【電子版オリジナル】ひきこもりは「生きるための手段」――“生きていていいんだ”と思えるためのサポートを
【電子版オリジナル】ひきこもりは「生きるための手段」――“生きていていいんだ”と思えるためのサポートを
2022年10月8日
- 電子版連載〈WITH あなたと〉 #ひきこもり
- インタビュー 一般社団法人ひきこもりUX会議代表理事 林恭子さん
- 電子版連載〈WITH あなたと〉 #ひきこもり
- インタビュー 一般社団法人ひきこもりUX会議代表理事 林恭子さん
ひきこもりの女性は、なかなかその実態が見えづらい状況が続いていたといいます。
例えば、内閣府の調査では、40~64歳のひきこもり状態にある人は、男性が76.6%、女性が23.4%という結果も。けれど、こうした調査では、現在「家事手伝い」「主婦」であると答えた女性は、実際はひきこもり状態だったとしても含まれません。
今回は、全国各地で女性の当事者が参加できる「ひきこもりUX女子会」を開いてきた、一般社団法人ひきこもりUX会議代表理事の林恭子さんに話を聞きました。林さん自身も10代での不登校、その後、断続的に30代までひきこもりを経験した当事者です。
「もう一度、生きてみよう」と思えるまでに20年の歳月が必要だったと語る、林さんが考える、ひきこもりのサポートの在り方とは――。
(取材=掛川俊明、石井和夫)
ひきこもりの女性は、なかなかその実態が見えづらい状況が続いていたといいます。
例えば、内閣府の調査では、40~64歳のひきこもり状態にある人は、男性が76.6%、女性が23.4%という結果も。けれど、こうした調査では、現在「家事手伝い」「主婦」であると答えた女性は、実際はひきこもり状態だったとしても含まれません。
今回は、全国各地で女性の当事者が参加できる「ひきこもりUX女子会」を開いてきた、一般社団法人ひきこもりUX会議代表理事の林恭子さんに話を聞きました。林さん自身も10代での不登校、その後、断続的に30代までひきこもりを経験した当事者です。
「もう一度、生きてみよう」と思えるまでに20年の歳月が必要だったと語る、林さんが考える、ひきこもりのサポートの在り方とは――。
(取材=掛川俊明、石井和夫)
■「地上の世界」と「地下の世界」の違い
■「地上の世界」と「地下の世界」の違い
――かつては、ひきこもりというと「男性」というイメージを持たれることが多かったようですが、ひきこもりUX会議の調査でも、実態は異なることが分かっているようですね。
私自身も30代半ばまで、ひきこもりを経験した当事者です。
それに不登校などの調査では、男女比は半分ずつくらいなのに、ひきこもりの調査では、急に男性が6割、7割といった数字になる。「女性が少ない」っていうのは、ちょっとどうなのかなと、もともと思っていたんです。
これまでの行政の調査では、「家事手伝い」や「主婦」と答えた人は、ひきこもりから除かれていました。当事者の方も、ひきこもりとは書きづらくて、「家事手伝い」にチェックを入れるという人も、多くいらっしゃったのではないかと思います。
――林さんは「ひきこもりUX女子会」を開くなど、女性のひきこもりにも焦点を当ててこられました。
もしかしたら、女性のひきこもり当事者の皆さんが、安心して出ていける場所がないんじゃないか。そう考えて2016年に、試しに女性だけのひきこもりの当事者会をやってみようと企画しました。
すると、予想以上に多くの方が来られて、中には飛行機や新幹線を使って来た人もいました。この6年間で、参加者は約5000人になりました。
――かつては、ひきこもりというと「男性」というイメージを持たれることが多かったようですが、ひきこもりUX会議の調査でも、実態は異なることが分かっているようですね。
私自身も30代半ばまで、ひきこもりを経験した当事者です。
それに不登校などの調査では、男女比は半分ずつくらいなのに、ひきこもりの調査では、急に男性が6割、7割といった数字になる。「女性が少ない」っていうのは、ちょっとどうなのかなと、もともと思っていたんです。
これまでの行政の調査では、「家事手伝い」や「主婦」と答えた人は、ひきこもりから除かれていました。当事者の方も、ひきこもりとは書きづらくて、「家事手伝い」にチェックを入れるという人も、多くいらっしゃったのではないかと思います。
