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〈SDGs×SEIKYO〉 地球に優しい光で未来に明かりを――バングラデシュ出身の社会活動家 サジド・イクバルさん 2022年9月15日

  • インタビュー:スラム街にクリーンな電力を普及
バングラデシュの首都・ダッカにある学校で、イクバルさん(左端)がペットボトルを使ったライトの製作を実演(2014年1月) ©CHANGE
バングラデシュの首都・ダッカにある学校で、イクバルさん(左端)がペットボトルを使ったライトの製作を実演(2014年1月) ©CHANGE

 今から10年ほど前、大学生だったサジド・イクバルさんは、使用済みのペットボトル、水、太陽光などを用いて、母国バングラデシュのスラム街に新たな“明かり”をともしました。以来、クリーンな電力を生み出す技術・製品を開発し、学校や工場などにも普及させ、国内のエネルギー問題に取り組んできました。今回は、SDGsの目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」をテーマに、社会を変えるための鍵について、イクバルさんに聞きました。(取材=木﨑哲郎、福田英俊)

◆ろうそくを使って勉強

 ――バングラデシュは、日本の4割の面積の国土に1億6500万人が暮らす、世界有数の人口密度が高い国です。経済発展と、地球温暖化を防ぐためのクリーンエネルギー活用への転換のバランスが課題だと伺っています。イクバルさんがエネルギー問題に関心を持ったのはなぜですか。
  
 私が幼少時代を過ごしたのは、北東部のシレットという町です。父は茶畑の管理に携わる仕事をしており、私はのどかな自然に囲まれて育ちました。

 当時のわが家にはインターネットはおろか、電話もありませんでした。茶畑から車で1時間ほど離れた市街地に、公衆電話が置かれた施設があり、そこでよく、両親は祖父母に電話をかけていました。

 振り返ると、私の幼少時代、町には電気が全く通っていない家庭もあり、子どもたちは、灯油のランプやろうそくを使って懸命に勉強していました。

 そんな光景を前に、「どうしたら、皆の家に電気が届くのだろう」と、いつも疑問に感じたものです。

 バングラデシュでは今、多くの人が電力を利用できるようになった一方、経済成長に伴う電力需要の増大により、電力供給が不足する事態が起きています。

 特に最近のウクライナ危機により燃料価格が高騰し、ディーゼル発電所は一時的に稼働停止となりました。他の発電所は需要を満たす電力供給に全力を挙げていますが、7月下旬からは、全国で一日数時間の計画停電が行われています。
 深刻な電力不足により、製造業は打撃を受け、人々の生活もとても不便になっています。

◆ペットボトルの手作りライト

 ――大学へ進学後、イクバルさんの社会的関心は大きく高まります。
  
 大学2年の時です。太陽光を用いたエコな照明を作る活動がフィリピンで進んでいることを知り、友人から、ダッカのスラム街でも同じことができるのでは、と提案されたのが始まりでした。

 アイデアは至ってシンプルです。使用済みのペットボトルに、塩素を混ぜた水を入れます。そして家の屋根に穴を開け、接着剤で設置すれば完成です。

 これで、60ワットの白熱灯に匹敵する明るさの太陽光を取り入れることができます。塩素を混ぜた水が、太陽の光を反射し、まるで電灯のように輝くのです。

ペットボトルで作ったライトの光を見つめる子どもたち ©CHANGE
ペットボトルで作ったライトの光を見つめる子どもたち ©CHANGE

 この簡素な“電球”を、私たちは「ボトル・バティ」と名付けました。ボトルは「ペットボトル」、バティは、ベンガル語で「光」を意味します。

 ところで、陽光がさんさんと降り注ぐバングラデシュで、なぜスラム街では日中も電気が必要なのか――これは当初、私自身が疑問に思ったことでした。

 また、プロジェクトを開始した時は、雨による水漏れが問題になり、私も修繕に当たりましたが、多くの人が結局はボトル・バティを不要と思うのではないか、と感じていました。しかし実際、ボトル・バティは必要とされていたのです。

 ある婦人の言葉が忘れられません。「何度でも修理してちょうだい。私は毎日、サリー(女性の伝統衣装)を編んでいるの。でも停電が起こると日中も暗くて仕事にならない。この手作りのライトは本当に助かっているわ」と。

