〈誇りをその手に 匠 信仰体験〉 ひたすらに前進あるのみ
〈誇りをその手に 匠 信仰体験〉 ひたすらに前進あるのみ
2026年4月8日
- 黒ずんだ手すりに染み込む“師子王の祈り”
- 黒ずんだ手すりに染み込む“師子王の祈り”
機械油の匂いに満ちる町工場。マイクロメーターを部品に当てる。加工精度はコンマの先の世界。最後に頼るのは、黒ずんだ厚い指の感触。
機械油の匂いに満ちる町工場。マイクロメーターを部品に当てる。加工精度はコンマの先の世界。最後に頼るのは、黒ずんだ厚い指の感触。
ひたすら真面目に40年。積み上げてきた時間と技術が、三浦さんの視線を一点へと導き、射抜く
ひたすら真面目に40年。積み上げてきた時間と技術が、三浦さんの視線を一点へと導き、射抜く
【東京都葛飾区】何千回、何万回と寸分の狂いもなくプレスしていく。肌寒い工場の空気を震わせながら、機械は一定の拍を刻み続ける。油の匂い、鉄の音。プレス機を操る三浦智行さん(59)=副本部長(支部長兼任)=の手が不意に止まる。単調であるはずのリズムに異音が混じる。金型の摩耗か。材料の癖か。あるいは目に見えない異物か。数値にすれば誤差にもならない違いを鼓膜が捉えた。
無言で部品を拾い上げる。油を拭い、マイクロメーターを当てる。プレス機の金型をのぞき込み、ラチェットレンチを回す。目と耳と、そして何より指先が教えてくれる感覚で、コンマ数ミリにも満たない気配を探り当てる。
【東京都葛飾区】何千回、何万回と寸分の狂いもなくプレスしていく。肌寒い工場の空気を震わせながら、機械は一定の拍を刻み続ける。油の匂い、鉄の音。プレス機を操る三浦智行さん(59)=副本部長(支部長兼任)=の手が不意に止まる。単調であるはずのリズムに異音が混じる。金型の摩耗か。材料の癖か。あるいは目に見えない異物か。数値にすれば誤差にもならない違いを鼓膜が捉えた。
無言で部品を拾い上げる。油を拭い、マイクロメーターを当てる。プレス機の金型をのぞき込み、ラチェットレンチを回す。目と耳と、そして何より指先が教えてくれる感覚で、コンマ数ミリにも満たない気配を探り当てる。
ひたすら真面目に、淡々と。鉄と油にまみれてモノを生み出す。三浦さんは、小さな町工場のプレス職人。「面倒くさいことばっかりやってますよ」と、厚くなった指で額をかく。言葉の奥に、揺るがぬ誇りがある。
創業60年。父の代から続く「三浦製作所」の2代目。パチン錠、ちょう番、電子機器の部品など。頼まれれば何でも作る。付いたあだ名は「嫌と言わない男」。その原点は、長屋の土間にあった。
ひたすら真面目に、淡々と。鉄と油にまみれてモノを生み出す。三浦さんは、小さな町工場のプレス職人。「面倒くさいことばっかりやってますよ」と、厚くなった指で額をかく。言葉の奥に、揺るがぬ誇りがある。
創業60年。父の代から続く「三浦製作所」の2代目。パチン錠、ちょう番、電子機器の部品など。頼まれれば何でも作る。付いたあだ名は「嫌と言わない男」。その原点は、長屋の土間にあった。
幼い頃、プレス機に向かう父の背中を見て育った。寡黙で仕事一筋だが、夜になると表情が変わった。工場を横切り、急な階段を上った先の仏間には、同志が集う。昼の沈黙がウソのように、父は楽しげに語り合っていた。師弟の信心に生きる姿が、三浦さんの胸に刻まれた。
1982年(昭和57年)9月。高校1年で参加した第2回世界平和文化祭。三浦さんは、雨に打たれながら人文字を担った。熱気に満ちた会場で、つま先立ちになって求めた池田先生の姿は見えなかった。それでも後で聞いた。師は傘も差さずに、青年を励まして歩いていたと。師弟の感動が、命の奥に火をともした。