――林さんは「ひきこもりUX女子会」を開くなど、女性のひきこもりにも焦点を当ててこられました。
もしかしたら、女性のひきこもり当事者の皆さんが、安心して出ていける場所がないんじゃないか。そう考えて2016年に、試しに女性だけのひきこもりの当事者会をやってみようと企画しました。
すると、予想以上に多くの方が来られて、中には飛行機や新幹線を使って来た人もいました。この6年間で、参加者は約5000人になりました。
提供:一般社団法人ひきこもりUX会議 Junction報告書より
提供:一般社団法人ひきこもりUX会議 Junction報告書より
私は、ひきこもりを次のように捉えています。
いわゆる「普通」に暮らしている人は、ゼロ地点より上の「地上の世界」にいる。ひきこもりの状態は、「地下の世界」に生き埋めにされているようなもの。
「あなたは甘えている」「せめて朝は起きようよ」――私自身も当時、そんな言葉をかけられましたが、それは全て地上の言葉で、意味のないものに感じられました。
私は16歳から36歳まで、昼夜逆転の生活を送っていましたが、「どうせ起きられないのだから、明日の朝も起きなくていい」と思ったことは一度もありません。毎日、「明日こそ起きよう」と思い続けながら、それでも起きられなかったんです。
私は、ひきこもりを次のように捉えています。
いわゆる「普通」に暮らしている人は、ゼロ地点より上の「地上の世界」にいる。ひきこもりの状態は、「地下の世界」に生き埋めにされているようなもの。
「あなたは甘えている」「せめて朝は起きようよ」――私自身も当時、そんな言葉をかけられましたが、それは全て地上の言葉で、意味のないものに感じられました。
私は16歳から36歳まで、昼夜逆転の生活を送っていましたが、「どうせ起きられないのだから、明日の朝も起きなくていい」と思ったことは一度もありません。毎日、「明日こそ起きよう」と思い続けながら、それでも起きられなかったんです。
■「こんな状態なのは、世界で私一人だけだ」
■「こんな状態なのは、世界で私一人だけだ」
――同じ状況を経験している人同士だからこそ、当事者で集まることに、大きな意味があるんですね。
いざ当事者になると、「こんなバカなことをしているのは、世界で私一人だけだ」と思ってしまいます。
かつて私自身も、そう感じていましたが、初めて当事者会に参加した時、「自分一人じゃなかったんだ」と思えました。自分以外にも、同じように悩んでいる人がいるということを知った衝撃は、とても大きかったです。その時の思いが、今の私の活動にもつながっています。
――ひきこもり女子会では、「予約は不要」「非交流スペース」といった、細かな工夫もされています。
「予約する」という行為は、当事者にとって、大きなハードルに感じます。
それに、いざ参加しても、会話の輪に入ることが難しい時もあります。なので会場では、「非交流スペース」というのを作り、テーブルと椅子を置いています。帰ったり、外に出るほどではないけれど、ちょっと疲れた、休憩したいという時に、同じ部屋にいながら、みんなの様子は分かるようにと工夫しています。
――同じ状況を経験している人同士だからこそ、当事者で集まることに、大きな意味があるんですね。
いざ当事者になると、「こんなバカなことをしているのは、世界で私一人だけだ」と思ってしまいます。
かつて私自身も、そう感じていましたが、初めて当事者会に参加した時、「自分一人じゃなかったんだ」と思えました。自分以外にも、同じように悩んでいる人がいるということを知った衝撃は、とても大きかったです。その時の思いが、今の私の活動にもつながっています。
――ひきこもり女子会では、「予約は不要」「非交流スペース」といった、細かな工夫もされています。
「予約する」という行為は、当事者にとって、大きなハードルに感じます。
それに、いざ参加しても、会話の輪に入ることが難しい時もあります。なので会場では、「非交流スペース」というのを作り、テーブルと椅子を置いています。帰ったり、外に出るほどではないけれど、ちょっと疲れた、休憩したいという時に、同じ部屋にいながら、みんなの様子は分かるようにと工夫しています。
