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Z世代は「越冬世代」 世代・トレンド評論家 牛窪恵さん 2025年11月10日

  • 電子版連載「著者に聞いてみよう」
※写真は本人提供
※写真は本人提供

 「おひとりさま」「草食系」「年の差婚」などの流行語を世に広めた、世代・トレンド評論家の牛窪恵さん。新著『Z世代の頭の中』(日経BP・日本経済新聞出版)で牛窪さんは、Z世代を「越冬世代」と名づけました。今回の「著者に聞いてみよう」では、コロナ禍で始まった学生・社会人生活に適応しながら、慎重に関係と未来を築いている若者像に迫ります。

■一刀流ではなく「二、三刀流」で
 ――今回、大規模調査とインタビューを実施されたそうですね。

 昨年2024年の夏から冬にかけて、Z世代約1600人の定量調査(CCCマーケティング総合研究所と共同)と、55人への個別インタビューを行いました。そこで特に感じたのが、Z世代は「コロナで始まりを奪われた世代」であるという点です。
  
 多くが、大学入学や就職の“初期体験”がオンライン中心だったため、彼らから「本来なら、もっと仲良くなれた」「輪に入る助走がなかった」という、後悔の言葉が多く挙がりました。
  
 同時に、将来が読めない中で、一つの道に賭けるのではなく、複数のスキルや役割を持つ「二刀流・三刀流」的な姿勢が見えました。「会社員×副業クリエイター」「学生×地域活動」など、キャリアを一つに固定しない。これは迷いではなく、変化を先取りする合理的な備えです。
 私はこれらの特徴を、Z(ゼット)と「越冬(えっとう)」の響きを重ねて、「越冬世代」と呼んでいます。渡り鳥が気候に合わせて飛ぶ場所を変えるように、冬眠前の動物たちが栄養を蓄えるように、環境に合わせて動き、未来に備えるのです。

■「アジャイル型」を志向
 ――慎重に見えても、立ち止まるわけではないのですね。

 この世代にとっては、“最初から完璧”を目指すより、まずは試してみる姿勢が自然のようです。アプリを更新するように、動きながら改善していく「アジャイル型」といえるでしょう。
  
 コロナ禍で人間関係の機会を逃したという後悔を抱えながらも、「じゃあ今から」「少しずつやればいい」と、遅れを恐れず前に進む力が見られます。止まっているのではなく、状況に合わせて調整しながら進むのです。
  
 一方で、人とのつながり方にも特徴があります。SNSとリアルを使い分け、複数の居場所を持つ――。こうした姿勢は「本音が見えない」と映ることもありますが、実際は一つの関係に過剰に依存せず、自分を守りながらつながりを持ち続けていくためのリスク分散です。
  
 「ここが揺らいでも、別のつながりがある」。その安心を先に用意することは、逃げ道をつくることではありません。傷ついても、心を支える「お守り」を自ら確保する力です。だからこそ、それは弱さではなく、しなやかに生きるための強さといえます。

■「背徳グルメ」「ごめんね消費」
 ――著書には、「若者の消費スタイルにも特徴がある」とありました。

 近年、エシカル(倫理面)や健康への意識が高まる一方で、その“正しさ”からふっと離れる時間を大切にする若い世代の声が目立ちます。もちろん全員がそうではありませんし、昔から息抜きや贅沢はありました。ただ、SNSでの自己管理や“正しくあるべき”という無言の圧力が強まる今、それを一時期、手放す行為が、より意識的に選ばれているようです。
  
 その象徴として語られるのが、「背徳グルメ」や「ごめんね消費」。普段はオーガニック食品やリユース品を選ぶ人が、あえてジャンクフードを味わう。環境に配慮した生活を送る人が、たまに“推し”のグッズを買い込む。そんなちょっとした「罪な体験」が、自分の感情や体温を取り戻すきっかけになるというのです。
  
 ある20代の女性は、環境活動に参加し、ヘルスケアアプリで体調を管理しています。それでも、テーマパークへ行く日は別。キャラクターのカチューシャを身につけ、ポップコーンと炭酸飲料を楽しむ。「ここだけは制限しません。普段はずっと緊張しているから、たまに解放しないと」。“背徳”は罪ではなく、自分を回復させるための小さな避難所になっているのです。

牛窪恵さんの新著『Z世代の頭の中』
牛窪恵さんの新著『Z世代の頭の中』
■恋愛にも伴走者を
 ――恋愛やパートナーシップの面でも、「越冬世代」らしさはありますか。

 若い世代は、恋愛に関心が薄いわけではありません。ただ、選択肢が多い上、人間関係に慎重さが求められる社会では、「この人でいいのか」「どこから始めればいいのか」と、迷いや不安が生まれやすく、最初の一歩を踏み出しづらいという声をよく聞きます。
  
 そこで私が提案しているのが、いわゆる“令和のおせっかいおばさん・おじさん”の育成です。一方的なアドバイスではなく、まずは相手の話を聞いた上で「この人と話してみたら」「まずは気軽な場所で会ってみよう」と、価値観を尊重しながら背中をそっと押すような伴走者です。
 尊敬する研究者が、「スポーツにあって職場にないもの、それは『応援』だ」と言っていますが、恋愛や婚活にも、若者が安心して挑戦できる“応援文化”が不可欠だと思います。
  
 実際に、山形県の「やまがた縁結びたい」や、広島県の「ひろしま出会いサポーターズ」など、地域で“出会いの伴走者”を育てる動きも始まっています。マッチングアプリは出会いの入り口を広げましたが、関係を育て、迷いに寄り添う機能までは担えません。だからこそ、テクノロジーと応援の両輪で、若い人が自分らしく関係を築ける環境を社会の側が整える必要があるのです。

■世代を遠ざけないために
 ――最後に、Z世代の読者にメッセージをお願いします。

 世代が変われば、歩き方も変わります。Z世代の皆さん自身の選択にも、ちゃんと理由があります。あなたのペースで進むことを、誇りにしてほしい。
 そして同じように、若者の視点から学びたいと願う大人たちもいます。何気ない会話が、世代を超えた共感を生みます。焦らず、つながりを少しずつ温めていきましょう。

〈プロフィル〉
 うしくぼ・めぐみ 世代・トレンド評論家。立教大学大学院(MBA)修了(経営管理学)。同大学院および文京学院大学大学院・客員教授。大手出版社勤務を経て、2001年4月、マーケティング会社インフィニティを設立、同代表取締役。企業各社との消費者取材・研究を進める。これまで内閣官房、財務省、経済産業省等の委員や研究会メンバーを多数歴任。フジテレビ系「ホンマでっか!?TV」、TBS系「Nスタ」ほか、テレビのレギュラーコメンテーターとしても知られる。

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