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〈インタビュー〉 ワークライフバランスのさらなる普及に向けて 2023年9月11日

  • 関西広域連合有識者委員 渥美由喜さん

 仕事と生活・家庭の調和を目指すワークライフバランス。その現状と今後の展望を聞いた。(「第三文明」9月号から)

1968年、東京都生まれ。東京大学法学部卒。大学卒業後、富士総合研究所、富士通総研、東レ経営研究所などに勤務。その傍ら、内閣府働き方改革支援チーム委員など公職も多数歴任。これまで海外十数カ国を含む、ワークライフバランスやダイバーシティの先進企業を訪問・ヒアリングし、6000社の財務データを分析。また、コンサルタント、アドバイザーとして、ワークライフバランスやダイバーシティに取り組む企業をサポートしている。著書に『イクメンで行こう! 育児も仕事も充実させる生き方』(日本経済新聞出版社)、『長いものに巻かれるな! 苦労を楽しみに変える働き方』(文藝春秋)などがある
1968年、東京都生まれ。東京大学法学部卒。大学卒業後、富士総合研究所、富士通総研、東レ経営研究所などに勤務。その傍ら、内閣府働き方改革支援チーム委員など公職も多数歴任。これまで海外十数カ国を含む、ワークライフバランスやダイバーシティの先進企業を訪問・ヒアリングし、6000社の財務データを分析。また、コンサルタント、アドバイザーとして、ワークライフバランスやダイバーシティに取り組む企業をサポートしている。著書に『イクメンで行こう! 育児も仕事も充実させる生き方』(日本経済新聞出版社)、『長いものに巻かれるな! 苦労を楽しみに変える働き方』(文藝春秋)などがある
進歩を遂げる「制度」 発展途上の「風土」

 近年、日本のワークライフバランス(WLB)の諸制度は、目覚ましい進歩を続けています。英米等のアングロサクソン諸国はもとより、欧州の福祉先進国と比べても遜色のないレベルに達しつつあります。

 例えば、働く男女の仕事と育児の両立における環境整備です。自公政権、とりわけ公明党は、男性のさらなる育児参加を促すべく、10年以上も前から「育児・介護休業法」の改正を主導。その後も同法の拡充・強化に継続して取り組んできました。

 特に昨年4月の改革では、従業員の育休取得に関して「個別周知」と「意向確認」の徹底を義務付けました。続く10月には、「出生時育児休業」(産後パパ育休)制度も設けられ、2回までの分割取得を認めるなど、当事者本位の柔軟な制度運用に努めています。

 一方、風土の面、つまり意識レベルでの改革は、いまだ発展の途上と言わざるをえません。育休の取得率でいえば、一昨年の男性の取得率は13・97%。直近9年間連続で、過去最高を更新し続けてはいるものの、女性の取得率85・1%と比べると、いまだ十分とはいえない状況です(厚生労働省調査)。

 せっかく構築した仕組みを生かすためにも、今後は社会全体で「制度」から「風土」への意識改革に取り組んでいく必要があります。

 ここで一つ、象徴的な事例を紹介します。以前から岐阜県では、「ワーク・ライフ・バランス推進エクセレント企業」認定制度事業を展開してきました。WLB分野の有識者・専門家らが、申請企業を訪問し、各企業が従業員の仕事と家庭の両立支援にどう取り組んでいるかを聴取し、その結果をもとに県が認定・顕彰するのです。

 その中に、以前私も訪問した岐阜市の建設業「アース・クリエイト有限会社」(2012年度認定)があります。同社は、長時間労働の課題に直面していました。社長以下誰もが激務のため、有給休暇を取得する社員はほとんどおらず、社員の大半が入社5年以内で辞めてしまう状態だったのです。