 スラム街の家々は密集しており、しかも窓がありません。したがって、昼間でさえ太陽光が入らず、室内は真っ暗なのです。日中もなぜ電気が必要なのか、その答えはこの劣悪な住環境にありました。

 その上、スラムの人口は年々増えています。気候変動による自然災害などの影響で住む場所を追われ、農民の人々らが地方から都市部へ流入しているのです。

首都ダッカのスラム街。密集した家屋の室内には太陽光が届かない ©SWPhotography/Getty Images
首都ダッカのスラム街。密集した家屋の室内には太陽光が届かない ©SWPhotography/Getty Images

 ――新たなライトの普及にあたり、一番苦労されたことは何でしょうか。
  
 最初は、「屋根に穴を開けるなんてとんでもない」と思われました。スラム街に暮らす人々にとって、風雨から家族を守ってくれる屋根は、“最大の家財”ともいえる、何よりも大事なものだからです。

 そこに穴を開けるどころか、使用済みのペットボトルを差し込むことは、さらなる「貧しさの象徴」として周囲の目に映ってしまう、と心配する声もありました。

 こうした人々の意識を変えるために、私たちは数カ月に及ぶ「啓発キャンペーン」を実施しました。一軒一軒、ドアをたたいて訪ねて回り、私たちの取り組みを紹介するリーフレットを配布していったのです。

 スラム街では、違法に引かれた電線から、無制限に電気を使っている家庭もあります。簡単に作れるボトル・バティの普及は、生活の利便性の向上のみならず、電力の無駄遣いを減らすことにもなる。そして、それは石炭火力発電によるCO2(二酸化炭素)排出量を減らすことにもなり、気候変動の影響で洪水や干ばつが深刻化している国の未来を救うことになる――そう訴えて歩きました。

 社会を変える行動を起こすのに、経済力や学力は関係ありません。“自分は善をなす大きな運動の一員なんだ”という自覚の芽生えが、鍵を握ります。 

 プロジェクトの一つの成果として、スラムの約250世帯にライトを設置することができ、人々の生活に、明るい自然光が差し込むようになったのです。

ダッカの難民キャンプの学校に、自然光を活用したライトを設置。それまで、停電時などは昼間でも室内が暗く、子どもたちは屋外で学ぶ時もあったという ©CHANGE
ダッカの難民キャンプの学校に、自然光を活用したライトを設置。それまで、停電時などは昼間でも室内が暗く、子どもたちは屋外で学ぶ時もあったという ©CHANGE
◆「不足には増産」との考えを脱却

 ――イクバルさんの取り組みは、スラム街だけでなく、工場などにも広がっていきました。
  
 最初のプロジェクトが功を奏したことで、「私たちの工場でも、そのライトを設置できないか」との問い合わせが相次ぎました。

 ですが、家庭用のボトル・バティを単純に大きくするわけにもいかず、海外の取り組みを調べたところ、太陽光を反射させて室内を照らす「スカイライト」という装置を見つけました。ですが製品を輸入した場合、費用が高くつくため、自分たちの手で作ることにしたのです。

 しかし、ここでもまた、「人々の意識を変える」という試練が生じました。まず、つながりのある海外企業に相談を持ちかけると、「君たちで作るのは困難だ」とはね返されました。それでも、計画と必要な資金を具体的に提示し、粘り強く交渉を重ねていく中で、最終的に融資が決定しました。

 また、「自然光の有効利用は、そこまでのエネルギー節約にはならないのでは」と首をかしげる、新聞記者や大学教授たちもいました。

 私はめげず、熱意をもって訴え抜きました。「本当にそうでしょうか。物事は5年、10年という長い期間で考えるべきです。何より、私たちは環境問題に注意を払うべきです。国際社会の一員として、市民の責任として、CO2の排出量の削減を目指すべきだと思うのです」

 こうして少しずつ理解を広げ、最終的には、機械工学に強い大学や、持続可能な開発を扱う政府の部署ともつながることができ、私たちが開発した「スカイライト」を多くの工場に導入することができました。

 バングラデシュでは今、幾つもの工業地帯が建設中です。「エネルギーの不足には増産で対応する」というのは古い考え方であり、石炭のさらなる消費につながりかねません。私たちは、新たなクリーンエネルギーの活用へ、思考を抜本的に変えなければならないのです。

