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〈SOKA SPORTS――創価スポーツ〉 創価大学駅伝部・榎木和貴監督の指導哲学 2026年7月28日
創価大学駅伝部を率いる榎木和貴監督が大切にしているのは、選手との対話だ。それぞれの目標や可能性に向き合い、選手自らが考え、行動する力を引き出す。一人一人の成長を、いかにチームの勝利へとつなげていくか。今回の「SOKA SPORTS」では、榎木監督の指導哲学に迫った。
高校陸上の名門・佐久長聖で駅伝メンバーに入れなかった小池莉希選手(4年)は、いまや創大駅伝部のエースへと成長した。
大学1年の時に、5000メートルで好記録をマーク。一方で、記録に見合うだけの真の強さは伴っていなかったと、榎木監督は振り返る。途中で先頭に出て見せ場をつくるものの、力を使い果たし勝ち切れないレースが続いた。
小池選手は、2年時の夏のケニア合宿で左脚を骨折。箱根駅伝でも納得のいく走りができず、「このままでは駄目だ」との思いを強めていった。
榎木監督が求めたのは、レース途中で目立つだけでなく、相手に競り勝ち、結果につなげることだった。区間賞をきっちり“取り切る”。トラックのレースで“勝ち切る”。そうした本来の目的を見失わないよう、声をかけ続けた。
走りの具体的な修正は、川嶋伸次総監督と共に進めた。相手を振り落とすタイミングやラストスパートのかけ方、フォームなど、目指す走りを日々の練習に落とし込んだ。
次第に、勝負どころまで力を残せるようになり、3年時で初出場した日本選手権で決勝に進出。箱根では6区の区間賞を獲得した。最終学年の今季も、1万メートルなどで創大の日本人記録を更新するなど、好調を維持している。
選手が自ら考え、行動するために、榎木監督が重視するのが、年4回、全選手を対象に実施する面談である。
時間は1人約15分。3カ月間を振り返り、目標に対する行動の“答え合わせ”を行う。就任以来、続けてきた選手との対話の機会だ。
目標に届いたのか。届かなかったのか。その原因は何か。榎木監督は、選手自身の言葉で考えを整理させる。
「目標が決まれば、日々の行動に目的が生まれます。逆に、目標が漠然としていれば、今の自分に何が必要なのかも分かりません」
選手が掲げた目標を基に、現実とかけ離れていれば修正を促す。目標を実現するための行動が伴っているかを確かめながら、対話を重ねて選手の「考える力」を引き出していく。
ケニア合宿への参加を希望する選手に、こう尋ねたこともある。
「ケニアに行きたいのに、パスポートを取っていない。本当に行く気があるのか」
目標は、口にするだけでは実らない。そのために今、何をするのか。榎木監督は、選手の言葉と行動のずれを指摘する。
一方で指揮官は、懸命に取り組むあまり、気持ちが張り詰めている選手には言い過ぎない。また、選手が目標を達成し、努力が結果に表れた時は、手放しで褒める。レースで自己ベストを更新しても、本人の力やレース内容から、さらにできたと判断すれば厳しく言うこともある。
「褒めるだけで伸びるなら、いくらでも褒めたい。でも、ここで言わなければ、その先の成長はないという瞬間もあると思っています」
伸びる選手に共通する要素として、監督は「素直さ」を挙げる。
それは、疑問があれば質問し、納得がいくまで確認。そして、自分に必要なことを練習や生活に取り入れていく姿勢だ。
「強い選手は自分を信じて行動できますし、そこに我々がアドバイスをすると、素直に受け止めてくれます」
学生時代、けがが多かった葛西潤選手(現・旭化成)は、常に復帰後の体の状態を思い描きながら黙々とトレーニングに励んでいたという。
吉田響選手(現・サンベルクス)も、本番で最高の走りを実現するため、自らプランを立てて、徹底的に体を追い込む練習を重ねていた。
榎木監督は、そうした姿を「自分の体と対話しながら考える力」と表現する。
また、伸びる選手には、日常の振る舞いにも共通点があるという。朝練習の集合時刻より5分、10分早くグラウンドに出る。寮に落ちているごみに気付き、拾う。周囲に目を配り、自分から動けるかどうか。榎木監督は、そうした姿勢にも競技者としての可能性を見ている。
今春、創大駅伝部には、高校時代に実績を残した選手が多く加わった。榎木監督は「1年目は、記録を追わせるよりも、基礎づくりに力を注いでいます」と語り、2年目以降に本格的な記録への挑戦や、海外合宿などを経験させる構想を描いている。
一方、チームには、5000メートルの持ちタイムが15分台の選手も加入。大学駅伝では決して目立つ記録ではない。
「長距離専門の指導を十分に受けてこなかった選手や、高校まで別の競技に取り組んでいた選手もいます。勝利のためには、そういう選手も必要だと思っています」
3000メートル障害で活躍する新家裕太郎選手(現・愛三工業)も、入学時の持ちタイムは15分台だった。当初は同級生の葛西選手らに大きく差をつけられていたが、在学中には箱根駅伝を走り、卒業後は日本代表に選ばれるまでに成長した。
入学時に記録が遅くても、ひたむきに努力を重ね、実力を伸ばしていく――。その姿は、他の選手に大きな刺激を与える。
強い選手だけを集めれば、強いチームになるわけではない。壁に挑み続ける選手の存在が、全体を底上げする原動力になる。
箱根駅伝を走るのは10人だけである。だが、榎木監督が考える戦力は、レースに出る選手だけではない。
けがなどで競技を続けることが難しくなったメンバーもいる。
「君がチームにいることで、頑張れる選手がいる」
そう伝え、裏方としてチームを支えてほしいと頭を下げたこともあった。選手として思い描いた道はかなわなくても、その人にしか担えない役割があるからだ。
「誰かが自己ベストを出したら皆で喜べるような、頑張る人が輝くチームでありたいですよね」
実績を持つ選手も、これから伸びる選手も、支える側に回ったメンバーもいる。それぞれが、自らの持ち場で力を尽くす。それこそ、創大駅伝部が掲げる“創力戦(総力戦)”なのだろう。
榎木監督に、目標とする指導者を聞いた。一人は、中央大学時代のコーチだった大志田秀次さん(現・明治大学監督)。もう一人は、指導者としてスタートを切った時期に、東洋大学の監督を務めていた川嶋さんである。
創大に来る少し前、前任チームの監督を離れ、指導者として自信を失っていた時期があった。
「結果を出せなければ、指導者としての道がなくなるのではないか……」
監督就任をためらっていた時に、川嶋さんから声をかけられた。「焦って結果を出さなくてもいい。まずは、自分が競技や指導を楽しむことが大事ではないか」と。これが転機となった。
就任以降、選手と何度も対話を重ね、彼らが何を求め、何を考えているのか知ることを、指導の出発点にしてきた。
榎木監督は、創大を勝たせることが自らの使命だと強調する。
「選手のために何ができるのか、常に考えています。そして、自分も選手から学びながら、一緒に成長できたらと思っています」
選手のために、勝利のために――。対話を重ねながら、一人一人の力を引き出す。その歩みの先に、榎木監督は大学駅伝の頂点を見据えている。
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