幼い頃、プレス機に向かう父の背中を見て育った。寡黙で仕事一筋だが、夜になると表情が変わった。工場を横切り、急な階段を上った先の仏間には、同志が集う。昼の沈黙がウソのように、父は楽しげに語り合っていた。師弟の信心に生きる姿が、三浦さんの胸に刻まれた。
1982年(昭和57年)9月。高校1年で参加した第2回世界平和文化祭。三浦さんは、雨に打たれながら人文字を担った。熱気に満ちた会場で、つま先立ちになって求めた池田先生の姿は見えなかった。それでも後で聞いた。師は傘も差さずに、青年を励まして歩いていたと。師弟の感動が、命の奥に火をともした。
21歳で工場に立った。父と子といえども、「仕事場では男と男」。プレス機を動かす無言の父と、効率を求める三浦さんは、衝突してばかりだった。
ある日、事故が起きた。三浦さんがハンマーで鉄をたたいていると、砕けた破片が右目に刺さり、失明した。3カ月後、復帰した工場で、部品をつかもうとした手が空を切る。距離感が分からなくなっていた。現実が心を押しつぶす。
失意に沈む三浦さんに、母が教えてくれた。「お父さんね、『俺の目をやる』って泣いてたのよ」
無口な父の、言葉にならない愛。三浦さんはこの工場を守ることが、自分の生きる道だと決めた。
21歳で工場に立った。父と子といえども、「仕事場では男と男」。プレス機を動かす無言の父と、効率を求める三浦さんは、衝突してばかりだった。
ある日、事故が起きた。三浦さんがハンマーで鉄をたたいていると、砕けた破片が右目に刺さり、失明した。3カ月後、復帰した工場で、部品をつかもうとした手が空を切る。距離感が分からなくなっていた。現実が心を押しつぶす。
失意に沈む三浦さんに、母が教えてくれた。「お父さんね、『俺の目をやる』って泣いてたのよ」
無口な父の、言葉にならない愛。三浦さんはこの工場を守ることが、自分の生きる道だと決めた。
左から母・幸子さん、妻・れい子さん、三浦さん
左から母・幸子さん、妻・れい子さん、三浦さん
29歳で、妻・れい子さん(59)=区副女性部長=と結婚。娘が初節句を迎えた翌日、試練が襲いかかる。父が連帯保証人になっていた知り合いの会社が倒産。多額の借金を背負い、家計は火の車。れい子さんもプレス機の前に座った。
明日も見えない生活の中で、自然と家族が集まるのは、2階の仏間だった。「いつもはバラバラなのに、苦難があると団結できるんですよ」
その夜も家族で題目を唱えていた時だった。「三浦さーん!」。階下から呼ぶ声がした。下りると、近所の同業者だった。大企業からの大量受注に、人手が足りないという。道が開けた。
29歳で、妻・れい子さん(59)=区副女性部長=と結婚。娘が初節句を迎えた翌日、試練が襲いかかる。父が連帯保証人になっていた知り合いの会社が倒産。多額の借金を背負い、家計は火の車。れい子さんもプレス機の前に座った。
明日も見えない生活の中で、自然と家族が集まるのは、2階の仏間だった。「いつもはバラバラなのに、苦難があると団結できるんですよ」
その夜も家族で題目を唱えていた時だった。「三浦さーん!」。階下から呼ぶ声がした。下りると、近所の同業者だった。大企業からの大量受注に、人手が足りないという。道が開けた。
2年で借金を返済。「お金を返したら、その仕事も終わっちゃった」と笑う姿に確信が宿る。リーマン・ショックで仕事が途絶えた時も、「ピンチには必ず諸天善神が現れる」と揺るがなかった。
工場と仏間を行ったり来たり。不屈の題目が新たな縁を引き寄せる。「なにの兵法よりも法華経の兵法をもちい給うべし」(新1623・全1192)。気付けば仕事が途切れなくなっていた。
