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〈防災――身を守る行動〉 在宅避難に向けた備え 2024年6月2日

ソナエルワークス代表
高荷智也さん

 激甚化する自然災害が頻発し、劣悪な避難生活に起因する災害関連死の問題が浮き彫りになっています。「防災――身を守る行動」の第10回では、災害後、避難所に移動せずに自宅にとどまる「在宅避難」のための備えについて、ソナエルワークス代表の高荷智也さんに聞きました。
 

避難所に行くのは最終手段

 大地震や豪雨などから命を守るためには、直接的な自然現象から身を守るとともに、その後の避難生活に向けた備えが重要です。
 コロナ禍以降、「避難所避難」だけでなく、「在宅避難」「車中避難」など分散避難の考え方が社会に浸透してきました。被災状況や自宅がある地域のハザード(危険性)、家族構成などに応じて、避難行動の在り方は変化します。
 最優先の避難方法にしてほしいのが、発災前に被災地を離れる「事前避難」です。縁故者宅や、ホテルに避難することになるでしょう。警戒情報から発災まで比較的時間のある風水害時には、有効な避難方法になります。
 しかし、突発的な災害である地震・津波では、発災前に避難することは現実的には難しく、発災後の避難行動を想定しておく必要があります。
 発災後の避難といえば、避難所に身を寄せるのが一般的ですが、避難所の最大収容人数には限度があり、地域によってはそう多くない実態があります。
 人口が多い大都市では、避難所に入りたくても入れない可能性があります。例えば、東京都では人口約1417万人に対し、都内の避難所は約3200カ所で収容人数の合計は約320万人(2022年4月現在、東京都防災ホームページ)。受け入れ可能率は22・6%です。
 大阪市の場合は、約279万人の人口に対し、約560カ所の避難所に約62万人の収容となっています(24年1月現在、大阪市・災害時避難所一覧表)。受け入れ可能率は22・2%になっています。
 運よく、避難所に入れたとしても、過酷な生活が待っています。
 避難所は学校の体育館などの公共施設が利用されますが、極端な言い方をすると、多少の防災備蓄品はありますが、「屋根」と「床」があるだけと考えてください。
 避難所を運営する行政の職員や自主防災組織の方々も被災して避難所にたどりつけない可能性もあります。そうした場合は、一人一人が運営者になります。
 さらに、停電していれば、暑さや寒さに苦しみます。断水をしていれば、トイレ環境は劣悪そのものになります。そして、硬い床に雑魚寝し、十分な食事もありません。他人との共同生活なので、争いごとなどのトラブルも少なくありません。
 当然、自治体などの努力によって、こうした環境が改善されつつある地域もありますが、被災しても自宅に住める状況があれば、積極的に在宅避難を選択しましょう。そのために、在宅避難を可能にする備蓄を万全にしていただきたいと思います。
 

PIXTA
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●ライフラインが復旧するまで耐える●

 自然災害時に「在宅避難」を可能にするには、まずは室内の安全対策が欠かせません。
 水害であれば、自宅が浸水しないための対策の他、自宅の1階部分が浸水しても、2階で生活ができるように考えておく必要があります。
 地震の対策には、家具固定や部屋のレイアウトを見直すこと。
 地震の揺れで自宅の倒壊や大きな損壊を免れたとしても、家具が倒れたり、ガラスの食器や鏡が割れて地面に散乱したりすると、自宅で避難生活を送ることが困難になる可能性があります。
 室内の安全対策の次に必要なことがあります。それが「水道」「電気」「ガス」のライフラインが途絶えてしまっても、命をつなぐための営みができるだけの備えをしておくことです。
 それらを「必需品」「インフラ代替品(水、電気、ガス)」「食料品・日用品」の三つに分けてご紹介します。「備蓄量の目安」、手間をかけない「日常備蓄の考え方」についてもお伝えします。
 自分や家族を守るため、在宅避難に向け、少しずつ、準備を重ねていただきたいと思います。
 

本連載で紹介した家具固定の方法
↓↓
https://www.seikyoonline.com/article/DC022FB89A81D8F4A4AD2EAF39E2BA05
 
本連載で紹介した安全な室内のレイアウト
↓↓
https://www.seikyoonline.com/article/08F062B60FAB5B0A6DE544E0476C2464
 

必需品
●身体機能の一部を補助するもの
 (眼鏡、コンタクトレンズ、補聴器、つえなど)
●常用薬、在宅医療器具の電源
●乳児、介護、ペット用品など
 

 自分やわが家にとっての必需品の備えは必須です。まずは、眼鏡やコンタクトレンズ、補聴器やつえ、医療機器など、身体機能の一部となっているものです。また、常用薬の備え(7日分程度)、在宅用の医療器具を使っている場合は、停電に備え、ポータブル電源などの予備電源を用意しておきましょう。
 発災後、自宅が無事であれば、普段、使用しているものが使えると思いますが、大地震に見舞われ、普段使っているものが取り出せなくなる可能性もあります。避難時の持ち出し品と一緒に、必需品の予備をリュックサックなどにまとめておくのが理想です。
 また、赤ちゃんがいる家庭であれば、粉ミルクやおむつ、おしりふきなどの備蓄が必要です。さらに要介護の方がいらっしゃる場合は介護用品、ペットを飼っていれば、やはりペット用品を備蓄しておく必要があります。それぞれの状況に合わせた必需品の備えをお願いします。
 