 このため同社は、WLB推進にかじを切り、全社一丸となって業務を見直し、大規模なICT(情報通信技術)導入を進めました。スマホ・タブレット端末などあらゆる機器を駆使し、業務情報の共有と効率化も図りました。また、社員2人がペアとなる「バディ」(相棒の意)制度を設け、助け合って仕事を進めていく企業風土をつくり上げたのです。

地方こそがWLB先進地

 この点、かねて期待を寄せてきたのが、地方の中小企業です。私は十数年前からWLBや女性活躍に取り組む企業を中心にコンサルティング活動を行ってきました。これまでに訪問した企業数は、海外十数カ国を含み、のべ6000社を超えます。その経験からいうと、WLBに真剣に取り組み、優れた実績を上げる団体・組織ほど地方の中小企業が多かったのです。

 彼らは、従業員や地域からの信頼こそが企業の生存・成長戦略の要であり、企業経営の生命線であることを熟知しています。なぜなら地方では、少子高齢化に伴う人手不足等に直面しているため、たとえ経営が厳しくとも、従業員に違法な過重労働を強いたり、安易な賃下げやリストラをしたりはできないからです。

 また、人と地域を大切にすることが、自社の持続的発展に直結することも理解しています。ゆえに、地域の清掃活動や祭事等の文化行事にも積極的に協力・参加し、住民との信頼醸成に努めているのです。そんな彼らにとってWLBは、決して目新しい取り組みではなく、昔からごく自然に実践してきた活動とも言えるのでしょう。

 

 その結果、2011年からの5年間で業績は2倍、利益は3倍増を達成。それでいて時間外労働は3分の1に減少し、有給取得率は85%、育休取得率は男女とも100%、離職率0%まで実現。見事に働き方改革・子育て支援と、会社の業績増大を同時になし遂げたのです。さらに2014年には、これら革新的な取り組みから、厚生労働省「イクメン企業アワード」グランプリも受賞しました。
 同社の取り組みで素晴らしいのは、「社員・家族の幸せが会社の成長につながる」との経営理念を明確に掲げ、実践したことです。とりわけ改革の恩恵を多くの人にもたらし、支える人・支えられる人の間に、不公平感や分断を生まなかったことも重要です。

一層のWLB普及に必要な政治の力

 昨今のコロナ禍では、非接触の観点から、職場のオンライン化や在宅でのリモートワークが急速に普及しました。それに付随して、「人生をどう生きるか」とのより良き働き方への関心も高まり、あらためてWLBの重要性への理解も進んだと思います。

 一方で、「揺り戻し」と呼べる状況も起こっています。コロナ禍のゆるやかな収束とともに、徐々に大都市の大企業、特に対面でのマンパワーを必要とする業種を中心に、コロナ禍以前の体制に戻そうとする動きがみられるのです。

 いわば都市と地方、大企業と中小企業における働き方の二極化が起こっている状況といえます。今後WLBを確かな時代の潮流とするためには、今が正念場であり、政治の果たすべき役割も大きいと考えます。

 その政治の世界において、公明党は信念と先見性を有し、与野党や多様な背景を持つ市民とのコミュニケーションを図れる政党との印象を抱いています。WLBの普及においても、その社会的意義にいち早く気づき、ブレずに政府の議論をリードして多数の政策を実現してきました。同時に、政策の周知や世論喚起に努め、社会の価値観の転換にも挑んできたのです。

 そんな公明党だからこそ、WLBの浸透・普及に向けて一層の尽力をお願いしたい。具体的には、国・地方の議員ネットワークを活用し、岐阜県のような認証制度を全国へと広げることも一案だと考えます。

 同時に、WLBの広報活動への注力も重要です。男性の育児参加などの働き方改革が、これからの日本にとってなぜ重要なのか。その改革の恩恵が、市民一人一人にどう及ぶのかをイメージできるような普及啓発活動に取り組んでもらいたいのです。

 多様な価値を有する個人と地域、企業がWLBを通じて結びつく。それが活気ある日本社会を実現するカギになると信じています。

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