予約してもらわないと、主催者としては何人来るか分からないという不安はあります。けれど、それだとやっぱり「主催者がやりやすい」仕組みになっているような気がするんですね。
いつも私たちは、「最大の利益を当事者に」を大切にしています。たとえ主催する側としては不都合があっても、それが当事者や参加する人にとってメリットになるのであれば、そちらを優先するという発想です。
予約してもらわないと、主催者としては何人来るか分からないという不安はあります。けれど、それだとやっぱり「主催者がやりやすい」仕組みになっているような気がするんですね。
いつも私たちは、「最大の利益を当事者に」を大切にしています。たとえ主催する側としては不都合があっても、それが当事者や参加する人にとってメリットになるのであれば、そちらを優先するという発想です。
■必要なのは「幸せになるための支援」
■必要なのは「幸せになるための支援」
――これまで、行政などのひきこもり支援には、どのようなものがあったのでしょうか。
20年余りにわたって、ひきこもり支援は、ほとんどが「就労」や「自立」をゴールにしたものでした。けれど、それは家族や支援者の側が設定しているゴールになっていて、当事者のニーズと合っていない部分もあったのではないかなと。
――これまで、行政などのひきこもり支援には、どのようなものがあったのでしょうか。
20年余りにわたって、ひきこもり支援は、ほとんどが「就労」や「自立」をゴールにしたものでした。けれど、それは家族や支援者の側が設定しているゴールになっていて、当事者のニーズと合っていない部分もあったのではないかなと。
提供:一般社団法人ひきこもりUX会議 Junction報告書より
提供:一般社団法人ひきこもりUX会議 Junction報告書より
もちろん、当事者のほとんどは就労したいし、自立したいと思っているわけですが、それでも、最初から示されるゴールとしては、あまりにも遠くて高い目標なんです。
「こんなダメな自分は生きていてはいけない」と感じている段階で、「就労を目指しましょう」と言われても、いきなり100段や1000段の階段を目の前に突き付けられるようなものです。
それだと一旦は就労できたとしても、なかなか長続きしないということにつながってしまいます。
就労よりも、もっと手前で、粉々になってしまった自己肯定感を取り戻すことが求められていると感じます。私たちの調査でも、ほとんどの方が「自分が嫌い」など、自分を否定していることが分かりました。人それぞれの状況の中で、「生きづらさ」を抱えているんです。
もちろん、当事者のほとんどは就労したいし、自立したいと思っているわけですが、それでも、最初から示されるゴールとしては、あまりにも遠くて高い目標なんです。
「こんなダメな自分は生きていてはいけない」と感じている段階で、「就労を目指しましょう」と言われても、いきなり100段や1000段の階段を目の前に突き付けられるようなものです。
それだと一旦は就労できたとしても、なかなか長続きしないということにつながってしまいます。
就労よりも、もっと手前で、粉々になってしまった自己肯定感を取り戻すことが求められていると感じます。私たちの調査でも、ほとんどの方が「自分が嫌い」など、自分を否定していることが分かりました。人それぞれの状況の中で、「生きづらさ」を抱えているんです。
提供:一般社団法人ひきこもりUX会議 Junction報告書より
提供:一般社団法人ひきこもりUX会議 Junction報告書より
――まずは、どんな支援が求められているんでしょうか?
本当に必要な支援は、「幸せになるための支援」だと思います。
まずは「生きていていい」と思えて、安心して自分らしくいられる居場所や関係性を見つけること。それがないと、「何かやってみようかな」というモチベーションも湧きません。
支援者の方には、当事者と「向き合う」のではなく、「肩を並べる」ことを意識していただきたいと思っています。
「向き合う」(Face to Face)だと、どうしても「支援する側」と「される側」に分かれてしまう。
そうではなくて、「肩を並べる」(Shoulder to Shoulder)ことで、その当事者がどうなっていきたいのか、未来を一緒に見てほしいんです。
――まずは、どんな支援が求められているんでしょうか?
