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【18時配信・電子版連載】“武装解除”して「素の自分」を出そう――金沢大学教授 金間大介さん 2024年3月14日

  • 〈WITH あなたと〉 #Z世代

 記者は、40歳間近のアラフォー。
 いろんな機会を通してZ世代と「一対一」で接してきましたが、最近、違和感があるんです。
  
 彼らに「何かある?」と聞くと「大丈夫です」と返ってくる。突っ込んで尋ねても、感じよく、そつなく、その場に適した回答がくる――そんな印象を持っています。
 もしや、従来の一対一の関わり方が通じなくなっている?
  
 そんな疑問を携えて先日、新刊『静かに退職する若者たち 部下との1on1の前に知っておいてほしいこと』(PHP研究所)の著者のもとへ。
  
 Z世代特集の第11回では、金沢大学教授の金間大介さんに話を聞きました。(取材=久保田健一、宮本勇介)

■その下心、バレてます

 ――金間さんは、新著の中で、昨年あたりから“ある声”を頻繁に聞くようになった、と書かれています。

 「1on1をした翌週に退職代行サービス(※1)から(部下からの退職願の)連絡があった」「あの子とは、それなりに意思疎通ができていると思っていたのに……」という声ですね。
  
 一対一で話す場を持って、部下と良好な関係が築けたと思った直後に、退職の報に接するわけなので、結構、つらいですよね。

 (※1)退職代行サービスとは、従業員が自らの意思で退職する際に、そのための通知や書類作成などの一連の手続きを代わりにしてくれるサービス。

 ――私(記者)自身、若者の気持ちを理解しようと努力しているつもりなんですが、何だかうまくいっていないような気がしていて。

 世代間ギャップを埋めようと、努力をしたり、配慮しようとしたりすることは、大切なことです。そういった世の中の傾向も基本的には賛成です。
  
 ただ、その努力や配慮は、若者目線からスタートしているものでしょうか。
  
 ――そうですね。こちらとしては若者目線のつもりなんですが……。
  
 若者に関して知ろうとしている時、「若者をどう攻略すればいいか」という視点に陥っている時はありませんか?
  
 ――確かに、思い当たる節はあります。若者の「トリセツ」「マニュアル」なんてタイトルの本や記事を読むことも。
  
 上司の側には、部下に好かれて関係性が良くなった方が、この先、仕事がうまくいくのではないかという下心があるんですよね。
  
 だから、悪いことはなるべく抑えて、いいことを言って、うまく関係性を担保しようとする。

 上司のその下心、若者にはバレバレで、効果はありません。そのあたりを察する能力は、若者の方が段違いに上なので心得ておいた方がいいでしょう。
 私も彼らから学びました(笑)。
  
 ――仲良くなるために、食事などの機会を増やせばいいという発想ではダメということですかね。
  
 その飲み会なんかが典型例です。
 飲み会に行って話すと、若手が割と元気だった。みんなで仲良くなれた。これでオッケーって上司の側は思ってしまう。
  
 しかし、若者から見たら違う。
 その場に求められる「自分」を出しているだけ。2時間、“スイッチ”を入れているんです。

 皆さんもそうだったんじゃないですか、若者の時。あるいは今も、社長とか常務とかに食事に誘われて2時間、あなたは素で話しますか? 話せないですよね。
  
 なのに、若者に素を求める。それって、不自然だし、おかしいですよね。
 あなたと同様に、多くの若者も“対○○スイッチ”を押しているんです。
  
 ――では、仕事を円滑に進めるために、部下や後輩が望んでいることは何なのでしょうか。
  
 部下は仕事の達成に向けて動きますが、経験が浅いため、一人での実現が難しいことも知っているわけです。
  
 だから、そんな時に必要なのは、何ができていて、何ができていないのかといった具体的なフィードバックです。部下は、自分の行動と結果の因果関係が知りたいのです。

 なぜ、子どもたちがゲームに熱中するのか。
 ステージをクリアするたびにレベルが上がり、アイテムをゲットするなど、目に見えて分かるフィードバックがあるからです。
  
 変な下心や前置きはいりません。「今から、フィードバックするね」と最初に伝えれば、若手の部下たちは、それ専用の“スイッチ”を入れて聞くことができるでしょう。

■“武器”はいらない

 ――「もっと腹を割って若者と語り合いたい」。そうした場合は、どうすればいいですか。
  
 Z世代を攻略するための“武器”を手に入れようとするのが良くない。そうではなく、真逆であってほしい。
  
 つまり“武装解除”が必要なんです。
 武器などは持たず、「素の自分」で若者と接してほしいんです。

 例えば、今の仕事の好きなところを語る場合なら、盛りに盛った武勇伝ではなく、自身の素直な気持ちを語ればいいんです。
  
 「昨日、仕事していて、すごくうれしいことがあってさ。だから、この仕事好きなんだよね」と、率直に話す。話がうまくまとまってないくらいがちょうどいい。
  
 とはいえ、それが難しいんだと、多くの方は感じているんでしょうね。
  
 ――素直な気持ちを、熱量を込めて話せばいいんですかね。
  
 熱量はいらない。主観の素の部分だけを意識してください。
  
 「熱量を込めた方が若者に伝わる」とあなたが思った瞬間に、それは“熱量武器”だと若者は受け取ってしまうでしょう。
  
 ――何でもハラスメントになるような時代では、武装したくなる気持ちは強くなると思うんです。
  
 そうですよね。それは上司も部下も同じだと思います。
  
 昔の若者は自分が頑張りたい時、上司が怖くても「先輩、もっと仕事ください」と言えた。
 しかし、今は違う。競争を強いる環境がなくなってきました。ハラスメントにならないか、周囲も配慮する。それは、とてもいいこと。ただ、悪い部分を取り去ろうとして、良い部分まで削り取ってしまったのでないかと頭を抱える人が増えてきました。

