277DB45457856D9F4BE12F676CD84972
【言語化特集】言葉と歩む若者たち〈4〉――文芸が生きる希望となった起業家
【言語化特集】言葉と歩む若者たち〈4〉――文芸が生きる希望となった起業家
2025年5月12日
内側にあるものを、掘り起こす
内側にあるものを、掘り起こす
堺清さん=兵庫県西宮市、男子部副部長=は、二つの会社を経営し、ウェブ制作やプロモーション事業を行っている。
中学・高校時代は学校に行かず、昼は家にこもっていた。“不良仲間”と遊んだり、オンラインゲームの世界に没頭したり。人知れず、“高校を卒業したら生きるのをやめよう”とまで思っていた。
「文芸に出あえたことが、私の人生を大きく変えました」
幼い頃から吃音があり、話そうとしても、言葉が出てこなかった。小学校の授業でも、クラスメートとの会話でも。思っていることは山ほどある。“ここでツッコミの一言を言えば人気者になれる!”――でも、言えない。本当は、お笑い芸人になりたいと思うくらい、ひょうきんなのに、そんな自分を、誰にも分かってもらえない。
分かってもらえないのなら、人との関係を絶とうと思った。学校に行かなければ、人に会うことはないと考えた。高校卒業の時期が近づいてくる。社会に出たとしても、“何者にもなれないだろう”と思った。そんな時、文豪ゲーテの本を手に取った。
「私はただ口を噤むよりほかはない。私はおのれが心の内面にたち返って、ここに一つの世界をみいだす! 具象化されたもの、はた生きて働く力よりも、むしろ予感とおぼろげな希求のうちに、いつもながらわが世界がある」
堺清さん=兵庫県西宮市、男子部副部長=は、二つの会社を経営し、ウェブ制作やプロモーション事業を行っている。
中学・高校時代は学校に行かず、昼は家にこもっていた。“不良仲間”と遊んだり、オンラインゲームの世界に没頭したり。人知れず、“高校を卒業したら生きるのをやめよう”とまで思っていた。
「文芸に出あえたことが、私の人生を大きく変えました」
幼い頃から吃音があり、話そうとしても、言葉が出てこなかった。小学校の授業でも、クラスメートとの会話でも。思っていることは山ほどある。“ここでツッコミの一言を言えば人気者になれる!”――でも、言えない。本当は、お笑い芸人になりたいと思うくらい、ひょうきんなのに、そんな自分を、誰にも分かってもらえない。
分かってもらえないのなら、人との関係を絶とうと思った。学校に行かなければ、人に会うことはないと考えた。高校卒業の時期が近づいてくる。社会に出たとしても、“何者にもなれないだろう”と思った。そんな時、文豪ゲーテの本を手に取った。
「私はただ口を噤むよりほかはない。私はおのれが心の内面にたち返って、ここに一つの世界をみいだす! 具象化されたもの、はた生きて働く力よりも、むしろ予感とおぼろげな希求のうちに、いつもながらわが世界がある」
堺さんが愛読する『ゲーテ全集』第13巻
堺さんが愛読する『ゲーテ全集』第13巻
自分がずっと心の中で考えてきたこと、でも、うまく言葉にできなかった思いが、そこに、はっきりと書かれていた。そして、こうも感じた。
“書けば、話せなくても生きていけるかもしれない”
小説家を目指し、専門学校に進学した。ひたすら作品を書き続けるも、うまく書こうとすればするほど、他人からの評価も、自分自身の納得も得られなかった。
書きながら、書物に触れ続けた。その中で、日蓮大聖人の御書や、牧口先生、戸田先生、池田先生の指針も探究した。
「心の師とはなるとも、心を師とせざれ」(新1481・全1088)
「信仰と哲学なき人は/羅針盤のなき船舶だ!/もはや/物の時代から心の時代/心の時代から生命の時代に/刻々と移りかわっている」(長編詩「青年よ 21世紀の広布の山を登れ」)
移ろいやすい自分の心に振り回されず、生命に具わっている力を活用して生きていく。そのために祈り、自身と向き合い、書き上げた。
完成した作品のタイトルは『僕が不登校になった理由』。