本当に必要な支援は、「幸せになるための支援」だと思います。
まずは「生きていていい」と思えて、安心して自分らしくいられる居場所や関係性を見つけること。それがないと、「何かやってみようかな」というモチベーションも湧きません。
支援者の方には、当事者と「向き合う」のではなく、「肩を並べる」ことを意識していただきたいと思っています。
「向き合う」(Face to Face)だと、どうしても「支援する側」と「される側」に分かれてしまう。
そうではなくて、「肩を並べる」(Shoulder to Shoulder)ことで、その当事者がどうなっていきたいのか、未来を一緒に見てほしいんです。
提供:一般社団法人ひきこもりUX会議 Junction報告書より
提供:一般社団法人ひきこもりUX会議 Junction報告書より
当事者のニーズはあまりに多様で、一人の人、一つの窓口、一つの団体だけで、全てを解決することはできません。
ですから、よい支援者とは、どれだけ「つながり先」を持っているかだと思います。当事者の話を聞いて、「この人には、あのサポートが合いそうだ」と、民間・行政を問わず、さまざまな「つながり先」の選択肢を示せる人かなと。
当事者のニーズはあまりに多様で、一人の人、一つの窓口、一つの団体だけで、全てを解決することはできません。
ですから、よい支援者とは、どれだけ「つながり先」を持っているかだと思います。当事者の話を聞いて、「この人には、あのサポートが合いそうだ」と、民間・行政を問わず、さまざまな「つながり先」の選択肢を示せる人かなと。
■「親には親の人生を生きてほしい」
■「親には親の人生を生きてほしい」
――それでも、誰かに会って話すこと自体が、つらい時もあると思います。
最初の一歩は、ハードルをどれだけ低くできるかが重要だと感じています。その意味でも、当事者会や講演会といったスタイルのイベントは、有効だと考えています。
講演会であれば、遅れてきて、一番後ろの席に座って、途中で帰ることもできるわけです。「相談」などと違って、誰とも話さなくてもいい。観衆のうちの一人として参加できるということは、ハードルが低く感じられることかなと思います。
例えば、その会場に、主催した団体や自治体がやっているサポートのパンフレットなどを置いておく。そこで情報に接触することができれば、「今は行けないけど、来年になったら行けるかも」と思えるかもしれない。
こうした参加の仕方ができるイベントは、実はとても大事だと考えています。必ずしも相談や交流を発生させなくても、その場にいるだけでもいいという「場」をつくる。そこに来るだけで、他の情報にも接することができるような形が増えていったらいいなと思います。
――それでも、誰かに会って話すこと自体が、つらい時もあると思います。
最初の一歩は、ハードルをどれだけ低くできるかが重要だと感じています。その意味でも、当事者会や講演会といったスタイルのイベントは、有効だと考えています。
講演会であれば、遅れてきて、一番後ろの席に座って、途中で帰ることもできるわけです。「相談」などと違って、誰とも話さなくてもいい。観衆のうちの一人として参加できるということは、ハードルが低く感じられることかなと思います。
例えば、その会場に、主催した団体や自治体がやっているサポートのパンフレットなどを置いておく。そこで情報に接触することができれば、「今は行けないけど、来年になったら行けるかも」と思えるかもしれない。
こうした参加の仕方ができるイベントは、実はとても大事だと考えています。必ずしも相談や交流を発生させなくても、その場にいるだけでもいいという「場」をつくる。そこに来るだけで、他の情報にも接することができるような形が増えていったらいいなと思います。
――ひきこもりは、当事者本人だけでなく、親も深く悩んでいることが多いと感じます。当事者の親へのアドバイスはありますか?
「親を支える」ことも、とても重要です。そこでも、一番いいのは「家族会」だと思っています。同じ悩みを共有できる人同士だと、やっぱり話が通じ合えるので。当事者の家族の方には、ぜひ家族会につながっていただきたいです。
親が、当事者である子どものことだけを、グーッと悩んでいると、心配されている本人はつらく感じるものです。
当事者の多くの方が、「親には親の人生を生きてほしい」と言います。親御さんも家族会に行くなどして、少しでも自分の気持ちを軽く、明るくしていただきたい。
できれば、親の側は「自分は自分の人生をある程度、楽しんでいこう」と切り替えた方が、結果としてはいいんじゃないかなと。親が元気にしていれば、家庭の雰囲気も変わりますし、それは子どもにも良い影響を与えるはずです。
――ひきこもりは、当事者本人だけでなく、親も深く悩んでいることが多いと感じます。当事者の親へのアドバイスはありますか?