父は三浦さんが36歳の時に病で逝った。最後の時まで階段に座り、息子の仕事を見守っていた。父の無言のまなざしに、大切なものを託されたと思った。他社が嫌がる仕事も、無理難題も、全て引き受けた。
2年で借金を返済。「お金を返したら、その仕事も終わっちゃった」と笑う姿に確信が宿る。リーマン・ショックで仕事が途絶えた時も、「ピンチには必ず諸天善神が現れる」と揺るがなかった。
工場と仏間を行ったり来たり。不屈の題目が新たな縁を引き寄せる。「なにの兵法よりも法華経の兵法をもちい給うべし」(新1623・全1192)。気付けば仕事が途切れなくなっていた。
父は三浦さんが36歳の時に病で逝った。最後の時まで階段に座り、息子の仕事を見守っていた。父の無言のまなざしに、大切なものを託されたと思った。他社が嫌がる仕事も、無理難題も、全て引き受けた。
0.025ミリ刻みのピンゲージで穴の内径を測る
0.025ミリ刻みのピンゲージで穴の内径を測る
周囲は笑う。「足元を見られてる」と。それでも三浦さんは一言。「頼まれたから、やってるだけ」。その奥には弟子の心意気がある。
〈ひとたび難があったならば、それを喜びとし、また、誇りとして、敢然と戦う師子王の如き皆さんであっていただきたい〉
池田先生の言葉を指針として生きてきた。弟子の真価は、いざという時に現れると三浦さん。「勝つか負けるかは、進むか止まるかで決まるんですよ」。そう言って「ちょっとカッコつけすぎたな」と照れ笑い。隣では、れい子さんが肩をすくめる。「父ちゃんは真面目すぎるのよ」と言いながら、1日5000回以上ペダルを踏み続ける。
周囲は笑う。「足元を見られてる」と。それでも三浦さんは一言。「頼まれたから、やってるだけ」。その奥には弟子の心意気がある。
〈ひとたび難があったならば、それを喜びとし、また、誇りとして、敢然と戦う師子王の如き皆さんであっていただきたい〉
池田先生の言葉を指針として生きてきた。弟子の真価は、いざという時に現れると三浦さん。「勝つか負けるかは、進むか止まるかで決まるんですよ」。そう言って「ちょっとカッコつけすぎたな」と照れ笑い。隣では、れい子さんが肩をすくめる。「父ちゃんは真面目すぎるのよ」と言いながら、1日5000回以上ペダルを踏み続ける。
「ケンカしても、仕事してるうちに仲直りしちゃうの」と妻・れい子さん㊧は笑う。夫婦で肩を並べ、プレス機を操る
「ケンカしても、仕事してるうちに仲直りしちゃうの」と妻・れい子さん㊧は笑う。夫婦で肩を並べ、プレス機を操る
そんな会話をしている最中も、仕事の着信が入る。三浦さんはスマホを片手に、急な階段を下りていく。新たな無理難題がやってきたようだ。
工場と仏間をつなぐ急な階段には、父が取り付けた木の手すりがある。油にまみれ、すっかり黒ずんだ手すり。どんな困難も引き受ける、「嫌と言わない男」の師子王の祈りが、染み込んでいる。
そんな会話をしている最中も、仕事の着信が入る。三浦さんはスマホを片手に、急な階段を下りていく。新たな無理難題がやってきたようだ。
工場と仏間をつなぐ急な階段には、父が取り付けた木の手すりがある。油にまみれ、すっかり黒ずんだ手すり。どんな困難も引き受ける、「嫌と言わない男」の師子王の祈りが、染み込んでいる。
派手な看板はない。肩書もない。けれどその手には、技がある。華やかな舞台とは無縁の場所で、ただ己の技を磨き続ける。「誇りをその手に 匠」と題して紹介します。
派手な看板はない。肩書もない。けれどその手には、技がある。華やかな舞台とは無縁の場所で、ただ己の技を磨き続ける。「誇りをその手に 匠」と題して紹介します。