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外国人との共生の社会を築くために 2026年5月12日

  • 〈SDGs×SEIKYO〉 移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)共同代表理事 鳥井一平さん

 日本で働く外国人労働者は増加を続け、現在では257万人を超えています。在留外国人の増加に伴い、一部の人々から不安の声が上がる一方、こうした労働者を巡る制度や現場の実態は十分に知られていません。「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」共同代表理事の鳥井一平さんは、長年にわたり、外国人労働者の支援に尽力してきました。SDGsの目標10「人や国の不平等をなくそう」をテーマに、共生社会を築くための鍵を聞きました。(取材=玉川直美、福田英俊)

 ――長年、外国人労働者の支援活動をしてこられました。きっかけは何だったのでしょうか。
  
 25歳で上京し、工場で働いていたある日のこと。金型の下敷きになり、左手の中指を欠損してしまったんです。いわゆる労働災害です。そうした経験から、労働者の権利を守る活動に積極的に関わるようになりました。
  
 転機は1991年、バングラデシュ人の青年が、工場勤務中に指を3本切断する労災事故に遭い、相談を持ちかけてきたことでした。会社は労災申請を行おうとせず、100万円だけを渡して帰国させようとしていたのです。
  
 日本では1980年代後半から、バブル経済下の労働力不足を背景に、中小零細企業に外国人労働者が急増しました。当時、そうした人たちを献身的に支援する市民団体もありましたが、労働災害が起きても会社と交渉することができず、限界があったのです。
  
 そこで私たちは労働組合として「外国人であっても労働法は適用される」と主張し、彼に労災が適用されました。すると、それをきっかけに、私たちの元に次々と相談が寄せられるようになったんです。翌年には20人ほどで外国人労働者分会を結成しましたが、あっという間に400人超という規模に広がりました。93年からは、省庁との交渉も始めました。

大阪の町工場で作業するベトナム人従業員ら
大阪の町工場で作業するベトナム人従業員ら

 ――一人の青年の相談に向き合ったことが、始まりだったのですね。
  
 次第に、各地の支援団体と課題や経験を共有し合うネットワークの必要性が高まり、97年に「移住労働者と連帯する全国ネットワーク」が結成され、2015年にNPO法人となりました。
  
 現在は、医療や福祉、教育、労働など、さまざまな分野の約120団体が参加するネットワークとなっています。全国規模でフォーラムやワークショップを開き、各地の課題や取り組みを共有しています。
  
 また、現場の声を法律や制度、政策に反映させるため、行政に声を届ける活動も続けています。さらに、日本に住む外国籍の人たちが置かれている状況を社会に広く伝えるため、情報発信にも取り組んでいます。

年2回行っている移住連の省庁との交渉(移住連提供)
年2回行っている移住連の省庁との交渉(移住連提供)

 ――昨年7月の参議院選挙以降、外国人政策を巡り、排外主義的な風潮が広がっていると感じます。
  
 昨年の7月以降、講演依頼を受けることが増えました。排外主義に対して多くの人が懸念を抱いていると感じます。ただ、そうした問題意識を持っている人も、実際は、在留外国人に関する制度や実態についてあまり知らないのです。
  
 〈外国人が日本に滞在し、活動したり就労したりするための法的な資格を「在留資格」といい、全部で29種類ある〉
  
 そもそも「外国人」とひとくくりにしてしまいがちですが、観光客と、日本に中長期で暮らす在留外国人とでは、状況が大きく異なります。例えば、一部の観光客の振る舞いを見て、「日本に住む外国人はマナーを守らない」と考えるのは適切ではありません。
  
 日本には戦前から、朝鮮半島や中国、台湾などにルーツを持つ人々が暮らし、社会を支えてきました。
  
 こうした人々や、その子孫は「オールドカマー」と呼ばれるのに対し、1980年代後半から日本に移住した人々は「ニューカマー」と呼ばれます。人手不足を背景に増加しましたが、政府は「移民」という言葉の使用を避け、包括的な移民政策は取られませんでした。
  
 93年に始まった技能実習制度では、「日本で技能を学び、母国の発展に役立てる」という国際貢献を掲げながら、実際には労働力を補う手段として運用され、目的と実態が乖離していました。私の元にも、賃金未払いや解雇、労働災害など、多くの相談が寄せられてきました。こうした状況は、人権侵害として国際社会からも度々、指摘されてきたのです。
  
