• ルビ
  • 音声読み上げ
  • シェア
  • メール
  • CLOSE

〈信仰体験〉 クロマツをめでる植木職人 2026年4月12日

 【石川県金沢市】春のうららかさに誘われて外に出ると、木々に目を奪われる。厳冬を越えた命の息吹。人の手が行き届いた、公園や庭の景観は一層の美しさを誇る。造園業を営む吉村拓也さん(46)=地区部長=はいとおしそうに、樹木の手入れに没頭していた。「昔から、緑がたまらなく好きなんです」。その愛情は自然にとどまらず、衣類から靴、カバンまで緑色で固める徹底ぶり。こうと決めたら貫く人である。

根を深く きょうより明日へ

 にぎやかに色めく庭園にあって、吉村さんがとりわけ好むのは、クロマツである。
 
 手のひらで優しく木肌をなでる。見た目は何の変哲もないが、1年の成長が伝わるという。「少しずつ着実に。自らもこうありたいと思うんです」
 
 クロマツは、厳しい環境下でも育つ。潮風を耐え忍ぶ。
 
 吉村さんは1歳で川崎病を発症。心臓の血管がこぶ状に膨らみ、心筋梗塞に至るリスクがあった。母や祖母に連れられて、大学病院へ。「いーち、にい、さーん……」。ベッドに横たわり、落ちる点滴を数える習慣は、就学前まで続いた。
 
 体育の時間も制限。加えて、「さ行」の発音がうまくできず、いわゆる“赤ちゃん言葉”は、小学校高学年になっても変わらなかった。特別支援学級に通い、スプーンをくわえての訓練を受けた。
 
 小学6年の時に転校。初日のことは鮮明に覚えている。普通に自己紹介をしたつもりが、教室でクスクスと笑う声。それまでの幼なじみに守られた環境では、からかわれなかっただけに、顔から火の出る思いがした。コンプレックスを抱え、人前を避けるようになった。

生け垣の剪定を行う吉村さん。公園や施設の管理も担うが「家主の顔が見える個人宅がいい」。植木の話題だと冗舌になる
生け垣の剪定を行う吉村さん。公園や施設の管理も担うが「家主の顔が見える個人宅がいい」。植木の話題だと冗舌になる

 クロマツは、真っすぐに深く根を下ろすことで知られる。
 
 最初に創価学会に入ったのは祖母で母も続いた。吉村さんは幼い頃から、御本尊に向かう母の姿を見てきた。「祈ることが、たくさんあったんだと思います」
 
 小学3年で両親は離婚。母は部品工場で働いた。生活は苦しく、母のことが大好きなだけに、働きもせず母に苦労をかけ通しだった父が憎らしかった。
 

 早く働いて母を支えたい。そんな思いから農業高校を卒業後、造園業へ。早朝、眠い目をこすって駐車場に向かう道すがら、いつも出くわす人がいた。
 
 本紙を配達中の地区婦人部長(当時)。いつも満面の笑みで「いってらっしゃい」と声をかけられた。そんな人から会合に誘われると、「とても断れなかった」。
 
 座談会に参加してみる。迎えてくれた同志がなんとも言えず温かい。次第に学会活動に参加するように。
 
 職場であいさつができるように祈り、「おはようございます!」と詰まらずに言えた時の爽快感。楽しくて、うれしくて。生活の中心に学会活動を置いて、何にでも挑戦するようになった。壁にぶつかっては池田先生の指導を求めた。
 
 そんなひたむきさを見ていた、希久美さん(49)=地区女性部長=と結婚。3人の子が生まれた。吉村さんは決して器用な方ではない。学会の先輩は周囲と比べず、「昨日より一歩の成長」を褒めてくれた。だから純粋に頑張れた。恩人と呼べる人が何人もできた。

 刻まれる年輪は、自然の厳しさによって様相を変える。
 
 吉村さんが唯一、気がかりなのは父のこと。脳裏にはマージャンに明け暮れて、だらしない父親の背。池田先生はいつも、親孝行の大切さを教えてくれた。そのたびに胸の奥が痛む。
 
 そんな時、父がステージ4のがんだと聞かされた。父を許せない自分との葛藤。揺れる心中を聞いた先輩は「君が信心で成長できたことを伝えればいい」と励ましてくれた。
 
 父が勤める会社の事務所で対面。父は「こんな俺を心配してくれるのか」「お母さんの育て方が良かったんだな」と。その後、入会。「蘭室の友に交わって麻畝の性と成る」(新43・全31)。見守ってくれる同志のおかげで、親孝行を果たせた気がした。
 

穏やかな家族の時間(右から長男・創太さん、義母・新藤順子さん、次男・誓太さん、吉村さん、妻・希久美さん、長女・凜さん)
穏やかな家族の時間(右から長男・創太さん、義母・新藤順子さん、次男・誓太さん、吉村さん、妻・希久美さん、長女・凜さん)

 不老長寿の象徴であるクロマツは庭の主役であり、威容を誇る。
 
 一生勤め人と考えていた吉村さんだったが、飽くなき探求心から37歳で独立を果たす。
 
 トラックと脚立があれば可能とはいえ、狭い業界のしきたりもある。管理が行き届いた庭の家にはお抱えの庭師がいる。吉村さんはチラシを作り、手つかずの庭を探し、チャイムを鳴らさずに郵便受けに投函。
 
 「それはもう、逃げるように(笑)」。初対面の人と話すのは、相変わらず苦手だった。
 
 軽トラに載せた自転車を降ろして、走り回った100軒で、反応があるのは2、3軒ほど。だが、小さい仕事でも喜んで受ければ、その誠実さから徐々に注文が舞い込んだ。
 
 家主の思いをかなえて、庭を作り上げる楽しさはたまらない。年月を重ねるごとに、仕事は途切れることなく増えていった。
 

 先日、長い付き合いの庭園を仕上げると、家主はリビングの一等席に招き入れてくれた。土まみれの格好だからと辞すると、「吉村さんは、家族同然だから」。その一言に泣けて仕方なかった。
 
 なぜクロマツが好きなのか尋ねた。
 
 「幹の肌がね、亀の甲羅みたいに割れて分厚く、堀のように深くなる。一年一年ちょっとずつ。時が堆積した結晶。それがかっこよくて」
 
 

 吉村さん自身、一発逆転のようなことはなかった。ただ、怠らずに挑戦を一歩一歩重ね、自分の器を広げてきた。
 
 粘って根を張り、精いっぱいに葉を広げた。自分だけじゃない誰かを守るために。3人の子は後継者と育ち、地域では町内会長を務めた。その歩み一つ一つに、思い出が宿る。感謝を忘れない。
 
 「自分を変えるのも大変なのに、人を成長させるなんて、どれだけ大変か。それを先輩が僕にしてくれた。こんな学会をつくってくださった池田先生の偉大さを、あらためて感じます」
 
 これから5月にかけて、クロマツは新芽を伸ばす。吉村さんは木全体に光が届くように剪定に励む。強く美しく育て、と願いを込めて。

動画

SEIKYO CAMPUS

SEIKYO CAMPUS

SDGs✕SEIKYO

SDGs✕SEIKYO

連載まとめ

連載まとめ

Seikyo Gift

Seikyo Gift

聖教ブックストア

聖教ブックストア

デジタル特集

DIGITAL FEATURE ARTICLES デジタル特集

YOUTH

恩蔵絢子さん㊨

劇画

劇画
  • HUMAN REVOLUTION 人間革命検索
  • CLIP クリップ
  • VOICE SERVICE 音声
  • HOW TO USE 聖教電子版の使い方
PAGE TOP