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AIを活用した防災とは?――東北大学災害研・越村俊一新所長にインタビュー 2026年5月10日

 災害の教訓を踏まえながら、未来に起こる災害に対して、どのような備えや心構えが求められているかを学ぶ本企画「BOSAI(防災)アクション――東北大学災害研の知見」。今回は「AIを活用した防災の展望」をテーマに、津波工学を専門とする東北大学災害科学国際研究所(災害研)の教授で、先月、所長に就任した越村俊一氏の知見を紹介する。(記事=水呉裕一)

 ――本年3月に東日本大震災から15年がたちました。越村所長は当時、東北大学・災害制御研究センターで准教授を務めておられましたが、あの時の状況を教えていただけますか。
  
 震災が起きた3月11日は、出張先の東京にいました。仙台に戻るため東京駅発の新幹線に乗り、まもなく発車するという時に地震が起きました。東京駅も大きな揺れでした。新幹線は動かないだろうと判断し、レンタカーを借りて、一人で仙台を目指しました。
 寸断された道路を迂回しながら仙台に向かう中、情報源はラジオだけ。津波被害の状況も全く分かりませんでした。仙台に暮らす家族や同僚、親しい人たちの安否が分かったのはだいぶ後で、不安に苛まれながら車を走らせたことを覚えています。
 仙台に到着したのは翌朝でした。すぐに被災地の状況把握に努めたのですが、原発事故の影響もあり、どの被災地が調査に入れるかなどは手探り。日本全国の災害研究者が総力を挙げて災害調査に取り組むことが決まる中、東北大学は先遣隊として“ここは調査ができそうだ”“この被災地はまだ難しい”といった情報を収集する役割を担うことになりました。
 私自身、その調査に向かう中で目にした光景は今でも忘れられません。仙台市若林区の荒浜地区を訪れた際に見た仙台平野がまるで池のようになっている景色、宮城・女川町に向かった際に丘の上から見た、がれきの山と化した町並み……自然災害の脅威を目の当たりにし、言葉を失いました。

技術革新の可能性

 ――越村所長の研究成果の一つに、津波のリアルタイム浸水被害予測システムがあります。2018年4月に本格稼働したこのシステムは世界初の技術として、国や自治体の災害対応などにも活用されています。どのような思いで技術開発に取り組んでこられたのでしょうか。
  
 東日本大震災で被害の状況が全く把握できなかったことが大きな問題意識となり、その後の研究の方向性を決定づけました。
 従来の津波予測といえば、気象庁の予報システムしかありませんでした。これは気象庁があらかじめ地震の規模や位置を求め、事前に計算しておいた津波予測データベースを用意しておくものです。地震発生時に、近い場所で起きた地震のデータと照らし合わせて、沿岸で予想される津波高を算出しています。この“データベース型”は迅速な予報が可能である一方、沿岸に到達する津波高の予測であるため、津波によって、それぞれの地域がどこまで浸水するかまでは予測できません。
 津波による被害の影響を予測するには、当然、防潮堤の高さや海岸付近の地形や土地の利用状況などを把握する必要があります。時間経過とともに変化するものですから、私たちは地震が起きた際に、データをリアルタイムで処理して浸水のシミュレーションをするというアプローチに切り替えることにしました。
 このシミュレーションは、一昔前では数日を要していましたが、スーパーコンピューターの処理速度をもって実現が可能になったものです。現在は、向こう2年の間に、最短5分で予測を出すという目標を掲げて研究を進めており、被害への迅速な対応や救援・救助活動に役立てたいと考えています。
  
 ――東日本大震災が起きた際、大丈夫だとされていた避難場所が被害に遭ったケースもありました。こうしたシステムが確立される中で守られる命もあると期待します。
  
 期待していただきたいと思う一方で、あくまでシミュレーションですから、どうしても誤差が生じます。命に関わることですから、その誤差の解消は課題ですし、誤差を踏まえて、どういう形で予報を出すかが重要です。ともあれ、技術の進歩があっても、結局は情報の受け手である市民が、どう活用するかが大切になることは間違いありません。
 現在、津波注意報などが出た際には、真冬の寒い夜や真夏の炎天下であっても、あるいは高齢者や体が不自由な方であっても、一律に避難行動を呼びかけています。実際、わが国の周辺は多くが防潮堤に守られているため、小規模な津波の場合、技術的には避難を必要としないこともあります。
 リアルタイム予測の今後の進展によって、そうした課題に対して“今回は避難する必要はない”といった情報を発信できればと思う一方で、いざ避難が必要な時に、市民にその情報を信じてもらえるかという懸念もあります。そうした点からも、情報を発信する側と受け手である市民との信頼関係は不可欠です。そこをどう醸成させるかは技術の進歩だけでは解決しません。結局のところ、両者のコミュニケーションが必要になると感じています。

宮城県の訓練で、リアルタイム津波浸水被害予測システムを紹介する越村氏(2025年6月、提供=東北大学災害科学国際研究所)
宮城県の訓練で、リアルタイム津波浸水被害予測システムを紹介する越村氏(2025年6月、提供=東北大学災害科学国際研究所)
災害の知見を未来へ