「親を支える」ことも、とても重要です。そこでも、一番いいのは「家族会」だと思っています。同じ悩みを共有できる人同士だと、やっぱり話が通じ合えるので。当事者の家族の方には、ぜひ家族会につながっていただきたいです。
親が、当事者である子どものことだけを、グーッと悩んでいると、心配されている本人はつらく感じるものです。
当事者の多くの方が、「親には親の人生を生きてほしい」と言います。親御さんも家族会に行くなどして、少しでも自分の気持ちを軽く、明るくしていただきたい。
できれば、親の側は「自分は自分の人生をある程度、楽しんでいこう」と切り替えた方が、結果としてはいいんじゃないかなと。親が元気にしていれば、家庭の雰囲気も変わりますし、それは子どもにも良い影響を与えるはずです。
■ひきこもりは「生きるための手段」
■ひきこもりは「生きるための手段」
――この連載の前回(※)では、北海道の女性の当事者体験を紹介しました。そこでは、創価学会の女子部(当時)の先輩が訪問し続ける中で、少しずつ心を通わせて、やがて一緒にドライブに行くことが唯一の楽しみになったと語られていました。
(※10月1日付「ひきこもり――「自分が一番、自分を嫌いだった」という彼女が見つけた、唯一の“楽しみ”とは」)
すばらしいアウトリーチ(訪問支援)ですね。
私は、ひきこもりは「生きるための手段」であり、「生きるための撤退」だと考えています。
何よりも本人自身が、「このままじゃいけない」と、自分を徹底的に「否定」してきていることが多い。だから、そこで周りから、さらに否定されたら、本当に追い詰められてしまいます。
当事者にとって、小さな「最初の一歩」が何になるかは人それぞれです。ひきこもり女子会に参加した人の中でも、電車に乗る練習から始めた人もいれば、女子会を知ってから2年たって初めて参加できたという人もいました。
――この連載の前回(※)では、北海道の女性の当事者体験を紹介しました。そこでは、創価学会の女子部(当時)の先輩が訪問し続ける中で、少しずつ心を通わせて、やがて一緒にドライブに行くことが唯一の楽しみになったと語られていました。
(※10月1日付「ひきこもり――「自分が一番、自分を嫌いだった」という彼女が見つけた、唯一の“楽しみ”とは」)
すばらしいアウトリーチ(訪問支援)ですね。
私は、ひきこもりは「生きるための手段」であり、「生きるための撤退」だと考えています。
何よりも本人自身が、「このままじゃいけない」と、自分を徹底的に「否定」してきていることが多い。だから、そこで周りから、さらに否定されたら、本当に追い詰められてしまいます。
当事者にとって、小さな「最初の一歩」が何になるかは人それぞれです。ひきこもり女子会に参加した人の中でも、電車に乗る練習から始めた人もいれば、女子会を知ってから2年たって初めて参加できたという人もいました。
――この連載にも、読者の方から「ひきこもり」という呼び方を変えた方がいいのではないかという感想もありました。
私たちの団体は、「ひきこもりUX会議」という名称です。この名前を決める時も、「ひきこもり」という言葉を入れるかどうか、みんなで議論しました。たくさん話し合って、私たちはあえてこの名称にすることで、ひきこもりのイメージを変えたいと考えました。
名称の「UX」はユニーク・エクスペリエンス、つまり「固有の体験」という意味です。当事者一人一人の固有の体験。それは、必ずしもネガティブなものばかりではない。その体験こそが他の誰かを救うかもしれないし、あなたにしか持ち得ない財産なんだと。
もちろん、「そんなふうに思えない」「そう思うにはあまりにもつらすぎる」という状況もあると思います。それでも、その体験を生かせる場や機会は、これからきっと出てくるだろうし、ネガティブなだけだと捉えないでほしいと思います。
――当事者が「固有の体験」を、ネガティブなだけではないと捉えるために、周りの人ができることはありますか?
