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〈Seikyo Gift〉 幸齢社会 言葉を採取し、日々を俳句に詠む 2022年10月2日

撮影者 後藤さくら
撮影者 後藤さくら
俳人
夏井いつきさん

 季語を含む五七五の17音で表現する俳句。読むだけでなく、詠んでみたいと、俳人の夏井いつきさんに俳句の魅力や詠み方を聞きに行きましたが……。「実際に、やってみるのが一番」との夏井節から、記者への個人講座が始まりました。句を作り上げるまでおつき合いください。(8月17日付)

 正岡子規ゆかりの道後温泉(愛媛)そばに立つ「伊月庵」を訪ねたのは7月中旬。
 「ここに来るまでに考えてきたんでしょ。今日、あなたが詠んだのは何?」。夏井さんを前に句を読み上げた。「気が付けばセミの声さえ聞き分ける」
 間髪入れず「素晴らしい“凡人”の句」と認定された。夏井さんの言葉が続く。「俳句を作ろうとして、当たり前の発想になっているだけ」「セミの声なんて、気付けば鳴いてるの。セミがいれば皆、同じように感じている」
 初心者は、俳句をひねり出そうとするうちに“凡人の穴”に吸い込まれてしまうという。つまり他人と同じ発想、同じ言葉になる。「俳句って、なんかすごいものを自分の奥から引っ張り出して、外に叫ぶみたいに思い込んでるけど、本当はそうじゃない。俳句のタネは、小さな出来事や発見、面白いと思うもの、好奇心のアンテナをくすぐられたものにある。自分の外に材料がある」
 「来る途中に見たものを、お喋りするだけでよい」と言われ、朝、東京をたち伊月庵に来るまでの出来事を話す。
 私の言葉を復唱するように夏井さんが言葉を採取していく。
 「妻の実家が松前です」「道後に来るのは初めてです」「取材の本を読んでいた」「炭酸水を飲みました」
 「あなたが喋ることは大体、俳句のタネになっているんです」。12音ぐらいの言葉をつづれるようになれば「もう“才能アリ”は目の前」。「普段の会話が俳句になると気付いていないだけ。ほとんどの人は俳句のタネを垂れ流して生きているんです。日々のつぶやき、日記のかけらがタネであることに、気付くか、気付かないかだけ」

季語で変わるつぶやき

 短文二つがホワイトボードに書き出された。「空港でうどんを食べた」「バスと電車を乗り継いで」
 「セミの声を聞いた人に比べ、空港でうどんを食べた人の方が対象が狭いでしょ」
 「何うどんを食べたの?」と聞かれ、肉うどんと答える。「うどんに『肉』を加えて、増えた文字を調整するため、『食べた』を『食う』に。順番入れ替えて」。少ない音数で、自分のところにどう寄せるか。肉の2音加わるだけで個性が出る。
 「空港で食う肉うどん。――今日のあなたの、小さな俳句のタネです」
 数学の公式やパズルのように俳句のタネに5音の季語を合体させる「取り合わせ」。最も簡単な作り方の一つ。つぶやきが俳句に変わっていく。
 「このテクニックで作る時、時候や天文の季語を取り合わせると、割とうまくいくんです。上五でも下五でも構わない」。12音の邪魔をしない季語は、時候や天文の中に多いらしい。歳時記(季語の辞典)をめくる。
 試しに「夏の風」と取り合わせて「夏の風空港で食う肉うどん」。今度は「夏の雨」「風鈴や」と入れ替えてみる。季語で印象が変化する。「『風鈴や』と音の情報が入るだけで、空気が変わるでしょ」「風とするか、雨とするかだけでも、感じ方が圧倒的に変わります。最初の一句を作る練習に天文の季語はいい。とても簡単にできるんです」
 歳時記には「夏の風」の前後に「夏の星」「南風」「夏の雲」がある。南風は「みなみかぜ」だと5音、「なんぷう」が4音、「はえ」なら2音。「黒南風」「白南風」もある。
 「季語を面白がることが最初のステップ。言葉に出合えば、へーってなるでしょ。俳句の勉強は好奇心を耕す」
 最初に手にする歳時記は「財布(値段)とかばん(大きさ)に相談」。持ち歩けるサイズを勧められた。
 もう一つ携帯したいのが、見聞きしたものをメモする句帳。スマホでもよいが、メモは記憶の手掛かりにも、創作の助けにもなる。「紙にメモすると、その周辺で見たものも書かれているので、他のことも思い出す。これ見た時にその向こうに川があった、こんな花が咲いていたと、ページごとに記憶になって。他にも、前のページの言葉とガッチャンコさせると、新鮮な取り合わせになったりするの。私たちは、新しい取り合わせの“言葉の火花”って呼んでいます」

句会や投句に参加を

 夏井さんによると、俳句を始めるなら、一人で迷走するより、教えてもらった方が上達が早い。句会やカルチャー教室がお勧めだが、気軽に始めたいなら投句するのもよいという。松山市が運営する俳句投稿サイト「俳句ポスト365」なら、初級と中級以上が分かれていて参加しやすい。
 投句には俳号(俳句作者としての名前)を使う。俳号にルールはない。勝手に作って、験が悪ければ変えてもいいそうだ。
 未熟者の私が俳号なんてと臆していると、「それ逆ですね。本名で投句する勇気があるならやってみてって言いたいですね」と笑顔で返された。
 講座も終盤。「最後に、季語を自分の意思で選ぶことで作品が完成します」
 
 夏の昼空港で食う肉うどん
 
 風香るバスと電車を乗り継いで
 
 「今日のあなたの生きていた証拠となる2句」。頂いた句帳に清書し、隣に日付と場所を記録する。
 「今日学んだのは基本の型の一つ。型が身に付いたら、また次を学ぶ。覚えた分だけ俳句が簡単に作れるようになるんです。自分が見たもの、感じたことは、あの型を使ったらうまく言葉が入るなって」「俳句のタネを拾う気持ちで暮らせば、景色が全部ありがたいもの、楽しいものに見える。単純な話なんですよ。俳句をやり出すと、全てがタネになって、人生から退屈がなくなりますよ」

 秋≪五音の季語≫
 秋の朝、秋の昼、秋の暮、秋の宵、秋麗、秋暑し、秋涼し、秋深し、秋惜む、そぞろ寒、冬隣、秋彼岸、秋の空、天高し、秋の雲、天の川、夕月夜、星月夜、流れ星、秋の雨、秋の雷、稲光、秋の山、秋の水、秋の海、秋の川、秋出水、秋の庭、花畑、秋の波、秋の潮、星祭、魂祭、盆休、秋さびし、月見酒、秋祭、紅葉狩、文化の日、渡り鳥、秋燕、稲雀、赤蜻蛉、虫の声、秋の蟬、青蜜柑、山葡萄、初紅葉、草の花、銀杏散る、木の実落つ、曼珠沙華
 「『伊月庵通信』俳句手帖 秋」から

 近著『夏井いつきの「今日から一句」』(第三文明社)
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