断水対策
●備蓄トイレ
●ウエットティッシュ
●ドライシャンプー
●ペーパー歯磨き
●飲料水

 次は、ライフラインが復旧するまでの「インフラ代替品」の備えです。
 まずは断水対策。人間らしい生活を保つために欠かすことができません。生活用水をそのまま備蓄しようとすると、大量の水が必要になるので、その機能を代替できるアイテムを用意します。
 断水すれば、水洗トイレは使用できません。これまでの災害でもトイレが使えないため、避難所に避難される方が多くいらっしゃいました。在宅避難を可能にするためにはトイレ対策を必ず行ってください。
 備蓄トイレは、1日当たり5回分といわれています。7日分用意できると安心です。
 飲料水は、調理時に使う水を含めて、1日当たり1人約3リットルを目安にしてください。
 

ガス停止対策
●カセットコンロ
●ガスボンベ

 ライフラインが復旧するまでの避難生活では、お湯を沸かせると、生活水準は高くなります。
 湯沸かしができれば、各種備蓄食をおいしく食べたり、加熱によって食中毒を対策できたりします。
 ガスボンベは、1本当たり、最大火力で約60分間使用することができます。1~2人であれば1日1本、3~4人の家族であれば1日2本程度、必要になります。

停電対策
●ポータブル電源
●スマホ用バッテリー
●ライト、乾電池

 停電時の対策でおすすめするのが、ポータブル電源です。
 大容量のものであれば、エアコンや電子レンジなどが使用できますが、高額です。予算に合ったものを一つ持っているといいでしょう。また、スマートフォンは大切な防災アイテムでもあります。安否確認から情報収集に使用できます。スマホ用の充電器として、乾電池式の充電器や小型のモバイルバッテリーがあります。普段から使用する場合はモバイルバッテリーがおすすめですが、最低限「1万mAh」以上のものが必要です。
 また、暗さ対策が必要で、ヘッドライトと乾電池式のLEDランタンがあると便利です。
 当然、乾電池の備蓄も忘れないでください。ポータブル電源、モバイルバッテリー、乾電池には、それぞれ、寿命がありますので注意しましょう。
 

暑さへの備え

 暑い夏に停電してしまったら、暑さ対策が困難になり、命に関わります。
 やはりポータブル電源などがあるといいでしょう。
 電気が使えない状況に陥った場合は、冷涼タオルを首に巻いて、乾電池式のハンディー扇風機、もしくは扇子などで風を送る方法があります。ある程度、体温を下げることができるでしょう。
 

食料品・日用品
おすすめの食材
〈主食〉
●米類・乾麺
〈おかず〉
●レトルト・缶詰
●トイレットペーパー
●ティッシュペーパー
●ゴミ袋

 最後に「生活物資」の備蓄です。まず食料品は、普段食べているものをそのまま備蓄すること。非常食や保存食が口に合わないこともよくある話です。
 おすすめの食材は、主食としては、お米と乾麺です。乾麺は賞味期限が比較的長くて最適です。レトルトのカレーや牛丼の具をご飯にかけたり、レトルトのミートソースをパスタにかけたりすれば、生き延びていけます。
 さらに、肉や魚のタンパク質は、「焼き鳥」や「牛タン」、「いわしのかば焼き」など種類が豊富な缶詰で取ります。
 自分が好きなものをレトルトや缶詰で用意しておきましょう。
 日用品はトイレットペーパーやティッシュペーパーが必要でしょう。さらに、ごみ袋が非常時には、水タンク代わりになるなど、何かと活躍しますので多めに備蓄してください。
 

日常備蓄の考え方

 食料品・飲料水・日用品・消耗品は日常備蓄(ローリングストック)が有用です。例えば、食べ物であれば、生もの以外の買い置きを多めにして、賞味期限が近いものから食べて、食べきる前に補充するというもの。いずれ食べるので、防災備蓄用の予算も必要ありません。
 特売日などに多めに購入すれば、節約になるかもしれません。
 

備蓄量の目安
●最低3日
●できれば7日
●可能なら14日

 備蓄量の目安は、まず「最低3日分」です。皆さん必須だと考えてください。甚大な自然災害が発生すると、発災から3日間は、人命救助や道路の復旧作業などが最優先となり、支援の手は入りづらくなります。3日間は自力で命をつないでいける備えが必要です。
 そして「できれば1週間(7日)分」の備蓄をお願いします。特に東京をはじめ、大阪や名古屋など大都市で大地震が起こると、人口の多さから長期の間、支援が行き届かないことが想定されます。
 東京をはじめ大都市に住まれている方や、孤立しやすい地域に住まれている方は、発災から1週間は、自力で、自宅で生活できるだけの備えが必要でしょう。
 さらに南海トラフ地震など被害が広域に及ぶ大地震にも同じことがいえます。しっかり備蓄したい方は「2週間(14日)分」の備えに挑戦してもいいでしょう。 
 

 
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