行機で世界一周飛行を達成。その後、収益性と環境保護を両立できる技術や方法を普及させるため、「ソーラー・インパルス財団」を創設。15年から23年まで国連環境計画(UNEP)親善大使。著書に『空の軌跡』など。

  
  
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https://www.seikyoonline.com/intro/form/kansou-input-sdgs.html
  
●聖教電子版の「SDGs」特集ページが、以下のリンクから閲覧できます。
https://www.seikyoonline.com/summarize/sdgs_seikyo.html
  
●海外識者のインタビューの英語版が「創価学会グローバルサイト」に掲載されています。
https://www.sokaglobal.org/resources/expert-perspectives.html

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