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〈教育本部ルポ・つなぐ〉第8回=保健室の先生 暇そうに見えて話しやすい?
〈教育本部ルポ・つなぐ〉第8回=保健室の先生 暇そうに見えて話しやすい?
2024年8月30日
- テーマ:子どもの居場所③
- テーマ:子どもの居場所③
「学校の保健室」と聞いて、どんなイメージが浮かぶだろうか。
ケガや体調不良の対応をしてくれる場所? 健康診断をする所? かつてはそれが主だったが、今は「何の用事がなくても立ち寄る子が増えています」と、吉岡蓉湖さん(富山総県副女子未来部長兼白ゆり長)は言う。
職業は養護教諭、いわゆる“保健室の先生”だ。富山県内で勤めてきた小・中学校は5校に及ぶ。
「学校の保健室」と聞いて、どんなイメージが浮かぶだろうか。
ケガや体調不良の対応をしてくれる場所? 健康診断をする所? かつてはそれが主だったが、今は「何の用事がなくても立ち寄る子が増えています」と、吉岡蓉湖さん(富山総県副女子未来部長兼白ゆり長)は言う。
職業は養護教諭、いわゆる“保健室の先生”だ。富山県内で勤めてきた小・中学校は5校に及ぶ。
保健室にフラッと立ち寄る子たちは、何をして過ごすのか。ほとんどは「先生、あのね」と、たわいもない会話を交わすだけ。吉岡さんはニコニコして相づちを打ち、突拍子もない冗談には手をたたいて笑う。
子どもたちは、よくこんなことを言う。「吉岡先生って暇そうだよね」
もちろん実際は違う。皆の健康管理や応急処置などに加え、感染症や薬物などの予防教育、性教育といった「保健教育」の準備でも忙しい。学校運営に関する業務も多いのが実情だ。
それでも「暇そう」と言われると、吉岡さんはうれしい。「大人が忙しそうで余裕もなさそうに見えると、子どもたちは安心して話しかけてくれませんから」
会話を重ねるうち、ポロッと本音を出すことがある。「担任の先生が、ちょっとさ」「友達に、こんなこと言われたんだけど」「うちの親が、最近ね……」。本格的な心のケアも、具体的な支援も、ここから始まる。誰にも相談できない子にとって、保健室は“最後に頼る先”となる。
保健室にフラッと立ち寄る子たちは、何をして過ごすのか。ほとんどは「先生、あのね」と、たわいもない会話を交わすだけ。吉岡さんはニコニコして相づちを打ち、突拍子もない冗談には手をたたいて笑う。
子どもたちは、よくこんなことを言う。「吉岡先生って暇そうだよね」
もちろん実際は違う。皆の健康管理や応急処置などに加え、感染症や薬物などの予防教育、性教育といった「保健教育」の準備でも忙しい。学校運営に関する業務も多いのが実情だ。
それでも「暇そう」と言われると、吉岡さんはうれしい。「大人が忙しそうで余裕もなさそうに見えると、子どもたちは安心して話しかけてくれませんから」
会話を重ねるうち、ポロッと本音を出すことがある。「担任の先生が、ちょっとさ」「友達に、こんなこと言われたんだけど」「うちの親が、最近ね……」。本格的な心のケアも、具体的な支援も、ここから始まる。誰にも相談できない子にとって、保健室は“最後に頼る先”となる。
吉岡蓉湖さん(左から3人目)が、少年少女部の子どもたちと語らう(富山文化会館で)
吉岡蓉湖さん(左から3人目)が、少年少女部の子どもたちと語らう(富山文化会館で)
忘れられない生徒がいる。かつて勤務した中学校で、3年間を共に歩んだ亜子さん(仮名)だ。
中学1年の夏休み明けから、不登校気味に。背景にあったのは教師への不信感。しかし「保健室なら行ってもいい」と言う。とはいえ、1日の滞在時間は数分程度。ずっと無言のまま。吉岡さんは彼女の“心のサイン”を見逃すまいと、笑顔で見守り、向き合った。
帰りたそうな時には「帰りたいんだね」と優しく尋ね、彼女がうなずくと「ありがとう。おかげで帰りたい気持ちが分かったよ」。亜子さんの心情や要望に一番近そうな言葉や選択肢を探し、一つ一つ提示して、彼女が短く答えるようになると「ありがとう。言葉で伝えてくれたから、よく分かったよ」と――。
自分のありのままを受け止めてもらえる。自分のことは自分で決められる。子どもがそう心から思える所を、「安心の居場所」と呼ぶのだろう。それは、そこに居る大人の豊かな境涯がつくりだすものに違いない。