 技能実習制度は2024年6月に廃止が決定され、27年4月から、人材の育成と確保を目的とする「育成就労制度」が始まります。

移住連が編集したハンドブック(移住連提供)
移住連が編集したハンドブック(移住連提供)
担い手が欲しい

 ――鳥井さんは、外国人労働者だけでなく、受け入れ側である企業の経営者などとも対話を重ねてきました。
  
 印象に残っているのが、福井県でカニ漁に従事してきた船主団体の元会長の言葉です。2020年にお会いした時、その方は「20年前からインドネシアの技能実習生を受け入れてきた。もし彼らがいなかったら、カニ漁はとっくに成り立たなくなっていた」と語り、感謝の思いを口にしていました。
  
 一方で、「このままでは、やはりカニ漁は終わってしまう」との危機感を示していました。20年前は50代、60代だった船主たちは、今や70代、80代になり、高齢化が進んでいます。ただ、技能実習制度では、一定期間での帰国が前提となっているため、担い手が育たないというのです。
  
 元会長は、「私は船主が外国人でもいいと思っている。カニ漁をなんとか続けたい」と語っていました。
  
 また、「国籍は問わないから、10人でも移住してきてほしい」と話す村長もいました。地方で聞こえてくるのは、外国にルーツを持つ人々と共に、地域や産業を支えていきたいという切実な声です。
  

移住連のイベントで参加者が語り合う様子(移住連提供)
移住連のイベントで参加者が語り合う様子(移住連提供)

 ――一方、外国人の増加に伴い、一般の人々の中にも漠然とした不安を持つ人がいます。SNSなどで、外国人に対するデマやヘイト(憎悪)が拡散されていることも一因かもしれません。
  
 人々が不安を持たないようにするためには、「政治的リーダーシップ」が非常に重要だと考えます。
  
 それは「今、なぜこの人たち(外国人労働者)が、ここにいるのか」を政治家が、きちんと発信するということです。しかし、現状は「外国人労働者は、いてはならない」という発信になってしまっているように感じます。
  
 以前、大分県の知人から「近隣に、造船所関係で働く若い外国人が多く住んでいるが、地域の班活動に入ってもらってもよいのか」と相談を受けたことがありました。実際には地域の住民であるにもかかわらず、地域の一員として受け入れて良いのか判断に迷っているようでした。
  
 その背景として、政府としての明確な方針が示されていないことも大きいのではないかと思います。労働者の家族などを含め、既に400万人を超える在留外国人がいるにもかかわらず、政府は「移民政策は取らない」との立場を続けています。結果として、各地域が試行錯誤しながら対応しているのが現状です。
  
 「外国人を受け入れるか否か」といった議論に終始するのではなく、既に社会の一員として暮らしている人々と、どのように共生していくかという視点が求められています。

 一方で、異なる文化に対する不安は、多少、誰にでも起こり得る感情です。聞き慣れない言葉や、異なる生活習慣に戸惑いを覚えることもあるでしょう。だからこそ、扇動的な発信にあおられていないかを見極める姿勢が重要です。ファクトチェック(真偽の検証)の徹底が欠かせません。
  
 例えば、「外国人は健康保険料を支払わずに医療を受けている」といった言説がありますが、実際には外国人は保険財政に貢献しているという厚生労働省のデータもあります。
  
 〈日本の国民健康保険の加入者数に占める外国人の比率は4・0%だが、同保険の総医療費に占める外国人の比率は1・39%(2023年度)。外国人の加入者は若年層が多いため、医療費の支払いは少ない傾向があり、保険料の納付によって医療保険制度を「支える側」となっている〉
  
 「ゴミの分別問題」も、自治体ごとにルールが異なるため、他地域から移り住んだ日本人でも初めは戸惑います。かつては問題で騒がれていたが、地域の自治会や住民が外国人住民に教える中で解消されたというケースもあります。
  
 また、「抗議が殺到」といった表現についても注意が必要です。
  
 例えば、マンションへの外国人入居や、自治体の政策を巡って、「反対意見が殺到した」と報じられることがありますが、実際には住民ではない外部の人物によるものであったり、特定のヘイトグループが繰り返し意見を送っていたりするケースもあります。
  