ポジティブな感情につながる声かけは、大切だと思います。「説教」「説得」「無理解」ではなく「安心感」「理解された」「楽しい・うれしい」と当事者が感じられるような働きかけです。
例えば、NGワードとしては、「○○さんは就職したんだって」「△△さんは結婚したよ」など、同世代と比べることです。また、「これからどうするの?」などと、プレッシャーをかけるような内容もよくないと思います。
OKワードとしては、社会的に話題になっていることについての話や、本人の好きなことや趣味などについての話です。また、たとえ会話がなかったとしても、日常のあいさつは続けてほしいと思います。
――この連載にも、読者の方から「ひきこもり」という呼び方を変えた方がいいのではないかという感想もありました。
私たちの団体は、「ひきこもりUX会議」という名称です。この名前を決める時も、「ひきこもり」という言葉を入れるかどうか、みんなで議論しました。たくさん話し合って、私たちはあえてこの名称にすることで、ひきこもりのイメージを変えたいと考えました。
名称の「UX」はユニーク・エクスペリエンス、つまり「固有の体験」という意味です。当事者一人一人の固有の体験。それは、必ずしもネガティブなものばかりではない。その体験こそが他の誰かを救うかもしれないし、あなたにしか持ち得ない財産なんだと。
もちろん、「そんなふうに思えない」「そう思うにはあまりにもつらすぎる」という状況もあると思います。それでも、その体験を生かせる場や機会は、これからきっと出てくるだろうし、ネガティブなだけだと捉えないでほしいと思います。
――当事者が「固有の体験」を、ネガティブなだけではないと捉えるために、周りの人ができることはありますか?
ポジティブな感情につながる声かけは、大切だと思います。「説教」「説得」「無理解」ではなく「安心感」「理解された」「楽しい・うれしい」と当事者が感じられるような働きかけです。
例えば、NGワードとしては、「○○さんは就職したんだって」「△△さんは結婚したよ」など、同世代と比べることです。また、「これからどうするの?」などと、プレッシャーをかけるような内容もよくないと思います。
OKワードとしては、社会的に話題になっていることについての話や、本人の好きなことや趣味などについての話です。また、たとえ会話がなかったとしても、日常のあいさつは続けてほしいと思います。
提供:一般社団法人ひきこもりUX会議 Junction報告書より
提供:一般社団法人ひきこもりUX会議 Junction報告書より
ひきこもり状態は、「ガソリンの入っていない車のようなもの」とも思います。
その状態で車を動かそうと、外から働きかけてもダメですよね。車にガソリンがいるように、人もまずはエネルギーをためることが必要です。
そのエネルギーとは、当事者にとってポジティブな出来事や声かけであり、安心感や共感などの積み重ねです。
一滴ずつしかたまらない、とても時間のかかることですが、これが何とかいっぱいまでたまった時、「生きてみよう」と前に進み出せるのではないかと思います。
ひきこもり状態は、「ガソリンの入っていない車のようなもの」とも思います。
その状態で車を動かそうと、外から働きかけてもダメですよね。車にガソリンがいるように、人もまずはエネルギーをためることが必要です。
そのエネルギーとは、当事者にとってポジティブな出来事や声かけであり、安心感や共感などの積み重ねです。
一滴ずつしかたまらない、とても時間のかかることですが、これが何とかいっぱいまでたまった時、「生きてみよう」と前に進み出せるのではないかと思います。
【プロフィル】
はやし・きょうこ 高校2年生で不登校になり、30代半ばまで断続的にひきこもって過ごす。2012年から当事者活動を始め、現在は一般社団法人ひきこもりUX会議代表理事を務める。著書に『ひきこもりの真実――就労より自立より大切なこと』(ちくま新書)など。
●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ご感想をお寄せください。
メール youth@seikyo-np.jp
ファクス 03-5360-9470
●次回は、日本で初めて、ひきこもり当事者・経験者を主体とした「株式会社ウチらめっちゃ細かいんで」を設立した、佐藤啓さんにインタビューします。
「ひきこもり」と「IT」「在宅勤務」をかけ合わせた時、強みを生かした可能性を見いだしたといいます。10月15日ごろ配信予定。
【プロフィル】
はやし・きょうこ 高校2年生で不登校になり、30代半ばまで断続的にひきこもって過ごす。2012年から当事者活動を始め、現在は一般社団法人ひきこもりUX会議代表理事を務める。著書に『ひきこもりの真実――就労より自立より大切なこと』(ちくま新書)など。
●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ご感想をお寄せください。
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●次回は、日本で初めて、ひきこもり当事者・経験者を主体とした「株式会社ウチらめっちゃ細かいんで」を設立した、佐藤啓さんにインタビューします。
「ひきこもり」と「IT」「在宅勤務」をかけ合わせた時、強みを生かした可能性を見いだしたといいます。10月15日ごろ配信予定。