自分がずっと心の中で考えてきたこと、でも、うまく言葉にできなかった思いが、そこに、はっきりと書かれていた。そして、こうも感じた。
“書けば、話せなくても生きていけるかもしれない”
小説家を目指し、専門学校に進学した。ひたすら作品を書き続けるも、うまく書こうとすればするほど、他人からの評価も、自分自身の納得も得られなかった。
書きながら、書物に触れ続けた。その中で、日蓮大聖人の御書や、牧口先生、戸田先生、池田先生の指針も探究した。
「心の師とはなるとも、心を師とせざれ」(新1481・全1088)
「信仰と哲学なき人は/羅針盤のなき船舶だ!/もはや/物の時代から心の時代/心の時代から生命の時代に/刻々と移りかわっている」(長編詩「青年よ 21世紀の広布の山を登れ」)
移ろいやすい自分の心に振り回されず、生命に具わっている力を活用して生きていく。そのために祈り、自身と向き合い、書き上げた。
完成した作品のタイトルは『僕が不登校になった理由』。
堺さんの代表作『僕が不登校になった理由』
堺さんの代表作『僕が不登校になった理由』
違和感を覚えながら、学校に通った日々。
〈一音目すら、いや、息すら出なくなることもあった〉
〈言葉は消えて、いつも言葉にならなかった感情だけが最後に残った。悔しいとも、虚しいとも、何とも言えない感情を抱えながら〉
この先も生きていこうと決めた時の思い。
〈僕は言葉を知りたいと思った。世界で一番嫌いなこの言葉というものを、真剣に学びたいと思った〉
大人になり、友に、手紙を届けた時の気付き。
〈上手に話すことが大事ではなく、伝わることが大事なんだ〉
そして、言葉にすることの意味。
〈言葉を追いかけて、ここまできてしまった〉
〈もう二度と、私の心を悩ますことはできない。そう断言できるほどの勇気を、その小説からもらっている〉
専門学校を卒業して、起業した。ウェブマーケティングも、商品のプロモーションも、相手の目線にたって、言葉を交わす作業だと、堺さんは感じている。
この先は、誰もが自身の作品を共有できるようなプラットフォームを立ち上げたい。言語化は、「化石を掘る感覚に近い」と堺さんは言う。自分の内側にある言葉を、丁寧に掘り起こし、そのままの形で差し出す。上手・下手の次元を超えた、深い内観。それが人の心を動かす。
「私たちが日々抱く、さまざまな感情。それを言葉にして、物語にして、分かち合える場があれば、生きる力を引き出し合うことができるのではないかと思っています」
堺さんは、作品を書き続けている。
違和感を覚えながら、学校に通った日々。
〈一音目すら、いや、息すら出なくなることもあった〉
〈言葉は消えて、いつも言葉にならなかった感情だけが最後に残った。悔しいとも、虚しいとも、何とも言えない感情を抱えながら〉
この先も生きていこうと決めた時の思い。
〈僕は言葉を知りたいと思った。世界で一番嫌いなこの言葉というものを、真剣に学びたいと思った〉
大人になり、友に、手紙を届けた時の気付き。
〈上手に話すことが大事ではなく、伝わることが大事なんだ〉
そして、言葉にすることの意味。
〈言葉を追いかけて、ここまできてしまった〉
〈もう二度と、私の心を悩ますことはできない。そう断言できるほどの勇気を、その小説からもらっている〉
専門学校を卒業して、起業した。ウェブマーケティングも、商品のプロモーションも、相手の目線にたって、言葉を交わす作業だと、堺さんは感じている。
この先は、誰もが自身の作品を共有できるようなプラットフォームを立ち上げたい。言語化は、「化石を掘る感覚に近い」と堺さんは言う。自分の内側にある言葉を、丁寧に掘り起こし、そのままの形で差し出す。上手・下手の次元を超えた、深い内観。それが人の心を動かす。
「私たちが日々抱く、さまざまな感情。それを言葉にして、物語にして、分かち合える場があれば、生きる力を引き出し合うことができるのではないかと思っています」
堺さんは、作品を書き続けている。