 今後、国内の全ての工場が太陽光を活用していく、といった政策が作られるよう、声を上げ続けていきたいと思っています。

スカイライトを導入したバングラデシュのアイスクリーム製造工場。節電ができ、CO2削減にもつながっている ©CHANGE
スカイライトを導入したバングラデシュのアイスクリーム製造工場。節電ができ、CO2削減にもつながっている ©CHANGE
◆ビジョンを掲げた一人が影響を持つ

 ――イクバルさんは、国内の青年たちがアイデアを出し合い、技術を学び合う研修なども推進してきました。どのような成果がありましたか。
  
 ある時、一つの課題に気付きました。機械工学を学ぶ学生が、知識はあっても具体的な行動への移し方を経験したことがない。逆に、アイデアは斬新だけど、機械工学の分野で求められる知識が不足している学生もいる――。

 そこで、数カ月にわたり、知識やアイデアを交換し、地域の課題に即して解決策を生み出す、研修プログラムを立ち上げたのです。学生のほか、難民キャンプに暮らす人、子連れの大学教授なども参加してくれました。

 彼らの中から生まれたアイデア、発明品は、どれも本当に素晴らしかった。
 例えば、災害時でも使える、竹とペットボトルで作られた街灯。小規模な農園で四季折々の野菜を作る人たちのために制作された、ソーラー発電で動く灌漑ポンプ。汚水が原因でコレラや下痢になってしまう人が多いスラム街に設置された、紫外線による殺菌ができる浄水器――。

 どれも試作品ではありますが、改良し、規模を広げていくことは可能です。新たな発想と、小さな成功の積み重ね。その先に変化は起きるのです。

社会貢献のための知識や技術を学び合う研修プログラム
社会貢献のための知識や技術を学び合う研修プログラム

 ――池田SGI会長は、バングラデシュ出身のアンワルル・チョウドリ元国連事務次長と深い親交があり、チョウドリ元事務次長は、池田会長の「一人の人間における偉大な人間革命は、やがて一国の宿命の転換をも成し遂げ、さらに全人類の宿命の転換をも可能にする」との哲学に共感を示しています。この哲学は、イクバルさんの信念とも深く響き合うものだと感じます。
  
 社会をより良い方向へと導いておられる、この2人の傑出した指導者の言葉を、私自身、深くかみ締め、また理解しているつもりです。

 バングラデシュでグラミン銀行を立ち上げ、貧しい女性たちに無数の起業と就労の機会をつくった、ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス博士。彼の功績も、無担保少額融資という独創的なアイデアから始まりました。

 このように、確かなビジョンを持った一人の人間が、世界に多大な影響を及ぼすというのは揺るぎない事実です。

 まして、今ではグローバル化が進み、SNSが発達しています。グレタさん(スウェーデンの環境活動家)のように、一人の人間の声が、世界全体へと瞬時に波及していく。そんな時代を私たちは生きているのです。明るい未来の実現へ、誰もが変化を起こすことができます。

 私自身、自らに課せられた責任を誇りを持って受け止め、今後も一層、努力を重ねていくつもりです。

 〈プロフィル〉 サジド・イクバル 1991年、バングラデシュ生まれ。再生可能エネルギーなどを推進する青年団体「CHANGE」を創設し、太陽光を活用したライトを普及。英国のエリザベス女王から「クイーンズ・ヤング・リーダーズ・アワード」を受賞。これまでの活動の模様は、国内外のメディアのほか、SGIが地球憲章インタナショナルと制作した「希望と行動の種子」展でも紹介されている。

  
●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ぜひ、ご感想をお寄せください。
sdgs@seikyo-np.jp

●海外識者のインタビューの英語版が「創価学会グローバルサイト」に掲載されました。
https://www.sokaglobal.org/resources/expert-perspectives.html

 ※世界の気温上昇を、産業革命前と比較して1.5度以内に抑えることが国際的な目標となっている今、国連の「SDGメディア・コンパクト」に加盟する日本のメディアと国連が協働し、「1.5℃の約束――いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。」というキャンペーンが実施されています。加盟社の聖教新聞も参画しており、気候変動対策に関する情報を積極的に発信しています。

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