 ――先月、所長就任の際に行われた記者懇談会で、越村所長は本年度から3年間を目処に、防災特化型のAIモデルの開発に関する計画を発表されました。越村所長は、どのような防災の未来を描いておられるのでしょうか。
  
 近年、特にAI技術の発展は著しく、あらゆる人がその恩恵を受けていると言っても過言ではありません。このAI技術を、命を守るために活用していきたいと考えています。
 一言に防災と言っても、災害が発生する前段階での防災対策もあれば、災害が起きている最中はもちろん、復旧・復興に至るまで、広い範囲にわたります。
 どのフェーズにおいても、地域の実情や、歴史・文化を踏まえる必要がありますし、命に関わる問題ですから、サポートするシステムが曖昧な答えを導き出すものであってはいけません。
 そういった課題を念頭に過去の災害の事例や東日本大震災からの復興の歩みなどを学習させ、いわば、これまでの“マニュアル型”の災害対応ではなく、刻々と変化する状況に応じて、最適解を生み出す“リアルタイム・データ駆動型”の防災を目指していきたいと考えています。
 例えば地震が発生した際、お持ちのスマートフォンの位置情報を用いて、今いる場所がどのような被害を受け、安全な場所に行くにはどれくらい時間がかかるのか、どういうルートで逃げればよいかなどを知らせるといったことを可能にしたい。さらに技術が進歩した先には、普及が進んでいる介護ロボットと防災特化型AIをつなぎ、自力では避難できない人をロボットが抱えて逃げるといったことも可能になるかもしれません。

理学や工学、社会科学、医学など災害に関する多彩な研究を行う東北大学災害科学国際研究所
理学や工学、社会科学、医学など災害に関する多彩な研究を行う東北大学災害科学国際研究所

 ――災害研は東日本大震災以降、自然災害の記録や記憶、事例などを収集・保管し、ホームページ「みちのく震録伝」で広く公開してきました。AIの活用は、こうした蓄積を未来に生かす挑戦でもありますね。
  
 まさに災害研の強みは、自然災害の生データを記録し、保管・運用してきた点です。これまでの災害の歴史をひもとくと、教訓の伝承は“風化をいかに防ぐか”との観点で議論されてきました。未来に起こる災害に対して、教訓を伝えるべきは次の世代に生きる人たちです。私は、その役割をAIが担えるのではないかと考えています。語り部の方々の講話や伝承記録などを学習させながら、防災教育に生かす方法を探っていきたいと思います。
 AIの特徴は、過去の災害の経験のみならず、今後発生する災害を通して学びを深め、時間を経るごとに使いやすくなる点にあります。災害研は、防災特化型AIの開発を社会に打ち出しましたが、これは、“一緒に開発していきましょう”とのメッセージでもあります。あらゆる経験や知見を結集しながら、どうすれば災害の被害を減らせるか、命を守るための血の通った社会を実現できるか、それをAIを使って実現したいと思っています。
  
 ――先月20日には、三陸沖を震源とするマグニチュード7・7の地震が発生し「北海道・三陸沖後発地震注意情報」が発令されました。南海トラフ地震をはじめ、大きな災害の発生も懸念されますが、実際に防災対策などの行動に移せていないというのが、多くの人の実情ではないでしょうか。AIを一緒に育てていくという視点は、災害を“わがこと化”していく上での新たなきっかけになると感じました。
  
 その通りだと思います。どこまでいっても大切なのは、一人一人が命を守るための行動に移すことです。防災は大事だと思っていても、なかなか行動に移せないという背景には、災害をわがこととして考えられないという人もおられるでしょうし、仕事や家事が多忙で、生活の中での防災の優先順位がどうしても下位になっているという人もいるでしょう。
 そうした中、日本の防災関係者の間で新しい潮流になっているのは、日常生活と防災を別ものとして考えるのでなく、その二つのフェーズの境目をなくす「フェーズフリー」という発想です。日常生活の中に防災の意識をどう溶け込ませるか。それを生活の中で使っているAIを用いて実現したい。
 東北大学災害研はこれからも、命を守るための新たな挑戦を開始していきます。
  

【プロフィル】

 こしむら・しゅんいち 博士(工学)。東北大学工学部土木工学科卒業。同大学大学院工学研究科博士後期課程修了。日本学術振興会特別研究員として東京大学地震研究所および米国海洋大気庁(NOAA)に勤務。東北大学大学院工学研究科助教授などを経て、2012年に東北大学災害科学国際研究所教授。本年4月に同研究所所長に就任。また2018年3月に、スーパーコンピューターによるリアルタイム津波浸水被害予測情報サービスを展開する東北大学発スタートアップRTi-castを設立、CTO(最高技術責任者)として研究と社会実装の両輪を進めている。RTi-castは2024年3月に気象庁から民間事業者初の津波予報業務許可を取得。
  

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