 仕事を誰かに振る、こうした事案が、とてもナイーブなものになりました。
 上の側が「ちゃんと思いやろう」と意識するようになった分、部下や後輩も「仕事ください」と言いにくくなりました。
  
 加えて、Z世代の特徴も関係していると思います。

■「拒否回避欲求」が高まっている

 ――金間さんは、現在の若者の特徴を「いい子症候群」と名づけました。決して本音は明かさない。目立ちたくもないし、大勢の中に埋もれていたいと考える、と。

 そうした「人前でほめられたくない」という若者も多いようですが、一方でSNSなどを見ると、若い人も承認欲求が強いような気もします。

  
 さまざまな若者研究の論文に目を通しても、「若者の承認欲求が減少した」というデータは見当たりません。
  
 しかし、若者の間では、承認欲求を満たすために頑張り過ぎると、それはそれで恥ずかしい。「別に自分は承認とか気にしてないよ」という姿勢を通した方が、周囲から変な目で見られる可能性はなくなります。
  
 私は、承認欲求より、変な人だと思われたくないという「拒否回避欲求」(※2)が高くなっているのが、Z世代の特徴だと思っています。

 (※2)承認欲求は、他者から自分の考えや存在を認められたいという傾向を指し、自分の所属団体への所属欲求や、それにもとづく自己誇示感ともかかわる。拒否回避欲求は、他者に「嫌われたくない」「変な人だと思われたくない」といった、否定的な評価を回避する欲求を指す。

 昔は「まだ君には難しいだろ」と言われても、“認められたい”欲求の方が高く、若手でも「仕事をください」と言う人も多かったかもしれません。
  
 今は、「いや、自分にはまだ早い」という心の声が承認欲求に勝ってしまうケースが増えてきています。
  
 ――みんなそれぞれ葛藤しながら頑張っているんですね。人間や社会の関係が複雑すぎて、もはや素の状態が何なのか、よく分からなくなってきました。
  
 上司や先輩の方々は、そうした状況自体を一度認めてしまってはいかがでしょうか。
  
 「家に帰れば、普通のおじさんなのにさ、上司って何だか大変なんだよ」と部下や後輩と接した際に伝えてみる。
 それが素の自分を出す第一歩になります。

 つまり、「ちゃんとした上司」をやめようということです。
 隙がない上司には、部下は怖くて何も言えません。
  
 ですから、失敗し、挽回しようとしているところを見せるんです。そして、部下や後輩にも助けを求めてみてください。
 きっと彼らにしかない能力を発揮すると思いますよ。

■双方にとって学び

 ――金間さんはなぜ、若者研究にそこまで熱くなれるのでしょうか?
  
 あんまり考えたことがなかったですね(笑)。
  
 私は、イノベーション論という研究テーマのおかげで、若い人たちを継続的に追いかけられる環境に恵まれました。
 また、文章を書いて、さまざまな場で発信することも苦でなく、むしろ好きな方です。
 加えて、ゼミ運営などを通して、かなり学生と近いところで過ごしてきました。
  
 こうした条件がそろっている存在というのは実は少ないため、その自覚が自身を突き動かしているのかもしれません。

 研究を通し、私は「徹底的に若者目線で物事を見ること、語ること」を常に意識するようになりました。
  
 例えば「人材育成」という言葉があります。
 一般的な概念として便利なので、私も多用していますが、この言葉を今一度、若者の立場で想像してみてほしいんです。
  
 人材育成という言葉には、「日本社会が抱える課題に合わせ、そこから逆算して必要と思われる人材を育て上げること」というニュアンスが強く含まれています。
  
 若者からすると、自分たちがいないところで「自分たちをどうするか」が議論されているようで、抵抗感があるはずです。
 私も若手と呼ばれていた時、ずっと抵抗感がありました。
  
 接しているのは人です。若者たちを物のように扱ったら、失礼だと思いませんか?
  
 とにかく大事なのは、若者の心理を理解していくことであり、決して、そのマインドを変えようとしないことです。
  
 一対一で向かい合っている時、見られているのは若者ではなく、あなただと意識してみるといいでしょう。
 そうすれば、一対一の場は、双方にとって学びの場になります。

【プロフィル】

 かなま・だいすけ 北海道札幌市生まれ。金沢大学融合研究域融合科学系教授。東京大学未来ビジョン研究センター客員教授。博士号取得までは応用物理学を研究していたが、博士後期課程中に渡米して出あったイノベーション・マネジメントに魅了される。それ以来、イノベーション論、技術経営論、マーケティング論、産学連携等を研究。著書に『先生、どうか皆の前でほめないで下さい:いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)、『静かに退職する若者たち 部下との1on1の前に知っておいてほしいこと』(PHP研究所)など。

 ●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ご感想をお寄せください。
 メール youth@seikyo-np.jp
 ファクス 03-5360-9470

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