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〈文化大恩の国 信仰体験〉 「功徳には“時”があるのよ」 2025年9月3日

  • だしスープが人気の冷麺店
韓国・釜山市
キム・オクスンさん(62)
支部副婦人部長

 韓国第2の都市・釜山。この街で随一の繁華街・西面には、国内外から多くの観光客が訪れる。グルメ、ショッピングなどの韓国カルチャーを楽しみ、歩き疲れた観光客が、吸い込まれるように立ち寄る店がある。冷麺店「ハムギョン麺屋」だ。店を切り盛りするキム・オクスンさんが釜山の方言で話す。「ウチの料理で力をためて、また元気いっぱい出発してくれたら、こんなにうれしいことはない」。その声には、目の前の人を包み込む優しさがにじんでいる。

1号店はロッテ百貨店のすぐ裏にある好立地。「学会活動で学んだ振る舞いでお客さんに尽くしています」と語るキム・オクスンさん
1号店はロッテ百貨店のすぐ裏にある好立地。「学会活動で学んだ振る舞いでお客さんに尽くしています」と語るキム・オクスンさん

 冷麺のスープを一口。体を通過しながらスーッと癒やしていくような味わい。まさに滋味あふれる命のスープ。
 「毎朝、煮込んだ牛骨スープに新鮮な野菜で仕込みます。にんにくもたくさん入れてね」とニッコリ。

深い甘さと香ばしさが混じり合う一番人気の冷麺
深い甘さと香ばしさが混じり合う一番人気の冷麺

 その笑みのまま接客に励むキムさんには、人生の困難を乗り越えてきた精神の気高さがある。
 「この信心で強く変われる。それを娘が教えてくれました」
 
 夫のオ・ギョンソクさん(64)=壮年部員=と結婚後、3度の流産を越えて、ようやく長女のオ・ジヨンさん(35)=白ゆり長=を授かった。小さくてかわいい産着が部屋に増える。乳児を胸に抱けば、ほんのり甘い香りに包まれる。しかし喜びもつかの間、生後半年で高熱を出した。違和感を覚えたのは、少したってからのこと。
 
 「ジヨン、ジヨンちゃん?」。後ろから何度呼びかけても振り返らない。テレビの音を大きくしても反応がない。
 
 重度の難聴――。病院を幾つ回っても診断は同じだった。「娘さんの聴覚は戻らないでしょう」。頼みの綱だった大学病院の教授にこう言われた時、目の前が真っ暗になった。
 代われるものなら代わってやりたい。
 「自分の力だけでは、どうしようもない事態に陥った時、思い出したのは、自身の母の姿でした」
 
 病弱だったキムさんの母が、信心に出合うと、みるみるうちに元気を取り戻した。

従業員からの信頼も厚い
従業員からの信頼も厚い

 「それまでは、わずかな道のりを歩くことすら、しんどそうでした。それが勤行・唱題に励んでから一変。肌つやが良くなり、笑顔が増えたんです」
 
 このことを思い起こして、信心で苦難を乗り越えると決意した。
 キムさんには、いつも親身になって励ましてくれる婦人部の友がいた。「その人の唱題の声は力がこもっていて、まさに“誓い”であると感じました」
 
 同志を励ます家庭訪問にも同行した。坂道が多い地域。途中まで車で行き、細い道は歩いて回った。いつも笑みを浮かべ、「必ず幸せになれるよ」と確信あふれる激励を送る。
 
 「どうしてそこまでできるの?」と、キムさんは婦人部の友に聞いたことがある。
 
 「池田先生がいつも教えてくれているでしょ。人のため、地域のために尽くす。その祈りと行動に福運が積まれるんだよって」
 
 それはまさに、3度の訪韓で、師匠が自ら示した振る舞いだった。
 キムさんは誓った。
 “韓国を文化大恩の国とたたえ、出会った一人一人に誠実の行動を貫く先生の行動に続こう”と。

釜山タワーから望む街並み
釜山タワーから望む街並み

 夫が冷麺店をスタートさせたのは娘が3歳の時だった。
 「当初、私は題目を唱えるなかで、娘の耳の詰まりがポンっと取れて聞こえるようになってほしい。そう祈ってきたんです」
 
 題目を唱えるキムさんの傍らで、ジヨンさんはいつも楽しそうに絵を描いていた。
 
 ある日、会合が終わると、婦人部の先輩から声をかけられた。
 「功徳には“時”があるのよ」
 
 題目を唱えた功徳で、はっきりと顕れる「顕益」と、目には見えなくてもたゆまぬ信心を続けていくことで大利益を受ける「冥益」があるとの話だった。キムさんは、真剣に題目を唱え続けるなかで思い至った。
 
 “そうだ! 状況がどうあれ、こうして題目を唱えられること自体が功徳なんだ”
 
 御本尊に向かう時間が幸せに包まれた。“娘のおかげで題目を唱えられる”。一遍一遍に感謝が込もる。
 
 そんなある日、ジヨンさんが1枚の絵を描いた。青い海に色鮮やかな魚たちが泳ぐ一方で、捨てられたゴミや空き缶も描き出し、自然保護を訴えたものだった。これが、韓国SGI主催の芸術祭で幼稚部優秀賞に輝く。

長女・ジヨンさんが幼い頃に描いた
長女・ジヨンさんが幼い頃に描いた

 その後、人工内耳手術を受け、沈黙の世界から音を取り戻した。
 
 「おかあさん……」。たどたどしく発せられる声でも、十分幸せだった。
 
 ジヨンさんは、さらに絵の才能を伸ばし、国立・釜山大学へ進学。障がい者・福祉サークルで活動にも励んだ。そこで知り合った男性と結婚することになった時だった。
 
 「お母さん。忍耐強く私を育ててくれてありがとう……」
 
 難聴という障がいを乗り越えた愛娘からの言葉に、キムさんの目頭が熱くなる。
 
 池田先生は小説『新・人間革命』につづっている。
 「苦難に負けず、労苦を重ねた分だけ、心は鍛えられ、強く、深くなり、どんな試練をも乗り越えていける力が培われていく」

長女のオ・ジヨンさん(左から3人目)ら愛する家族と共に。3人の娘たちは、信心根本に使命の道を歩む
長女のオ・ジヨンさん(左から3人目)ら愛する家族と共に。3人の娘たちは、信心根本に使命の道を歩む

 キムさんの胸に湧き上がるのは、娘が師弟の距離を近づけてくれたという感謝だ。
 
 ただひたすらに感謝の題目を唱え抜いた日々だった。気が付けば、冷麺店は人気店に成長していた。1号店は行列ができ、2号店、3号店も好立地にオープンできた。
 
 「功徳には“時”があるのよ」。キムさんは、婦人部の先輩の言葉をかみ締める。
 
 「韓国を『文化大恩の国』と池田先生が一貫して、たたえてくださる心に、目の前の一人を敬うという姿勢を学びました」
 
 活気あふれる店内で、接客するキムさんの表情に、幸せの笑みが浮かんでいる。

活気あふれる釜山の街並み
活気あふれる釜山の街並み

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