 見た目の件数だけに惑わされず、中身を丁寧に見ていく視点が重要です。

国会で参考人として発言する鳥井さん(移住連提供)
国会で参考人として発言する鳥井さん(移住連提供)
一人一人の顔

 ――移住連は現在、「ヘイトにNO! 全国キャンペーン」を実施しており、注目が集まっています。
  
 多文化共生を望む人々の声を形にしたいと思い、キャンペーンを始めました。5月末まで実施し、6月18日の国連「ヘイトスピーチと闘う国際デー」に向けて取り組んでいます。
  
 移民政策やヘイトスピーチの問題は、いまや地球規模の課題です。現在、国外で暮らす日本人は長期滞在者と永住者を合わせて約130万人います。3カ月未満の短期留学や、ビジネス目的で移動している日本人を足したら、さらに増えるでしょう。
  
 欧米では、人種や民族など、特定の属性を持つ個人や集団に対する偏見や憎悪で引き起こされる嫌がらせや暴力といった、いわゆる「ヘイトクライム」が起きた際、非難の姿勢を示す自治体の首長や大統領もいます。
  
 こうした中、先進国とされる日本がヘイトに対してどのような姿勢を取るのか問われているはずです。

東日本大震災の際にバングラデシュ出身者が参加した炊き出し支援(移住連提供)
東日本大震災の際にバングラデシュ出身者が参加した炊き出し支援(移住連提供)

 ――創価学会第3代会長の池田大作先生は、2017年に発表した平和提言の中で、「分断をもたらす排他主義や、犠牲を顧みない経済的合理性の追求に抗する、社会の楔となるものは何か――。私は、一人一人の顔といった具体的な像をもって心に立ち現れる『友情』のような、確固たる結びつきではないかと考えます」と訴えました。
  
 深く共感します。日本で働く外国人を単なる労働力としてではなく、「働く仲間」「地域の隣人」、そして「人間」として向き合っていくべきだと考えます。
  
 外国人労働者は必ずしも、賃金だけで働く場所を決めているわけではありません。もちろん賃金も大事ですが、職場や地域の環境、人間関係、食事、宗教や生活習慣への配慮といった面も非常に大切です。
  
 実際、ある外国人労働者は、「給料は高くないけれど、ここを離れたら農家のおじいさん、おばあさんが困るから」と、あえて、今いる職場にとどまっていました。そこには“人間としての顔”があります。
  
 11年の東日本大震災の際には、自ら炊き出しに加わる外国人も多くいました。南アジア出身の人たちは、2000本のタンドリーチキンを焼いてくれました。
  
 また、多言語で対応している自治体は、まだ多いとは言えませんが、防災活動に参加したいと考えている外国人も少なくありません。もし今後、大きな災害が起きた時には、外国人の若者が日本の年配の人たちを支える姿が、私にははっきりと浮かぶんです。
  
 外国人を排除していては、未来は築けません。目の前にいる人々と、共に支え合う社会をどう築くのか――そのことが今、問われているのではないでしょうか。

鳥井さん㊥は2013年、アメリカ国務省から「人身売買と闘うヒーロー」として表彰された(移住連提供)
鳥井さん㊥は2013年、アメリカ国務省から「人身売買と闘うヒーロー」として表彰された(移住連提供)

 とりい・いっぺい 1953年、大阪府生まれ。特定非営利活動法人「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」共同代表理事。全統一労働組合特別執行委員。外国人技能実習生権利ネットワーク運営委員。人身売買禁止ネットワーク(JNATIP)共同代表。2013年に、アメリカ国務省から「人身売買と闘うヒーロー」として日本人で初めて表彰された。著書に『国家と移民 外国人労働者と日本の未来』。

  
  
☆「ヘイトにNO! 全国キャンペーン」の詳細はこちら
https://migrants.jp/news/voice/nohatecampaign2026.html

  
●ご感想をお寄せください
https://www.seikyoonline.com/intro/form/kansou-input-sdgs.html
  
●聖教電子版の「SDGs」特集ページが、以下のリンクから閲覧できます。
https://www.seikyoonline.com/summarize/sdgs_seikyo.html
  
●海外識者のインタビューの英語版が「創価学会グローバルサイト」に掲載されています。
https://www.sokaglobal.org/resources/expert-perspectives.html

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