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創価大学駅伝部 襷と絆の物語――笑顔で駆けた「努力の道筋」 2024年1月13日

  • 第100回東京箱根間往復大学駅伝競走特集
10:04

 「努力の道筋を示してほしい」
 主将就任の際、志村健太(4年)が榎木和貴監督から伝えられた言葉だ。
  
 箱根駅伝で走ることを夢見て、関西創価高校から創価大学に進んだ志村。しかし、入学当初、50人を超える部員の中で「実力は下から数えた方が早かった」。けがをしないタフさが売り。その特性を生かし、月間走行距離750キロのチーム指標を大きく超える距離を走り続けた。志村が走破した距離は、大学4年間で約4万キロ。実に地球1周分に及ぶ“努力の道筋”は、志村をチームの主力へと成長させた。
  
 嶋津雄大、葛西潤、フィリップ・ムルワなど歴代最強といわれた先輩たちが卒業し、“ゼロからの挑戦”を掲げた今大会。自らを「走る才能はない」と語る志村の、“努力できる才能”にチームの行く末は託された。

 志村がチームづくりで大切にしたのは、一人一人の個性を最大限発揮すること。そのために、ポジティブに、前向きに、チームのために、という空気感を全体に共有していった。志村自身、競技者として悩む時がありながらも、どんな時でも笑顔を絶やさず、常に前向きに声をかけ続けた。
  
 寮の同部屋であり、高校の同級生でもある主務の吉田正城(4年)とは、選手一人一人の現状を逐一共有し、理想のチームづくりに2人で心を砕き続けた。見えない思いの積み重ねは、チームを単なる競技者の集まりから、家族のような存在へと変えていく。
 長年チームを見ている人たちからも、「今年は例年に増して雰囲気がいい」と言われるほどだった。

 そんなチーム状況は、春のトラックシーズンから競技の結果に表れ、駅伝シーズンに入ると、出雲駅伝では準優勝、全日本大学駅伝では6位入賞を果たす。志村自身も、奥球磨ロードレースや延岡西日本マラソンに出場し、チームを牽引。しかし、夏合宿終盤から、調子を落としてしまった。
  
 主力から離れ、別調整を続けるも、なかなか調子が戻らない。それでも、全日本大学駅伝前の10月のハーフマラソンでは、悪条件の中で自己記録に迫るタイムで好走。そして、11月19日、箱根の16人のメンバー入りをかけた競技会を迎えた。
 しかし、結果は自己ベストに遠く及ばない「30分07秒」。惨敗だった。ゴールした瞬間、体の力が抜け、うずくまったまま動けなくなった。止めどなく涙が頰をつたう。レース後、榎木監督から告げられた。「箱根のエントリーに入れることはできない」

競技会のゴール後、うずくまる志村
競技会のゴール後、うずくまる志村

 12月初旬のエントリー発表以降は、一人で走る機会が多くなった。走っていると感情を抑え切れず、涙があふれ出た。「冬の八王子の冷たい風に、心まで冷やされる感じがして」。しかし、寮に戻ると自分を押し殺して、無理にでも笑顔で明るく振る舞った。
 「このチームはつらい時も笑顔でやってきた。同じく箱根の夢が破れた同期にも前を向いてほしくて……」
  
 そんな中、志村は毎日SNSでの発信を始めた。チームのこと、自分のこと、たわいもないこと。発信をすることで、絡まっていた自分の気持ちがほどけていくように感じた。「自分ができることは走って貢献することではない。チームを一つにすること」。自分が最後まで示していくべき、主将としての「努力の道筋」に心が定まった。

 箱根の区間エントリーを発表した12月下旬のチームミーティング。志村は皆に笑顔で語りかけた。
 「チーム全員がそれぞれの場所で選手以上の責任感を持って戦う。それが全員で戦うこと。みんなで、総合3位以上を絶対に勝ち取りましょう」
  
 第100回記念の箱根駅伝。志村の覚悟は部員全員に伝播していく。持てる力を絞り切り、箱根路を駆け抜けた10人の選手。付き添いでサポートに徹した部員。給水を任されたメンバー。全ての準備に奔走したマネジャー。全員が箱根路の主人公だった。

 「全員で箱根を楽しむぞ!」と志村は2日間、誰よりも笑顔を絶やさなかった。1区・同期の桑田大輔(4年)の付き添いに始まり、同じく4年の3区・山森龍暁を沿道から応援。往路のゴールの芦ノ湖周辺では、渋滞で車が動かなくなり、雨に打たれながら5人分のベンチコートを持って、ゴールへ走って届けた。
 
 復路6区を走った川上翔太(1年)には、午前1時半からアップに付き添った。緊張と不安に押しつぶされそうな川上の話をとことん聞いた。レース中は合間を見ては、各区間の出走者にSNSでメッセージを送信。
 そして、復路ゴール・大手町の読売新聞社前で、部員全員の思いを繫いだ“赤と青の襷”を待った。

 沿道を埋め尽くす観衆――ゴールテープの向こうに10区の走者・上杉祥大(4年)の姿が見えた。志村は左手を高く掲げてガッツポーズ。その日一番の笑顔で上杉を出迎えた。
  
 箱根駅伝総合8位入賞。5年連続のシード権獲得。それは創価大学駅伝部一人一人の努力の積み重ねでつかんだ栄冠。
 
 志村が走った約4万キロという果てしない距離、箱根の夢がかなわなかった悔しさ、それでも前を向きチームに尽くした、その努力全てが、栄光の箱根への道筋だった。

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認定NPO法人フローレンス会長。2004年にNPO法人フローレンスを設立し、社会課題解決のため、病児保育、保育園、障害児保育、こども宅食、赤ちゃん縁組など数々の福祉・支援事業を運営。厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長

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