子どもを包み込む慈悲や心の余裕も、適切な言葉や工夫を編む智慧も、温かく支え続ける忍耐も全て「毎日の真剣な祈りがなかったら生まれませんでした」(吉岡さん)。その経験は後に、学会の未来部担当者となって友に尽くすための土台にもなった。
忘れられない生徒がいる。かつて勤務した中学校で、3年間を共に歩んだ亜子さん(仮名)だ。
中学1年の夏休み明けから、不登校気味に。背景にあったのは教師への不信感。しかし「保健室なら行ってもいい」と言う。とはいえ、1日の滞在時間は数分程度。ずっと無言のまま。吉岡さんは彼女の“心のサイン”を見逃すまいと、笑顔で見守り、向き合った。
帰りたそうな時には「帰りたいんだね」と優しく尋ね、彼女がうなずくと「ありがとう。おかげで帰りたい気持ちが分かったよ」。亜子さんの心情や要望に一番近そうな言葉や選択肢を探し、一つ一つ提示して、彼女が短く答えるようになると「ありがとう。言葉で伝えてくれたから、よく分かったよ」と――。
自分のありのままを受け止めてもらえる。自分のことは自分で決められる。子どもがそう心から思える所を、「安心の居場所」と呼ぶのだろう。それは、そこに居る大人の豊かな境涯がつくりだすものに違いない。
子どもを包み込む慈悲や心の余裕も、適切な言葉や工夫を編む智慧も、温かく支え続ける忍耐も全て「毎日の真剣な祈りがなかったら生まれませんでした」(吉岡さん)。その経験は後に、学会の未来部担当者となって友に尽くすための土台にもなった。
今月12日に富山県民会館で行われた「とやまピースフェス」では、未来部員が運営役員を担った。総県副女子未来部長である吉岡さん(右側手前の白い服の女性)が友を励ます
今月12日に富山県民会館で行われた「とやまピースフェス」では、未来部員が運営役員を担った。総県副女子未来部長である吉岡さん(右側手前の白い服の女性)が友を励ます
「とやまピースフェス」の受付担当を、中・高等部の代表が朗らかに(今月12日、富山県民会館で)
「とやまピースフェス」の受付担当を、中・高等部の代表が朗らかに(今月12日、富山県民会館で)
意思表示をしない亜子さんに対し、当初はいら立っていた学級担任とも粘り強く対話を重ねた。折あるごとに彼女の頑張りや成長を伝えた。担任は次第に彼女の良き理解者となる。他の先生方にも、どれほど応援してもらったか分からない。
亜子さんは2年生、3年生と進むにつれて笑顔も言葉も増え、教室に復帰。志望校への合格を決め、卒業を果たした。
高校生活を楽しそうに送る彼女から、届いた手紙がある。「この中学校じゃなかったら、私は今の自分には、なれていなかったと思う。わがままもいっぱい言ったし、迷惑もかけたけれど……本当に、ありがとう」
今年も夏休みが明け、新学期が始まった。吉岡さんは今、小学校の保健室で子どもたちを迎えている。「先生、暇そうだから来てあげたよ!」と言う子たちに、「待ってたよー!」とうれしそうに応えながら。
意思表示をしない亜子さんに対し、当初はいら立っていた学級担任とも粘り強く対話を重ねた。折あるごとに彼女の頑張りや成長を伝えた。担任は次第に彼女の良き理解者となる。他の先生方にも、どれほど応援してもらったか分からない。
亜子さんは2年生、3年生と進むにつれて笑顔も言葉も増え、教室に復帰。志望校への合格を決め、卒業を果たした。
高校生活を楽しそうに送る彼女から、届いた手紙がある。「この中学校じゃなかったら、私は今の自分には、なれていなかったと思う。わがままもいっぱい言ったし、迷惑もかけたけれど……本当に、ありがとう」
今年も夏休みが明け、新学期が始まった。吉岡さんは今、小学校の保健室で子どもたちを迎えている。「先生、暇そうだから来てあげたよ!」と言う子たちに、「待ってたよー!」とうれしそうに応えながら。
子どもたちから贈られた手紙は全て大切な宝物
子どもたちから贈られた手紙は全て大切な宝物
【ご感想をお寄せください】
kansou@seikyo-np.jp
※ルポ「つなぐ」では、子どもや保護者と心をつなぎ、地域の人と人とをつなぐ教育本部の友を取材しながら、「子どもの幸福」第一の社会へ私たちに何ができるかを考えます。
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